『竹取物語』「かぐや姫の嘆き」(八月十五日ばかりの月に〜同じ心に嘆かしがりけり)の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
八月十五日が近づき、かぐや姫は月を見て泣いてばかりいます。わけを尋ねる翁たちに、かぐや姫は自分が月の都の人であること、十五日に迎えが来ることを打ち明けます。この十五日の夜のできごとが、続く「かぐや姫の昇天①」「②」です。だれの動作か(主語)と、だれからだれへの敬語かに注意して読みましょう。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語の種類と向きを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
月を見て泣くかぐや姫
現代語訳八月十五日も近いころの月の夜、縁先に出て座っては、かぐや姫がたいそうひどくお泣きになる。
- ばかり
- 〜ごろ。〜くらい。
- 出でゐる
- 出て座る。ここは部屋から縁側近くに出ること。
- いたし
- はなはだしい。ひどい。
「八月十五日ばかり」は、八月十五日に近いころ。十五日の夜に月から迎えが来るので、その日が迫っていることを表す。
現代語訳今ではもう人目もはばかりなさらずにお泣きになる。
- つつむ
- はばかる。人に知られないようにする。
「今は」とあるのは、それまでは人目を避けてひそかに泣いていたから。今はそれもかまわずに泣いている。
- 問ひさわぐ
- あわてて尋ねる。
かぐや姫の告白
現代語訳かぐや姫が泣きながら言うには、「以前からお話し申し上げようと思っておりましたけれど、
- 泣く泣く
- 泣きながら。
- 先々
- 以前。前々。
- 申す
- 「言ふ」の謙譲語。申し上げる。
現代語訳(お話しすれば)きっとお心を乱しなさるにちがいないと思って、今まで(言わずに)過ごしてきたのです。
- 心惑はす
- 心を乱す。うろたえる。
「心惑はし」の主語は翁たち。かぐや姫は、話し相手である翁たちの動作に尊敬語「たまふ」を付けている。
現代語訳(でも)いつまでもそう黙っていられようかと思い、とうとう打ち明けてしまうのですよ。
- さのみやは
- そうしてばかりいられようか(いや、いられない)。下に「過ごすべき」などが省略されている。
- うち出づ
- 口に出して言う。打ち明ける。
「さ」は、翁たちが心を乱すだろうと思って、打ち明けずに過ごしてきたことをさす。
「うち出で」るのは、泣いているわけ(自分が月の都の人で、帰らなければならないこと)。
現代語訳私の身は、この国(人間の世界)の者でもありません。月の都の者なのです。
- おのが
- 自分の。
- この国
- 人間の世界。
現代語訳それなのに、前世からの因縁があったために、この世界へやって参ったのでした。
- それを
- それなのに。
- 契り
- 前世からの約束。宿命。
- まうで来
- 「来」の謙譲語。参る。
かぐや姫がこの世界に来たのは、「昔の契りありける」(前世からの因縁があった)ため。
現代語訳今はもう帰らねばならない時が来てしまったので、この月の十五日に、あのもとの国から、人々が迎えに参るでしょう。
- もとの国
- もといた国。
- むず
- 「むとす」がつづまった語。「む」と同じ意味。
「かのもとの国」は月の都のこと。
現代語訳どうしても去らなければなりませんので、(あなたがたが)お嘆きになるだろうことが悲しくて、この春からずっと思い嘆いているのです。」と言って、
- さらず
- 避けられず。どうしても。漢字では「避らず」と書く。
- まかる
- 「行く」「去る」の謙譲語。
- おぼし嘆く
- 「思ひ嘆く」の尊敬語。
「おぼし嘆か」の主語は翁たち、「思ひ嘆き」の主語はかぐや姫。尊敬語の「おぼし」が付くかどうかで区別できる。
「まかり」は謙譲語。かぐや姫は、月の都へ帰ることを「まかる」、人間の世界へ来ることを前で「まうで来」と言い、翁たちのいる人間の世界を敬っている。
翁の嘆き
現代語訳ひどく泣くのを(聞いて)、翁は、「これはまあ、なんということをおっしゃるのですか。
- いみじ
- はなはだしい。
- なでふ
- なんという。
- のたまふ
- 「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。
現代語訳竹の中からお見つけ申し上げたけれど、(そのときは)菜の種ほどの大きさでいらっしゃったのを、
- きこゆ
- (動詞に付いて)〜申し上げる。謙譲語。
- 菜種
- 菜の種。とても小さいもののたとえ。
「菜種の大きさ」は、見つけたときの小ささを大げさにたとえた言い方。それほど小さいころから育ててきたと強調して、かぐや姫を引き止めようとしている。
現代語訳私の背丈と並ぶほどになるまでお育て申し上げた我が子を、いったい誰がお迎え申し上げるというのか(誰にも迎えさせはしない)。
- 丈
- 背丈。身長。
- 何人
- だれ。
「何人か迎へきこえむ」は、「だれがお迎え申し上げようか、だれにも迎えさせない」という反語。
現代語訳どうして許したりするものか。」と言って、「(いっそ)私のほうこそ死んでしまいたい。」と言って、大声で泣き騒ぐ様子は、本当にこらえきれないようである。
- まさに〜や
- どうして〜か(いや、〜ない)。反語。
- 泣きののしる
- 大声で泣き騒ぐ。
- 堪へがたげなり
- こらえきれない様子だ。
「我こそ死なめ」は、かぐや姫を失うくらいなら自分のほうが死んでしまいたいということ。翁の取り乱した悲しみが最もよく表れた言葉。
月の都と人間の世界
- いはく
- 言うことには。
現代語訳ほんの少しの間ということで、あの国から参りましたけれど、こうしてこの国で長い年月を過ごしてしまったのですね。
- 片時
- ほんのわずかな時間。
- あまた
- たくさん。
月の都での「片時の間」が、この国では「あまたの年」にあたる。二つの世界で、時の流れ方が大きく違う。
「ありける」の「ける」は、今になって気づいた詠嘆。前の「昔の契りありける」「まうで来たりける」の「ける」は過去。
現代語訳あの国の父母のことも思い出さず、こちらでは、こんなにも長く楽しい日々を過ごさせていただき、すっかりなじみ申し上げております。
- おぼゆ
- 思い出す。
- 遊ぶ
- 楽しく過ごす。
- ならふ
- 慣れ親しむ。
「ここ」は、この国(人間の世界)のこと。
現代語訳(月の都に帰ることを)たいそううれしいと思う気持ちもいたしません。ただ悲しいばかりです。
- いみじ
- ここでは、たいそううれしい。
「いみじからむ心地もせず」は、月の都へ帰ることをうれしいとも思えないということ。
現代語訳けれども、自分の意思ではなく、去って行こうとしているのです。」と言って、(翁たちと)一緒にひどく泣く。
- されど
- けれども。
- おのが心ならず
- 自分の意志ではなく。
「まかりなむとする」と、前の「悲しくのみある」は、どちらも連体形で文を終えている(連体形止め)。かぐや姫の心が乱れている様子が表れている。
「おのが心ならず、まかりなむとする」と同じ気持ちを、かぐや姫は前に「さらずまかりぬべければ」と言っていた。
使用人たちの嘆き
現代語訳召し使われている人々も、長年なじんできたので、(かぐや姫と)別れてしまうだろうことを、
- 年ごろ
- 長年。
「立ち別れなむことを」は、文の終わりの「同じ心に嘆かしがりけり」に続く。
- 心ばへ
- 気だて。性質。
- あてやかなり
- 上品だ。
- うつくし
- かわいらしい。現代語の「美しい」とは違う。
「心ばへ」はかぐや姫の気だて。
現代語訳(いなくなったら)恋しく思うだろうことがこらえきれず、湯水ものどを通らないで、(翁たちと)同じ思いで嘆き悲しんだ。
- 嘆かしがる
- 嘆き悲しむ。
「湯水飲まれず」は、悲しみのあまり湯水ものどを通らないということ。人々の悲しみを具体的に表している。
「同じ心に」は、翁たちと同じ気持ちでの意。
続き:『竹取物語』かぐや姫の昇天① / かぐや姫の昇天②
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①出でゐて
②契り
③菜種
④片時
⑤父母
⑥心地
⑦いはく解答を見る
①いでいて
②ちぎり
③なたね
④かたとき
⑤ちちはは
⑥ここち
⑦いわく次の語の意味を答えよ。
①契り
②なでふ
③ののしる
④ならふ
⑤年ごろ
⑥心ばへ
⑦あてやかなり
⑧うつくし解答を見る
①前世からの約束・宿命
②なんという
③大声で騒ぐ
④慣れ親しむ
⑤長年
⑥気だて・性質
⑦上品だ
⑧かわいらしい
B 文法
次の【 】内の動詞について、活用の種類と本文中での活用形を答えよ。
①月に【出でゐ】て
②申さむと【思ひ】しかども
③人にも【あら】ず
④迎へに人々【まうで来】むず
⑤我こそ【死な】め
⑥あまたの年を【経】ぬる
⑦心地も【せ】ず解答を見る
①ワ行上一段活用・連用形
②ハ行四段活用・連用形
③ラ行変格活用・未然形
④カ行変格活用・未然形
⑤ナ行変格活用・未然形
⑥ハ行下二段活用・連用形
⑦サ行変格活用・未然形①次の「む」の意味を答えよ。
ア 先々も申さむと思ひしかども
イ 必ず心惑はしたまはむものぞ
ウ まさに許さむや
エ いみじからむ心地もせず
②「まうで来むず」を単語に区切り、「むず」の意味を答えよ。解答を見る
①ア=意志 イ=推量 ウ=意志 エ=婉曲
②まうで来/むず。「むず」は推量(「むとす」がつまった形で、「む」と同じ意味)。次の「ける」の意味を答えよ。また、係助詞の結びになっているものはどれか、係助詞とともに答えよ。
ア 昔の契りありけるによりなむ
イ この世界にはまうで来たりける
ウ あまたの年を経ぬるになむありける解答を見る
ア=過去 イ=過去 ウ=詠嘆。結びになっているのはイ(「よりなむ」の「なむ」の結び)とウ(「ぬるになむ」の「なむ」の結び)。
「見つけきこえたりしかど」の「きこえ」、「養ひたてまつりたる」の「たてまつり」は、それぞれどの種類の敬語か。また、だれからだれへの敬意か。
解答を見る
どちらも謙譲語(補助動詞)。翁からかぐや姫への敬意。
C 現代語訳・内容
「人目も今はつつみたまはず泣きたまふ」とあるが、かぐや姫はいつごろから思い嘆いていたのか。本文中から抜き出せ。また、かぐや姫にとって「八月十五日」はどのような日か。
解答を見る
この春(より)。月の都から迎えの人々が来て、月へ帰らなければならない日。
「さのみやはとて、うち出ではべりぬるぞ」を現代語訳せよ。また、「さ」がさす内容と、かぐや姫が「うち出で」たのは何かを説明せよ。
解答を見る
訳=いつまでもそのように(黙って)いられようかと思って、とうとう打ち明けてしまうのですよ。「さ」=翁たちが心を乱すだろうと思い、打ち明けないで過ごしてきたこと。打ち明けたこと=自分が月の都の人で、十五日に迎えが来て帰らなければならないこと(泣いていたわけ)。
「さらずまかりぬべければ、おぼし嘆かむが悲しきことを、この春より思ひ嘆きはべるなり」を現代語訳せよ。また、「おぼし嘆か」と「思ひ嘆き」の主語をそれぞれ答えよ。
解答を見る
訳=どうしても去らなければなりませんので、(あなたがたが)お嘆きになるだろうことが悲しくて、この春から思い嘆いているのです。「おぼし嘆か」=翁たち(翁と嫗)。「思ひ嘆き」=かぐや姫。
かぐや姫が人間の世界にやって来た理由を述べた部分を、本文中から十字以内で抜き出せ。
解答を見る
昔の契りありける
「何人か迎へきこえむ。まさに許さむや」を現代語訳せよ。また、翁が見つけたときのかぐや姫の大きさを「菜種の大きさ」と言ったのはなぜか、説明せよ。
解答を見る
訳=だれがお迎え申し上げようか、だれにも迎えさせはしない。どうして許すものか、決して許さない。説明=小さいころから苦労して育ててきたことを大げさに言って強調し、かぐや姫を引き止めようとしたから。
「いみじからむ心地もせず。悲しくのみある。されど、おのが心ならず、まかりなむとする」について、①現代語訳せよ。②ここに表れたかぐや姫の気持ちを説明せよ。③文末が連体形で終わっている語を二つ抜き出し、終止形に直せ。
解答を見る
①(月の都に帰ることを)たいそううれしいと思う気持ちもいたしません。ただ悲しいばかりです。けれども、自分の意志ではなく、去って行こうとしているのです。②翁たちと別れて、自分の意志に反して月に帰らなければならないのがつらく悲しい気持ち。③ある→あり、する→す
「使はるる人々」の、かぐや姫との別れの悲しみを最も具体的に表している部分を、本文中から六字で抜き出せ。また、人々が見慣れていたかぐや姫の気だてはどのようなものか、答えよ。
解答を見る
湯水飲まれず。上品でかわいらしい気だて。