『和泉式部日記(いずみしきぶにっき)』「夢よりもはかなき世の中を」②の現代語訳・品詞分解・解説です。教科書によっては「薫る香に」の題でも載っています。
①では、亡き為尊親王を思って嘆く作者のもとへ、親王に仕えていた小舎人童が訪ねてきて、今は弟の帥宮(そちのみや)に仕えていると語りました。②では、童が帥宮から預かった橘の花を取り出し、作者が帥宮に最初の歌を返します。童の言葉に出てくる敬語(だれからだれへ)、「昔の人の」の古歌、「薫る香に」の歌の内容がよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
帥宮についての作者の言葉
現代語訳その宮様は、たいそう気品があってよそよそしくていらっしゃるそうですね。昔の宮様のようには、とてもいかないでしょう。」などと言うと、
- あてなり
- 高貴だ、上品だ。
- けけし
- よそよそしい、そっけない。
- えしもあらじ
- 「え〜打消」で「〜できない」。「しも」は強意の副助詞、「じ」は打消推量の助動詞。
「昔」は、故宮(為尊親王)に仕えていたころのこと。「昔のやうには、えしもあらじ」は、亡き兄宮のときのように気楽には仕えられないだろう、という作者の推測。
「あてにけけし」は、帥宮は上品で近寄りがたいという、作者が聞いている評判。
童の答え
- しか
- そう、そのように。ここでは「いとあてにけけしう」を指す。
- けぢかし
- 親しみやすい。
童は、帥宮の評判を認めつつも、実際には親しみやすい人柄だと打ち明けている。
現代語訳『(おまえは)いつも(式部のもとへ)参るのか。』とお尋ねになって、(私が)『参ります。』と申し上げましたところ、
敬語(だれからだれへ)に注意。
「常に参るや」の「参る」は、小舎人童が作者のもとへ行くこと。「参り侍り」の「参り」も同じ。
「問はせおはしまして」は、「せ」と「おはします」の二つで敬意を重ねる最高敬語(二重敬語)で、小舎人童から帥宮への敬意。
現代語訳『これを持って参上して、どのようにご覧になるかと言って差し上げさせよ。』とおっしゃったのです。」と言って、
- 奉る
- 「与ふ」の謙譲語で、「差し上げる」の意。
帥宮が童に命じた言葉。橘の花を持たせ、「どのようにご覧になるか」と言って作者に差し上げさせた。「見給ふ」「奉ら」は帥宮から作者への敬意。
橘の花と古歌
現代語訳(童が)橘の花を取り出したので、(作者は)「昔の人の」と(古歌の一節が)思わず口をついて出て、
- 橘の花
- 昔の人を思い出させるものとされた花。
「昔の人の」は古歌の一節。古今和歌集・伊勢物語にある「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」で、五月を待って咲く橘の花の香をかぐと、昔親しんだ人の袖の香りがする(なつかしいあの人が思い出される)という意味。
作者は橘の花を見て、この歌を連想し、亡き為尊親王をなつかしく思い出した。
帥宮が橘の花を贈ったのは、この歌を思い起こさせて、亡き兄をしのぶ気持ちを作者と分かち合い、弟の自分にも親しみを感じさせようとしたのだろうか。
作者の返歌
現代語訳(童が)「それでは帥宮様のもとへ帰参しましょう。どのようにお返事を申し上げましょうか。」と言うので、
- 聞こえさす
- 「言ふ」の謙譲語。申し上げる。
「参りなむ」の「参る」は、小舎人童が帥宮のもとへ帰参すること。
現代語訳(作者は)ふつうの文章でご返事を申し上げるのも気が引けて、なあに、(帥宮様は)浮気者という評判もまだ立っていらっしゃらないのだから、ちょっとした歌でも(差し上げてみよう)と思って、
- ことば
- ここでは、和歌ではないふつうの文章。
- かたはらいたし
- 気が引ける、きまりが悪い。
- 何かは
- いやなに。何の問題があろうか、いやない。
- あだあだし
- 浮気だ、不誠実だ。
- 聞こゆ
- ここでは、うわさになる、評判になる。
- はかなし
- ちょっとした、とりとめのない。
「はかなきこと」は、ちょっとした和歌のこと。下に「聞こえさせむ(差し上げよう)」などが省略されている。
作者は、帥宮に浮気だという評判はまだないのだから、多少大胆に歌を贈っても問題ないだろうと自分を正当化している。
現代語訳橘の薫る香にことよせて亡き兄宮様をしのぶよりは、ほととぎす(のようなあなた様)の声が聞きたいものです。兄宮様と同じお声をしていらっしゃるのかと。
- ばや
- 未然形に付く、自分の希望を表す終助詞。「〜たい」。
「薫る香によそふる」は、橘の薫る香にことよせて、亡き兄宮をなつかしみ、しのぶこと。
「ほととぎす」は帥宮をたとえている。亡き兄宮の弟である帥宮の声が聞きたい、つまりお会いしたい、という気持ちを込めた歌である。
「同じ声やしたる」は、故宮と帥宮の声が同じかどうかということ。「聞かばや」が下に来る倒置で、「と」は「聞かばや」にかかる。
※女性の側から誘うような歌を贈るのは大胆である。「はかなきこと」とあるように、この時点で本気で恋愛を期待していたわけではないだろうが、新たな恋を予感させる歌ではある。恋人をなくして沈んでいた作者の前に、帥宮は活力を与えてくれる存在として現れた。
前の部分:『和泉式部日記』夢よりもはかなき世の中を・薫る香に①
テスト予想問題
A 語句
次の語句の意味を答えよ。
①あてなり
②けけし
③けぢかし
④かたはらいたし
⑤あだあだし
⑥聞こゆ(ここでは)解答を見る
①高貴だ・上品だ
②よそよそしい・そっけない
③親しみやすい
④気が引ける・きまりが悪い
⑤浮気だ・不誠実だ
⑥うわさになる・評判になる次の語句の意味を答えよ。
①何かは
②はかなし(ここでは)解答を見る
①いやなに・何の問題があろうか(いやない)
②ちょっとした・とりとめのない
B 文法・敬語
「いとあてにけけしうおはしますなるは」について、①「おはします」の敬語の種類と敬意の方向、②「なる」の文法的説明を答えよ。
解答を見る
①尊敬の補助動詞。作者から帥宮へ。②伝聞の助動詞「なり」の連体形(「〜そうだ」の意)。
傍線部の敬語の種類を答え、だれからだれへの敬意かも示せ。
①常に【参る】や
②参り【侍り】
③いかが見【給ふ】
④【奉ら】せよ
⑤【のたまはせ】つる解答を見る
①謙譲語。帥宮から作者へ
②丁寧語(補助動詞)。小舎人童から帥宮へ
③尊敬の補助動詞。帥宮から作者へ
④謙譲語。帥宮から作者へ
⑤尊敬語。小舎人童から帥宮へ「さらば参りなむ」について、①「なむ」を文法的に説明せよ。②「参る」はだれがどこへ行くことか。
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①「な」が強意「ぬ」の未然形で、「む」が意志の助動詞の終止形。②小舎人童が帥宮のもとへ帰参する。
「薫る香によそふるよりはほととぎす聞かばや同じ声やしたると」について、①「ばや」の意味、②係助詞「や」の結びの語と活用形、③「と」がかかる語を答えよ。
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①自分の希望(〜たい)。②「たる」(存続の助動詞「たり」の連体形)。③「聞かばや」(倒置になっている)。
C 内容
「昔のやうにはえしもあらじ」を、「昔」の内容がわかるように現代語訳せよ。
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(帥宮は気品があって近寄りがたい方だそうだから、)亡き為尊親王に仕えていた昔のようには、とても(気楽に仕えること)はできないでしょう。
「しかおはしませど」の「しか」の指す内容を、本文から抜き出して答えよ。また、童は続けて帥宮をどのような人だと語っているか。
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「いとあてにけけしう」。たいそう親しみやすい人だと語っている。
作者が「昔の人の」と口にしたのは、どのような古歌の一節か。歌の全体を示せ。また、帥宮が橘の花を贈ったのは、どのような意図からと考えられるか。
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「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」。亡き兄をしのぶ気持ちを作者と分かち合い、兄の弟である自分に親しみをもたせて、交流のきっかけをつくろうとした。
①「はかなきこと」とは何をさすか。②「ほととぎす」はだれをたとえているか。③作者はこの歌でどんなことを伝えたいのか。
解答を見る
①ちょっとした和歌。②帥宮。③亡き兄宮の弟である帥宮の声が聞きたい、つまり会ってみたいということ(帥宮の誘いに応じる気持ち)。