『源氏物語(げんじものがたり)』浮舟(うきふね)の巻、「橘の小島」の場面の後半、「いとはかなげなるものと」から「今もかき曇りて降る」までの現代語訳・品詞分解・敬語・和歌・解説です(全2回の②)。前半は浮舟①。
匂宮(におうのみや)は浮舟を小さな舟に乗せて、宇治川の向こう岸へ渡ります。途中、橘の小島の常緑樹を見て変わらぬ愛を誓う匂宮に、浮舟は「このうき舟ぞ行方知られぬ」と、行く末の不安を歌で返します。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
小舟で川を渡る
現代語訳(浮舟が)ほんとうに頼りなさそうなものだと、朝に夕に(邸から)眺めている小さな舟に(匂宮は浮舟と)お乗りになって、(向こう岸へ)漕ぎ渡っていらっしゃる間、
- はかなげなり
- 頼りなさそうだ。
- 明け暮れ
- 朝夕。いつも。
- 見出だす
- (家の中から)外を眺める。
- さし渡る
- 棹をさして(舟で)渡る。
現代語訳(浮舟は)はるか遠くの岸にまで漕ぎ離れていってしまうかのように心細く思われて、
- おぼゆ
- (自然に)思われる。
「心細くおぼえ」たのは浮舟。朝夕見慣れている川なのに、はるか遠くの岸へ漕ぎ離れていくように感じたから。
現代語訳(匂宮に)ぴたりと身を寄せて抱かれているのも、(匂宮は)とてもかわいくいじらしいとお思いになる。
- つと
- ぴったりと。じっと。
- らうたし
- いじらしい。かわいい。
「いとらうたしと思す」は、匂宮が、心細そうに自分にすがりついている浮舟をいじらしく思っている。
橘の小島
現代語訳有明の月が空高く澄みわたってのぼり、川の水面も曇りなく明るいところに、(船頭が)「これが橘の小島でございます。」と申し上げて、
- 有明の月
- 夜が明けても空に残っている月。
「これなむ橘の小島」は船頭の言葉。「なむ」の結び(「なる」など)は省略されている。「申し」は作者から匂宮への敬意。
現代語訳御舟をしばらく止めたので(匂宮が)ご覧になると、大きな岩のような形をしていて、趣のある常緑樹が茂って影をつくっている。
- 大きやかなり
- いかにも大きい。
- さる
- しゃれている。趣がある。
- 常磐木
- 一年中、葉の緑が変わらない木。常緑樹。
現代語訳(匂宮が)「あれをご覧なさい。ほんとうに頼りなさそうだけれど、千年も変わらずに保ちそうな緑の深さですよ。」とおっしゃって、
- はかなし
- 頼りない。
「かれ」は小島の常磐木。千年も変わらずにいそうな緑の深さに、自分のいつまでも変わらない愛情を重ねて見せようとしている。「見給へ」は匂宮から浮舟への敬意。
現代語訳(匂宮)年月がたっても変わったりするだろうか、いや決して変わりはしない。橘の小島の崎で(あなたに)約束する私の心は。
- 契る
- 約束する。
匂宮の歌。「ものか」は反語(変わるだろうか、いや変わらない)。二句切れで、「変はらむものか」と「契る心は」が倒置になっている。
- めづらし
- めったにない。
現代語訳(浮舟)橘の小島の緑の色は変わらないでしょうが、(水に浮かぶ)この浮舟のように頼りなくつらい身の私は、どこへ流れてゆくのか行く先もわかりません。
- 行方
- 行く先。将来。
浮舟の返歌。「うき舟」は「浮き舟」と「憂き(つらい身の私)」の掛詞。匂宮の歌の「橘の小島」「変はらむ」を受けて、あなたのお心は変わらないでしょうが、と匂宮の思いを受けとめつつ、自分の行く末はわからないという不安を詠んでいる。
現代語訳折も折であり、(浮舟の)様子もあって、(匂宮は)ただもう趣深いとばかり、何ごともお思いになる。
- をりから
- 折も折。
- 思しなす
- (そのように)お思いになる。
「人」は浮舟。浮舟の歌には将来への不安が詠まれているのに、匂宮はそれをくみ取らず、ただ趣深いとばかり思い、恋の高まりに酔っている。
対岸の家
現代語訳(匂宮は)向こう岸に着いて(舟から)お降りになるときに、(浮舟を)供の者に抱かせなさるのはとても気の毒なので、
- 心苦し
- 気の毒だ。
- 人
- ここでは、匂宮の供の者。
現代語訳(自分で浮舟を)抱いて、(供の者に)助けられながら(家に)お入りになるのを、(供の者たちは)まったく見苦しく、いったいどういう人をこんなに大騒ぎして扱っていらっしゃるのだろうと拝見する。
- 見苦し
- みっともない。
- 何人
- どういう人。
- もて騒ぐ
- 大騒ぎしてもてはやす。
「見奉る」のは供の人々。皇族の匂宮が自ら浮舟を抱き、しかも人に助けられながら家に入る様子を見苦しく思い、これほど大事にする女はいったいだれなのかといぶかっている。「給ふらむ」の「給ふ」は供の人々から匂宮への敬意。
現代語訳(ここは)時方の叔父で、因幡守である者の所有する荘園に、簡素にこしらえた家なのであった。
- 因幡守
- 因幡の国(今の鳥取県東部)の長官。
- 領ず
- 領有する。
- 庄
- 荘園。
- はかなし
- (ここでは)簡素だ。
現代語訳まだたいそう粗末なうえに、網代屏風など、(匂宮が)これまでご覧になったこともない調度類で、
- 荒々し
- 粗末だ。
- 網代屏風
- 網代(薄く削った竹や木を編んだもの)を張った屏風。
- しつらひ
- 部屋の飾りつけ。調度。
現代語訳風もろくに防げず、垣根のあたりには雪がまだらに消え残っていて、今も空が暗く曇って(雪が)降っている。
- 障る
- さえぎられる。
- むら消ゆ
- まだらに消え残る。
「風もことに障らず」は、吹きこむ風もたいして防げないほど、粗末な造りの家だということ。
前半:浮舟①
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 夕顔① 車争い① 須磨① 御法① 『更級日記』源氏の五十余巻
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①有明の月
②常磐木
③千年
④行方
⑤何人
⑥因幡
⑦網代解答を見る
①ありあけのつき
②ときわぎ
③ちとせ
④ゆくえ
⑤なにびと
⑥いなば
⑦あじろ次の語の本文中での意味を答えよ。
①明け暮れ
②つと
③らうたし
④されたる
⑤をりから
⑥もて騒ぎ
⑦領ずる
⑧はかなう(造りたる)
⑨むら消え解答を見る
①朝夕・いつも
②ぴったりと
③いじらしい
④趣のある・しゃれた
⑤折も折で
⑥大騒ぎしてもてはやし
⑦領有する
⑧簡素に
⑨まだらに消え残り
B 文法・敬語
次の傍線部の「らむ」を文法的に説明せよ。
①はるかならむ岸にしも
②漕ぎ離れたらむやうに
③年経とも変はらむものか
④何人をかくもて騒ぎ給ふらむ解答を見る
①形容動詞「はるかなり」の未然形活用語尾+助動詞「む」(婉曲)の連体形。
②完了の助動詞「たり」の未然形「たら」の「ら」+助動詞「む」(婉曲)の連体形。
③ラ行四段動詞「変はる」の未然形活用語尾+助動詞「む」(推量)の連体形。
④現在推量の助動詞「らむ」の連体形。次の傍線部の文法的意味(用法)を答えよ。
①つとつきて抱かれたるも(れ)
②このうき舟ぞ行方知られぬ(れ)
③このうき舟ぞ行方知られぬ(ぬ)
④橘の小島の色は変はらじを(じ)
⑤助けられつつ入り給ふ(られ)
⑥時方が叔父の因幡守なるが(の)解答を見る
①受身
②可能
③打消(「ぞ」の結びで連体形)
④打消推量
⑤受身
⑥同格次の敬語について、種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答え、だれからだれへの敬意かを示せ。
①「これなむ橘の小島。」と申して(申し)
②御舟しばしさしとどめたるを見給へば(給へ)
③かれ見給へ(給へ)
④何ごとも思しなす(思しなす)
⑤何人をかくもて騒ぎ給ふらむと見奉る(奉る)解答を見る
①謙譲。作者から匂宮へ。
②尊敬。作者から匂宮へ。
③尊敬。匂宮から浮舟へ。
④尊敬。作者から匂宮へ。
⑤謙譲。作者から匂宮へ。
C 現代語訳・内容・和歌
「心細くおぼえて」「いとらうたしと思す」について、①「心細くおぼえ」たのはだれか。また、なぜ心細く思ったのか。②だれが、だれを「らうたし」と思っているのか。
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①浮舟。朝夕見慣れている川なのに、はるか遠くの岸へ漕ぎ離れていくように感じたから。②匂宮が、浮舟を。
「かれ見給へ。いとはかなけれど、千年も経べき緑の深さを。」について、①「かれ」は何を指すか。本文中の語で答えよ。②匂宮は「かれ」を見せることで、何を言おうとしているのか。
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①常磐木
②千年も変わらずにいそうな常磐木の深い緑と同じく、自分の浮舟を思う心も決して変わらないということ。「年経とも変はらむものか橘の小島の崎に契る心は」の歌を現代語訳せよ。また、何句切れか答えよ。
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訳=年月がたっても変わることがあろうか、いや、決して変わらない。橘の小島の崎で(あなたに)約束する私の心は。二句切れ。
「橘の小島の色は変はらじをこのうき舟ぞ行方知られぬ」について、①「うき」に掛けられている二つの語を漢字を用いて答えよ。②歌を現代語訳せよ。③この歌にこめられた浮舟の気持ちを説明せよ。
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①浮き・憂き
②橘の小島の緑の色は変わらないでしょうが、水に浮かぶこの舟のように頼りなくつらい身の私は、どこへ行くのか行く末もわかりません。③匂宮の変わらぬ愛の誓いを受けとめながらも、自分の将来がどうなるのかわからないという不安な気持ち。「をりから、人のさまに、をかしくのみ、何ごとも思しなす」を、主語と「人」がだれかを明らかにして現代語訳せよ。また、浮舟の歌に対する匂宮の受けとめ方を説明せよ。
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訳=折も折であり、(浮舟の)様子もあって、(匂宮は)ただ趣深いとばかり、何ごともお思いになる。受けとめ方=浮舟の歌にこめられた将来への不安をくみ取らず、趣深い返歌だと思うだけで、恋の高まりに酔っている。
「いと見苦しく、何人をかくもて騒ぎ給ふらむと見奉る」について、だれが、何を見て、どのように思っているのかを説明せよ。
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供の人々が、皇族の匂宮が自分で浮舟を抱きかかえ、そのうえ従者の手を借りて家に入っていく姿を見て、見苦しいと思い、これほど大騒ぎして大事にする女はいったいだれなのかといぶかっている。
「風もことに障らず」とは、どういうことか。
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吹きこむ風もたいして防げないほど、家が粗末な造りだということ。