勉強しているのに伸びない――スマホが「努力を打ち消す」可能性
「毎日かなり勉強しているのに、なぜか成績が伸びない」
勉強法より先にスマートフォンの使い方を疑った方がよい場合があります。
「2時間以上勉強していても、スマホを3時間以上使う生徒」は、「ほとんど勉強しないが、あまりスマホを使わない生徒」より成績が低かった。
東北大学の川島隆太教授らが、仙台市の中学生を対象とした大規模データから示した結果です。
さらに、LINEなどの無料通信アプリについても、使用時間が長いほど学力が低く、その関係は家庭学習時間や睡眠時間だけでは説明しきれない可能性が報告されています。
「スマホを使ったぶん勉強時間が減っただけ」という話ではない可能性があるのです。
「性格が変わった?」――スクリーン症候群という考え方
児童精神科医Victoria L. Dunckleyは、スマホ・タブレット・ゲームなどの過剰なスクリーン刺激によって、子どもに心身の不調が現れる状態をESS(Electronic Screen Syndrome:電子スクリーン症候群)と呼んでいます。
彼女が挙げるのは、次のような変化です。
・以前よりイライラする
・些細なことで怒る、感情を抑えにくい
・集中できない
・物忘れが増える、短期記憶が弱くなる
・寝つきが悪い、寝ても疲れている
・整理整頓や段取りができなくなる
・周りから「性格が変わった」ように見られる
※ESSは現在のところ正式な医学的診断名ではありません。スマホを使ったから上の症状が起きた、と断定することはできません。
実際に報告された「性格が変わったように見える」例
① 1日何度も癇癪を起こしていた3歳児
ある家庭では、3歳と7歳の兄弟が一時期iPadを1日最大10時間使っていました。
特に3歳児は、1日に3~5回の激しい癇癪を起こし、iPadをやめて食事や入浴に移ることが難しく、弟への攻撃的な行動もみられたといいます。
家族は「いつ怒り出すか」と常に子どもの機嫌をうかがうような状態でした。
ところが、親がスクリーンを断って約4週間すると、癇癪は大きく減り、何も起こらない日も増え、弟と穏やかに遊ぶようになったと報告されています。
親から見ると、まるで「性格が変わった」ように見えるほどの変化です。
② 「ADHDでは?」と思われていた子ども
Dunckleyの著書では、教師や父親から「ADHDではないか」と思われていた子どもの例も紹介されています。
落ち着きがない、集中できないといった症状がありましたが、スクリーン利用を断った後、ADHDのように見えていた症状が徐々に消えていったとされています。
もちろん、これだけで「ADHDはスマホが原因」と考えてはいけません。しかし、スクリーン過多によって似た症状が強く出る可能性を考えるきっかけにはなります。
③ 大人でも――31歳男性、強い苛立ちと短期記憶の問題
子どもだけの話ではありません。
医学誌『Addictive Behaviors』には、Google Glassを極端に使用していた31歳男性の症例報告があります。
デバイスを使えないと強く苛立ち、非常に口論的になるほか、デバイスがなくてもGoogle Glassを操作するときのように、無意識にこめかみへ手を伸ばす動作までみられました。
35日間デバイスを使用しない環境で治療を受けた後、本人は短期記憶が改善し、思考が明瞭になったと報告しています。
川島教授の研究だけではない
スマホと学力の関係は、海外でも研究されています。
2024年のメタ分析では、29研究・4万8490人をまとめた結果、問題的なスマートフォン使用が多いほど学業成績が低いという関連が確認されました。
また、スマホの使用や「そばに置いてあること」と、記憶・注意・認知機能との関係を調べた研究をまとめたメタ分析でも、全体として小さいながら悪影響が確認されています。
一つ一つの効果は「スマホを使えば必ず頭が悪くなる」と言えるほど単純ではありません。
しかし、学力、集中力、短期記憶、睡眠、感情の安定といった、勉強に必要な要素のいくつもがスクリーン利用と関連していることは無視できません。
「もっと勉強する」前に、一度スマホを減らしてみる
もし、
「勉強しているのに覚えられない」
「以前より集中できなくなった」
「すぐイライラする」
「スマホがないと落ち着かない」
という状態があるなら、一度スマホの使用時間を大きく減らして、自分の変化を確認してみる価値があります。
参考資料
- 川島隆太『スマホが学力を破壊する』集英社新書
- 東北大学・仙台市教育委員会「学習意欲の科学的研究」関連資料
- 東北大学「スマホで無料通信アプリを使用すると学力が低下することを明らかにしました」(2015)
- Paterna et al. “Problematic smartphone use and academic achievement: A systematic review and meta-analysis” (2024)
- Hartanto & Yang “Does the Brain Drain Effect Really Exist? A Meta-Analysis” (2023)
- Victoria L. Dunckley, Reset Your Child’s Brain
- Yung et al. “Internet Addiction Disorder and Problematic Use of Google Glass™ in Patient Treated at a Residential Substance Abuse Treatment Program” (2015)