『源氏物語』光源氏の誕生②上達部、上人なども~

上達部、上人などもあいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。

上達部や殿上人たちなども、不快げに目を背けて、まったく見ていられないほどのご寵愛ぶりである。

あいなし…不快げに、つまらなさそうに そばむ…目を背ける まばゆし…まぶしい、じっと見ていられない

○「人の御おぼえ」…「人」は桐壺更衣を指す。桐壺更衣の(帝からの)ご寵愛ぶりである。

〇「まばゆき」は「御おぼえ」にかかる。「まばゆき人」ではないので注意!

唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ悪しかり けれれ (「こそ」の結び)  と、やうやう天の下にも、あぢきなう、人のもて悩みぐさになりて、楊貴妃の例も引き出で (強意「つ」終)   べく(推量(当然))  なりゆくに、

「中国でも、このようなことが原因となって、世の中も乱れひどいことになったのだ」と、しだいに世間の人々の間でも、苦々しいことだと、人々の悩みの種になって、楊貴妃の例もが引き合いに出されかねないほどになっていくので、

かかる…このような…帝が一人の女性を寵愛すること、  事のおこり…原因 し…悪い あぢきなし…にがにがしい

楊貴妃の例…当時の玄宗皇帝が楊貴妃への愛におぼれて政治をおろそかにしたために、内乱(安碌山の乱)が起きた。白楽天の「長恨歌」がこのことについて作った詩として有名。

いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへの類ひなきを頼みにて交じらひ  給ふ尊→桐壷更衣

(この更衣は)たいそういたたまれないことが多いけれども、もったいない(帝の)ご愛情のまたとないことを頼みにして、宮仕えしていらっしゃる。

はしたなし…都合がわるい、いたたまれない。周囲の人にいじめられていることを意味する。

かたじけなき御心…桐壺帝の(桐壺更衣に対する)もったいない御愛情

 父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人 (同格の格助詞) よしある (断定「なり」連用形) て、親うち具し、さしあたりて世のおぼえ華やかなる御方々にもいたう劣らず、何事の儀式をももてなし 給ひ尊→母北の方 けれど、

 (桐壺更衣の)父の大納言は亡くなっていて、母の北の方が古風な人で教養もある人であって、両親が揃っていて、当面世間の評判の華やかな方々にもそれほど見劣りしないで、どんな宮中の儀礼も取り計らいなさったが、

北の方…正妻 よし…教養 世のおぼえ…世間の評判 もてなす…取り計らう

○「母北の方なむ」の「なむ」の結びは本来「~もてなし給ひける()」となるはずだが、接続助詞「ど」がつくことで、結びの流れ(結びの消滅)が起きている。

・いにしへの人よしあるにて…「の」は同格の格助詞。「~人で、~人であって」などと訳す。

・もてなし給ひ…尊敬の補助動詞。作者から母北の方への敬意。

とりたててはかばかしき後ろ見しなければ、事ある時は、なほ拠りどころなく心細げなり。

(桐壺更衣は)これといったしっかりした後ろ盾がないので、何か改まった事がある時には、やはり頼みにする当てがなく心細い様子である。

はかばかし…しっかりした  後ろ見…後ろ盾。経済的・政治的に支援する人。 なほ…やはり

後ろ見…強意の副助詞。

「心細げなり」で一語の形容動詞。「心細げ・なり」と切らないように注意。

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