『背水之陣(背水の陣)』書き下し文・現代語訳・意味・解説|史記・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 奇襲部隊を送り出す
  3. 将軍たちは信じない
  4. 川を背にして陣を敷く
  5. 逃げると見せかける
  6. 赤い旗が立つ
  7. テスト予想問題

『背水之陣(はいすいのじん)』(背水の陣)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、前漢の司馬遷が著した歴史書『史記』(淮陰侯列伝)です。「陳」は「陣」と同じ意味で、「背水陳」という題で読むこともあります。

書き下し文・現代語訳・解説

奇襲部隊を送り出す

本文(訓読文)

白文未至井陘口三十里止舎。

書き下し未だ井陘口(せいけいこう)に至らざること三十里にして止舎(ししや)す。

現代語訳(韓信と張耳の率いる漢の軍は)井陘の関所の入り口に着く三十里(約十二キロメートル)手前で、止まって宿営した。

井陘口
井陘の関所の入り口。趙の大軍が集まっていた。
未
再読文字。「未だ~ず」で、まだ~しない。ここは「至らざること三十里」で、着くまでまだ三十里ある所。
止舎
止まって宿営する。

白文夜半伝発。

書き下し夜半に伝(でん)もて発せしむ。

現代語訳(韓信は)夜中に伝令を出して、出発させた。

伝
伝令。命令を伝える者。
発せしむ
出発させる。「使」などの字はないが、使役に読む。

白文選軽騎二千人、人持一赤幟、従間道萆山、而望趙軍。

書き下し軽騎(けいき)二千人を選び、人ごとに一赤幟(せきし)を持ち、間道(かんだう)より山に萆(かく)れて、趙の軍を望ましむ。

現代語訳身軽な騎兵二千人を選び、各自に赤いのぼり旗を一本ずつ持たせて、わき道から山に身を隠しつつ、趙の軍のようすを遠くからうかがわせた。

軽騎
軽装の騎兵。
赤幟
赤いのぼり旗。漢の軍の旗。
間道
抜け道。わき道。
萆
「かくル」。おおい隠す。身を隠す。
望ましむ
遠くから見張らせる。ここも使役に読む。

白文誡曰、「趙見我走、必空壁逐我。若疾入趙壁、抜趙幟、立漢赤幟。」

書き下し誡(いまし)めて曰はく、「趙我の走るを見なば、必ず壁(へき)を空しくして我を逐はん。若(なんぢ)疾(すみ)やかに趙の壁に入り、趙の幟(し)を抜きて、漢の赤幟を立てよ。」と。

現代語訳(韓信は騎兵たちに)言い聞かせた、「趙は、我が軍が逃げるのを見れば、きっととりでを空にして追いかけてくるだろう。(そのとき)おまえたちは急いで趙のとりでに入り、趙の旗を抜き取って、漢の赤い旗を立てよ。」と。

誡
いましめる。言い聞かせる。
走
逃げる。
壁
とりで。陣地。
空壁
とりでの中を空にする。全軍で出撃すること。
若
「なんぢ」。おまえ(たち)。
疾
「すみやカニ」。急いで。

将軍たちは信じない

本文(訓読文)

白文令其裨将伝飧曰、「今日破趙会食。」

書き下し其の裨将(ひしやう)をして飧(そん)を伝へしめて曰はく、「今日趙を破りて会食せん。」と。

現代語訳副将軍に命じて軽い食事を配らせて言った、「今日は趙を破ってから、(そろって)食事をしよう。」と。

令
使役。「Aをして~しむ」で、Aに~させる。
裨将
副将軍。
飧
軽い食べ物。
伝飧
軽い食事を配る。
会食
集まって食事をする。

白文諸将皆莫信。

書き下し諸将皆信ずるもの莫(な)し。

現代語訳将軍たちは誰一人として(韓信の言葉を)信じなかった。

莫
「なシ」。いない。
信ずるもの莫し
信じる者がいない。

白文詳応曰、「諾。」

書き下し詳(いつは)り応(こた)へて曰はく、「諾(だく)。」と。

現代語訳(それでも)信じたふりをして、「承知しました。」と答えた。

詳
「いつはル」。ふりをする。「佯」と同じ。
諾
承知した、という返事の言葉。

白文謂軍吏曰、「趙已先拠便地為壁。

書き下し軍吏(ぐんり)に謂ひて曰はく、「趙已に先に便地(べんち)に拠(よ)りて壁を為る。

現代語訳(韓信は)軍の指揮官たちに言った、「趙はすでに、戦うのに有利な土地を先に占めて、とりでを築いている。

軍吏
将軍の配下の指揮官・参謀。
已
「すでニ」。もう。
便地
戦うのに都合のよい土地。
拠
よりどころとする。占める。

白文且彼未見吾大将旗鼓、未肯撃前行。

書き下し且(か)つ彼は未だ吾が大将の旗鼓(きこ)を見ざれば、未だ肯(あ)へて前行(ぜんかう)を撃たざらん。

現代語訳そのうえ、彼らはまだ我が軍の大将の旗や太鼓を見ていないので、進んで(我々の)先発部隊を攻撃しようとはしないだろう。

且
「かツ」。そのうえ。
旗鼓
旗と太鼓。大将がいることを示し、軍を指揮するのに使う。
肯
「あヘテ」。進んで~する。
前行
先に進む部隊。先発部隊。

白文恐吾至阻険而還。」

書き下し吾の阻険(そけん)に至りて還(かへ)らんことを恐るればなり。」と。

現代語訳(先発部隊を攻撃すると)私が険しい所まで来たところで引き返してしまうことを、心配しているからだ。」と。

阻険
道の険しい所。難所。
而
置き字。
恐
心配する。
恐るればなり
恐れているからである。前の文の理由を述べる。

川を背にして陣を敷く

本文(訓読文)

白文信乃使万人先行、出背水陳。

書き下し信乃(すなは)ち万人をして先行せしめ、出でて水を背にして陳(ぢん)す。

現代語訳韓信は、なんと一万人の兵を先に行かせ、(井陘口を)出て、川を背にして陣を敷かせた。

乃
「すなはチ」。ここは「ところが(なんと)」の意。
使
使役。「Aをして~しむ」。
陳
「陣」と同じ。陣を敷く。
背水
川を背にする。退却できない陣形。

白文趙軍望見而大笑。

書き下し趙の軍望見(ばうけん)して大いに笑ふ。

現代語訳趙の軍は、(その陣を)遠くからながめて、大笑いした。

望見
遠くからながめる。
大笑
兵法の常識に外れた陣形をあざ笑ったもの。

逃げると見せかける

本文(訓読文)

白文平旦、信建大将之旗鼓、鼓行出井陘口。

書き下し平旦(へいたん)、信大将の旗鼓を建て、鼓行(こかう)して井陘口に出づ。

現代語訳夜明け方、韓信は大将の旗をかかげ、太鼓を鳴らして進み、井陘の関所の入り口に出た。

平旦
夜明け方。
鼓行
太鼓を打ち鳴らして進軍する。

白文趙開壁撃之。

書き下し趙壁を開きて之を撃つ。

現代語訳趙の軍はとりでを開いて(出撃し)、漢の軍を攻撃した。

之
韓信の率いる漢の軍。

白文大戦良久。

書き下し大いに戦ふこと良久(ややひさ)し。

現代語訳激しい戦いが、かなり長く続いた。

良久
「ややひさシ」。かなり長い時間がたつ。

白文於是信・張耳、詳弃鼓旗、走水上軍。

書き下し是に於いて信・張耳(ちやうじ)、詳(いつは)りて鼓旗を弃(す)て、水上(すいじやう)の軍に走る。

現代語訳そこで韓信と張耳は、負けたふりをして太鼓や旗を捨て、川べりに陣取った味方の軍へ逃げこんだ。

於是
「ここニおイテ」。そこで。
張耳
韓信とともに漢の軍を率いた将軍。
詳
ふりをする。ここは負けて逃げるふりをすること。
弃
「すツ」。「棄」と同じ。
水上軍
川のほとりに陣を敷いた軍。背水の陣の部隊。

白文水上軍開入之、復疾戦。

書き下し水上の軍開きて之を入れ、復(ま)た疾戦(しつせん)す。

現代語訳川べりの軍は陣を開いて二人を迎え入れ、再び激しく戦った。

之
韓信と張耳(の部隊)。
復
「まタ」。再び。
疾戦
激しく戦う。

白文趙果空壁争漢鼓旗、逐韓信・張耳。

書き下し趙果(は)たして壁を空しくして漢の鼓旗を争ひ、韓信・張耳を逐ふ。

現代語訳趙の軍は、(韓信が)予想していたとおりに、とりでを空っぽにして漢の太鼓や旗を奪い合い、韓信と張耳のあとを追った。

果
「はタシテ」。思ったとおり。予想どおり。
争
奪い合う。

白文韓信・張耳、已入水上軍。

書き下し韓信・張耳、已に水上の軍に入る。

現代語訳(しかし)韓信と張耳は、もう川べりの軍の中に入ってしまっていた。

已
「すでニ」。もう。

白文軍皆殊死戦、不可敗。

書き下し軍皆殊(こと)に死戦(しせん)し、敗るべからず。

現代語訳漢の兵は皆、死にものぐるいで戦ったので、(趙の軍は)打ち破ることができなかった。

殊死戦
死を覚悟して戦う。死力を尽くして戦う。
不可敗
破ることができない。主語は趙の軍。

赤い旗が立つ

本文(訓読文)

白文信所出奇兵二千騎、共候趙空壁逐利、則馳入趙壁、皆抜趙旗、立漢赤幟二千。

書き下し信の出だしし所の奇兵(きへい)二千騎、共に趙の壁を空しくして利を逐ふを候(うかが)ひ、則(すなは)ち馳(は)せて趙の壁に入り、皆趙の旗を抜きて、漢の赤幟二千を立つ。

現代語訳韓信が送り出しておいた奇襲の騎兵二千は、趙の兵がとりでを出はらって戦利品をあさるのを、そろって待ちうけ、(そこで)馬を走らせて趙のとりでに入り、趙の旗をすべて抜き取って、漢の赤い旗二千本を立てた。

所出
送り出した。「所」は下の動詞から返って読み、「~するもの・こと」の意を表す。
奇兵
奇襲部隊。敵の不意をつく部隊。
候
「うかがフ」。ようすを見る。
利
戦利品。漢の軍が捨てた旗や太鼓など。
馳
馬を走らせる。

白文趙軍已不勝、不能得信等。

書き下し趙の軍已に勝たず、信等を得る能はず。

現代語訳趙の軍は、もう勝ち目がなく、韓信らをつかまえることもできなかった。

已
ここは、もはや。
不能A
「A(する)能はず」。Aできない。
得
捕らえる。

白文欲還帰壁、壁皆漢赤幟。

書き下し壁に還帰(くわんき)せんと欲するも、壁は皆漢の赤幟なり。

現代語訳(そこで)とりでへ戻ろうとしたところ、とりでに立っているのは、どれも漢の赤い旗であった。

還帰
帰る。引き返す。
欲
「ほつス」。~しようとする。

白文而大驚以為、漢皆已得趙王将矣。

書き下し而(すなは)ち大いに驚きて以為(おも)へらく、漢皆已に趙の王将を得たりと。

現代語訳そこで(趙の兵は)ひどく驚き、漢の軍がもう趙の王も将軍も残らずとりこにしてしまったのだと思った。

而
ここは「すなはチ」と読む。そこで。
以為
「おもヘラク」。思うことには。~と思った。
王将
王と将軍。
矣
置き字。

白文兵遂乱遁走。

書き下し兵遂に乱れ遁走(とんそう)す。

現代語訳(趙の)兵はそうしてとうとう混乱して逃げ出した。

遂
「つひニ」。こうしてとうとう。
遁走
逃げ去る。

白文趙将雖斬之、不能禁也。

書き下し趙の将之を斬ると雖(いへど)も、禁ずる能はざるなり。

現代語訳趙の将軍は、逃げる兵を斬ったけれども、(兵が逃げるのを)止めることはできなかった。

雖
「いへどモ」。~けれども。
之
逃げ出した兵。
禁
止める。逃げるのをやめさせる。

白文於是漢兵夾撃、大破虜趙軍、斬成安君泜水上、禽趙王歇。

書き下し是に於いて漢の兵夾撃(けふげき)し、大いに破りて趙の軍を虜(とりこ)にし、成安君(せいあんくん)を泜水(ちすい)の上(ほとり)に斬り、趙王の歇(けつ)を禽(とら)ふ。

現代語訳そこで漢の兵は挟み撃ちにし、さんざんに打ち破って趙の兵を捕虜にし、成安君(陳余)を泜水のほとりで斬り、趙王の歇を捕らえた。

夾撃
挟み撃ちにする。とりでの奇襲部隊と、川べりから打って出た軍とで挟んだ。
成安君
趙の将軍、陳余。
泜水
川の名。
上
ここは「ほとり」。
禽
「とらフ」。生け捕りにする。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①平旦
    ②詳(詳弃鼓旗)
    ③果(趙果空壁)
    ④夾撃

    解答を見る

    ①へいたん/夜明け方
    ②いつわりて/ふりをして
    ③はたして/思ったとおり
    ④きょうげき(し)/挟み撃ちにする

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①壁
    ②赤幟
    ③良久

    解答を見る

    ①とりで(陣地)
    ②赤いのぼり旗(漢の軍の旗)
    ③かなり長い時間がたつこと

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「且彼未見吾大将旗鼓、未肯撃前行」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:且つ彼は未だ吾が大将の旗鼓を見ざれば、未だ肯へて前行を撃たざらん。
    現代語訳:そのうえ、彼らはまだ我が軍の大将の旗や太鼓を見ていないので、進んで先発部隊を攻撃しようとはしないだろう。

  2. 「恐吾至阻険而還」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:吾の阻険に至りて還らんことを恐るればなり。
    現代語訳:私が険しい所まで来て引き返してしまうことを心配しているからだ。

  3. 「信乃使万人先行、出背水陳」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:信乃ち万人をして先行せしめ、出でて水を背にして陳す。
    現代語訳:韓信は、なんと一万人の兵を先に行かせ、(井陘口を)出て川を背にして陣を敷かせた。

  4. 「趙将雖斬之、不能禁也」を、「之」が指すものを明らかにして書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:趙の将之を斬ると雖も、禁ずる能はざるなり。
    現代語訳:趙の将軍は逃げ出した兵を斬ったけれども、兵が逃げるのを止めることはできなかった。

C 内容の読み取り

  1. 韓信が「今日破趙会食」と言ったのは、どのような考えからだと考えられるか。

    解答を見る

    その日のうちに、必ず趙に勝てると確信していたから。

  2. 「趙軍望見而大笑」とあるが、趙の軍が笑ったのはなぜか。

    解答を見る

    川を背にして陣を敷くという、兵法の常識に反した漢の陣形をばかにしたから。

  3. 「趙果空壁争漢鼓旗」とあるが、趙の軍がとりでを空にして出てきたのはなぜか。

    解答を見る

    韓信と張耳が旗や太鼓を捨てて逃げたので、勝ったと思い、戦利品を手に入れようとしたから。

  4. 「而大驚」とあるが、趙の兵がひどく驚いたのはなぜか。

    解答を見る

    戻ろうとしたとりでに漢の赤い旗が立っていたので、漢の軍に王や将軍がすでに捕らえられたと思ったから。

  5. 川を背にして陣を敷くという韓信の策は、①味方と②敵に対して、それぞれどのような働きをしたか。

    解答を見る

    ①逃げ場をなくして、兵に死にものぐるいで戦わせた。
    ②常識外れの陣形で敵を油断させ、とりでから誘い出した。

  6. この話から生まれた故事成語「背水の陣」は、どのような意味で使われるか。

    解答を見る

    あとがない状態に身を置いて、必死の覚悟で物事に当たること。