「む」は、古文でいちばんよく出てくる助動詞の一つです。意味が六つもありますが、文末か文中か、文末なら主語がだれかを見れば、たいていは決められます。このページでは「む」と、ほぼ同じ働きをする「むず」の意味・接続・活用と見分け方を、例文で確かめます。
「む」「むず」の活用表
| 基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用の型 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| む(ん) | 〇 | 〇 | む | む | め | 〇 | 四段型 |
| むず(んず) | 〇 | 〇 | むず | むずる | むずれ | 〇 | サ変型 |
「む」は終止形と連体形が同じ形なので、形だけでは区別できません。下に体言(名詞)が続けば連体形、文がそこで終われば終止形と考えます(係り結びの結びなら連体形)。已然形「め」は、「こそ〜め」の形で出てきます。
「む」の意味の見分け方
「む」は、文末にあるか、文中にあるかで大きく二つに分かれます。
| 位置 | 形 | 意味 |
|---|---|---|
| 文末(「む」で文が終わる・「こそ〜め」) | 主語が一人称(私) | 意志 |
| 〃 | 主語が二人称(あなた) | 適当・勧誘 |
| 〃 | 主語が三人称(ほかの人・もの) | 推量 |
| 文中(下に体言や助詞が続く) | 〜む+体言 | 婉曲 |
| 〃 | 〜む+助詞(は・に・も など) | 仮定(婉曲でもよいことが多い) |
① 文末の「む」――推量・意志・適当・勧誘
「む」は、まだ起きていないこと(未来のこと)を思いえがく助動詞です。
- 自分がこれからすること → 意志「〜しよう」
- 相手がこれからするとよいこと → 適当・勧誘「〜のがよい・〜しませんか」
- ほかの人・ものにこれから起こること → 推量「〜だろう」
となるので、文末の「む」は主語で判断できることが多くなります。主語が書かれていないときは、会話の場面から補って考えます。
一人称が主語 → 意志「〜しよう」
我も見に行かむ。
訳:私も見に行こう。
いざ、かいもちひせむ。(『宇治拾遺物語』「児のそら寝」)
訳:さあ、ぼたもちを作ろう。
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む(『古今和歌集』離別・在原行平)
訳:お別れして因幡の国へ行っても、因幡山の峰に生える松のように、あなたが待っていると聞いたなら、すぐに帰って来よう。
三人称が主語 → 推量「〜だろう」
雪降らむ。
訳:雪が降るだろう。
少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。(『枕草子』「雪のいと高う降りたるを」)
訳:少納言よ、香炉峰の雪はどうであろう。
二人称が主語 → 適当・勧誘「〜のがよい・〜しませんか」
「こそ〜め」の形や、「〜むや」「〜てむや」(〜してくれませんか)の形が多く見られます。
などかくは急ぎ給ふ。花を見てこそ帰り給はめ。(『宇津保物語』)
訳:どうしてそんなにお急ぎになるのですか。(あなたは)花を見てからお帰りになるのがよいでしょう。
かかるついでに見奉り給はむや。(『源氏物語』「若紫」)
訳:この機会に(光源氏を)拝見なさいませんか。
子といふものなくてありなむ。(『徒然草』第六段)
訳:子どもというものは、ないほうがよい。
「ありなむ」の「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形で、そこに適当の「む」が付いています。
② 文中の「む」――仮定・婉曲
「む」で文が終わらず、下に体言や助詞が続くときは、仮定か婉曲で考えます。このときの「む」は連体形です。
- 婉曲…はっきり言わず、遠回しに言う。「〜ような」と訳す。現代語にぴったりの言い方がないので、訳すと不自然になるときは訳さなくてもよい。
- 仮定…「〜としたら」「〜なら」と訳す。
どちらにするかは文脈で決めますが、次のパターンが多く見られます。
- 「む+体言」の形 → 婉曲(〜ような)
- 「む+助詞」(むは・むに・むも・むには など)の形 → 仮定(〜としたら)
どちらで訳してもよい場合もあります。
世の中になほいと心憂きものは、人ににくまれむことこそあるべけれ。(『枕草子』「世の中に、なほいと心憂きものは」)
訳:世の中でやはりとてもつらいことは、人に憎まれるようなことであるにちがいない。
「む」の下が「こと」という体言なので、婉曲です。
心あらむ友もがな。(『徒然草』第百三十七段)
訳:情趣を解するような友がいてほしいなあ。
銭あれども用ゐざらむは、全く貧者と同じ。(『徒然草』第二百十七段)
訳:お金があっても使わないとしたら、まったく貧しい人と同じだ。
「む+助詞(は)」の形なので、仮定です。
ありのままに言はむはをこがましとにや、(『徒然草』第二百三十四段)
訳:ありのままに言ったとしたら、ばかげていると思うのであろうか、
これも「むは」の形で仮定ですが、婉曲で「ありのままに言うようなことは」と訳してもよいところです。
「むず」の意味と例文
「むず」は「む+と+す」がつづまった形で、意味は「む」とほぼ同じです(推量・意志・適当・婉曲など)。会話文や軍記物語でよく使われます。活用はサ変型(むず・むずる・むずれ)です。
かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。(『竹取物語』)
訳:あの元の国(月の都)から、迎えに人々がやって来るでしょう。(推量)
いづちもいづちも足の向きたらむ方へ往なむず。(『竹取物語』)
訳:どこへでも、足の向いた方へ行こう。(意志)
平家滅ぼさむずる謀をぞめぐらしける。(『平家物語』「鹿の谷」)
訳:平家を滅ぼそうという(ような)計画をめぐらしていた。(婉曲)
連体形「むずる」が体言に続くときは、婉曲になることがあります。「足の向きたらむ方」の「む」も、体言「方」に続く婉曲です(「たら」は存続の助動詞「たり」の未然形)。
まぎらわしい「む」の見分け方
「む」は未然形接続なので、直前の語の活用形が手がかりになります。
- 「らむ」「けむ」の「む」は、それだけで一語の助動詞(現在推量・過去推量)なので、「む」と分けない。ただし「あらむ」「知れらむ」のように分ける場合もあるので、「らむ」の識別を見てください。
- 動詞の語尾の「む」(読む・住む・進む)は助動詞ではない。
よくある間違い・入試で問われるポイント
- 主語による見分けは目安です。三人称でも「こそ〜め」なら適当(〜のがよい)になることがあるので、最後は文脈で確かめます。
- 「む」は終止形と連体形が同じ形。「活用形を答えよ」では、下に何が続くか・係り結びかを見て答えます(「こそ〜め」は已然形)。
- 「婉曲」は訳さなくても意味が通ることが多いですが、問題で「意味を答えよ」と言われたら「婉曲」と答えられるようにしておきます。
- 「なむ」「てむ」「ぬべし」のような完了+推量は、「きっと〜」と強意を訳に出します。
練習問題
「む」「むず」の練習問題
助動詞「む」の意味を六つ答えよ。また、接続を答えよ。
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推量・意志・適当・勧誘・仮定・婉曲。未然形接続。
助動詞「むず」の活用を、未然形から命令形まで答えよ。
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〇・〇・むず・むずる・むずれ・〇(サ変型)
「いざ、かいもちひせむ」の「む」の意味を答え、現代語訳せよ。
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意志。主語は話し手(僧たち)。
訳:さあ、ぼたもちを作ろう。「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」の「む」の意味を答えよ。
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推量。主語は「香炉峰の雪」(三人称)。「どうであろう」。
「花を見てこそ帰り給はめ」の「め」を文法的に説明し、現代語訳せよ。
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適当(勧誘)の助動詞「む」の已然形(「こそ」の結び)。
訳:花を見てからお帰りになるのがよいでしょう。「世の中になほいと心憂きものは、人ににくまれむことこそあるべけれ」の「む」の意味と活用形を答えよ。
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婉曲、連体形。下に体言「こと」が続いている。「人に憎まれるようなこと」。
「銭あれども用ゐざらむは、全く貧者と同じ」を現代語訳せよ。また、「む」の意味を答えよ。
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訳:お金があっても使わないとしたら、まったく貧しい人と同じだ。
意味:仮定(「むは」の形)。「子といふものなくてありなむ」の「なむ」を文法的に説明し、現代語訳せよ。
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完了(強意)の助動詞「ぬ」の未然形「な」+適当の助動詞「む」の終止形。
訳:子どもというものは、ないほうがよい。「かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず」の「むず」の意味を答え、現代語訳せよ。
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推量。
訳:あの元の国から、迎えに人々がやって来るでしょう。「平家滅ぼさむずる謀をぞめぐらしける」の「むずる」の意味と活用形を答えよ。
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婉曲、連体形。下に体言「謀」が続いている。「平家を滅ぼそうという計画」。