『大鏡』弓争ひ 現代語訳・品詞分解・敬語・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 道長の来訪
  4. 道長の大胆な言葉
  5. 青ざめる中関白家
  6. テスト予想問題

『大鏡(おおかがみ)』「弓争ひ(ゆみあらそい)」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。教科書によっては「競べ弓」「南院の競射」「道長、伊周の競射」という題で載っています。

藤原伊周(これちか)が父道隆の邸、南院で開いた弓の競射に、叔父の藤原道長がふいにやって来ます。官位では伊周より下の道長が、矢を射る前に口にした大胆な言葉と、その結果に青ざめる道隆・伊周親子が描かれます。敬語の種類と向き、「させ」の意味、人物の気持ちがよく問われます。

原文の読み方

原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。

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現代語訳・品詞分解・解説

道長の来訪

原文
帥殿そちどのの格助主格、南院みなみのいんにて格助場所人々集めマ下二連用て接助単純接続弓あそばしサ四連用尊→伊周し過去連体に格助時間、こ代名の格助体修殿渡らラ四未然せ尊敬連用給へ補・ハ四已然尊→道長れ完了已然ば接助順接確定、

現代語訳帥殿(伊周)が、南院に人々を呼び集めて弓の腕くらべをなさったおりに、この殿(道長)がお越しになったので、

帥殿(そちどの)
藤原伊周。
南院(みなみのいん)
道隆の邸。
弓あそばす
弓の競射をなさる。「あそばす」は尊敬語で、語り手から伊周への敬意。
この殿
藤原道長。
解説

「渡らせ給へれば」=渡ら(ラ四「渡る」・未然形)/せ(尊敬「す」・連用形)/給へ(尊敬の補助動詞・已然形)/れ(完了「り」・已然形)/ば(接続助詞)。「せ給へ」は二重敬語で、語り手が道長を敬っている。

原文
思ひかけカ下二未然ず打消連用あやしシク終止と格助引用、中関白殿なかのかんぱくどの思し驚きカ四連用尊→道隆て接助単純接続、いみじうシク連用・音饗応きょうおうしサ変連用申さ補・サ四未然謙→道長せ尊敬連用給う補・ハ四連用・音尊→道隆て接助単純接続、

現代語訳「意外なことで、どうしたことだろう」と中関白殿(道隆)はびっくりなさって、たいへん丁重にご機嫌をとり申し上げなさって、

中関白殿(なかのかんぱくどの)
藤原道隆。
饗応(きょうおう)す
機嫌をとってもてなす。
解説

「思ひかけずあやし」は、道隆が、自分と仲のよくない道長が伊周の催しにわざわざやって来たことを、意外で不思議に思った言葉。

「饗応し申させ給うて」は二方面敬語。「申さ」は謙譲の補助動詞で語り手から道長(もてなされる人)への敬意、「せ給う」は二重敬語で語り手から道隆(もてなす人)への敬意。

「いみじう」は「いみじく」の、「給う」は「給ひ」のウ音便。

現代語訳(道長は帥殿より)官位が下でいらっしゃるけれど、(道隆は道長を)先の順にお立て申し上げ、まず(道長に)射させ申し上げなさると、

下﨟(げろう)
官位の低い者。
解説

「下﨟におはしませど」は、道長のほうが伊周より官位が低かったということ。主語は道長。

「立て奉り」は道隆が道長を先に立てたので、「奉り」は語り手から道長への敬意。

「射させ奉らせ給ひけるに」の「させ」は使役、「せ」は尊敬。伊周より先に、道隆が道長に矢を射てもらった、ということ。「奉ら」は道長への、「せ給ひ」は道隆への敬意。

「下﨟に」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形、「前に」の「に」は格助詞、「けるに」の「に」は接続助詞。

原文
帥殿の格助体修矢数やかず、いま副二つ劣りラ四連用給ひ補・ハ四連用尊→伊周ぬ完了終止。

現代語訳帥殿の当たった矢の数が、(道長より)あと二本少なく、負けておしまいになった。

矢数(やかず)
的に当たった矢の数。
解説

伊周は、当たった矢の数で道長に二本負けた。

道長の大胆な言葉

原文
中関白殿、また接御前おまえに格助場所候ふハ四連体謙→道隆人々も係助添加、「いま副二度延べバ下二未然させ尊敬連用給へ補・ハ四命令尊→道長・伊周。」と格助引用申しサ四連用謙→道長・伊周て接助単純接続、延べバ下二未然させ尊敬連用給ひ補・ハ四連用尊→道隆ける過去連体を接助順接確定、

現代語訳中関白殿も、またおそばにお仕えする人々も、「もう二回延長なさいませ。」と申し上げて、(競射を)延長なさったので、

延ぶ
延ばす。延長する。
解説

道隆たちが「いま二度延べさせ給へ」と延長を求めたのは、負けている伊周に、二本の差を取り返させたかったから。

「候ふ」は謙譲語で、語り手から道隆(そばに仕えられる人)への敬意。

原文
安からク未然ず打消連用思しなりラ四連用尊→道長て接助単純接続、「さらば接、延べバ下二未然させ尊敬連用給へ補・ハ四命令尊→道隆。」と格助引用仰せサ下二未然尊→道長られ尊敬連用て接助単純接続、

現代語訳(道長は)おもしろくないとお思いになって、「それならば、延長なさいませ。」とおっしゃって、

安からず
心穏やかでない。おもしろくない。
解説

「安からず思しなりて」の主語は道長。勝負はついているのに、伊周を勝たせようと延長を持ち出す道隆や周りの人々に、不快な気持ちになった。

「さらば、延べさせ給へ」の「させ」は尊敬で、道長から道隆への敬意。「それならば、延長なさいませ」の意。

原文
また副射ヤ上一未然させ尊敬連用給ふ補・ハ四終止尊→道長と格助引用て接助単純接続、仰せサ下二未然尊→道長らるる尊敬連体やう、「道長が格助体修家より格助起点帝・后きさき立ちタ四連用給ふ補・ハ四終止尊→帝・后べき当然連体ものなら断定未然ば接助順接仮定、こ代名の格助体修矢当たれラ四命令。」と格助引用仰せサ下二未然尊→道長らるる尊敬連体に接助単純接続、

現代語訳(道長は)さらに射ようとして、口にされたことには、「この道長の家から帝や后がお出になるはずならば、この矢よ当たれ。」と(道長が)おっしゃると、

解説

「道長が家より帝・后立ち給ふべきものならば」は、自分の家から天皇や皇后が出る(自分の娘が后になり、その子が天皇になる)はずならば、ということ。道長は、自分の将来の栄華を矢に託して言い放った。

「立ち給ふ」の「給ふ」は、道長から帝・后への敬意。

原文
同じシク連体ものを接助逆接確定中心に格助場所は係助強意当たるラ四連体ものかは終助詠嘆。

現代語訳同じ当たりでも、なんとまあ的のど真ん中に命中したではないか。

ものかは
(驚きを表して)なんと〜ではないか。
解説

「同じものを中心には当たるものかは」は、同じ当たるにしても、よりによって的の真ん中に当たったことに、語り手が驚いている表現。

青ざめる中関白家

原文
次に格助時間、帥殿射ヤ上一連用給ふ補・ハ四連体尊→伊周に接助単純接続、いみじうシク連用・音臆しサ変連用給ひ補・ハ四連用尊→伊周て接助単純接続、御手も係助添加わななくカ四連体故けに断定連用や係助疑問、的の格助体修あたりに格助場所だに副助類推近くク連用寄らラ四未然ず打消連用、

現代語訳次に帥殿が射られたが、すっかり気おくれなさって、お手も震えてしまったためであろうか、(矢は)的の近くにさえ届かず、

臆す
気おくれする。
わななく
震える。
故(け)
ため。せい。
解説

「わななく故にや」の後には、「あらむ」などが省略されている。「や」の結びの省略。

「的のあたりにだに近く寄らず」の「だに」は類推。的のそばにさえ近寄らない、まして的に当たるはずがない、ということ。

伊周は、道長の言葉と、その矢が的の真ん中に当たったことに圧倒されて、気おくれしたと考えられる。

原文
無辺世界むへんせかいを格助対象射ヤ上一連用給へ補・ハ四已然尊→伊周る完了連体に接助順接確定、関白殿、色青くク連用なりラ四連用ぬ完了終止。

現代語訳見当違いの方へ射てしまわれたので、関白殿(道隆)は顔の色が青ざめてしまった。

無辺世界
もとは、はてしなく広い世界の意の仏教語。ここでは、見当違いの方向。
解説

「関白殿、色青くなりぬ」には、ほかの場面と違って道隆への敬語が使われていない。息子の伊周の大失敗に、道隆が顔色を失ったようすを描いている。

原文
また副、入道殿にゅうどうどの射ヤ上一連用給ふ補・ハ四終止尊→道長と格助引用て接助単純接続、「摂政・関白すサ変終止べき当然連体ものなら断定未然ば接助順接仮定、こ代名の格助体修矢当たれラ四命令。」と格助引用仰せサ下二未然尊→道長らるる尊敬連体に接助単純接続、

現代語訳また入道殿(道長)が射ようとなさって、「(私が)摂政・関白になるはずならば、この矢よ当たれ。」とおっしゃると、

解説

「摂政・関白すべきものならば」の主語は道長自身。自分が摂政・関白になるはずならば、ということ。道隆が今ついている関白の地位を、自分が手にすると言っている。

原文
初めの格助体修同じシク連体やうに比況連用、的の格助主格破るラ下二終止ばかり副助程度、同じシク連体ところに格助場所射ヤ上一未然させ尊敬連用給ひ補・ハ四連用尊→道長つ完了終止。

現代語訳初めの矢と同様に、的も壊れんばかりに、同じ所(的の中心)を射抜きなさった。

破る
壊れる。割れる(ラ行下二段活用の自動詞)。
解説

道長の矢は、初めの矢と同じく的の真ん中に当たった。二つの言葉が実現することを予感させる書き方になっている。

原文
饗応しサ変連用、もてはやしサ四連用聞こえ補・ヤ下二未然謙→道長させ尊敬連用給ひ補・ハ四連用尊→道隆つる完了連体興きょうも係助強意さめマ下二連用て接助単純接続、こと苦にがうシク連用・音なりラ四連用ぬ完了終止。

現代語訳(中関白殿が道長の)機嫌をとってもてはやし申し上げなさっていた楽しい雰囲気もさめて、気まずくなってしまった。

もてはやす
ほめそやす。大切にもてなす。
こと苦し
気まずい。
解説

「こと苦うなりぬ」となったのは、道隆が道長をもてなしていた楽しい雰囲気が、道長の大胆な言葉と的中、伊周の失敗によって、すっかり壊れてしまったから。

「聞こえ」は謙譲語で道長への敬意、「させ給ひ」は道隆への敬意。

原文
父大臣、帥殿に格助対象、「何なに副か係助反語射るヤ上一連体。な副射ヤ上一連用そ終助禁止、な副射ヤ上一連用そ終助禁止。」と格助引用制しサ変連用給ひ補・ハ四連用尊→道隆て接助単純接続、ことさめマ下二連用に完了連用けり過去終止。

現代語訳父の大臣(道隆)は帥殿に向かって、「なぜ射るのか。射るな、射るな。」と制止なさって、座はしらけてしまった。

ことさむ
興がさめる。しらける。
解説

「何か射る」の「か」は反語。「どうして射るのか、射る必要はない」の意。

「な射そ、な射そ」は「な〜そ」の禁止。これ以上伊周が射て道長との差を人前にさらすことになるのを恐れ、あわてて止めようとする道隆の気持ちが表れている。

道長は、大胆で負けん気の強い人物として描かれている。一方の伊周は、気が弱く、父の後ろだてに頼る人物として描かれている。

『大鏡』のほかの話:三舟の才 / 花山天皇の出家① / 道真左遷①

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①帥殿
    ②中関白殿
    ③饗応
    ④下﨟
    ⑤矢数
    ⑥無辺世界

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    ①そちどの
    ②なかのかんぱくどの
    ③きょうおう
    ④げろう
    ⑤やかず
    ⑥むへんせかい

  2. 次の語句の意味を、本文に即して答えよ。
    ①饗応す
    ②あやし
    ③安からず
    ④わななく
    ⑤無辺世界
    ⑥こと苦し

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    ①機嫌をとってもてなす
    ②不思議だ・妙だ
    ③心穏やかでない・おもしろくない
    ④震える
    ⑤見当違いの方向
    ⑥気まずい

B 文法・敬語

  1. 「この殿渡らせ給へれば」を品詞分解し、助動詞は意味と活用形を答えよ。また、「せ給へ」はだれからだれへの敬意を表すか。

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    渡ら(ラ行四段動詞「渡る」の未然形)/せ(尊敬の助動詞「す」の連用形)/給へ(尊敬の補助動詞「給ふ」の已然形)/れ(完了の助動詞「り」の已然形)/ば(接続助詞)。語り手から道長への敬意。

  2. 「いみじう饗応し申させ給うて」について、①「申さ」「せ」「給う」の敬語の種類と、だれへの敬意かを答えよ。②「いみじう」「給う」を音便になる前の形に直せ。

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    ①申さ=謙譲の補助動詞、道長への敬意/せ=尊敬の助動詞、道隆への敬意/給う=尊敬の補助動詞、道隆への敬意(いずれも語り手から)。②いみじく・給ひ

  3. 「下﨟におはしませど、前に立て奉りて、まづ射させ奉らせ給ひけるに」について、①三つの「に」(下﨟に・前に・けるに)を文法的に説明せよ。②「させ」と「せ」の意味を答えよ。③人物を補って現代語訳せよ。

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    ①下﨟に=断定の助動詞「なり」の連用形/前に=格助詞/けるに=接続助詞。②させ=使役、せ=尊敬。③(道長は伊周より)官位が下でいらっしゃるけれど、(道隆は道長を)先の順にお立て申し上げ、まず(道長に)射させ申し上げなさると、

C 現代語訳・内容

  1. 「思ひかけずあやし」とは、だれが、どのようなことを思ったのか。また、ここから道長と道隆の関係についてどのようなことがわかるか。

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    道隆が、伊周の開いた競射の場に道長がわざわざやって来たことを、意外で不思議だと思った。/二人の仲がよくなかった(対立していた)こと。

  2. 道隆たちが「いま二度延べさせ給へ」と言ったのはなぜか。また、それを聞いた道長が「安からず思しなり」たのはなぜか。

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    延長=負けた伊周に、二本の差を取り返させたかったから。/道長=勝負はついたのに、伊周を勝たせるために延長を持ち出す道隆や周りの人々の態度が不愉快だったから。

  3. 道長が矢を射る前に言った二つの言葉(「道長が家より…」「摂政・関白す…」)を、それぞれ現代語訳せよ。また、道長は自分のどのような将来を願ったのか。

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    訳=①この道長の家から帝や后がお出になるはずならば、この矢よ当たれ。②(私が)摂政・関白になるはずならば、この矢よ当たれ。/自分の家から天皇や皇后が出て、自分が摂政・関白として政治の実権を握ること。

  4. 「同じものを中心には当たるものかは」を現代語訳せよ。

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    同じ当たりでも、なんとまあ的のど真ん中に命中したではないか。

  5. 「御手もわななく故にや、的のあたりにだに近く寄らず」について、①「や」の後に省略されている語句を補え。②「だに」の意味に注意して現代語訳せよ。③伊周がこうなったのはなぜと考えられるか。

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    ①あらむ(あらん)②お手も震えたせいだろうか、的のあたりにさえ近寄らず、③道長の大胆な言葉と、矢が的の真ん中に当たったことに圧倒されて、気おくれしたから。

  6. 「饗応し、もてはやし聞こえさせ給ひつる興もさめて、こと苦うなりぬ」とあるが、気まずくなったのはなぜか。

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    道長が中関白家に取って代わるかのような言葉を口にして二度とも的の真ん中を射当て、伊周は大きく外したので、道隆が道長をもてなしていた楽しい雰囲気が壊れてしまったから。

  7. 「何か射る。な射そ、な射そ」を現代語訳せよ。また、ここにはだれのどのような気持ちが表れているか。

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    訳=なぜ射るのか(射ることはない)。射るな、射るな。/道隆の、これ以上伊周が射て道長との差をさらすことを恐れ、あわてて止めようとする気持ち(焦り・うろたえ)。