『大鏡(おおかがみ)』「花山天皇の出家」②の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
月が雲に隠れて、花山天皇は出家を決意して歩み出します。ところが、亡き弘徽殿の女御の手紙を思い出して取りに戻ろうとし、粟田殿(藤原道兼)がうそ泣きをして連れ出すところから、安倍晴明の家の前を通る場面までです。誰の動作なのか、敬語の向きに気をつけて読みましょう。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
月が隠れ、出家を決意する
現代語訳(花山天皇は)澄みきった月の光を、まぶしくお思いになっているうちに、
- さやけし
- 明るい。はっきりしている。
- 影
- 光。
「さやけき影」は、澄みきった月の光。前の「有明の月のいみじく明かかりければ」と同じ内容である。
「まばゆく」は、月の光をまぶしく感じ、出家の実行にためらいを感じている花山天皇の気持ちを表す。
現代語訳月の面にむら雲がかかって、少し暗くなっていったので、「私の出家は成就するのだなあ。」とおっしゃって、
「月の顔」は、月を人の顔にたとえた擬人法。
「わが出家は成就するなりけり」は、月の明るさに気後れしていたが、むら雲がかかって暗くなったため、天が出家を後押ししてくれたと感じ、これは出家の定めなのだと確信した言葉。
弘徽殿の女御の手紙と、粟田殿のそら泣き
現代語訳(花山天皇は)歩み出しなさるときに、弘徽殿の女御のお手紙で、日ごろ破り捨てずに残しておいて、御身から離さずご覧になっていたものを思い出しなさって、
- 弘徽殿の女御
- 花山天皇が深く愛した女御。この女御の死を悲しんだことも、出家の一因といわれる。
- 破り残す
- 身の回りの物を整理したときも、この女御からの手紙だけは捨てずにしまっていた。
- 思し召し出づ
- 「思ひ出づ」の尊敬語。
「御文の」の「の」は同格の格助詞。「お手紙で、日ごろ破り残して…ご覧になっていたものを」の意。
「日ごろ」は、「御身も放たず御覧じける」にかかる。
現代語訳「しばらく待て。」と言って、取りに戻りなさったちょうどその時ですよ、
- しばし
- しばらく。ちょっと待て。
現代語訳粟田殿が、「どうしてそのようにお考えになってしまわれたのですか。今この時が過ぎてしまえば、自然と差し障りも出て参りましょう。」と、うそ泣きをなさったのは。
- おのづから
- 自然と。
- 障り
- 差しさわり、妨げ。ここでは出家の妨げ。
- 出でまうで来
- 出て来る(生じる)の謙譲語。
「かく」は、花山天皇が女御の手紙を思い出して取りに戻ろうとする(出家に未練を見せる)ことを指す。
「ただ今過ぎば」の「ば」は、未然形に付いているので順接の仮定条件。「この機会を逃したならば」の意。
「そら泣き」をしたのは粟田殿。花山天皇の気持ちが揺らぐのを見て、なんとしても今夜のうちに出家させようとしたため。
晴明の家の前を通る
現代語訳(粟田殿は)さて、土御門大路を東の方へ帝をお連れ出し申し上げなさると、帝が晴明の家の前をお通りになったところ、
- 土御門
- 土御門大路。
- 率る
- 引きつれる。
- 安倍晴明
- 有名な陰陽師(日時や方角、人事などの吉凶を占う)。
「率て出だし参らせ給ふ」の主語は粟田殿で、花山天皇をお連れ出ししたということ。「参らせ」は帝への謙譲語、「給ふ」は粟田殿への尊敬語。
現代語訳晴明自身の声で、手を激しくぱちぱちと打って、「帝がご退位なさると思われる天変があったが、すでにそのことが起こってしまったと思われることだなあ。
- おびたたし
- 激しい。盛んである。
- 天変
- 天体の異変。ここでは帝の退位を示すもの。
「自らの声」は、晴明自身の声。
「すでになりにけり」は、天変で示されていた帝のご退位が、すでに実現してしまったということ。
現代語訳参内して奏上しよう。車の支度を急いでせよ。」と言う声を、お聞きになったのであろう、(花山天皇は)そうはいっても、しみじみと胸にこたえるお気持ちでいらっしゃったことであろうよ。
- 奏す
- (天皇・上皇に)申し上げる。※対象が必ず「天皇・上皇」と決まっている。
- とうせよ
- 「とくせよ」のウ音便。「とく」は形容詞「疾し(はやい)」の連用形。
- さりとも
- そうはいっても。
※ここでは「退位して出家する覚悟をしているとはいっても」ということ。
「参りて奏せむ」は、晴明の「宮中へ参って、天変のことを帝に申し上げよう」という言葉。
「聞かせ給ひけむ」「思し召しけむ」の「けむ」は、語り手の推量。
現代語訳「とりあえず、式神一人、宮中に参上せよ。」と申したところ、
- かつがつ
- とりあえず。
- 式神
- 陰陽師が使役する神。目には見えない。
現代語訳目には見えない何者かが、戸を押し開けて、帝の後ろ姿を拝見したのであろうか、
- 目には見えぬもの
- 安倍晴明が使役した式神。
「御後ろをや見参らせけむ」の「や」の結びは「けむ」。
現代語訳「ただ今、ここをお通りになっていらっしゃるようです。」と答えたとかいうことだ。その家は、土御門町口にあるので、帝がお通りになる道筋だったのだ。
- これより
- 「より」は「~を通って」という意味。
- いらふ
- 返事をする。
- とかや
- ~とかいうことだ。
「その家」は晴明の家。土御門大路と町口小路が交差する辺りにあり、花山天皇が通る道筋にあたっていた。
続き:『大鏡』花山天皇の出家③ / 前:『大鏡』花山天皇の出家①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①弘徽殿
②女御
③障り
④東ざま
⑤土御門
⑥天変
⑦装束
⑧式神
⑨内裏解答を見る
①こきでん
②にょうご
③さわり
④ひんがしざま
⑤つちみかど
⑥てんぺん
⑦そうぞく
⑧しきじん
⑨だいり次の語句の意味を答えよ。
①さやけし
②影(ここでの意味)
③おびたたし
④奏す
⑤かつがつ
⑥さりとも
⑦いらふ解答を見る
①明るい・はっきりしている
②光
③激しい
④(天皇・上皇に)申し上げる
⑤とりあえず
⑥そうはいっても
⑦答える
B 文法・敬語
①「成就するなりけり」の「なり」「けり」は、それぞれ何の助動詞の何形か。②「弘徽殿の女御の御文の」の「の」の用法を答えよ。③「日ごろ」はどの語句にかかるか。
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①なり=断定の助動詞「なり」の連用形。けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形。②同格。③「御身も放たず御覧じける」にかかる。
粟田殿の言葉「いかにかくは思し召しならせおはしましぬるぞ」の「かく」と、続く「ただ今過ぎば、おのづから障りも出でまうで来なむ」について、①「かく」の指す内容。②「障り」とは何の障りか。③「過ぎば」の「ば」の用法。④「出でまうで来なむ」の「な」「む」の意味。
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①花山天皇が女御の手紙を思い出し、取りに戻ろうとする(出家に未練を見せる)こと。②出家の障り。③未然形に付く順接の仮定条件。④「な」は強意の助動詞「ぬ」の未然形、「む」は推量の助動詞「む」の終止形。「きっと〜だろう」の意。
「言ふ声聞かせ給ひけむ」「思し召しけむかし」の「けむ」の意味を答えよ。また、それは誰の推量か。
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過去推量。どちらも語り手(大宅世継)の推量。
C 現代語訳・内容
「さやけき影を、まばゆく思し召しつるほどに」を、「さやけき影」が何を指すかを明らかにして現代語訳せよ。
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(有明の月の)明るく澄んだ光を、(花山天皇が)まぶしくお思いになっていたうちに、
花山天皇が「わが出家は成就するなりけり」と言ったのは、どのような様子の変化を受けてのことか。また、この言葉にはどのような思いが表れているか。
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明るかった月にむら雲がかかって、少し暗くなったこと。/月が隠れたのは、出家が成し遂げられるしるしだと受け止めた思い。
粟田殿が「そら泣き」をしたのは、花山天皇のどのような行動を見たからか。また、何のためか。
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天皇が弘徽殿の女御の手紙を思い出し、取りに戻ろうとしたのを見たから。天皇の出家の決意が鈍らないうちに、急がせて出家させるため。
「土御門より東ざまに率て出だし参らせ給ふに」を、主語と目的語を補って現代語訳せよ。
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(粟田殿が花山天皇を)土御門大路を通って東の方へお連れ出し申し上げなさると、
「帝王おりさせ給ふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな」を現代語訳せよ。また、続く「参りて奏せむ」の「奏せ」は誰から誰への敬意か。
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帝がご退位なさると思われる天変があったが、もう(ご退位が)実現してしまったと思われることだなあ。/晴明から花山天皇への敬意(謙譲語)。
「さりともあはれには思し召しけむかし」を、主語と「さりとも」の内容を補って現代語訳せよ。
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(花山天皇は、)退位・出家を覚悟なさっていたとはいっても、しみじみと悲しくお思いになったことだろうよ。