『更級日記』源氏の五十余巻 現代語訳・品詞分解・敬語・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 乳母の死
  4. 姫君の死
  5. 物語を求めて
  6. 物語に読みふける
  7. テスト予想問題

『更級日記(さらしなにっき)』「源氏の五十余巻」の現代語訳・品詞分解・解説です。

乳母や知人の姫君の死に悲しむ作者が、母に物語を探してもらううちに『源氏物語』に出会い、やがておばから五十余巻をもらって読みふける場面です。「見し」の主語、「なむ」「かは」の用法、晩年の作者から見た少女時代の自分への思いが問われます。

原文の読み方

原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。

表示:

現代語訳・品詞分解・解説

乳母の死

原文
そ代名の格助体修春、世の中いみじうシク連用・音騒がしうシク連用・音て接助単純接続、

現代語訳その年の春は、世の中がひどく騒がしくて(疫病が流行し)、

いみじ
程度がはなはだしい。よい意にも悪い意にも使う。ここは「ひどい」。「いみじう」はウ音便。
騒がし
ここは、疫病の流行で世の中が落ち着かないこと。
解説

この年の春は疫病が流行し、作者の身近な人も亡くなった。

原文
松里の格助体修わたりの格助体修月影あはれにナリ連用見マ上一連用し過去連体乳母めのとも係助添加、三月朔日やよいついたちに格助時間亡くなりラ四連用ぬ完了終止。

現代語訳松里のあたりで月の光に照らされた姿をしみじみと見た乳母も、三月一日に亡くなってしまった。

松里のわたり
松里のあたり。「わたり」は付近の意。
乳母(めのと)
母に代わって幼い子を養育する女性。
三月朔日(やよひついたち)
三月一日。「朔日」は月の第一日。
解説

「見し」の主語は作者。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、作者自身が直接体験したことを回想している。

「月影あはれに見し乳母」は、松里で作者が別れた乳母。その乳母が、再会できないまま亡くなった。

原文
せむ方なくク連用思ひ嘆くカ四連体に接助単純接続、物語の格助体修ゆかしさも係助強意おぼえヤ下二未然ず打消連用なりラ四連用ぬ完了終止。

現代語訳どうしようもなく思い嘆いていると、物語を見たい気持ちもなくなってしまった。

せむ方なし
どうしようもない。
ゆかし
見たい、知りたい。「ゆかしさ」は名詞。
解説

あれほど夢中だった物語さえ読みたいと思わなくなったのは、継母との別れのすぐあとに、会いたいと思い続けていた乳母の死の知らせを受け、悲しみがあまりに深かったから。

原文
いみじくシク連用泣き暮らしサ四連用て接助単純接続、見出だしサ四連用たれ完了已然ば接助順接確定、夕日の格助主格いと副華やかにナリ連用さしサ四連用たる存続連体に格助場所、桜の格助体修花残りなくク連用散りラ四連用乱るラ下二終止。

現代語訳ひどく泣き暮らして、外を見やると、夕日がたいそう華やかにさしている中に、桜の花が残らず散り乱れている。

見出だす
外を見やる。
華やかなり
はなやかだ、明るく目立つ。
残りなし
残らない、すべて。
解説

「見出だしたれば」の主語は作者。

現代語訳散ってゆく桜の花も、また来る春には見ることができるだろう。(けれど)そのまま別れてしまった人は、恋しくてならない。

やがて
そのまま。
見もやせむ
「や」は疑問の係助詞。結びは連体形の「む」。
人ぞ恋しき
「ぞ」は強意の係助詞。結びは連体形の「恋しき」。
解説

「やがて別れし人」は、松里で別れたまま永遠の別れとなった乳母のこと。

桜の花は来年もまた見られるが、亡くなった人にはもう会えない、という対比。

姫君の死

原文
また接聞けカ四已然ば接助順接確定、侍従じじゅうの格助体修大納言の格助体修御女、亡くなりラ四連用給ひ補・ハ四連用尊→侍従の大納言の御女ぬ完了終止なり伝聞終止。

現代語訳また聞くところによると、侍従の大納言のお嬢様も、お亡くなりになったということだ。

侍従の大納言
藤原行成。「御女」はそのむすめ、つまり姫君。
給ひぬなり
「給ひ」は尊敬の補助動詞で、作者から姫君への敬意。「なり」は伝聞の助動詞で、終止形(ぬ)に接続。「お亡くなりになったということだ」。
解説

作者は、乳母に続いて姫君の死も人づてに聞いた。

原文
殿の格助体修中将の格助主格思し嘆くカ四終止尊→殿の中将なる伝聞連体さま、わ代名が格助主格ものの格助主格悲しきシク連体折なれ断定已然ば接助順接確定、いみじくシク連用あはれなりナリ終止と格助引用聞くカ四終止。

現代語訳(夫の)殿の中将がお嘆きになるというご様子を、私自身も何となく悲しい折なので、たいそうお気の毒なことだと思って聞く。

殿の中将
姫君の夫。
思し嘆く
「思ひ嘆く」の尊敬語。
なる
伝聞の助動詞「なり」の連体形。「思し嘆く」は終止形。
わがものの悲しき折
自分も何となく悲しい折。
解説

「わがものの悲しき折」とは、乳母にもう一度会うこともできずに死なれてしまい、悔やみ悲しんでいる時のこと。その直前には継母との別れもあった。

原文
上り着きカ四連用たり完了連用し過去連体時、「これ代名手本に格助対象せよサ変命令。」と格助引用て接助単純接続、こ代名の格助体修姫君の格助体修御手を格助対象とらせサ下二連用たり完了連用し過去連体を接助単純接続、

現代語訳京に上り着いたころ、(ある人が)「これを手本にしなさい。」と言って、この姫君の筆跡をくれたものを、

上り着く
京に着く。
手本
習字の見本。
御手(みて)
ここは筆跡。
とらす
与える。「取らす」。
解説

「この姫君の御手をとらせたりし」は、誰かが作者に、侍従の大納言の姫君が書いた筆跡を、習字の手本として与えてくれたこと。

原文
「小夜ふけカ下二連用て接助単純接続寝ざめマ下二未然ざり打消連用せ過去未然ば接助順接仮定」など副助引用書きカ四連用て接助単純接続、

現代語訳「小夜ふけて寝ざめざりせば(夜がふけて目が覚めなかったならば)」などと(古歌を)書いて、

ざりせば
打消「ず」の連用形「ざり」に、過去「き」の未然形「せ」と接続助詞「ば」が付いた形で、「〜なかったならば」と仮定する。
解説

姫君が手本に書いた古歌の一節。

原文
「鳥部山谷に格助場所煙の格助主格燃え立たタ四未然ば接助順接仮定はかなくク連用見えヤ下二連用し過去連体我代名と格助引用知らラ四未然なむ終助願望」と格助引用、

現代語訳「鳥部山の谷に(火葬の)煙が燃え立ったなら、弱々しく見えた私だと思ってほしい」と、

鳥部山
京都の東山にある、火葬などを行った地。
燃え立たば
「ば」は未然形に付き、仮定条件。「燃え立ったならば」。
はかなし
弱々しい、頼りない。
見ゆ
ここは「見える」。
なむ
他に対する願望を表す終助詞。未然形に付き、「〜してほしい」。「知らなむ」は「知ってほしい」。
解説

「はかなく見えし我」は、今にも命が尽きそうなほど頼りなく見えた私の意。姫君が手本に書いていたこの歌は、亡くなった姫君自身の姿と重なり、作者の涙をいっそう誘った。

原文
言ひハ四連用知らラ四未然ず打消連用をかしげにナリ連用めでたくク連用書きカ四連用給へ補・ハ四已然尊→侍従の大納言の御女る存続連体を格助対象見マ上一連用て接助単純接続、いとど副涙を格助対象添へまさるラ四終止。

現代語訳言いようもなく趣深く美しくお書きになっているのを見て、ますます涙がこみ上げる。

言ひ知らず
言いようもない。
をかしげなり
趣がある。
めでたし
すばらしい。
給へる
「給へ」は尊敬の補助動詞で、作者から姫君への敬意。「る」は存続の助動詞。
添へまさる
加わっていっそう増す。

物語を求めて

原文
かく副のみ副助限定思ひくんじサ変連用・音たる存続連体を接助順接確定、心も係助強意慰めマ下二未然む意志終止と格助引用、心苦しがりラ四連用て接助単純接続、

現代語訳このようにふさぎこんでばかりいるのを、(私の)心を慰めようと、気の毒がって、

思ひくんず
ふさぎこむ。
心苦しがる
気の毒に思う。
解説

「かくのみ思ひくんじたる」とは、継母との別れ、乳母や姫君の死と、相次ぐ悲しみで嘆き沈んでいたこと。

「思ひくんじたる」の主語は作者、「心苦しがりて」の主語は母。

原文
母、物語など副助例示求めマ下二連用て接助単純接続見せサ下二連用給ふ補・ハ四連体尊→母に接助順接確定、げに副おのづから副慰みゆくカ四終止。

現代語訳母が物語などを探し求めて見せてくださると、なるほど自然に心が慰められてゆく。

求む
探す。
げに
なるほど。
おのづから
自然に。
見せ給ふ
「給ふ」は尊敬の補助動詞で、作者から母への敬意。
原文
紫の格助体修ゆかりを格助対象見マ上一連用て接助単純接続、続きの格助主格見マ上一未然まほしく願望連用おぼゆれヤ下二已然ど接助逆接確定、

現代語訳「紫のゆかり」(若紫の巻)を読んで、続きが見たく思われるけれど、

紫のゆかり
『源氏物語』の「若紫」の巻をさす。
見まほしく
「まほし」は願望の助動詞で、未然形に付く。「見たい」。
原文
人語らひなど副助婉曲も係助強意え副せサ変未然ず打消終止、誰代名も係助強意いまだ副都なれラ下二未然ぬ打消連体ほどに断定連用て接助単純接続、え副見つけカ下二未然ず打消終止。

現代語訳人に頼むこともできず、誰もまだ都に慣れていない頃で、見つけ出すこともできない。

人語らひ
人に頼むこと。ここは大人たちに「若紫」の続きを探してもらうよう頼むこと。
え〜ず
〜できない。不可能を表す。
え見つけず
見つけることができない。
解説

一家は上京して間もなく、頼れる人もまだいなかった。

原文
いみじくシク連用心もとなくク連用、ゆかしくシク連用おぼゆるヤ下二連体ままに格助理由、

現代語訳たいそうじれったく、見たくてたまらなく思われるので、

心もとなし
じれったい、待ち遠しい。
ゆかし
見たい、知りたい。
ままに
ここは理由を表し、「〜ので」。「〜するとすぐに」「〜につれて」の意もあるので、文脈で判断する。
原文
「こ代名の格助体修源氏の物語、一の巻より格助起点して副助強意、みな副見せサ下二連用給へ補・ハ四命令尊→仏。」と格助引用、心の格助体修うちに格助場所祈るラ四終止。

現代語訳「この源氏の物語を、一の巻から全部お見せください。」と、心の中で祈る。

みな
すべて、全部。
見せ給へ
「給へ」は尊敬の補助動詞の命令形。祈る相手の仏への敬意。
解説

作者が「心のうちに」祈ったのは、物語の続きを手に入れたいと他人に頼むことができなかったから。

原文
親の格助主格太秦うずまさに格助場所籠りラ四連用給へ補・ハ四已然尊→親る存続連体に格助時間も係助強意、異事なくク連用こ代名の格助体修ことを格助対象申しサ四連用謙→太秦の仏て接助単純接続、

現代語訳親が太秦に籠もっていらっしゃる時にも、ほかのことはなくこのことだけをお願い申し上げて、

太秦(うずまさ)
京都の太秦にある寺(広隆寺)。
籠る
寺にこもって祈る。
給へる
尊敬の補助動詞。作者から親への敬意。
異事(ことごと)
ほかのこと。
申す
「言ふ」の謙譲語。ここは仏への敬意。
解説

「このこと」とは、『源氏物語』を全巻読めるようにしてほしいということ。

原文
出でダ下二未然む仮定(婉曲)連体ままに格助時間こ代名の格助体修物語見果てタ下二未然む意志終止と格助引用思へハ四已然ど接助逆接確定、見えヤ下二未然ず打消終止。

現代語訳(寺から)出たらすぐにこの物語を最後まで読もうと思うけれど、見ることができない。

出でむままに
出たらすぐに。「ままに」は「〜するとすぐに」の意。
見果つ
最後まで見る。
見ゆ
ここは見られる、手に入る。
解説

「出でむままにこの物語見果てむ」には、寺から退出したらすぐさま『源氏物語』を全巻読み切ろうという意気込みが表れている。

原文
いと副口惜しくシク連用思ひ嘆かカ四未然るる自発連体に格助時間、をばなる断定連体人の格助主格田舎より格助起点上りラ四連用たる完了連体所に格助場所渡いサ四連用・音たれ完了已然ば接助順接確定、

現代語訳とても残念で思い嘆かずにはいられなかったところ、おばにあたる人が田舎から上京している所に(親が私を)行かせたところ、

口惜し
残念だ。
るる
自発の助動詞「る」の連体形。「思ひ嘆かるる」は「思い嘆かずにはいられない」。
をば
おば。父母の姉妹。
渡す
ここは親が作者を連れて行く。「渡いたれば」は「渡したれば」のイ音便。
原文
「いと副うつくしうシク連用・音生ひなりラ四連用に完了連用けり詠嘆終止。」など副助引用、あはれがりラ四連用、めづらしがりラ四連用て接助単純接続、

現代語訳(おばは)「とてもかわいらしく成長したことね。」などと、懐かしがり珍しがって、

うつくし
かわいらしい。「うつくしう」はウ音便。
生ひなる
成長する。
あはれがる
懐かしがる、しみじみと思う。
めづらしがる
珍しがる。
けり
ここは詠嘆の助動詞「けり」の終止形で、「〜ことよ」。
原文
帰るラ四連体に格助時間、「何代名を格助対象か係助疑問奉らラ四未然謙→作者む意志連体。まめまめしきシク連体ものは係助区別まさなかりク連用な強意未然む推量終止。ゆかしくシク連用しサ変連用給ふ補・ハ四終止尊→作者なる伝聞連体ものを格助対象奉らラ四未然謙→作者む意志終止。」と格助引用て接助単純接続、

現代語訳(私が)帰る時に、「何を差し上げましょうか。実用的なものはつまらないでしょう。(あなたが)見たがっていらっしゃるというものを差し上げましょう。」と言って、

奉る
「与ふ」の謙譲語。ここは、おばから作者への敬意。
まめまめし
実用的だ、まじめだ。
まさなし
よくない、つまらない。
ゆかしくし給ふなるもの
見たがっていらっしゃるというもの。「なる」は伝聞の助動詞「なり」の連体形、「給ふ」は尊敬の補助動詞。
なむ
ここは「な」(強意「ぬ」の未然形)と「む」(推量)が合わさった形で、「きっと〜だろう」。
原文
源氏の格助体修五十余巻、櫃ひつに格助場所入りラ四連用ながら接助継続、在中将、とほぎみ、せり河、しらら、あさうづなど副助例示いふハ四連体物語ども、一袋取り入れラ下二連用て接助単純接続、

現代語訳『源氏物語』の五十余巻を、櫃に入ったままで、『在中将』『とほぎみ』『せり河』『しらら』『あさうづ』などという物語の数々を、いっしょに一袋に入れて、

在中将
『伊勢物語』のこと。在原業平のことを「在五中将」ともいう。
とほぎみ・せり河・しらら・あさうづ
いずれも当時の物語の名。
ながら
ここは「〜のまま」。
原文
得ア下二連用て接助単純接続帰るラ四連体心地の格助体修うれしさぞ係助強意いみじきシク連体や間助詠嘆。

現代語訳手に入れて帰る時の気持ちのうれしさは、たいへんなものであったよ。

心地
気持ち。
ぞ
強意の係助詞。結びは連体形の「いみじき」。
や
詠嘆の間投助詞。
解説

『源氏物語』の全巻を手に入れて帰る作者のうれしさ。

物語に読みふける

原文
はしるはしる副わづかにナリ連用見マ上一連用つつ接助反復、心も係助強意得ア下二未然ず打消連用心もとなくク連用思ふハ四連体源氏を格助対象、

現代語訳胸をわくわくさせながら、少しずつ見ては筋もわからずもどかしく思っていた『源氏物語』を、

はしるはしる
胸をわくわくさせながら。
心も得ず
前後のストーリーがわからず、納得できない。
つつ
ここは動作の反復を表し、「〜しては」。
原文
一の巻より格助起点して副助強意、人も係助強意交じらラ四未然ず打消連用、几帳きちょうの格助体修うちに格助場所うち臥しサ四連用て接助単純接続引き出でダ下二連用つつ接助反復見るマ上一連体心地、

現代語訳一の巻から、ほかの人も交えず、几帳の中に横になって、櫃から次々に引き出しては読む気持ちは、

几帳(きちょう)
部屋の仕切りに使う道具。
うち臥す
横になる。
引き出づ
引き出す。
解説

「引き出でつつ」は、櫃から『源氏物語』を一冊ずつ取り出しては読む、という様子。

原文
后の格助体修位も係助強意何代名に格助対象かは係助反語せサ変未然む意志連体。

現代語訳后の位も何になるだろうか、いや、何にもならない。

かは
反語の係助詞。結びは連体形の「む」。「何にかはせむ」は「何になるだろうか、いや、何にもならない」。
解説

「后の位」は、女性にとって最高の幸福を表す。そのような地位も、物語を読むうれしさには及ばない。

原文
昼は係助区別日暮らし、夜は係助区別目の格助主格覚めマ下二連用たる存続連体限り、灯を格助対象近くク連用ともしサ四連用て接助単純接続、これ代名を格助対象見るマ上一連体より格助比較ほかの格助体修ことなけれク已然ば接助順接確定、

現代語訳昼は一日中、夜は目が覚めている間ずっと、灯を近くにともして、これを見る以外のことがないので、

日暮らし
一日中。
限り
ここは「〜の間ずっと」。
ともす
灯をともす。
より
ここは「〜以外」。
原文
おのづから副など副助婉曲は係助強意、そらにナリ連用おぼえ浮かぶバ四連体を格助対象、いみじきシク連体ことに格助対象思ふハ四連体に接助順接確定、

現代語訳自然と(物語の文章などが)そらで思い浮かぶのを、すばらしいことだと思っていると、

おのづから
自然と。
そらに
暗記して。
おぼえ浮かぶ
思い浮かぶ。
解説

「そらにおぼえ浮かぶ」のは物語の文章。「いみじきことに思ふ」は、物語を暗記したことをたいへん得意に思ったということ。

原文
夢に格助対象、いと副清げなるナリ連体僧の格助同格、黄なるナリ連体地の格助体修袈裟けさ着カ上一連用たる存続連体が格助主格来カ変連用て接助単純接続、

現代語訳夢に、とても清楚な感じの僧で、黄色い地の袈裟を着ている者がやって来て、

清げなり
清楚だ、さっぱりと美しい。
僧の、
…着たるが…「の」は同格。「僧で、黄色い地の袈裟を着ている者が」。
解説

※晩年の作者は、物語に夢中になってこのお告げを気にとめず、仏道に励まなかったことを悔やんでいる。

原文
「法華経五の巻を格助対象疾く副習へハ四命令。」と格助引用言ふハ四終止と格助引用見れマ上一已然ど接助逆接確定、人に格助対象も係助強意語らラ四未然ず打消連用、習はハ四未然む意志終止と格助引用も係助強意思ひかけカ下二未然ず打消連用、

現代語訳「『法華経』の第五巻を早く習いなさい。」と言うのを見たけれど、人にも話さず、習おうとも思いつかず、

疾く
早く。
習へ
命令形。
思ひかく
思いつく。
解説

「法華経五の巻」は、女性が成仏できることを説いた部分を含む巻。作者はこの夢の告げを、そのときは重く受け止めなかった。

原文
物語の格助体修ことを格助対象のみ副助限定心に格助場所占めマ下二連用て接助単純接続、我代名は係助区別このごろわろきク連体ぞ終助強意かし終助強意、

現代語訳物語のことばかりを心にかけて、私は今はまだ器量がよくないのだ、

占む
ある場所を占める。ここは「心にかける、念頭に置く」。
わろし
よくない、見劣りがする。
ぞかし
念を押す終助詞。「〜のだよ」。
解説

「我はこのごろわろきぞかし」は、少女時代の作者が、自分の容貌はまだ今は美しくないと感じているということ。

原文
盛りに格助状態ならラ四未然ば接助順接仮定、容貌かたちも係助並列限りなくク連用よくク連用、髪も係助並列いみじくシク連用長くク連用なりラ四連用な強意未然む推量終止、

現代語訳年ごろになったならば、容貌もこの上なくよくなり、髪もたいへん長くなるにちがいない、

盛り
ここは年ごろ、女盛り。
容貌(かたち)
顔だち。
なむ
強意の「ぬ」の未然形「な」+推量の「む」。「きっと〜だろう」。
解説

※長い黒髪は、平安時代の美人の条件とされていた。

原文
光の源氏の格助体修夕顔、宇治の大将の格助体修浮舟の格助体修女君の格助体修やうに断定連用こそ係助強意あらラ変未然め推量已然と格助引用思ひハ四連用ける過去連体心、まづ副いと副はかなくク連用あさましシク終止。

現代語訳光源氏の夕顔や、宇治の大将(薫)の浮舟の女君のようにきっとなるのだろうと思っていた私の心は、今思えばまず何とも頼りなく、あきれたものだ。

光の源氏の夕顔
『源氏物語』の登場人物。光源氏に愛された女性。
宇治の大将の浮舟の女君
『源氏物語』の登場人物。宇治十帖の薫(宇治の大将)に愛された女性。
こそあらめ
「こそ」の結びは已然形の「め」。下に「と」が続き、文が続く。
はかなし
頼りない、たわいない。
あさまし
あきれるほどだ。
解説

「まづいとはかなくあさまし」は、物語の女君のようになれると思いこみ、夢のお告げも気にとめなかった少女時代の自分を、この日記を書いている晩年の作者が、たわいなくあきれたものだったと振り返る言葉。

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①乳母
    ②三月朔日
    ③櫃
    ④几帳
    ⑤袈裟
    ⑥容貌
    ⑦太秦

    解答を見る

    ①めのと
    ②やよいついたち
    ③ひつ
    ④きちょう
    ⑤けさ
    ⑥かたち
    ⑦うずまさ

  2. 次の語句の意味を答えよ。
    ①いみじ
    ②心もとなし
    ③ゆかし
    ④まめまめし
    ⑤まさなし
    ⑥おのづから
    ⑦あさまし

    解答を見る

    ①程度がはなはだしい(ここは「ひどい」)
    ②じれったい・待ち遠しい
    ③見たい・知りたい
    ④実用的だ・まじめだ
    ⑤よくない・つまらない
    ⑥自然に
    ⑦あきれるほどだ

B 文法・敬語

  1. 「月影あはれに見し乳母」「やがて別れし人」の「し」を文法的に説明せよ。また、「やがて別れし人」とはだれか。「やがて」の意味がわかるように説明せよ。

    解答を見る

    し=どちらも過去の助動詞「き」の連体形(作者自身が体験した過去)。やがて別れし人=松里で別れたまま、再会できずに亡くなってしまった作者の乳母。

  2. 次の傍線部の「なむ」の違いを文法的に説明せよ。
    ①はかなく見えし我と知ら【なむ】
    ②まめまめしきものはまさなかり【なむ】

    解答を見る

    ①他者への願望を表す終助詞で、未然形に付く(〜してほしい)。②「な」が強意「ぬ」の未然形で、「む」が推量の助動詞の終止形(きっと〜だろう)。

  3. 「后の位も何にかはせむ」を現代語訳し、「かは」の用法を答えよ。

    解答を見る

    訳=后の位も何になるだろうか、いや、何にもならない。かは=反語の係助詞。

C 内容

  1. 「ゆかしくし給ふなるものを奉らむ」を現代語訳せよ。また、「ゆかしくし給ふなるもの」とは具体的に何をさすか。

    解答を見る

    訳=(あなたが)見たがっておいでだと聞くものを差し上げましょう。さすもの=『源氏物語』の五十余巻などの物語。

  2. 「かくのみ思ひくんじたるを、心も慰めむと、心苦しがりて」について、「思ひくんじたる」と「心苦しがり」の主語をそれぞれ答え、全体を現代語訳せよ。

    解答を見る

    主語=思ひくんじたる…作者、心苦しがり…母。訳=(私が)こうしてふさぎこんでばかりいるので、(母は私の)心を慰めようと、気の毒に思って。

  3. 次の二つの「ままに」の意味の違いがわかるように、それぞれ現代語訳せよ。
    ①ゆかしくおぼゆるままに
    ②出でむままにこの物語見果てむ

    解答を見る

    ①見たいと思われるので(理由)。②寺を出たらすぐに、この物語を終わりまで読もう(〜するとすぐに)。

  4. 夢に現れた僧のお告げに対して、作者はどのようにふるまったか。本文に即して説明せよ。

    解答を見る

    「法華経五の巻を早く習え」と告げられたのに、だれにも話さず、習おうとも思わずに、物語のことばかり考えていた。

  5. 「光の源氏の夕顔、宇治の大将の浮舟の女君のやうにこそあらめと思ひける心、まづいとはかなくあさまし」を現代語訳せよ。また、ここには、いつの作者のどのような思いが表れているか。

    解答を見る

    訳=光源氏に愛された夕顔や、宇治の大将に愛された浮舟の女君のように、自分もきっとなるだろうと思っていた心は、何よりもまずたわいなく、あきれたものだ。思い=この日記を書いている晩年の作者が、物語の世界にあこがれてばかりいた少女時代の自分を、たわいないものだったと振り返る思い。