『更級日記(さらしなにっき)』「継母との別れ」の現代語訳・品詞分解・解説です。
上総国(かずさのくに)から都に戻ってまもなく、作者を慕ってくれた継母が、父との仲がうまくいかずに家を出ていきます。「梅の花が咲くころにまた来る」という言葉を信じて待つ作者と、継母との歌のやりとりが描かれます。二つの「なむ」、下二段と四段の「頼む」、「ぬ」の識別、主語の変化がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
家を出ていく継母
現代語訳継母だった人は、もとは宮仕えをしていた人で、(父とともに上総の国に)下ってきたのだったから、思っていたのとは違うことなどがいろいろとあって、
- 宮仕へ
- 宮中や貴人の家に仕えること。
「継母なりし人」は、作者の父の妻だった人。
「宮仕へせしが下りし」は、「宮仕へせし(人)が下りし(こと)」と、体言を補って読む。
「思ひしにあらぬことども」は、思っていたのとは違う、不本意なこと。宮仕えをしていた継母にとって、上総での暮らしは思いどおりにならないことが多かった。
「せし」「下りし」などの「し」は過去の助動詞「き」の連体形。作者自身が経験したことなので「き」が使われている。
現代語訳夫婦の仲をうらめしく思う様子で、よそへ移るということになって、五歳ぐらいの子どもなどと一緒に(出て行くとき)、
- 世の中
- ここは、夫婦の仲。
「世の中恨めしげにて」は、継母が、夫(作者の父)との仲をうらめしく思っている様子。上総での不本意な暮らしがもとで、夫婦の仲がうまくいかなくなった。
「して」は格助詞で、「〜と一緒に」の意。
現代語訳「(私を慕ってくれた)あなたのやさしい心を、忘れるときなどきっとないでしょう。」などと言って、
「あはれなりつる心のほど」は、継母を慕ってくれた作者の、やさしい心。
「なむ」は係助詞で、結びは「まじき」(連体形)。
現代語訳軒先近くにある、とても大きな梅の木を(指して)、「この花が咲くころには、また来ますよ。」と言い残して移っていったので、
- 端近し
- 軒先に近い。
「梅の木の」の「の」は同格。「梅の木で、軒先近くにあって、とても大きな(梅の木)」という意味。
「来むよ」は、継母が、作者のいるこの家にまた来ようということ。
「渡りぬる」の主語は継母。接続助詞「を」をはさんで、次の「思ひつつ」からは主語が作者にかわる。
現代語訳(私は)心の中で恋しく、しみじみ悲しいと思いながら、声をひそめて泣いてばかりいて、その年も暮れて新しい年になった。
- 忍び音
- 声をひそめて泣くこと。
- かへる
- (年が)改まる。
「恋しくあはれなり」は、作者の心の中の言葉。
作者が声をひそめて泣いたのは、去ってしまった継母が恋しくて悲しかったから。
「かへりぬ」の「ぬ」は完了。「あらぬ」(c1)や「契り置かぬ」(歌)の「ぬ」は、打消の「ず」の連体形。直前の語の活用形(連用形か未然形か)で見分ける。
梅の花と二首の歌
現代語訳早く梅が咲いてほしい、(咲いたら)来ようと言っていたけれど、本当にそうなるだろうかと、(梅の木を)じっと見守って待ち続けていたところ、
- いつしか
- 早く。
- 待ちわたる
- 待ち続ける。
「いつしか梅咲かなむ」の「なむ」は、未然形に付く終助詞で、他への願望(〜してほしい)。c3の係助詞「なむ」との違いに注意。
「いつしか梅咲かなむ、来むとありしを、さやある」は、作者の心の中の言葉。
「さやある」の「さ」は、継母が「(梅の花が咲くころには)来む」と言ったこと。本当に来てくれるだろうか、ということ。
「目をかけて」は、作者が、梅の木(花)に目をつけて、ということ。
現代語訳花もすっかり咲いてしまったのに、何の便りもない。思い悩んで、(私は)梅の花を折って(継母のもとへ)贈る。
- 音もせず
- 何の便りもない。
- 思ひわぶ
- 思い悩む。
作者が梅の花を折って贈ったのは、梅がすっかり咲いたのだから、約束どおり来てほしいと催促する気持ちから。
現代語訳(梅の咲くころに来ると)あてにさせておきながらまだ来てくださらないのに、それでも待っていなければならないのでしょうか。霜で枯れていた梅でさえ、春を忘れずに(花を咲かせて)いたのですね。
- 頼む(下二段)
- あてにさせる。頼みに思わせる。
作者の歌。二句切れ(「や」の結びの「べき」で切れる)。
「頼めし」は、継母が作者を(来ると言って)あてにさせた、ということ。「待つべき」は、作者が継母の訪れを待つ。
「梅をも春は忘れざりけり」は、霜で枯れていた梅でさえ、春を忘れずに花を咲かせた、ということ。梅でさえ約束を守ったのに、あなたは来てくれない、と訴えている。「けり」は詠嘆。
「言ひやり」の主語は作者、「書き」の主語は継母。ここでも接続助詞「ば」をはさんで主語がかわる。
現代語訳やはりあてにして待っていなさい。高く伸びた梅の枝には、約束していない思いがけない人も訪れるということですよ。
- 頼む(四段)
- あてにする。頼りにする。
- 立ち枝
- 高く伸びた枝。
- 契り置く
- 約束しておく。
継母の返歌。初句切れ(「頼め」は命令形)。「頼め」は、作者が(梅の花や約束を)あてにする、ということ。
平兼盛の歌「わが宿の梅の立ち枝や見えつらむ思ひのほかに君が来ませる」をふまえている。そのため「なり」は伝聞の助動詞と考える。
私は行けないけれど、約束していない思いがけない人が訪ねてくるかもしれない、と遠回しに行けないことを伝えながら、作者を慰めていると考えられる。(予想外の人も来るのだから私もそのうち行く、と読む説もある。)
続きは『更級日記』源氏の五十余巻です。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①継母
②宮仕へ
③児
④端近く
⑤忍び音
⑥立ち枝解答を見る
①ままはは
②みやづかえ
③ちご
④つまぢかく
⑤しのびね
⑥たちえ次の語句の意味を答えよ。
①世の中(ここでは)
②いつしか
③待ちわたる
④音もせず
⑤思ひわぶ
⑥思ひのほかなり解答を見る
①夫婦の仲
②早く
③待ち続ける
④何の便りもない
⑤思い悩む
⑥思いがけない・意外だ
B 文法
次の「なむ」を文法的に説明せよ。
①「あはれなりつる心のほどなむ忘れむ世あるまじき。」
②「いつしか梅咲かなむ」解答を見る
①強意の係助詞(結びは連体形の「まじき」)
②未然形に付いて、他に対する願望(〜してほしい)を表す終助詞「頼めしを…」の歌と「なほ頼め…」の歌の「頼め」について、それぞれ活用の種類・活用形・意味を答えよ。
解答を見る
「頼めしを」=マ行下二段活用の連用形、あてにさせる。/「なほ頼め」=マ行四段活用の命令形、あてにする(頼りにする)。
①「思ひしにあらぬことども」②「その年もかへりぬ」③「契り置かぬ思ひのほかの人」の「ぬ」のうち、意味の違うものを一つ選び、それぞれの「ぬ」を文法的に説明せよ。また、「梅の木の、端近くて」の「の」の用法を答えよ。
解答を見る
違うもの=②。①③=打消の助動詞「ず」の連体形、②=完了の助動詞「ぬ」の終止形。/「梅の木の」の「の」=同格。
C 現代語訳・内容
「世の中恨めしげにて」の「世の中」は何をさすか。また、継母がそのような様子になったのはなぜか。
解答を見る
世の中=夫婦の仲(作者の父との仲)。/理由=宮仕えをしていた継母にとって、上総での暮らしは思っていたのとは違う不本意なことが多く、夫との仲がうまくいかなくなったから。
「あはれなりつる心のほど」とは、だれのどのような心か。また、「これが花の咲かむ折は来むよ」を現代語訳し、だれがどこへ「来む」と言っているのかを答えよ。
解答を見る
作者の、継母を慕ってくれたやさしい心。/訳=この梅の花が咲くころには、また来ますよ。/継母が、作者のいる家に。
次の傍線部の主語を答えよ。
①言ひ置きて渡りぬるを
②恋しくあはれなりと思ひつつ
③と言ひやりたれば
④あはれなることども書きて解答を見る
①継母
②作者
③作者
④継母「いつしか梅咲かなむ、来むとありしを、さやある」を、「さ」の内容を明らかにして現代語訳せよ。また、「花も皆咲きぬれど、音もせず」を現代語訳せよ。
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訳=早く梅が咲いてほしい、(咲いたら)来ようと(継母は)言っていたけれど、本当に(継母は約束どおり)来てくれるだろうか。/花もすっかり咲いてしまったのに、何の便りもない。
作者が「花を折りて遣る」のはなぜか。また、「頼めしをなほや待つべき霜枯れし梅をも春は忘れざりけり」の句切れを答え、現代語訳せよ。
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理由=梅がすっかり咲いたのだから、約束どおり来てほしいと継母に催促するため。/二句切れ。訳=(来ると)あてにさせておきながら(来てくれないのに)、それでもまだ待たなければならないのでしょうか。霜で枯れていた梅でさえ、春を忘れずに花を咲かせたのですね。
「なほ頼め梅の立ち枝は契り置かぬ思ひのほかの人も訪ふなり」について、①句切れを答えよ。②現代語訳せよ。③この歌がふまえている平兼盛の歌「わが宿の( )や見えつらむ思ひのほかに君が来ませる」の空欄に入る語句を答えよ。④継母はこの歌で、作者に何を伝えようとしていると考えられるか。
解答を見る
①初句切れ
②やはりあてにして待っていなさい。高く伸びた梅の枝には、約束していない思いがけない人も訪ねてくるということですよ。③梅の立ち枝
④自分は訪ねていけないことを遠回しに伝えつつ、作者を慰めようとしている。