白居易(はくきょい)の『香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁』の書き下し文・現代語訳・解説です。
都から遠く離れた江州に左遷された白居易は、廬山の香炉峰のふもとに、小さな草堂(草ぶきの家)を建てました。朝はゆっくり寝て、寝床のまま遺愛寺の鐘を聞き、すだれを上げて香炉峰の雪をながめる。そんな暮らしの中で、「心も体も安らかでいられる所こそ、落ち着くべき場所だ」とうたった詩です。第四句「香炉峰の雪は簾を撥げて看る」は、『枕草子』の「雪のいと高う降りたるを」の段でふまえられていることで有名です。
書き下し文・現代語訳・解説
白文香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁
書き下し香炉峰下、新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶東壁に題す
現代語訳香炉峰のふもとに、新しく山の住まいの場所を選び定め、草堂がようやくできあがったので、ふと思い立って東の壁に詩を書きつける。
- 香炉峰
- 廬山の北の峰。形が香炉に似ていることからこう呼ばれる。
- 卜
- 吉凶を占って(住む場所を)選び定める。
- 山居
- 山の中の住まい。
- 草堂
- 草ぶきの粗末な家。
- 偶
- 「たまたま」。ふと。
- 題
- 詩を書きつける。
白文日高睡足猶慵起
書き下し日高く睡り足りて猶ほ起くるに慵し
現代語訳日は高くのぼり、眠りも十分にとったが、それでもまだ起きるのがおっくうだ。
- 睡足
- 十分に眠った。
- 猶
- 「なホ」。それでもまだ。
- 慵
- 「ものうシ」。おっくうだ。気がすすまない。
白文小閣重衾不怕寒
書き下し小閣に衾を重ねて寒を怕れず
現代語訳小さな二階建ての家で、掛け布団を何枚も重ねているので、寒さも気にならない。
- 小閣
- 小さな二階建ての家。ここでは、建てたばかりの草堂のこと。
- 衾
- 掛け布団。
- 怕
- 「おそル」。こわがる。心配する。
白文遺愛寺鐘欹枕聴
書き下し遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き
現代語訳遺愛寺でつく鐘の音は、(横になったまま)枕を少し斜めにして聞き、
- 遺愛寺
- 香炉峰の北にあった寺。草堂の近くにあった。
- 欹枕
- 枕を傾けて高くする。寝床に横になったままのしぐさ。
白文香炉峰雪撥簾看
書き下し香炉峰の雪は簾を撥げて看る
現代語訳香炉峰に積もる雪は、(寝床から手をのばし)すだれをはね上げてながめる。
- 撥
- 「かかグ」。はね上げる。持ち上げる。
- 簾
- すだれ。
白文匡廬便是逃名地
書き下し匡廬は便ち是れ名を逃るるの地
現代語訳この廬山こそは、世間の名声や利益から逃れて暮らすのにふさわしい土地であり、
- 匡廬
- 廬山の別名。昔、匡という姓の人がこの山に廬(いおり)を結んだことからこう呼ばれる。
- 便是
- とりもなおさず。まさに。
- 逃名
- 世間の名声や利益(名利)から逃れる。
白文司馬仍為送老官
書き下し司馬は仍ほ老を送るの官たり
現代語訳司馬という役職も、そのうえ余生を送るのにふさわしい官職である。
- 司馬
- 州の長官を補佐する役職。当時は、左遷された者がつく、実際の仕事のほとんどない職(閑職)だった。作者は江州の司馬に左遷されていた。
- 仍
- 「なホ」。そのうえ。それにまた。
- 送老
- 老後(余生)を送る。
白文心泰身寧是帰処
書き下し心泰く身寧きは是れ帰する処
現代語訳心も体も安らかでいられる所こそ、人が落ち着くべき安住の地である。
- 泰・寧
- どちらも「やすシ」。安らかである。
- 帰処
- 最後に落ち着くべき所。安住の地。
白文故郷何独在長安
書き下し故郷何ぞ独り長安のみに在らんや
現代語訳故郷というものは、どうして長安だけにあると限ろうか、いや、長安だけにあるわけではない。
- 長安
- 唐の都。
- 何独
- 「なんゾひとリ〜のみ…ンや」。どうしてただ〜だけであろうか、いや、〜だけではない。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者とその字、作者が活躍した時代(初唐・盛唐・中唐・晩唐)を答えよ。また、詩の形式と、押韻している字をすべて答えよ。
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作者:白居易 字:楽天 時代:中唐
詩の形式:七言律詩 押韻:寒・看・官・安対句をなしている句の組み合わせを、句の番号ですべて挙げよ。
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第三句と第四句、第五句と第六句
次の漢字の、詩の中での読みを現代仮名遣いで書け(送り仮名も含む)。
①偶
②猶
③慵し
④欹てて
⑤撥げて
⑥便ち解答を見る
①たまたま
②なお
③ものうし
④そばだてて
⑤かかげて
⑥すなわち次の語の意味を答えよ。
①題(詩題)
②小閣
③衾
④匡廬
⑤帰処解答を見る
①詩を書きつける
②小さな二階建ての家
③掛け布団
④廬山の別名
⑤落ち着くべき所。安住の地
B 書き下し文・現代語訳
「故郷何独在長安」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:故郷何ぞ独り長安のみに在らんや
現代語訳:故郷というものは、どうして長安だけにあると限ろうか、いや、長安だけにあるわけではない。「香炉峰雪撥簾看」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:香炉峰の雪は簾を撥げて看る
現代語訳:香炉峰に積もる雪は、すだれをはね上げてながめる。「司馬仍為送老官」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:司馬は仍ほ老を送るの官たり
現代語訳:司馬という役職も、そのうえ余生を送るのにふさわしい官職である。
C 内容の読み取り
「欹枕聴」「撥簾看」とは、それぞれどのようにして聞き、見ているのか。
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欹枕聴:寝たまま、枕を傾けて高くして(鐘の音を)聞く。
撥簾看:寝床から手をのばし、すだれをはね上げて(雪を)ながめる。「匡廬」は、作者にとってどのような土地だと述べられているか。
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世間の名声や利益から逃れて暮らすのにふさわしい土地。
第七・八句で、作者はどのような考えを述べているか。
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心も体も安らかでいられる所こそが安住の地であり、故郷は都の長安だけではない(この廬山の地も、落ち着くべき場所になる)という考え。
第四句をふまえた話が書かれている、平安時代の随筆の作品名と作者名を答えよ。
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作品名:枕草子 作者名:清少納言