『沙石集』兼盛と忠見(歌ゆゑに命を失ふこと) 現代語訳・品詞分解・敬語・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 歌合の題
  4. 二首の歌
  5. 帝の判定
  6. 忠見の最期
  7. 編者の評
  8. テスト予想問題

『沙石集(しゃせきしゅう)』「兼盛と忠見(歌ゆゑに命を失ふこと)」の現代語訳・品詞分解・解説です。

天徳の歌合で、同じ「初恋」の題で歌を詠んだ平兼盛(たいらのかねもり)と壬生忠見(みぶのただみ)。勝負の行方と、敗れた忠見のその後を語る説話です。「いかで〜べき」の訳、帝の様子から勝敗が決まったこと、忠見が病に倒れた理由が問われます。

原文の読み方

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現代語訳・品詞分解・解説

歌合の題

原文
天徳の格助体修御歌合の格助体修とき、兼盛、忠見、ともに副御随身みずいじんにて格助資格左右に格助場所ついカ四連用・音て完了連用けり過去終止。

現代語訳天徳の歌合の時に、平兼盛と壬生忠見が、ともに随身として左方・右方に加わった。

天徳の御歌合
天徳四年(960年)に行われた内裏歌合。
歌合(うたあわせ)
歌人が右と左の組に分かれて、歌の優劣を競う催し。
随身(ずいじん)
貴人に付き従って警護する官人。
ついてけり
「ついて」は「つきて」のイ音便。「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「けり」は過去の助動詞。
原文
初恋と格助引用いふハ四連体題を格助対象給はりラ四連用謙→帝て接助単純接続、忠見、名歌詠み出だしサ四連用たり完了終止と格助引用思ひハ四連用て接助単純接続、兼盛も係助同趣いかで副これほどの格助体修歌詠むマ四終止べき可能連体と格助引用ぞ係助強意思ひハ四連用ける過去連体。

現代語訳「初恋」という題をいただいて、忠見は、名歌を詠み出したと思って、(忠見は)兼盛もどうしてこれほどの歌を詠めようか、いや詠めまいと思ったのだった。

給はる
「受く」の謙譲語。「いただく」。作者から帝への敬意。(「給はす」は「お与えになる」の意の尊敬語)
初恋
恋のはじめ。
名歌
すぐれた歌。
いかで
ここは反語の副詞。「どうして〜か、いや〜ない」。
べき
可能の助動詞「べし」の連体形。「ぞ」の結びは「思ひける」。
解説

「いかで〜べき」は反語。「べき」は可能で、「どうしてこれほどの歌を詠むことができようか、いや、できないだろう」の意。

二首の歌

原文
恋すサ変終止てふわ代名が格助体修名は係助区別まだき副立ちタ四連用に完了連用けり詠嘆終止人知れラ下二未然ず打消連用こそ係助強意思ひそめマ下二連用しか過去已然

現代語訳恋をしているという私の評判は、早くも立ってしまったことだ。人知れず思い始めたのに。

てふ
「といふ」が変化した語。「恋をしているという」。
名
評判、うわさ。
まだき
早くも。
思ひそむ
恋し始める。
こそ
しか…「しか」は過去の助動詞「き」の已然形で、係助詞「こそ」の結び。已然形で言い切る形で、「〜のに」という逆接の気持ちを含む。
解説

三句切れ。「人知れずこそ思ひそめしか」は倒置で、「こそ〜しか」が上の句へ続くので逆接(思い始めたのに)になる。

※忠見の歌。『百人一首』にも収められている。

原文
さて接、すでに副御前にて格助場所講じサ変連用て接助単純接続、判ぜサ変未然られ尊敬連用尊→判者ける過去連体に格助時間、

現代語訳さて、(歌が)すでに帝の御前で読み上げられて、判者が判定なさったところ、

御前(ごぜん)
帝の前。
講ず
歌を読み上げる。
判ず
勝ち負けを判定する。
判ぜられける
「られ」は尊敬の助動詞「らる」の連用形。判者に対する敬意。
原文
兼盛が格助体修歌に格助資格、つつめマ四已然ども接助逆接確定色に格助場所出でダ下二連用に完了連用けり詠嘆終止わ代名が格助体修恋は係助区別ものや係助疑問思ふハ四連体と格助引用人の格助主格問ふハ四連体まで副助程度

現代語訳兼盛の歌について、隠していたけれど、顔色に出てしまったことだ。私の恋は。物思いをしているのかと人が尋ねるほどに。

つつむ
隠す。
色
顔色、表情。
出でにけり
「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けり」は詠嘆。
や
疑問の係助詞。結びは連体形の「思ふ」。
まで
程度を表す副助詞。「〜ほどに」。
解説

※兼盛の歌。『百人一首』では、初句が「忍ぶれど」となっている。

帝の判定

原文
判者ども、名歌なり断定連用けれ過去已然ば接助順接確定判じ煩ひハ四連用て接助単純接続、天気を格助対象伺ひハ四連用謙→帝ける過去連体に接助単純接続、

現代語訳判者たちは、(両方の歌が)名歌であったので判定に困って、帝のお考えをうかがったところ、

判者
歌合で優劣を判定する人。
判じ煩ふ
判定に困る。
天気
天皇のご意向。ここは帝のお考え。
伺ふ
「問ふ」の謙譲語。「おうかがいする」。作者から帝への敬意。
解説

判者が帝のお考えをうかがったのは、両方とも名歌で、勝敗をつけることができなかったから。

原文
帝、忠見が格助体修歌を格助対象ば係助区別両三度りやうさんど御詠ありラ変連用けり過去終止。兼盛が格助体修歌を格助対象ば係助区別多反たへん御詠ありラ変連用ける過去連体とき、天気左に格助場所ありラ変終止と格助引用て接助単純接続、兼盛勝ちタ四連用に完了連用けり過去終止。

現代語訳帝は、忠見の歌を二、三度お詠みになった。兼盛の歌は何度もお詠みになったとき、帝のお気持ちは左にあるとして、兼盛が勝った。

両三度
二、三度。
多反
何度も。
御詠あり
お詠みになる。「御」は帝への敬意を表す。
をば
格助詞「を」+係助詞「は」。
解説

帝が忠見の歌は二、三度、兼盛の歌は何度もお詠みになったので、帝のお気持ちは兼盛の側(左方)にあると判断された。

※実際の天徳四年内裏歌合の記録では、二十番「恋」の勝負は左が忠見、右が兼盛で、本文とは左右が逆になっている。

忠見の最期

原文
忠見、心憂くク連用おぼえヤ下二連用て接助単純接続心ふさがりラ四連用て接助単純接続、不食の格助体修病つきカ四連用て完了連用けり過去終止。

現代語訳忠見は、つらく思われて心がふさがって、食事をとれない病気になってしまった。

心憂し
つらい、情けない。
おぼゆ
ここは「思われる」。
ふさがる
ここは気持ちが晴れず、ふさぎこむ。
不食の病
食事がとれなくなる病気。
つきてけり
「て」は完了の助動詞「つ」の連用形。
解説

忠見が病気になったのは、自信のあった自分の歌が負けたことに、ひどく落胆したから。

原文
頼みなきク連体由聞きカ四連用て接助単純接続、兼盛、とぶらひハ四連用けれ過去已然ば接助順接確定、

現代語訳(忠見の病気が)助かる見込みがないと聞いて、兼盛が見舞ったところ、

頼みなし
頼りにできない。ここは回復の見込みがない。
由(よし)
ここは話、様子。
とぶらふ
訪れる、見舞う。
原文
「別の格助体修病に断定連用あら補・ラ変未然ず打消終止。御歌合の格助体修とき、名歌詠み出だしサ四連用て接助単純接続おぼえヤ下二連用侍り補・ラ変連用丁→兼盛し過去連体に接助逆接確定、殿の格助体修『ものや係助疑問思ふハ四連体と格助引用人の格助主格問ふハ四連体まで副助程度』に格助原因、あは感と格助引用思ひハ四連用て接助単純接続、

現代語訳「特別な病気ではありません。歌合のとき、名歌を詠み出したと思っておりましたのに、あなたの『ものや思ふと人の問ふまで』(の歌)に、「あっ」と思って、

侍り
ここは補助動詞(丁寧)で、「〜ございます」。忠見から兼盛への敬意。
殿
あなた様。ここは兼盛をさす。
あは
感動詞。「あっ」。
解説

「殿」は兼盛。忠見は、兼盛の歌「ものや思ふと人の問ふまで」を聞いて「あっ」と思った。

原文
あさましくシク連用おぼえヤ下二連用し過去連体より格助起点、胸ふさがりラ四連用て接助単純接続、かく副思ひハ四連用侍り補・ラ変連用丁→兼盛ぬ完了終止。」と格助引用、つひに副みまかりラ四連用に完了連用けり過去終止。

現代語訳情けなく思われてから、胸がふさがって、このように思い悩んでしまいました。」と言って、ついに亡くなってしまった。

あさまし
驚きあきれる。情けない。ここは、情けない(あきれるほどだ)の意。
しより
「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「より」は起点を表す格助詞。「〜てから」。
みまかる
亡くなる。
思ひ侍りぬ
「侍り」は丁寧の補助動詞で、忠見から兼盛への敬意。

編者の評

原文
執心こそ係助強意由なけれク已然ども接助逆接確定、道を格助対象執するサ変連体習ひ、あはれにナリ連用こそ係助強意。ともに副名歌にて格助資格『拾遺』に格助場所入りラ四連用て接助単純接続侍る補・ラ変連体丁→読み手に断定連用や係助疑問。

現代語訳執心は無益なことだけれども、(歌の)道に執着する習いは、しみじみと心を打たれることだ。二首とも名歌として『拾遺集』に入っているのではないか。

執心
ある物事に執着する心。
由なし
無益だ、つまらない。(ほかに「理由がない」「方法がない」の意味もある)
執す
執着する。
習ひ
習慣、ならわし。
あはれなり
しみじみと心を動かされる。
こそ
あはれにこそ…「あれ」などが省略されている。
侍る
補助動詞(丁寧)。編者から読み手への敬意。
にや
断定の「なり」の連用形+疑問の係助詞「や」。下に「あらむ」などが省略されている。
解説

編者は、執着心を持つことは無益だが、忠見が歌の道に執着する習慣を持っていたことは、しみじみと心を打たれることだと評価している。

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①歌合
    ②随身
    ③両三度
    ④執心

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    ①うたあわせ
    ②ずいじん
    ③りょうさんど
    ④しゅうしん

  2. 次の語句の意味を答えよ。
    ①給はる
    ②名(「わが名」)
    ③まだき
    ④天気
    ⑤つつむ
    ⑥心憂し
    ⑦みまかる
    ⑧由なし

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    ①いただく
    ②評判・うわさ
    ③早くも
    ④帝(天皇)のご意向
    ⑤隠す
    ⑥つらい・情けない
    ⑦亡くなる
    ⑧無益だ・つまらない

B 文法・敬語

  1. 「いかでこれほどの歌詠むべき」を現代語訳し、「べき」の意味を答えよ。

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    訳=どうしてこれほどの歌を詠むことができようか、いや、できないだろう。べき=可能の助動詞「べし」の連体形。

  2. 「判ぜられけるに」の「られ」を文法的に説明せよ。

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    尊敬の助動詞「らる」の連用形。

  3. 「人知れずこそ思ひそめしか」の「しか」を文法的に説明せよ。また、この句の表現上の特徴を答えよ。

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    しか=過去の助動詞「き」の已然形(係助詞「こそ」の結び)。表現上の特徴=倒置。

  4. 次の傍線部の敬語の種類と、敬意の方向を答えよ。
    ①天気を【伺ひ】ける
    ②かく思ひ【侍り】ぬ

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    ①謙譲語。作者から帝へ
    ②丁寧の補助動詞。忠見から兼盛へ

C 内容

  1. 「つつめども色に出でにけり」を現代語訳せよ。

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    隠していたけれども、顔色に出てしまったことだ。

  2. 判者たちが「天気を伺ひける」のはなぜか。また、その結果、兼盛の勝ちとされたのはなぜか。

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    前者=二首ともすぐれた歌で、判者には勝ち負けを決められなかったから。後者=帝が兼盛の歌を、忠見の歌(二、三度)よりもずっと多く口ずさまれたので、帝のお心は兼盛の歌にあると判者が受け取ったから。

  3. 「不食の病つきてけり」とあるが、そうなったのはなぜか。

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    自信のあった自分の歌が負けたことに、ひどく落胆したから。(さらに兼盛の歌のすばらしさに驚きあきれ、胸がふさがったことも理由となる。)

  4. 「あはと思ひて」とあるが、忠見は何を聞いて「あっ」と思ったのか。

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    兼盛の歌(「ものや思ふと人の問ふまで」の歌)。

  5. 編者は忠見をどう評価しているか。「執心」「道」の語を使って説明せよ。

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    何かに執心するのは無益でよくないことだが、命を落とすほど歌の道に打ち込んだ忠見のありかたには、しみじみと心を動かされると評価している。