『徒然草(つれづれぐさ)』第七段「あだし野の露消ゆる時なく」の現代語訳・品詞分解・解説です。「あだし野の露」とも呼ばれます。
人の命がいつまでも続くなら、ものの情趣もないだろう。世の中は無常だからこそすばらしい――兼好の無常観がよく表れた章段です。「露」「煙」が表すもの、主題の一文、「そのほど」の指す内容、長生きを戒める理由、係り結びと「む」「ば」の用法がよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
世は定めなきこそいみじけれ
現代語訳あだし野の露が消えるときがなく、鳥部山の煙がいつまでも立ち去らないように、(人が死なずに)この世に最後まで住み続けるのがならわしであるならば、
- 住み果つ
- いつまでも住み続ける。最後まで住み通す。
- ならひ
- ならわし。
「露」も「煙」も、すぐに消えてしまうもの。どちらもはかない人の命を表している。あだし野は墓地、鳥部山は火葬場で、どちらも死を思わせる場所。
「で」は打消の接続(〜ないで)、「のみ」は強意。「ならば」の「ば」は未然形に付いて順接の仮定条件(もし〜ならば)。実際とは反対の、人が死なない世の中を仮に考えている。
- いかに
- どんなにか。
- もののあはれ
- ものごとにふれて起こる、しみじみとした情趣。
「いかに」を受けて、文末の「ん」が連体形になっている。「ん」は推量。
- 定めなし
- 無常だ。移り変わって一定しない。
- いみじ
- すばらしい。(よい意味にも悪い意味にも、程度がはなはだしいことを表す)
この文章の主題を表す一文。人の命に限りがあり、世が移り変わるからこそ、ものの情趣を感じることができる、という考え。
「こそ」の結びで、「いみじ」が已然形「いみじけれ」になっている。
長生きを戒める
- 久し
- 長い。ここでは命が長いこと。
人をほかの生き物と比べて、人ほど命の長いものはないと述べている。
現代語訳かげろうのように夕方を待つだけで死ぬものや、夏の蟬のように春や秋を知らずに死ぬものもあるのだよ。
- かげろふ
- とんぼに似た昆虫。成虫になってからの命がごく短い。
かげろうと夏の蟬は、命の短いものの例。
「かげろふの夕べを待ち」と「夏の蟬の春秋を知らぬ」は、形のそろった対句。
「ぞかし」は、係助詞「ぞ」に終助詞「かし」が付いたもので、強く言い聞かせる言い方。
- つくづくと
- しみじみと。
- こよなし
- この上ない。格別だ。
- のどけし
- ゆったりしている。のんびりしている。
「だに」は類推(〜さえ)。かげろうや蟬に比べれば、人間の一年でさえ十分に長い、ということ。
現代語訳(それでも)満ち足りず、命を惜しいと思うなら、千年生きたとしても、一夜の夢のように(短く)感じるだろう。
- 飽かず
- 満足しないで。もの足りなく思って。
「惜し」と思うのは、自分の命。ほかの生き物よりずっと長く生きても満足できない気持ちを言う。
「一夜の夢の心地」は、千年という長い月日でさえ、短くはかないものに感じるということ。
「思はば」は順接の仮定条件、「過ぐすとも」は逆接の仮定条件(たとえ〜としても)。
現代語訳いつまでも住み通せないこの世で、醜い姿になるまで生きながらえて、いったい何の意味があろうか、いや、何の意味もない。
- 住み果てぬ世
- いつまでも住み通すことのできないこの世。命はいつか必ず尽きるということ。
- 醜き姿
- 年老いた姿。
- 待ちえ(待ち得)
- 待った末に手に入れる。
「何かはせん」は「何の意味があろうか、いや、何の意味もない」。「かは」は反語で、結びの「ん」は連体形。
- 辱(はぢ)
- 恥。
「ば」は已然形に付いて、「〜すると必ず」という意味を表す(恒常条件)。
中国の『荘子』にある言葉をふまえている。四十歳ごろに死ぬのがよいと考える理由がこの一文。
現代語訳長くても四十歳にならないくらいで死ぬようなのが、見苦しくないだろう。
- 四十(よそぢ)
- 四十歳。
- めやすし
- 見苦しくない。感じがよい。
「死なん」の「ん」は婉曲(〜ような)。
「こそ」の結びで、「べし」が已然形「べけれ」になっている。
当時は四十歳がすでに老年の入り口と考えられていた。
老いの見苦しさ
- かたち
- 顔だち。容貌。
「そのほど」は、前の文の「四十に足らぬほど」、つまり四十歳ごろを指す。
年老いて衰えた容貌を、恥ずかしいとも思わなくなる、ということ。
現代語訳人なかに出て交わろうとばかり考え、人生の晩年に子や孫をかわいがって、
- 出で交じらふ
- 人なかに出て交際する。
年をとっても慎みがなく、人の集まる所へ出ていこうとする姿を批判している。
「夕べの陽」は、沈みかけた夕日。残りの命の少ない人生の晩年をたとえている。
現代語訳(子孫が)栄えていく行く末を見るまで生きていたいと願い、ひたすらこの世の名誉や利益を欲しがる心ばかりが深くなって、
- さかゆく
- 栄えていく。
- 末
- 将来。
- あらます
- あてにする。期待する。
- むさぼる
- ひどく欲しがる。
「さかゆく」の主語は子孫、「見ん」の主語は年老いた人。子や孫が栄えていく将来を見届けるまで生きたいと願うこと。
「世をむさぼる心」は、この世の名誉や利益をひたすら欲しがる心。
- あさまし
- 情けない。あきれるほどだ。
「なん」の結びで、「あさまし」が連体形「あさましき」になっている。
作者が情けないと言っているのは、年老いた人がこの世に執着し、ものの情趣がわからなくなっていくこと。冒頭の「もののあはれ」と対応している。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①鳥部山
②一年
③千年
④一夜
⑤四十解答を見る
①とりべやま
②ひととせ
③ちとせ
④ひとよ
⑤よそじ本文中で使われている意味を、次の語それぞれについて答えよ。
①もののあはれ
②定めなし
③いみじ
④久し
⑤のどけし
⑥めやすし
⑦かたち
⑧あらます
⑨あさまし解答を見る
①しみじみとした情趣
②無常だ
③すばらしい
④(命が)長い
⑤ゆったりしている
⑥見苦しくない
⑦容貌
⑧期待する
⑨情けない
B 文法
次の【 】内の「ん」の意味を答えよ。
①いかにもののあはれもなから【ん】
②何かはせ【ん】
③四十に足らぬほどにて死な【ん】こそ
④人に出で交じらは【ん】こと解答を見る
①推量
②推量
③婉曲
④婉曲次の【 】内の「ば」は、どのような条件を表すか。
①住み果つるならひなら【ば】
②命長けれ【ば】辱多し解答を見る
①順接の仮定条件(もし〜ならば)
②順接の確定条件のうち、恒常条件(〜すると必ず)次の文の係助詞と、それに対する結びの語を示し、結びの活用形も記せ。
①世は定めなきこそ、いみじけれ。
②一夜の夢の心地こそせめ。
③醜き姿を待ちえて何かはせん。解答を見る
①こそ・いみじけれ(已然形)
②こそ・め(已然形)
③かは・ん(連体形)
C 現代語訳・内容
「あだし野の露」「鳥部山の煙」は、それぞれ何を表しているか。
解答を見る
どちらもすぐに消えるはかないもので、人の命を表している。
「世は定めなきこそ、いみじけれ。」を現代語訳せよ。また、作者がそう言えるのはなぜか、本文の言葉を使って説明せよ。
解答を見る
訳=世の中は移り変わって定まらないからこそ、すばらしいのだ。
理由=人の命がいつまでも続くなら「もののあはれ」もないが、無常だからこそ、ものの情趣を感じることができるから。「かげろふの夕べを待ち、夏の蟬の春秋を知らぬ」は、どのようなものの例として挙げられているか。
解答を見る
命が非常に短いものの例。
「住み果てぬ世に、醜き姿を待ちえて何かはせん。」を現代語訳せよ。
解答を見る
いつまでも住み通すことのできないこの世で、醜い(年老いた)姿になるまで生きながらえて、いったい何の意味があろうか、いや、何の意味もない。
作者が「長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ」と考える理由を、本文中から九字で抜き出せ(句点を含む)。また、この文を現代語訳せよ。
解答を見る
理由=命長ければ辱多し。
訳=長くても四十歳にならないくらいで死ぬようなのが、見苦しくないだろう。「そのほど過ぎぬれば」以下で、四十歳を過ぎた人のどのような姿が述べられているか。三つ挙げよ。また、「夕べの陽」は何をたとえているか。
解答を見る
姿=容貌の衰えを恥ずかしいと思わなくなる・人なかに出て交際しようとする・子孫の繁栄を見届けるまで長生きしたいと願い、この世の名誉や利益をむやみに欲しがる(そして、ものの情趣がわからなくなる)
たとえ=人生の晩年