『荀子』性悪篇「人之性悪(人の性は悪なり)」の書き下し文・現代語訳・解説です。荀子(じゅんし)は戦国時代末期の儒家の思想家です。孟子の「性善説」(人の本性は善である)に反論して、「性悪説」(人の本性は悪である)を唱えました。弟子には、法家の韓非や、秦の宰相となった李斯がいます。
書き下し文・現代語訳・解説
白文人之性悪、其善者偽也。
書き下し人の性は悪なり、其の善なる者は偽なり。
現代語訳人間の本性は悪である。人が善であるのは、人為的な努力によるものである。
- 性
- 生まれつきの性質。本性。
- 偽
- 人為、作為。人が後から努力して身につけたもの。「いつわり」の意味ではない。(「ゐ」と読んで、「いつわり」の意味の「ぎ」と区別する読み方もある。)
白文今人之性、生而有好利焉。順是、故争奪生而辞譲亡焉。
書き下し今人の性、生まれながらにして利を好む有り。是に順ふ、故に争奪生じて辞譲亡ぶ。
現代語訳さて、人の本性には、生まれつき利益を求める心がある。この心のままにふるまうので、争って奪い合うことが生じ、へりくだって人に譲る気持ちが失われる。
- 生而
- 「生まれながらにして」。生まれつき。
- 利
- 利益。
- 焉
- 文末で断定の意を表す置き字。
- 順
- 従う。
- 是
- 利益を好む性質。
- 争奪
- 争い、奪い合うこと。
- 辞譲
- へりくだって人に譲ること。
- 亡
- 「ほろブ」。なくなる。
白文生而有疾悪焉。順是、故残賊生而忠信亡焉。
書き下し生まれながらにして疾悪有り。是に順ふ、故に残賊生じて忠信亡ぶ。
現代語訳また、人には生まれながら他人をねたんだり憎んだりする心がある。この心のままにふるまうので、人を傷つけ損なうことが生じ、まごころや誠実さが失われる。
- 疾悪
- ねたみ憎むこと。
- 残賊
- 人を傷つけ、害すること。
- 忠信
- まごころと誠実さ。
白文生而有耳目之欲、有好声色焉。順是、故淫乱生而礼義文理亡焉。
書き下し生まれながらにして耳目の欲有り、声色を好む有り。是に順ふ、故に淫乱生じて礼義文理亡ぶ。
現代語訳また、生まれつき耳や目の欲望があり、美しい音楽や美しい女性を好む心がある。この心に従うから、度を過ごした乱れた行いが起こり、礼義(社会の規範や正しい道)や物事の筋道がなくなる。
- 耳目之欲
- 耳や目の欲望。
- 声色
- 美しい音楽と美しい女性。
- 淫乱
- 度を過ごして乱れること。
- 礼義
- 礼と義。社会の規範と、人として正しい道。
- 文理
- 物事の筋道、秩序。
白文然則従人之性、順人之情、必出於争奪、合於犯文乱理、而帰於暴。
書き下し然らば則ち人の性に従ひ、人の情に順はば、必ず争奪に出で、犯文乱理に合して、暴に帰す。
現代語訳そうであるなら、人が本性のままにふるまい、感情や欲望に従って行動すれば、必ず争って奪い合うことになり、秩序や道理を乱すことになって、最後には世の中が乱れた状態に行き着く。
- 然則
- 「然らば則ち」。そうであるならば。前の三つの例を受けている。
- 情
- 感情、欲望。
- 順はば
- 「順へば」と読むこともある。
- 犯文乱理
- 秩序や道理を乱すこと。「犯」も「乱」も「みだす」の意。
- 暴
- 乱れた状態。
- 帰
- 行き着く。
白文故必将有師法之化、礼義之道、然後出於辞譲、合於文理、而帰於治。
書き下し故に必ず将に師法の化、礼義の道き有りて、然る後に辞譲に出で、文理に合して、治に帰せんとす。
現代語訳だから、必ず師の教えによる感化と、礼義による導きがあって、そうしてはじめて、人に譲る心が生まれ、物事の筋道にかなうようになって、世の中が治まっていくのである。
- 師法
- 師の教え、手本。
- 化
- 教化。教えによって人を感化すること。
- 道
- 「みちびキ」。導き。
- 然後
- 「然る後に」。そうしてはじめて。
- 治
- よく治まった状態。前の「暴」と反対の意味。
白文用此観之、然則人之性悪明矣。其善者偽也。
書き下し此を用て之を観れば、然らば則ち人の性は悪なること明らかなり。其の善なる者は偽なり。
現代語訳このように考えると、人の本性が悪であることははっきりしている。人が善であるのは、人為的な努力によるものなのである。
- 用此観之
- これによって考えると。結論を言うときの言い方。「用」は「以」と同じ意味で、「此を用て」と読む。
- 然則
- ここでは、前の「人の性に従ひ…暴に帰す」までの内容を受けて、「そうであるならば」と結論を導く。
- 矣
- 断定の置き字。
文章の初めと終わりに「其の善なる者は偽なり」をくり返し、主張をはっきりと示しています。
テスト予想問題
A 語句
次の語を読み、送り仮名も含めてひらがな(現代仮名遣い)で書け。
①順ふ
②亡ぶ
③疾悪
④然則解答を見る
①したがう
②ほろぶ
③しつお
④しからばすなわち次の語の本文中での意味を答えよ。
①偽
②声色
③文理解答を見る
①人為、人が後から努力して身につけたもの
②美しい音楽と美しい女性
③物事の筋道、秩序「用此観之」の「用」と同じ働きをする漢字を一字で答えよ。また、「用此観之」の意味を答えよ。
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以 意味:これによって考えると。以上のことから考えてみると。
B 書き下し文・現代語訳
「人之性悪、其善者偽也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:人の性は悪なり、其の善なる者は偽なり。
現代語訳:人間の本性は悪である。人が善であるのは、人為的な努力によるものである。「今人之性、生而有好利焉。順是、故争奪生而辞譲亡焉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:今人の性、生まれながらにして利を好む有り。是に順ふ、故に争奪生じて辞譲亡ぶ。
現代語訳:人の本性には、生まれつき利益を求める心がある。その心のままにふるまうので、争って奪い合うことが生じ、へりくだって人に譲る気持ちが失われる。「故必将有師法之化、礼義之道、然後出於辞譲、合於文理、而帰於治」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:故に必ず将に師法の化、礼義の道き有りて、然る後に辞譲に出で、文理に合して、治に帰せんとす。
現代語訳:だから、必ず師の教えによる感化と礼義による導きがあって、そうしてはじめて、人に譲る心が生まれ、物事の筋道にかなって、世の中が治まっていくのである。
C 内容の読み取り
「其善者偽也」の「偽」にあたる具体的な内容を、本文中から二つ抜き出せ(返り点・送り仮名は不要)。
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師法之化・礼義之道
荀子は、人が生まれつきもっている性質を三つ挙げている。それぞれ本文中の語で答え、それに従うとどうなるかを説明せよ。
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①好利(利を好む)…争奪が生じ、辞譲がなくなる。
②疾悪(ねたみ憎む)…残賊が生じ、忠信がなくなる。
③耳目之欲(声色を好む)…淫乱が生じ、礼義文理がなくなる。荀子は、人が善を身につけるには何が必要だと考えているか。本文に即して説明せよ。
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人の本性は悪なので、そのままにせず、師の教えと礼義によって後から努力して善を身につける必要があると考えている。
孟子の性善説と荀子の性悪説の違いを説明せよ。
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孟子は、人は生まれつき善の心(四端)をもっていて、それを育てれば善になると考えた。荀子は、人の本性は悪であり、師の教えや礼義による導きといった後天的な努力(偽)によって善に変えていく必要があると考えた。