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『史記』鴻門之会(鴻門の会)④現代語訳・書き下し文

項王曰、「壮士。能復飲乎。」

項王曰はく、「壮士なり。()()た飲むか。」と。

項王がいうことには「勇壮な者だ。もっと酒を飲めるか。」と。

・能~…~できる。

・~乎…~か。(疑問)

樊噲曰、「臣死且不避。卮酒安足辞。

樊噲曰はく、「臣死すら()つ避けず。卮酒(いづ)くんぞ()するに足らんや。

樊噲が言うことには「私は死でさえも避けない。大杯の酒など、どうして断るほどのことがあろうか、いや断るまでもない。

ここから沛公を殺させないようにするための樊噲の説得がはじまる。

夫秦王有虎狼之心。殺人如不能挙、刑人如恐不勝。天下皆叛之。

そもそも秦王は、虎や狼のような残忍な心を持っていた。人を殺すのは、あまりに多くて数えきれないほどであり、人を刑するのは、あまりに多くて処刑のし残しがないかと心配するほどであった。天下の人々は皆、秦王に背いた。

・虎狼之心…虎や狼のような残忍な心。

・不勝…「へず」…しきれない。できない。

※秦王が残忍な人物で、多くの人を殺したことで、反乱がおきたことを説明している。

懐王与諸将約曰、『先破秦入咸陽者王之。』

懐王諸将と約して曰はく、『先に秦を破りて(かん)(やう)に入る者、之に王とせん。』と。

懐王は諸将と約束して言うことには『先に秦を破って咸陽(秦の首都)に入った者は、その地の王にする。』と。

今沛公先破秦入咸陽、毫毛不敢有所近。封閉宮室、還軍覇上、以待大王来。

・毫毛…ほんの少し。小さなもの。

・所近…自分の身に近づける→自分のものにする

〇本来は先に攻め入った沛公に関中の地の王となる正当性があるが、沛公は自分のものにしようとはしなかったと述べている。

故遣将守関者、備他盗出入与非常也。労苦而功高如此。未有封侯之賞。

・故…「ことさらニ」わざわざ。

・封侯之賞…ほうびとして土地を与えて諸侯に封ずる賞。

〇この前の場面で、項王は沛公の軍が関を守っていて進むことができなかったことに激怒していた。それは他の盗賊や非常時に備えたからだと言い訳をしている。実際は嘘で、沛公はそのまま誰も入れずに、王になるつもりであった。

〇項王を上にたてて、沛公はまだほうびをもらっていないと、王になる意志がないことを示そうとしている。

而聴細説、欲誅有功之人。此亡秦之続耳。窃為大王不取也。」

(しか)(さい)(せつ)を聴きて、有功の人を(ちゆう)せんと欲す。此れ亡秦の(つづ)きなるのみ。(ひそ)かに大王の(ため)に取らざるなり。」と。

しかし、つまらない者の言うこと(=曹無傷の告げ口)を信じて、有功の人(=沛公)を殺そうとされる。これでは滅んだ秦と同じとなるだけです。はばかりながら、私は、大王のなさり方には賛成しかねます。」と。

・而…逆接のときは「しかモ」「しかルニ」などと読む。

・細説…つまらない者の言うこと。曹無傷が項王に「沛公が関中の地で王になろうとしている」と告げ口をしたことを指す。

・誅…殺す。

・有功之人…沛公

・耳…「のみ」断定、強調のはたらき。

・窃…「ひそかニ」はばかりながら、失礼ながら。

〇功績がある沛公を殺すことは、滅んだ秦と同じであると説得している。

項王未有以応。曰、「坐。」

項王未だ以つてこたふる有らず。曰はく、「坐せよ。」と。

項王は返答できなかった。言うことには「座れ。」と。

〇樊噲の主張に反論することができず、「座れ」としか言えなかった。

樊噲従良坐。坐須臾、沛公起如廁。因招樊噲出。

樊噲良に従ひて坐す。坐すること(しゆ)()にして、沛公起ちて(かはや)に如き、因りて樊噲を招きて出づ。

樊噲は張良のそばに座った。座ってしばらくして、沛公は立って便所に行き、ついでに樊噲を呼んで出た。

・須臾…「しゅゆニシテ」短い時間。

〇沛公はトイレにいくことを理由に席を立ち、そのまま逃げて行った。

鴻門之会⑤

『史記』四面楚歌 現代語訳・書き下し文

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