『嚢中之錐(嚢中の錐)』書き下し文・現代語訳・意味・解説|史記・毛遂自薦・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 毛遂、名乗り出る
  3. 平原君、錐のたとえで断る
  4. 毛遂の切り返し
  5. 平原君、毛遂を連れて行く
  6. テスト予想問題

『嚢中之錐(のうちゅうのきり)』(嚢中の錐)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、前漢の司馬遷が著した歴史書『史記』(平原君列伝)です。毛遂(もうすい)が自分を推薦する「毛遂自薦」の場面です。

書き下し文・現代語訳・解説

毛遂、名乗り出る

本文(訓読文)

白文門下有毛遂者。

書き下し門下に毛遂(まうすゐ)なる者有り。

現代語訳(平原君の)門下に、毛遂という者がいた。

門下
平原君のもとに身を寄せている者たち。食客。
平原君
趙の公子。名は趙勝。趙の武霊王の子で、数千人の食客を養っていた。
食客
客分として抱えられた家来。

白文前自賛於平原君曰、

書き下し前みて平原君に自賛(じさん)して曰はく、

現代語訳進み出て、平原君に自分を推薦して言うことには、

前
「すすム」。進み出る。
自賛
自分で自分を推薦する。
於
置き字。

白文「遂聞、『君将合従於楚、約与食客・門下二十人偕、不外索。

書き下し「遂聞く、『君将に楚に合従(がつしよう)せんとし、食客(しよくかく)・門下二十人と偕(とも)にせんと約し、外に索(もと)めず。

現代語訳「私が聞いたところでは、『殿は楚と同盟を結ぼうとして、食客・門下の二十人と一緒に行くと約束し、(その二十人を)外部からは求めない(ことにした)。

遂
毛遂が自分のことを名で呼んでいる。
君
平原君を指す。
合従
秦に対抗するため、ほかの国どうしが同盟を結ぶこと。「従」は「縦」と同じ。
偕
「ともニス」。一緒に行く。
索
「もとム」。さがし求める。
将
再読文字。「まさに~んとす」。今にも~しようとする。

白文今少一人。』

書き下し今一人を少(か)く。』と。

現代語訳今、(その二十人に)一人足りない』とのことです。

少
「かク」。欠けている。足りない。

白文願君即以遂備員而行矣。」

書き下し願はくは君即(すなは)ち遂を以て員(ゐん)に備へて行け。」と。

現代語訳どうか殿は、すぐにこの私を人数に加えて出発してください。」と。

即
「すなはチ」。すぐに。
以遂
「遂を以て」。私(毛遂)を。
備員
人数をそろえる。人数に加える。「員」は定員・人数。
而
置き字。

平原君、錐のたとえで断る

本文(訓読文)

白文平原君曰、「先生処勝之門下、幾年於此矣。」

書き下し平原君曰はく、「先生勝の門下に処(を)ること、此に幾年(いくねん)ぞ。」と。

現代語訳平原君が言うことには、「先生が私(勝)の門下にいるようになって、何年になるか。」と。

先生
毛遂を指す。
勝
平原君の名。平原君が自分のことを名で呼んでいる。
処
「をル」。身を置く。いる。
幾年
何年か。疑問を表す。

白文毛遂曰、「三年於此矣。」

書き下し毛遂曰はく、「此に三年なり。」と。

現代語訳毛遂が言うことには、「三年になります。」と。

本文(訓読文)

白文平原君曰、「夫賢士之処世也、譬若錐之処囊中、其末立見。

書き下し平原君曰はく、「夫(そ)れ賢士(けんし)の世に処るや、譬(たと)へば錐(きり)の囊中(なうちゆう)に処るがごとく、其の末(すゑ)立(た)ちどころに見(あら)はる。

現代語訳平原君が言うことには、「そもそも、すぐれた人物が世の中にいるのは、たとえて言えば、錐が袋の中にあるようなもので、その先はすぐに(袋を破って)外に現れるものだ。

夫
「それ」。文のはじめに置いて、「そもそも」と話を切り出す語。
賢士
才能のあるすぐれた人物。
譬
「たとフ」。たとえて言うと。
錐
きり。小さな穴をあける道具。
囊
袋。
末
先端。
立
「たちどころニ」。すぐに。
見
「あらはル」。現れる。「現」と同じ。

白文今先生処勝之門下、三年於此矣。

書き下し今先生勝の門下に処ること、此に三年なり。

現代語訳ところが今、先生は私の門下にいるようになって、三年になる。

白文左右未有所称誦、勝未有所聞。

書き下し左右(さいう)未だ称誦(しようしよう)する所有らず、勝も未だ聞く所有らず。

現代語訳(それなのに)私の側近たちは、まだ(先生のことを)ほめたたえたことがなく、私も(先生のよいうわさを)耳にしたことがない。

左右
側近の者たち。
称誦
ほめたたえる。
未
再読文字。「いまダ~ず」。まだ~しない。
所
「ところ」。「称誦する所」「聞く所」で、ほめたたえること・聞くこと。

白文是先生無所有也。

書き下し是れ先生有る所無きなり。

現代語訳これは、先生に取りえがないということだ。

是
これは。三年いても評判が聞こえてこないことを指す。
所有
すぐれたところ。取りえ。

白文先生不能。先生留。」

書き下し先生能(あた)はず。先生留まれ。」と。

現代語訳先生にはできない。先生は(ここに)残りなさい。」と。

能
「あたフ」。できる。打消の「不」の下では「あたハず」と読む。
留
「とどマル」。とどまる。(同行せずに)残る。

毛遂の切り返し

本文(訓読文)

白文毛遂曰、「臣乃今日請処囊中耳。

書き下し毛遂曰はく、「臣乃(すなは)ち今日囊中に処るを請ふのみ。

現代語訳毛遂が言うことには、「私は、今日になって初めて、袋の中に入れていただきたいとお願いするのです。

臣
私。家来が主君に対して自分を指す語。
乃
「すなはチ」。そこで初めて。やっと。
耳
「のみ」。限定・強調を表す。書き下し文ではひらがなで書く。

白文使遂蚤得処囊中、乃穎脱而出。

書き下し遂をして蚤(はや)く囊中に処るを得しめば、乃ち穎脱(えいだつ)して出でん。

現代語訳もし私を早くから袋の中に入れていただけていたならば、(先だけでなく)すっかり袋を突き抜けて出ていたでしょう。

蚤
「はやク」。早くから。「早」と同じ。
得
「う」。~することができる。
穎
もとは稲の穂先の意味。ここでは錐の先端部分(柄までとする説もある)。
穎脱
袋を突き抜けて、すっかり外に出ること。

白文非特其末見而已。」

書き下し特(た)だに其の末見はるるのみに非ず。」と。

現代語訳ただその先が少し現れるだけではなかったでしょう。」と。

特
「ただニ」。ただ~だけ。
而已
「のみ」。限定を表す。書き下し文ではひらがなで書く。

平原君、毛遂を連れて行く

本文(訓読文)

白文平原君竟与毛遂偕。

書き下し平原君竟(つひ)に毛遂と偕にす。

現代語訳平原君は、とうとう毛遂と一緒に行くことにした。

竟
「つひニ」。とうとう。結局。
与
「と」と読む返読文字。

白文十九人相与目笑之、而未発也。

書き下し十九人相与(あひとも)に之を目笑(もくせう)すれども、未だ発(はつ)せざるなり。

現代語訳(先に選ばれていた)十九人は、互いに目くばせをして毛遂をあざ笑ったが、まだ口に出して(あざけりを)言うことはなかった。

十九人
先に選ばれていた十九人。
相与
「あひともニ」。互いに。
目笑
目くばせしてあざ笑う。
之
毛遂を指す。
発
口に出して言う。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①夫
    ②譬
    ③立
    ④見
    ⑤蚤
    ⑥竟

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    ①それ/そもそも
    ②たとえば/たとえて言うと
    ③たちどころに/すぐに
    ④あらわる/現れる
    ⑤はやく/早くから
    ⑥ついに/とうとう

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「先生処勝之門下、幾年於此矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:先生勝の門下に処ること、此に幾年ぞ。
    現代語訳:先生が私の門下にいるようになって、何年になるか。

  2. 「夫賢士之処世也、譬若錐之処囊中、其末立見」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:夫れ賢士の世に処るや、譬へば錐の囊中に処るがごとく、其の末立ちどころに見はる。
    現代語訳:そもそも、すぐれた人物が世の中にいるのは、たとえて言えば錐が袋の中にあるようなもので、その先はすぐに外に現れるものだ。

  3. 「左右未有所称誦、勝未有所聞」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:左右未だ称誦する所有らず、勝も未だ聞く所有らず。
    現代語訳:私の側近たちはまだ先生のことをほめたたえたことがなく、私も先生のよいうわさを耳にしたことがない。

  4. 「使遂蚤得処囊中、乃穎脱而出。非特其末見而已」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:遂をして蚤く囊中に処るを得しめば、乃ち穎脱して出でん。特だに其の末見はるるのみに非ず。
    現代語訳:もし私を早くから袋の中に入れていただけていたならば、すっかり袋を突き抜けて出ていたでしょう。ただその先が少し現れるだけではなかったでしょう。

C 内容の読み取り

  1. 「錐之処囊中、其末立見」とあるが、平原君は何を何にたとえているか。

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    才能のある人物が世の中にいて、その才能がすぐに外に現れることを、錐が袋の中にあって、その先がすぐに袋を破って外に出ることにたとえている。

  2. 「是先生無所有也」とあるが、平原君がこのように判断したのはなぜか。

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    毛遂は三年も門下にいるのに、側近がほめるのを聞いたことも、平原君がよい評判を聞いたこともなかったから。

  3. 毛遂の言う「囊中に処る」とは、どのようなことのたとえか。

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    才能を発揮する機会を与えられること。

  4. 「十九人相与目笑之、而未発也」とは、十九人のどのような様子を表しているか。

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    互いに目くばせをして毛遂をあざ笑ったが、言葉に出して悪く言うことはしなかった様子。

  5. 故事成語「嚢中の錐」と「毛遂自薦」は、それぞれどのような意味か。

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    嚢中の錐=才能のある人は、大勢の中にいても自然とその才能が現れて目立つということ。
    毛遂自薦=自分で自分を推薦すること。