【予想問題付き】韓愈『雑説』書き下し文・現代語訳・解説

韓愈(かんゆ)「雑説」の書き下し文・現代語訳・解説です。韓愈は中唐の文章家で、唐宋八大家の一人です。六朝以来の技巧に走った文章(駢文)に反対し、漢以前の自由な文章(古文)にかえろうという「古文復興」を進めました。「説」は、たとえ話などを用いて自分の考えを述べる文章の形式です。

書き下し文・現代語訳・解説

本文(訓読文)

白文世有伯楽、然後有千里馬。千里馬常有、而伯楽不常有。

書き下し世に伯楽(はくらく)有りて、然(しか)る後に千里の馬有り。千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。

現代語訳世の中に伯楽がいてこそ、千里の馬(一日に千里も走る名馬)が見いだされる。千里の馬はいつの時代にもいるが、伯楽はいつもいるわけではない。

伯楽
馬のよしあしを見分ける名人。
千里馬
一日に千里の距離を走ることのできるすぐれた馬。
然後
「然る後に」。そうした後で。そこではじめて。
而
ここでは逆接。

白文故雖有名馬、祇辱於奴隷人之手、駢死於槽櫪之間、不以千里称也。

書き下し故に名馬有りと雖(いへど)も、祇(た)だ奴隷人(どれいじん)の手に辱(はづかし)められ、槽櫪(さうれき)の間に駢死(べんし)して、千里を以て称(しよう)せられざるなり。

現代語訳したがって、名馬はいるのだが、ただ使用人の手で粗末に扱われ、馬小屋の中で(ほかの駄馬と)首を並べて死んでいき、千里の馬としてほめたたえられることはない。

故
「ゆゑニ」。したがって、そのため。
雖~
「~と雖も」。~けれども。(「~としても」と仮定で訳す場合もある。)
祇
「たダ」。ただ~(限定)。
奴隷人
使用人、下僕。馬の価値がわからない人。
辱於~
「~に辱められ」。~にひどい扱いを受ける。「於」が受身を表す。
駢死
首を並べて死ぬ。
槽櫪
かいば桶と馬屋の床板。「槽櫪之間」で、馬小屋の中。

「辱於奴隷人之手」は、「A於B」(BにAせらる=BにAされる)という受身の形です。「於」の下が、動作をする人を表しています。

白文馬之千里者、一食或尽粟一石。食馬者、不知其能千里而食也。

書き下し馬の千里なる者は、一食に或(ある)いは粟(ぞく)一石を尽くす。馬を食(やしな)ふ者は、其の能(よ)く千里なるを知りて食はざるなり。

現代語訳一日に千里を走る馬は、ときには一回の食事で穀物を一石も平らげる。馬を飼う者は、その馬が一日に千里を走ることができると知って飼っているのではない。

或
ときには。
粟
穀物。
食
「やしなフ」。飼う。
能
「よク」。~できる。

白文是馬也、雖有千里之能、食不飽、力不足、才美不外見。且欲与常馬等、不可得。

書き下し是の馬や、千里の能(のう)有りと雖も、食飽(あ)かざれば、力足らず、才の美外(そと)に見(あらは)れず。且(か)つ常馬(じやうば)と等しからんと欲するも、得べからず。

現代語訳この馬は、千里を走る才能はあるのだが、食べ物が十分でないので、力が足りず、すぐれた才能も外に現れない。そのうえ、並の馬と同じ程度に働こうとしても、それすらできない。

也
「や」。主語を強調する。
飽
十分である、満ち足りる。「食べ飽きて嫌になる」の意ではない。
才美
すぐれた才能。「千里之能」を指す。
見
「あらはル」。現れる。
且
そのうえ。
常馬
普通の馬。
不可得
できない。

白文安求其能千里也。

書き下し安(いづ)くんぞ其の能く千里なるを求めんや。

現代語訳(これでは)どうしてその馬が千里を走ることを期待できようか、いや、期待できない。

白文策之不以其道。食之不能尽其材。鳴之而不能通其意。

書き下し之を策(むち)うつに其の道を以てせず。之を食ふに其の材(ざい)を尽くす能(あた)はず。之に鳴けども其の意に通ずる能はず。

現代語訳(飼い主は)この馬をむち打つのに、その馬にふさわしいやり方でしない。飼うのに、その才能を出し尽くさせることができない。(馬が)飼い主に向かって鳴いても、(飼い主は)その気持ちを理解することができない。

策
むちうつ。
其道
その馬(千里の馬)にふさわしいやり方。
其材
その馬の才能。
其意
その馬の気持ち。
不能
「~能はず」。~できない。
「之を食ふに其の材を尽くす能はず」を、「其の材を尽くさしむる能はず」(才能を出し尽くさせることができない)と読む教科書もある。

白文執策而臨之曰、「天下無馬。」

書き下し策(むち)を執(と)りて之に臨(のぞ)みて曰はく、「天下に馬無し。」と。

現代語訳(そのくせ飼い主は)むちを手にして名馬に向かい、「世の中には名馬がいない。」と言う。

執策
むちを手に取る。
臨
(相手に)向かう。
天下無馬
ここでの「馬」は千里の馬(名馬)。

白文嗚呼、其真無馬邪、其真不知馬也。

書き下し嗚呼(ああ)、其れ真に馬無きか、其れ真に馬を知らざるか。

現代語訳ああ、本当に名馬がいないのだろうか。それとも、本当は名馬を見分けられないのだろうか。

嗚呼
「ああ」。嘆きの声。
邪
「か」。疑問の助字。
也
ここでは「か」。疑問の助字。

構成は、①初めに主張を示し、②馬の飼い方のたとえで具体的に述べ、③最後に作者の嘆きで結ぶ形です。結論を先に示すので、読み手に主張が伝わりやすくなっています。

テスト予想問題

A 語句

  1. 「伯楽」とはどんな人物か。

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    馬のよしあし(才能)を見分ける名人。

  2. 「千里馬」とはどんな馬か。

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    一日に千里を走る能力をもつ名馬(非常にすぐれた馬)。

  3. 「祇」の読みと意味を答えよ。また、同じ読みをもつ字を二つ挙げよ。

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    読み:ただ 意味:ただ~だけ
    同じ読みの字:唯・但・惟・只・特・徒 などから二つ

  4. 「食不飽」の「飽」、「才美不外見」の「見」の意味をそれぞれ答えよ。

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    飽…腹いっぱい食べて満足する。十分である。
    見…あらわれる(外に現れる)。

  5. 「才美」と同じことを指している語句を、本文から五字以内で抜き出して答えよ。

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    千里之能(別解:能千里)

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「千里馬常有、而伯楽不常有」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。
    現代語訳:千里の馬はいつの時代にもいるが、伯楽はいつもいるわけではない。

  2. 「食馬者、不知其能千里而食也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:馬を食ふ者は、其の能く千里なるを知りて食はざるなり。
    現代語訳:馬を飼う者は、その馬に千里を走る能力があると知って飼っているのではない。

  3. 「安求其能千里也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:安くんぞ其の能く千里なるを求めんや。
    現代語訳:(これでは)どうしてその馬が千里を走ることを期待できようか、いや、期待できない。

  4. 「嗚呼、其真無馬邪、其真不知馬也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:嗚呼、其れ真に馬無きか、其れ真に馬を知らざるか。
    現代語訳:ああ、本当に名馬がいないのだろうか。それとも、本当は名馬を見分けられないのだろうか。

C 内容の読み取り

  1. 「不常有」と「常不有」の意味の違いを説明せよ。

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    「不常有」=いつもいるとは限らない(部分否定)。「常不有」=いつもいない(全部否定)。

  2. 「不以千里称也」とはどういう意味か。

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    千里を走る名馬としてほめたたえられることがない。

  3. 「槽櫪之間」は、人間の世界にあてはめると何を表していると考えられるか。

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    才能のある人物にふさわしくない地位・環境(不遇な待遇)。

  4. 「且欲与常馬等、不可得」とはどういうことか。

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    食べ物が足りずに能力を発揮できないだけでなく、普通の馬と同じ程度の働きさえできないということ。

  5. 「策之」「食之」「鳴之」の主語をそれぞれ答えよ。また、それぞれの「之」は何を指すか。

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    策之…主語は飼い主(食馬者)、「之」は千里の馬。
    食之…主語は飼い主(食馬者)、「之」は千里の馬。
    鳴之…主語は千里の馬、「之」は飼い主。

  6. 「天下無馬」の「馬」とは、どのような馬のことか。

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    千里の馬(名馬)。

  7. 「嗚呼」は誰の嘆きか。また、作者が言いたいのは「無馬」と「不知馬」のどちらか。

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    嘆き…作者(韓愈)。
    言いたいこと…「不知馬」。名馬がいないのではなく、名馬を見分けられないのだということ。

  8. この文章の主張は何か。

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    有能な人材はいるのに、それを見いだして登用できる者がいないことへの嘆き・批判。