郭隗が「千里の馬」のたとえ話を使って、昭王に「まず自分を厚遇してください」と説く場面を扱います。
前半の内容
斉に敗れて弱体化した燕を立て直すため、昭王は賢者を集めようとして郭隗に相談しました。ここから郭隗が、どうすれば本当に優れた人材が集まるのかを説明します。
書き下し文・現代語訳・解説
隗曰、「古之君有以千金使涓人求千里馬者。買死馬骨五百金而返。
隗曰はく、「古の君に千金を以つて涓人をして千里の馬を求めしむる者有り。死馬の骨を五百金に買ひて返る。
郭隗が言うことには、「昔、ある国の君主で、涓人に千金を持たせて、一日に千里を走る名馬を買いに行かせた者がいました。ところが涓人は、死んだ馬の骨を五百金で買って帰ってきました。
・涓人…君主のそばで雑用などをする人。
・千里馬…一日に千里を走る名馬。
使A B「AをしてBしむ」
意味:AにBさせる。
ここでは、A=涓人、B=千里の馬を求める。
君怒。涓人曰、『死馬且買之、況生者乎。馬今至矣。』
君怒る。涓人曰はく、『死馬すら且つ之を買ふ。況んや生ける者をや。馬今に至らん。』と。
君主は怒った。涓人が言うことには、「死んだ馬でさえ買ったのです。まして生きている馬ならなおさらでしょう。千里の馬は、まもなくやって来るでしょう。」と。
○君主が怒ったのは、千里馬を買うために渡した大金を使って、涓人が死んだ馬の骨を高い値段で買って帰ってきたから。
A且B、況C乎。「Aすら且つB。況んやCをや。」
意味:AでさえBである。ましてCならなおさらBである。
可能性の低いAでさえBなのだから、可能性の高いCならなおさらBであるはずだ、という抑揚の形。
ここでは、死んだ馬でさえ高い金で買ったのだから、生きた千里馬ならなおさら高い金で買うだろう、と世間の人々に思わせることが狙いです。
・矣…置き字。文末で断定・詠嘆などの語気を表す。
不期年、千里馬至者三。
期年ならずして、千里の馬至る者三あり。
まる一年もたたないうちに、千里の馬が三頭やって来た。
・期年…まる一年。
「古之君有以千金~千里馬至者三」までが、郭隗による千里馬のたとえ話。この馬の話を、人材を集める方法に置き換えて説明していきます。
千里馬の話は何をたとえている?
千里馬…優れた賢者のたとえ。
死馬…郭隗自身のたとえ。
まず郭隗ほどの人物を厚く待遇すれば、それを聞いたもっと優れた賢者が、「郭隗でさえこれほど大切にされるなら、自分ならさらに厚く遇されるだろう」と考え、燕に集まってくるという理屈です。
今、王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。」
今、王必ず士を致さんと欲せば、先づ隗より始めよ。況んや隗より賢なる者、豈に千里を遠しとせんや。」と。
今、王がどうしても賢者を招き寄せたいとお考えならば、まずこの郭隗から始めなさい。まして郭隗より優れた人物は、どうして千里の道のりを遠いと思うでしょうか。いや、遠いと思わずにやって来るでしょう。」と。
・欲~…~しようと思う、~したいと思う。
・先…「まヅ」。
・従A…「Aよリ」。
A於B…比較「BよりA」
「賢於隗」は、「隗より賢なり」=郭隗より優れているという意味。
豈~哉…反語「豈に~んや」=どうして~だろうか、いや~ない。
郭隗の主張
死んだ千里馬の骨を大金で買ったところ、それを聞いた人々が「生きた千里馬ならもっと高く買ってくれるはずだ」と考え、実際に千里馬が集まってきました。
同じように、まず郭隗を厚く待遇すれば、郭隗より優れた賢者たちは「自分ならもっと厚く扱われるだろう」と考え、遠い道のりでも燕へやって来るだろう、ということです。
於是昭王為隗改築宮、師事之。
是に於いて昭王、隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。
そこで昭王は郭隗のために新たに邸宅を建て、郭隗を先生として仕えた。
・於是…「是に於いて」=そこで。
・師事…その人を先生として仕え、教えを受けること。
於是士争趨燕。
是に於いて士、争ひて燕に趨く。
そこで賢者たちは先を争って燕に駆けつけた。
○郭隗の言ったとおり、昭王が郭隗を厚く待遇すると、それを聞いた優れた人物たちが燕に集まってきた。
「於是士争趨燕」となった理由
郭隗が昭王から厚く待遇されていることを知った賢者たちが、郭隗より優れた自分なら、さらに厚く待遇されるだろうと考えたから。
故事成語「先ず隗より始めよ」の意味
先ず隗より始めよ=大きなことを成し遂げようとするなら、まず身近なところから始めよ。
転じて、物事はまず自分自身から着手せよという意味でも用いられます。
テスト予想問題
問1 是」の読みを答えよ。
問2 「不期年」「於是」の意味を答えよ。
問3 「死馬且買之、況生者乎」を書き下し、現代語訳せよ。
現代語訳:死んだ馬でさえ買ったのだ。まして生きている馬ならなおさらである。
問4 「況賢於隗者、豈遠千里哉」を書き下し、現代語訳せよ。
現代語訳:まして郭隗より優れた人物は、どうして千里の道を遠いと思うでしょうか。いや、遠いと思わずにやって来るでしょう。