『徒然草(つれづれぐさ)』第十段「家居のつきづきしく」の現代語訳・品詞分解・解説です。
住まいには、そこに住む人の人柄が表れる――。兼好は、教養のある人の自然で落ち着いた住まいと、職人に飾り立てさせた住まいを比べます。後半では、屋根に縄を張った後徳大寺の大臣と綾小路の宮の話を挙げ、外見だけでは決めつけられないことにもふれます。反対の意味の語句、主語と敬語、「こそ」の結びの省略がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
住まいへの関心
現代語訳住まいが(住む人に)似つかわしく、好ましい様子であるのは、(この世の)一時の仮の住まいだとは思うけれど、興味深いものだ。
- 家居(いへゐ)
- 住まい。住居。
- つきづきし
- 似つかわしい。調和がとれている。
- あらまほし
- 好ましい。理想的だ。
- 興
- おもしろみ。
「仮の宿り」は、無常のこの世での一時の住まいのこと。住まいはしょせん仮のものだと思いながらも、やはり関心をひかれる、ということ。
「こそ」の結びで、断定の助動詞「なり」が已然形「なれ」になっている。
好ましい住まい
現代語訳身分が高く教養もある人が、ゆったりと落ち着いて住んでいる所は、さしこんでくる月の光も、ひときわしみじみと心にしみて見えるものだよ。
- よき人
- 身分が高く、教養のある人。
- のどやかなり
- ゆったりと落ち着いている。
よき人の住まいは、さしこむ月の光までひときわしみじみと感じられる、ということ。
現代語訳当世風で華やかというわけではないが、木立がどことなく古びていて、わざわざ手を加えたのでもない庭の草も趣のある様子で、
- 今めかし
- 当世風だ。現代風だ。
- きららかなり
- きらびやかだ。
- もの古る
- なんとなく古びる。
- わざとならぬ
- わざわざ手を入れたのではない。
「今めかしく」と反対の内容を表すのは、次の句の「昔おぼえて」。
「わざとならぬ」と反対の内容を表すのは、後の段落の「心のままならず作りなせる」。
現代語訳簀子や透垣の作り具合にも趣があり、無造作に置かれた道具も古めかしく落ち着いた感じがするのは、奥ゆかしく見える。
- 簀子(すのこ)
- 建物の外側に張り出した板敷きの縁。
- 透垣(すいがい)
- 板や竹で、間をすかして作った垣。
- 便り
- 配置。具合。
- うちあり
- 何気なく置いてある。
- 調度(てうど)
- 身の回りの道具や家具。
- 心憎し
- 奥ゆかしい。
「こそ」の結びで、「見ゆ」が已然形「見ゆれ」になっている。
好ましくない住まい
現代語訳多くの大工が心をこめて磨き上げ、中国のものや日本のもので、珍しく、なんともいえずすばらしい道具類を並べて置き、
- 匠(たくみ)
- 大工。職人。
- 唐(から)
- 中国。
- えならぬ
- なんともいえないほどすばらしい。
「唐の、大和の」は、「中国のもの、日本のもの」という意味で、「調度ども」にかかる。
現代語訳庭の植え込みの草木まで自然のままにせず、人の手で作り立てているのは、見た目にも不快で、まったくやりきれない。
- 前栽(せんざい)
- 庭の植え込み。
- 心のままならず
- 自然のままでなく。
- わびし
- やりきれない。不快だ。
職人に飾り立てさせ、庭の草木まで人工的に作った住まいを、作者は見苦しいと批判している。
現代語訳そのようにしても、いつまでも生きながらえて住んでいられようか、いや、いられはしない。また、(火事にでもなれば)ほんの短い間に煙となってしまうだろうと、ちょっと見ただけで自然と思われる。
- 時の間
- ほんの短い間。
- うち見る
- ちょっと見る。
「さてもやは長らへ住むべき」は、「そのようにしても、いつまでも生きながらえて住めるだろうか、いや、住めはしない」。「やは」は反語で、結びの「べき」は連体形。
人の命も住まいもはかないものだという考えが、冒頭の「仮の宿り」と通じている。
「ぞ」の結びで、自発の助動詞「る」が連体形「るる」になっている。
- おほかた
- だいたい。
- ことざま
- 人柄。様子。
「ことざま」は、住む人の人柄のこと。住まいを見れば、住む人の人柄がおしはかられる、というのが前半のまとめ。
「こそ」の結びで、可能の助動詞「る」が已然形「るれ」になっている。
屋根に縄を張った二つの例
現代語訳後徳大寺の大臣が、寝殿に、鳶をとまらせないようにと縄を張っておられたのを、西行が見て、
- 大臣(おとど)
- 大臣。
- 寝殿
- 貴族の屋敷の中心になる建物。
「張られ」の「れ」は尊敬で、作者から後徳大寺の大臣への敬意。縄を張らせたのは後徳大寺の大臣。
ここから、「家居にこそ、ことざまは推し量らるれ」の例として、屋根に縄を張った話が始まる。
現代語訳「鳶がとまっているようなことが、どうして不都合なことがあろうか、いや、何も困りはしない。この殿のお心は、その程度のものなのだろう。」
- さばかり
- その程度。
西行の言葉。「何かは苦しかるべき」は「どうして不都合なことがあろうか、いや、ない」という反語。
「さばかりにこそ」は、下に「あらめ」などが省略されている(結びの省略)。
鳶がとまるくらいのことを嫌う大臣を、心の狭い人だと非難している。
現代語訳と言って、その後は(大臣の屋敷へ)参上しなかったと聞いておりますが、
「参ら」は謙譲語で、作者から後徳大寺の大臣への敬意。参上しなくなったのは西行。
「聞き侍る」の主語は作者。「侍る」は丁寧語で、作者から読み手への敬意。
現代語訳綾小路の宮のお住まいの小坂殿の棟に、いつだったか(宮が)縄をお引きになったことがあったので、あの例(後徳大寺の大臣の話)が自然と思い出されましたが、
- おはします
- いらっしゃる。「あり」の尊敬語。
- ためし
- 例。前例。
「かのためし」は、後徳大寺の大臣が寝殿に縄を張り、西行がそれを見て参上しなくなった話を指す。
「思ひ出でられ」の主語は作者。「られ」は自発で、「侍り」は作者から読み手への敬意を表す丁寧語。
現代語訳そういえば、「烏が群れてとまり、池の蛙をつかまえていたので、(宮が)それをご覧になり、蛙をふびんにお思いになって(縄を張らせたのです)。」と、ある人が話したのは、
- まことや
- そういえば。(話を思い出したときの言葉)
「御覧じ」「せ給ひ」は尊敬語で、話をした人から綾小路の宮への敬意。蛙をかわいそうに思ったのは綾小路の宮。
「なん」の下には、「(縄を)お張りになったのです」という意味の言葉が省略されている(結びの省略)。烏が池の蛙を取るのを防ぐために縄を張った、ということ。
- いみじ
- すばらしい。
作者は、蛙を思いやって縄を張った綾小路の宮を、立派な心の持ち主だと感心している。
「いみじくこそ」の下にも、「あれ」などの言葉が省略されている。
「徳大寺」は、後徳大寺の大臣のこと。作者の感想で、「侍り」は丁寧語。
綾小路の宮の例のように、縄を張るのにも何か事情があったのかもしれない。大臣を一方的に非難した西行の判断に疑問を投げかけ、大臣の側に立って考えている。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①家居
②簀子
③透垣
④調度
⑤前栽
⑥大臣(おとどと読む)
⑦西行解答を見る
①いえい
②すのこ
③すいがい
④ちょうど
⑤せんざい
⑥おとど
⑦さいぎょう本文中で使われている意味を、次の語それぞれについて答えよ。
①つきづきし
②あらまほし
③よき人
④今めかし
⑤心憎し
⑥えならぬ
⑦わびし
⑧ことざま
⑨まことや解答を見る
①似つかわしい・調和がとれている
②好ましい・理想的だ
③身分が高く教養のある人
④当世風だ
⑤奥ゆかしい
⑥なんともいえないほどすばらしい
⑦やりきれない
⑧人柄
⑨そういえば
B 文法
次の各文について、係助詞と、それを受ける結びの語を示し、結びの活用形も答えよ。
①やすらかなるこそ、心憎しと見ゆれ。
②さてもやは長らへ住むべき。
③何かは苦しかるべき。解答を見る
①こそ・見ゆれ(已然形)
②やは・べき(連体形)
③かは・べき(連体形)次の【 】内の助動詞の意味を答えよ。
①興あるもの【なれ】
②住みなし【たる】所
③きららかなら【ね】ど
④うち見るより思は【るる】
⑤縄を張ら【れ】たりける
⑥いかなるゆゑか侍り【けん】解答を見る
①断定
②存続
③打消
④自発
⑤尊敬
⑥過去推量次の部分の敬語の種類と、敬意の方向(誰から誰へ)を答えよ。
①その後は参らざりける
②聞き侍るに
③御覧じ悲しませ給ひて解答を見る
①謙譲語・作者から後徳大寺の大臣へ
②丁寧語・作者から読み手へ
③尊敬語・(話をした)人から綾小路の宮へ
C 現代語訳・内容
「家居のつきづきしくあらまほしきこそ、仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。」を現代語訳せよ。
解答を見る
住まいが(住む人に)似つかわしく、好ましい様子であるのは、この世の一時の住まいだとは思うけれど、興味深いものだ。
①「今めかしく」②「心のままならず作りなせる」と反対の内容を表す部分を、本文中からそれぞれ抜き出せ。
解答を見る
①昔おぼえて
②わざとならぬ「おほかたは、家居にこそ、ことざまは推し量らるれ。」を現代語訳せよ。また、「ことざま」とは何のことか。
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訳=だいたいは、住まい(の様子)によって、(住む人の)人柄はおしはかられるものだ。
ことざま=住む人の人柄「この殿の御心、さばかりにこそ。」について、①「こそ」の下に省略されている言葉を補え。②この言葉にこめられた西行の思いを説明せよ。
解答を見る
①あらめ(侍らめ)
②鳶がとまるくらいのことを嫌う大臣は、心の狭い人だと非難する気持ち。次の動作の主語を答えよ。
①縄を張られたりける
②その後は参らざりける
③かのためし思ひ出でられ侍りし
④御覧じ悲しませ給ひて解答を見る
①後徳大寺の大臣
②西行
③作者
④綾小路の宮「さてはいみじくこそとおぼえしか」とあるが、作者は何をすばらしいと思ったのか、説明せよ。
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綾小路の宮が、烏に池の蛙を取られるのをかわいそうに思って縄を張らせた、その思いやりのある心。
「徳大寺にも、いかなるゆゑか侍りけん。」を現代語訳せよ。また、この一文にはどのような作者の考えがこめられているか、西行の態度と比べて説明せよ。
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訳=あの徳大寺の大臣にも、どんなわけがあったのでございましょうか。
考え=綾小路の宮の例のように、縄を張ったのにも何か事情があったかもしれないので、外見だけで大臣を非難した西行の判断には疑問があり、大臣の側にも理由を考えてみるべきだということ。