隗曰、「古之君有以千金使涓人求千里馬者。買死馬骨五百金而返。
隗曰はく、「古の君に千金を以つて涓人をして千里の馬を求めしむる者 有り。死馬の骨を五百金に買ひて返る。
隗が言うことには、「昔のある君主で、涓人(=雑用や清掃をする人)に千金で、一日に千里の距離を走る馬を買いに行かせた者がいた。(涓人は)死んだ馬の骨を五百金で買って帰った。
・千里馬…一日に千里を走る名馬。
※当時の一里はだいたい400m。時代・国によって変わる。日本において一里というと約4kmとされることが多い。
使AB…使役「AをしてBしむ」AにBさせる。 A:涓人 B:求千里馬
君怒。涓人曰、『死馬且買之、況生者乎。馬今至矣。』
君怒る。涓人曰はく、『死馬すら且つ之を買ふ。況んや生ける者をや。馬 今に至らん。』と。
君主は怒った。涓人が言うことには『死んだ馬の骨でさえ買ったのでだ。まして生きている馬ならなおさら高く買うだろう(と人々は思うでしょう)。千里の馬(を売る人)は、(高い金で売れることを期待して)すぐにやって来るでしょう。』と。
〇君主は、死んだ馬を高い金額で買ってきたので、当然怒った。
A且B、況C乎。…「Aすら且つB。況んやCをや。」AでさえBである。ましてCはなおさらBだ。
※可能性が低いAでさえBなのだから、可能性が高いCならなおさらBするはずだ、という抑揚の形。
ここでは「死んだ馬」でさえ「高い金で買った」のだから、「生きた馬」ならなおさら「高い金で買う」だろう、ということ。
・矣…置き字。断定を意味する。
不期年、千里馬至者三。
期年ならずして、千里の馬 至る者 三あり。
一年たたないうちに、千里の馬が三頭も(売りに)やって来た。
・期年…まる一年。
「古之君有以千金~千里馬至者三」、ここまでが隗によるたとえ話。この馬の話を、人間の政治に適用させようとする。
今、王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。」
今、王 必ず士を致さんと欲せば、先づ隗より始めよ。況んや隗より賢なる者、豈に千里を遠しとせんや。」と。
今、王が、ぜひとも賢者を招き寄せたいとお思いならば、まずこの郭隗(私)から始めなさい。まして私より賢い人は、どうして千里の道のりを遠いと思うでしょうか。いや、千里の道も遠いと思わずにやって来るでしょう。」と。
・欲~…~しようと思う。
・先…「まヅ」
・従A…「Aよリ」
・A於B…比較「BよりA」
※「於」にはいろいろな使い方があるが、ここでは比較の働きで、下のBに「~より」と送り仮名をつけ、Aに戻って読む。
豈~哉…反語「豈に~んや」どうして~だろうか、いや~ない。
郭隗の発言
死んだ馬を大金で買ったら、なおさら高く売れるだろうとよい馬を売りに来るものが現れた。
同様に、まず自分(隗)を大切に扱えば、世の中の賢者たちは、「まして郭隗より優れた自分ならばなおさらよい扱いを受けるに違いない」と考え、優れた人物が遠い道のりであっても燕にやってくるだろう
於是昭王為隗改築宮、師事之。
是に於いて昭王 隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。
そこで昭王は隗のために新たに家を造って隗に師事した。
・於是…「是に於いて」そこで
於是士争趨燕。
是に於いて 士 争ひて燕に趨く。
そこで賢者たちは先を争って燕に駆けつけた。
〇郭隗の言った通り、優れた人物が燕にやってきた。