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『史記』廉頗と藺相如①書き下し文・現代語訳

既罷帰国。

既に()めて国に帰る。

(会合を)終えて国に帰った。

以相如功大、拝為上卿。位在廉頗之右。

相如の功の大なるを以て、拝して上卿と為す。位は廉頗の右に在り。

相如の功績が大きいことを理由に(相如を)任命して上卿とした。位は廉頗の右(=上位)である。

右の方が上位。

廉頗曰、「我為趙将、有攻城野戦之大功。

廉頗曰はく、「我趙の将と為り、攻城野戦の大功有り。

廉頗が言うことには、「私は趙の将軍となって、攻城戦(都市攻略の戦)や野戦に大きな功績がある。

而藺相如徒以口舌為労、而位居我上。

(しか)るに藺相如は徒だ口舌を以て労を為し、しかも位我が上に居り。

しかし藺相如はただ口先によって手柄をたて、それなのに位は私の上にいる。

・而…逆接のときは「しかルニ・しかレドモ・しかモ」などと読む。

・徒…「たダ」ただ~だけ。

且相如素賤人。吾羞、不忍為之下。」

且つ相如は素賤人なり。吾羞ぢて、之が下たるに忍びず。」と。

さらに相如は、もとは卑しい身分の人である。私は恥ずかしく、彼の下の位であることに我慢できない。」と。

・素…「もと」

・不忍~…~に耐えられない、我慢できない。

○廉頗は、自分は戦で大きな功績をあげているのに、もともと低い身分の相如がただ口先の弁舌で功績をあげて、自分より高い位にいることに怒っている。

宣言曰、「我見相如必辱之。」

宣言して曰はく、「我相如を見ば必ず之をはづかしめん。」と。

宣言して言うことには、「私が相如に会ったら、必ず辱めてやろう。」と。

相如聞、不肯与会。

相如聞き、与に会することを(がへん)ぜず。

相如は聞き、(廉頗と)一緒に会うことを承知しなかった。

不肯~…「~を(がへん)ぜず(()へて~ず)」~を承知しない、よしとしない。

相如毎朝時、常称病、不欲与廉頗争列。

相如朝する時毎に、常に病と称して、廉頗と列を争ふことを欲せず。

相如は朝廷に行く時ごとに、常に病気と称して、廉頗と序列を争おうとしなかった。

・毎~…「~ごとニ」~ごとに、たびに。

朝廷に参内すれば、並び方でどちらが上か争うことになる。  

已而相如出、望見廉頗。相如引車避匿。

すでにして相如出でて、廉頗を望見す。相如車を引きて避けかくる。

しばらくして相如が外出したとき、廉頗を遠くから見た。相如は車を引いて、避け隠れた。

於是舎人相与諫曰、「臣所以去親戚而事君者、徒慕君之高義也。

(ここ)()いて舎人 あひ ともいさめて曰はく、「臣の親戚を去りて君につかふる所以の者は、徒だ君の高義を慕へばなり。

そこで、(相如の)使用人たちが共に諫めて言うことには、「私たちが親戚のもとを去ってあなたに仕えしている理由は、ただあなたの立派な徳義をお慕いしているからです。

・事…「つかふ」仕える。

所以ゆゑん…理由、目的、手段。

今君与廉頗同列。廉君宣悪言、而君畏匿之。恐懼殊甚。

今君廉頗と列を同じくす。廉君悪言を()ぶるに、君畏れて之に(かく)る。恐懼すること(こと)に甚だし。

今、あなたは廉頗は序列が同等です。廉頗が悪口を言いふらしているのに、あなたはおそれて廉頗から隠れています。恐れること、非常にひどい様子です。

・殊…「ことニ」非常に

且庸人尚羞之。況於将相乎。

つ庸人すらほ之をづ。いはんや将相にいてをや。

だいたい、凡庸な人でさえこれ(=逃げ隠れること)を恥じます。まして将軍・宰相においてはなおさら(恥じるべき態度)です。

A尚B。況於C乎。

…「Aすら尚ほB。況んやCに於いてをや。」AでさえBである。ましたCばなおさらBである。

※Bの実現可能性が低いAでさえもBなのだから、まして実現可能性が高いCはなおさらBである。

臣等不肖。請辞去。」

臣等不肖なり。()ふ辞去せん。」と。

私どもは愚かです。どうか(あなた様の元から)去らせてください。」と。

・不肖…愚か。

・請~…「請ふ~(せ)ん」~させてください、~たい。

相如の従者たちは相如の高い徳義を慕って仕えていたのに、廉頗から卑屈に逃げ回る様子があまりにみっともなくて、ついていけないと思い、従者をやめたいと申し出た。

『史記』廉頗と藺相如②

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