『源氏物語』桐壺の巻、「はじめよりおしなべての上宮仕へ」から「御局は桐壺なり」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。桐壺③「光源氏の誕生」の続きです。
帝は更衣をいつもそばに置き、更衣は身分の軽い女房のようにも見られます。皇子の誕生後は、第一皇子の母である弘徽殿の女御が皇太子の座を心配し始めます。使役と尊敬の「せ」の見分けと、敬語の向きが特によく問われる場面です。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
いつもそばに置かれる更衣
現代語訳更衣はもともと、並ひととおりの、帝のおそば仕えをなさるような(軽い)身分ではなかった。
- おしなべて
- 並一通り、ごく普通の
- 際
- 身分
普段から帝のそばに身の回りの世話をするのは、身分の低い女官の役目であった。
女御・更衣は普段は自分の部屋にいて、呼ばれたときに帝のところへ向かう。普段からずっと帝のそばにいるわけではなかった。
この文の主語は桐壺更衣。もともと、帝の身の回りの世話(上宮仕へ)をするような低い身分ではなかった、ということ。
現代語訳世の評判も高く、高貴な人らしく見えたのだが、帝が度を越しておそばに置きなさるあまり、
- 覚え
- 評判
- やむごとなし
- この上ない
- 上衆
- 身分の高い人
- わりなし
- むやみやたらだ
「まつはさせたまふ」の「せ」は尊敬(最高敬語)。
「上衆めかしけれど」までは桐壺更衣の様子で、「まつはさせたまふ」の主語は帝。
「わりなくまつはさせたまふあまりに」は、間の「さるべき御遊び〜もてなさせたまひしほどに」をはさんで、「おのづから軽き方にも見えしを」へ続く。
現代語訳〈帝は〉しかるべき管弦のお遊びの折々や、何事でも由緒ある催しの折ごとには、まず第一にこの更衣をお召しになる。
- さるべき
- しかるべき、適当な
- 遊び
- 詩歌管弦の遊び
- 参う上らせたまふ
- (帝が桐壺更衣を)参上させなさる→お召し寄せになる
帝は桐壺更衣を愛するあまり、いつでもそばにいさせようとした。
「参う上らせたまふ」の「せ」は使役(帝が更衣を参上させる)。
現代語訳あるときはお寝過ごしになって、そのまま更衣をおそばにお仕えさせなさるなど、無理やりおそばから離さずお扱いになったうちに、
- 大殿籠る
- 「寝」「寝ぬ」の尊敬語
- やがて
- そのまま
「さぶらはせたまひ」の「せ」は使役、「もてなさせたまひ」の「せ」は尊敬。
「やがてさぶらはせたまひ」は、帝が(夜に召した更衣とともに)寝過ごして、そのまま昼も更衣をおそばにお置きになること。
「あながちに御前去らずもてなさせたまひ」の具体的な様子は、「さるべき御遊びの〜やがてさぶらはせたまひ」の部分に書かれている。
- おのづから
- 自然と
- 軽き方
- 身分の低い者
桐壺更衣があまりに帝のそばにいつもいるので、帝の身の回りの世話をする身分の低い者のように見えた。
一の皇子の女御の心配
現代語訳この皇子がお生まれになって後は、帝が(更衣の扱いを)格別にしようとお心づもりなさっていたので、
- ことなり
- 格別だ、特別だ
- 思ほしおきつ
- 「思ひおく(心に決める、計画を立てる)」の尊敬語
「いと心ことに思ほしおきて」の主語は帝。皇子が生まれてからは、桐壺更衣を、軽く見られるような扱いではなく、皇子の母として格別に大切に取り扱おうと心づもりなさった。
現代語訳「皇太子の位にも、ことによるとこの皇子がお就きになるはずのようだ」と、一の皇子の母の女御は疑っておられる。
- 坊
- 皇太子。
- ようせずは
- 悪くすると。「よくせずは」のウ音便(直訳すると…よくしないならば)
- この皇子
- 光源氏のこと
- ゐる
- (位に)つく
この(皇子)光源氏は第二皇子。第一皇子をさしおいて皇太子になるのではないかと、第一皇子の母(弘徽殿女御)は心配している。
「なめり」は「なんめり」と読む。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便「なん」になって「ん」が表記されない形に、婉曲の助動詞「めり」の終止形がついたもの。
女御がこう疑ったのは、皇子が生まれてから、帝の桐壺更衣への扱いが格別なものに変わったから。
現代語訳この女御はほかの方より先に入内なさって、帝が大切に思うお気持ちも並ひととおりではなく、皇女たちもいらっしゃるので、
- なべてならず
- 並一通りではない
- 皇女たち
- 一の皇子の母女御との間には第一皇子の他にも娘たちがいた。
「人より先に参りたまひて」の主語は一の皇子の女御で、ほかの方々より先に入内したということ。「やむごとなき御思ひ」は、帝がこの女御を大切に思う気持ち。
現代語訳帝はこの方のおいさめだけは、やはりうるさく、つらいものとお思い申し上げていらっしゃるのだった。
- この御方
- 一の皇子の女御
「きこえ」は一の皇子の女御への謙譲、「させたまひ」は帝への尊敬(最高敬語)。
「この御方の御いさめ」は、一の皇子の女御が帝に、桐壺更衣への格別な扱いを改めて身分相応にするよう忠告すること。帝はそれを、うっとうしくも、気の毒にも思う。
更衣の物思い
現代語訳更衣は恐れ多い帝のご庇護をお頼み申し上げてはいるものの、見下して欠点を探そうとなさる方は多く、
- かしこし
- 恐れ多い
- 御蔭
- 帝の御庇護
「頼みきこえながら」の主語は桐壺更衣で、頼みにする相手は帝。一方で、更衣をさげすみ欠点を探す方々は多い。
現代語訳自分の身はか弱く頼りないありさまなので、かえって(帝のご寵愛などなかったほうがよいという)物思いをなさる。
- なかなかなり
- 中途半端だ、かえってよくない
「なかなかなるもの思ひ」は、帝の寵愛のせいで周囲からいじめられつらい思いをするので、かえって寵愛を受けないほうがよいと思うほどの、桐壺更衣の気苦労。
- 御局
- 後宮の、仕切りをした部屋。曹司ともいう。
「桐壺」は、桐壺という名前がついた部屋。中庭に桐を植えたので、こう呼ばれる。帝の居所である清涼殿から最も遠い東北の隅にある。ここから帝のところへ行くためには、たくさんの他の女御・更衣の前を通らなくてはならず、いじめられることになる。
テスト予想問題
A 読み・語句
「おのづから軽き方にも見えしを」を現代語訳せよ。
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自然と身分の軽い者のようにも見えたのだが
「なかなかなるもの思ひ」とは、どういうことか。
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帝に深く愛されているために、かえって周りから憎まれて苦しみ、いっそ寵愛など受けないほうがよかったと思うほどの物思い。
B 文法・敬語
次の【 】内の「せ」を、それぞれ文法的に説明せよ。
①まつはさ【せ】たまふ
②参う上ら【せ】たまふ
③さぶらは【せ】たまひ
④もてなさ【せ】たまひし解答を見る
①尊敬の助動詞「す」の連用形(帝の動作。「せたまふ」で最高敬語)
②使役の助動詞「す」の連用形(帝が更衣を参上させる)
③使役の助動詞「す」の連用形(帝が更衣をそばに控えさせる)
④尊敬の助動詞「す」の連用形(帝の動作)「この皇子のゐたまふべきなめり」の「なめり」を文法的に説明せよ。
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断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便「なん」になり、「ん」を表記しない形に、婉曲の助動詞「めり」の終止形が付いたもの。
次の【 】内の語を、それぞれ文法的に説明せよ。
①御思ひなべて【なら】ず
②御局は桐壺【なり】
③心こと【に】思ほしおきて解答を見る
①断定の助動詞「なり」の未然形
②断定の助動詞「なり」の終止形
③ナリ活用の形容動詞「心ことなり」の連用形の活用語尾「思ひきこえさせたまひける」の敬語について、「きこえ」「させたまひ」はそれぞれ誰の誰に対する敬意を表すか。
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「きこえ」=語り手(作者)の、一の皇子の女御に対する敬意(謙譲の補助動詞)。「させたまひ」=語り手の、帝に対する敬意(尊敬の助動詞+尊敬の補助動詞)。
「この御方の御いさめをのみぞ、……思ひきこえさせたまひける」と「なかなかなるもの思ひをぞしたまふ」について、係助詞「ぞ」の結びの語をそれぞれ抜き出せ。
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「ける」(連体形)/「たまふ」(連体形)
C 現代語訳・内容
「はじめよりおしなべての上宮仕へしたまふべききはにはあらざりき」を現代語訳せよ。
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更衣はもともと、並ひととおりの、帝のおそば仕えをなさるような(低い)身分ではなかった。
「わりなくまつはさせたまふあまりに」を、「まつはす」のが誰で、相手が誰かを補って現代語訳せよ。
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帝が更衣をむやみにおそばに置きなさるあまりに
「坊にも、ようせずは、この皇子のゐたまふべきなめり」と疑ったのは誰か。また、「この皇子」とは誰か。
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一の皇子の女御(弘徽殿の女御)。「この皇子」=若宮(光源氏、第二皇子)。
一の皇子の女御のいさめを、帝が「わづらはしう、心苦しう」思うのはなぜか。
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この女御はほかの方より先に入内し、帝も大切に思っており、皇女たちも生まれているので、その忠告を無視できないから。
「かしこき御蔭をば頼みきこえながら」を現代語訳せよ。
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恐れ多い帝のご庇護をお頼み申し上げているものの