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『史記』鴻門之会(こうもんのかい)・剣舞➁現代語訳・書き下し文

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項王即日因留沛公~

項王即日因留沛公、与飲。

項王即日りて沛公を留めて、ともに飲す。

項王はその日、そこで沛公を引き留めて、いっしょに酒を飲んだ。

・因…「よリテ」そこで

項王・項伯東嚮坐、亜父南嚮坐。亜父者范増也。

〇位置関係に注意。「嚮」は「向く」の意味。項王・項伯は「東嚮(東を向く)」なので、西側にいる。

項伯范増は項王側の人物。

沛公北嚮坐、張良西嚮侍。

沛公は北嚮して坐し、張良は西嚮してす。

沛公は北を向いて座り、張良は西を向いて控えた。

・侍…おそばに控える

・張良は沛公側の人物。

范増数目項王、挙所佩玉玦、以示之者三。

范増しばしば項王に目し、ぶる所の玉玦を挙げて、以つて之に示すこと三たびす。

范増はたびたび項王に目くばせをして、腰に帯びた飾り玉を持ち上げて、項王に何度も示した。

・数…「しばしば」たびたび、何回も

〇挙所佩玉玦…「玉玦」はまが玉、飾り玉のこと。「玦」が「決断」の「決」と同じ音であり、范増は項王に対し「沛公を殺す決断をしてください」と合図している。

〇范増は、沛公は生かしておいたら脅威になると考え、今のうちに殺すべきだと考えていた。

項王黙然不応。

項王黙然として応ぜず。

項王は黙ったまま応じなかった。

〇范増の合図にたいして、項王は沛公を殺す決断をしなかった。

范増起出召項荘謂曰、「君王為人不忍~

范増起、出召項荘、謂曰、

范増起ち、出でて項荘を召して、謂ひて曰はく、

范増は席を立って、外に出て項荘を呼び寄せ、言うことには

〇范増は項王の説得をあきらめ、項荘に指示を出し沛公を殺そうとした。

「君王為人不忍。

「君王人と為り忍びず。

「君王(項王)は残忍なことができないお人柄だ。

・君王…項王のこと。

為人…「ひとり」…人柄、人格

・不忍…残忍なことができない。

若入前為寿。

なんぢ入りすすみて寿を為せ。

お前は中に入り、進み出て杯を勧め、健康を祝福せよ。

・若…「なん」あなた、お前

寿畢、請以剣舞、因撃沛公於坐殺之。

寿はらば、請ひて剣を以つて舞ひ、因りて沛公を坐に撃ちて之を殺せ。

祝福が終わったら、願い出て剣で舞をして、それによって沛公をその席で殺してしまえ。

〇范増は、項荘に対し、剣で舞をするふりをして沛公を殺せと指示した。

不者、若属皆且為所虜。」

もしそうしなければ、お前たちはみな今にも(沛公に)捕虜にされてしまうだろう。」と。

不者…「しからずンバ」そうしなければ。「不然」と同じ。ここでは「沛公をここで殺さなければ」ということ。

・若属…お前の一族、仲間

且…再読文字「まさに~んとす」(今にも)~しようとする~するだろう。

為所虜…「虜とする所となる](沛公に)捕虜にされる。

〇「為A所B」…受身「AのBする所と為る」AにBされる。 

※ここではAが省略されているが、補うなら「沛公」が入る。

荘則入為寿。

項荘はそこで中に入り、杯を勧め、健康を祝福した。

寿畢曰、「君王与沛公飲。

寿畢はりて曰はく、「君王沛公と飲す。

祝福が終わって言うことには「君王は沛公とお酒を飲んでおられます。

軍中無以為楽。請以剣舞。」

軍中以つて楽を為す無し。請ふ剣を以つて舞はん。」と。

(しかし)軍中では音楽を演奏する手段がありません。(そのかわりに)どうか私に剣舞をさせてください。」と。

・請…願望「請ふ~(せ)ん」どうか私に~させてください。

項王曰、「諾。」

項王曰はく、「諾。」と。

項王が言うことには、「よろしい。」と。

項荘抜剣起舞。

項荘剣を抜き起ちて舞ふ。

項荘は剣を抜いて立って舞った。

項伯亦抜剣起舞、常以身翼蔽沛公。

項伯もまた剣を抜き起ちて舞ひ、常に身を以つて沛公を翼蔽す。

項伯もまた剣を抜いて立ち上がって舞い、常に自分の体で親鳥が雛を翼でかばうように、沛公を守った。

〇項伯は項王の部下であるが、以前沛公の部下の張良に命を助けられた恩があったため、沛公を守ろうとした。

荘不得撃。

荘撃つを得ず。

項荘は(沛公を)撃つことができなかった。

・不得…「~を得ず」~できない。

『史記』鴻門の会③

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