『源氏物語(げんじものがたり)』御法(みのり)の巻、「紫の上の死」の場面の前半、「秋待ちつけて、世の中少し涼しくなりては」から「すずろにもの悲し」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全2回の①)。
秋になっても、紫の上の病は重いままです。宮中に帰る前に、明石の中宮がみずから紫の上の部屋を訪ねます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
秋になって
現代語訳(待ちかねていた)秋がやって来て、世間が少し涼しくなってからは、(紫の上の)お加減もいくぶんさわやかになったようだけれど、
- 待ちつく
- 待っていたものが来る。
- 御心地
- (紫の上の)ご気分。
- いささか
- 少し。
- さはやぐ
- さっぱりする。気分がよくなる。
現代語訳やはりどうかすると(病状が悪くなり)恨めしく思われる。
- ともすれば
- どうかすると。
- かごとがまし
- 恨みがましい。(病状がぶり返して)恨めしく思われる。
現代語訳といっても実は、身にしみるほど(の寂しさを)自然とお感じになるような秋風ではないのだけれど、涙にぬれることの多い日々をお過ごしになる。
- さるは
- といっても実は。
- 露けし
- 涙がちだ。
- 〜がち
- 〜が多い。
「身にしむばかり思さるべき秋風」は、秋のしみじみとした寂しさが身にしみるほど、自然とお感じになるような秋風。
「露けき折がち」は、紫の上が自分の命のはかなさを思って、涙を流すことが多いということ。
中宮の見舞い
現代語訳中宮が宮中へお帰りになろうとするのを、(紫の上は)もうしばらくはここにいて(私を)見舞ってほしいとでも申し上げたいとお思いになるが、
- 参る
- (宮中に)参上する。
- 御覧ず
- 「見る」の尊敬語。
「参り」は謙譲語で作者から帝への敬意、「給ひ」は尊敬語で作者から中宮への敬意。
「なむ」は「な」+「む」。「な」は助動詞「ぬ」(強意)の未然形、「む」は助動詞「む」(意志)の終止形。
「いましばしは御覧ぜよ」は、中宮がもうしばらく(二条院にとどまって)紫の上を見舞ってほしいということ。「御覧ぜよ」は、紫の上から中宮への敬意。
「聞こえ」は作者から中宮への敬意、「思せ」は作者から紫の上への敬意。
現代語訳さしでがましいようでもあり、宮中からの(帝の)お使いがひっきりなしに来るのもわずらわしいので、
- さかし
- さしでがましい。
- 内裏
- 宮中。
- 隙なし
- 絶え間がない。
- わづらはし
- 面倒だ。気づかわしい。
中宮が宮中に帰るのを引き止めるのはさしでがましいと、紫の上は遠慮している。
「内裏の御使ひ」は、中宮に帰参をうながす帝からの使者。
現代語訳(紫の上は)そのようにも申し上げなさらないのだが、(病が重く)ご自分から中宮のお部屋へ出向くこともおできにならないので、中宮のほうが(紫の上のもとへ)いらっしゃった。
- あなた
- あちら。ここでは中宮の部屋。
「さ」は「いましばしは御覧ぜよ」を指す。「聞こえ」は作者から中宮への敬意、「給は」は作者から紫の上への敬意。
「え渡り給はねば」は、病が重い紫の上は、自分から中宮の部屋へ出向くこともおできにならないので、ということ。
※「ぞ」を受けて「ける」が連体形で結ぶ(係り結び)。
現代語訳(中宮にお越しいただくのは)恐れ多いけれど、本当にお目にかからないのもかいがないということで、(紫の上は)こちらの部屋に(中宮の)お席を特別に用意させなさる。
- かたはらいたし
- 恐縮だ。気がひける。
- げに
- 本当に。
- こなた
- こちら。ここでは紫の上の部屋。
- しつらひ
- 部屋の飾りつけ。ここでは、中宮のお席。
中宮のほうから来ていただくのは恐縮だが、お目にかからないのもかいがないと、紫の上が思っている。
「見奉ら」は、紫の上の心の中の言葉にある謙譲語で、紫の上から中宮への敬意。
やせ細った紫の上
現代語訳(紫の上は)すっかりやせ細っていらっしゃるけれど、こうしてこそ、気品があってみやびやかな美しさが限りなく、ますますすばらしくなるものなのだなあと、
- こよなし
- この上ない。格別だ。
- あてなり
- 上品だ。
- なまめかし
- 優美だ。
「かくて」は、紫の上がすっかりやせ細っていること。やせ細っているからこそ、かえって上品で優美な美しさがまさって見える、ということ。
※「こそ」を受けて「けれ」が已然形で結ぶ(係り結び)。
現代語訳これまで、あまりにつややかな美しさに満ち、はなやかでいらっしゃった女盛りのころには、むしろこの世の花の色香にもたとえられていらっしゃったのに、
- 来し方
- 過ぎ去った昔。
- あざあざと
- はなやかに。鮮やかに。
- なかなか
- かえって。
- よそふ
- たとえる。なぞらえる。
女盛りのころの紫の上は、はなやかな美しさを、この世の花にたとえられていた。
現代語訳(今は)この上もなくいじらしく美しいご様子で、この世をまったくかりそめのものと思っていらっしゃる様子は、
- らうたげなり
- いじらしい。かわいらしい。
- かりそめなり
- 一時的だ。はかない。
「限りもなくらうたげにをかしげなる御さま」は、病身となった今の紫の上の様子。
「いとかりそめに世を思ひ給へる気色」は、紫の上が、自分の命はもう残りわずかだと思っている様子。
- 心苦し
- 痛々しい。気の毒だ。
- すずろに
- わけもなく。むやみに。
「似るものなく」は、昔は花にたとえられたが、今はたとえようもない(美しさ)ということ。
「心苦しく、すずろにもの悲し」は、紫の上の様子を見ている中宮の気持ち。
続き:御法②
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 夕顔① 車争い① 須磨①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①内裏
②隙
③来し方解答を見る
①うち
②ひま
③きしかた次の語の本文中での意味を答えよ。
①かごとがまし
②さるは
③さかしき
④かたはらいたけれ
⑤あてに
⑥あざあざと
⑦すずろに解答を見る
①恨みがましい
②といっても実は
③さしでがましい
④恐縮だ(けれど)
⑤上品で
⑥はなやかに
⑦わけもなく
B 文法・敬語
次の助動詞の意味を答えよ。
①身にしむばかり思さるべき
②秋風ならねど
③聞こえまほしう
④痩せ細り給へれど
⑤花の香りにもよそへられ給ひし解答を見る
①自発
②打消
③希望
④存続
⑤受身「中宮は参り給ひなむとするを」の「なむ」を文法的に説明せよ。
解答を見る
「な」は助動詞「ぬ」(強意)の未然形、「む」は助動詞「む」(意志)の終止形。
次の敬語について、種類を答え、だれからだれへの敬意かを示せ。
①参り給ひなむ(参り)
②参り給ひなむ(給ひ)
③御覧ぜよ
④聞こえまほしう
⑤げに見奉らぬ解答を見る
①謙譲語。作者から帝へ。
②尊敬語。作者から中宮へ。
③尊敬語。紫の上から中宮へ。
④謙譲語。作者から中宮へ。
⑤謙譲語。紫の上から中宮へ。
C 現代語訳・内容
「身にしむばかり思さるべき秋風ならねど」を現代語訳せよ。
解答を見る
(秋の寂しさが)身にしみるほどに自然とお感じになるような秋風ではないけれど。
「さも聞こえ給はぬに」について、①「さ」の指す内容を本文から抜き出せ。②紫の上がそう申し上げなかったのはなぜか。本文の言葉に即して答えよ。
解答を見る
①いましばしは御覧ぜよ
②(中宮の帰参を引き止めるのは)さしでがましいようでもあり、帝からの使者がひっきりなしに来るのも気づかわしかったから。「あなたにもえ渡り給はねば」を、「あなた」の指す場所を明らかにして現代語訳せよ。
解答を見る
(病の重い紫の上は)ご自分から中宮のお部屋へ出向くこともおできにならないので。
「かたはらいたけれど、げに見奉らぬもかひなし」とは、だれのどのような気持ちか。
解答を見る
紫の上の、中宮のほうから来ていただくのは恐縮だが、お目にかからないのもかいがないので、お会いしようという気持ち。
「かくてこそ」の「かくて」は、どのようなことを指しているか。
解答を見る
紫の上が、すっかりやせ細っていること。
「この世の花の香りにもよそへられ給ひし」とあるが、何を何にたとえていたのか。また、それと対照的に、今の紫の上の様子を表す部分を本文から抜き出せ。
解答を見る
女盛りのころの紫の上の美しさを、花にたとえていた。今の様子=限りもなくらうたげにをかしげなる御さま
「心苦しく、すずろにもの悲し」は、だれの心情か。
解答を見る
中宮