『おくのほそ道』「平泉」の現代語訳・品詞分解・解説です。
奥州藤原氏が三代にわたって栄え、源義経が最期を迎えた平泉を、芭蕉が訪れる場面です。高館から見わたす山河と夏草に人の営みのはかなさを思う前半と、中尊寺の光堂が昔の姿を伝えていることに感動する後半からなります。滅びたものと残ったものの対比、二つの句にこめられた思いがよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
高館に登る
現代語訳藤原氏三代の栄華も、ひと眠りする間の夢のようにはかなく消えて、(館の)正門の跡は(ここから)一里ほど手前に残っている。
- 三代
- 藤原清衡・基衡・秀衡の三代。
- 栄耀
- 栄華。
- 一睡のうち
- ひと眠りするほどの、ごく短い間。
- 大門
- 平泉館(藤原氏の館)の正門。
- こなた
- こちら。手前。
「一睡のうち」は、中国の「邯鄲の夢」(一炊の夢)の故事をふまえ、栄華がはかなく短いものであることをたとえている。
「一睡のうちにして、」の後には、「三代が栄えた館も今は滅び、跡だけになっている」といった内容が省かれている。俳文らしい簡潔な書き方。
「大門の跡は一里こなたにあり」は、昔の平泉の規模の大きさを思いやった表現。
- 秀衡
- 藤原氏の三代目。
- 田野
- 田や野原。
- 金鶏山
- 秀衡が平泉を守るために築いたという山。
人が造った館は田や野原に変わり、自然の山だけが形を残している。滅びたものと残ったものの対比に注意。
- 高館
- 源義経の館があった所。義経はここで攻められて自害した。
- 南部
- 今の岩手県盛岡市を中心とする地方。
現代語訳衣川は和泉が城をめぐって流れ、高館のふもとで北上川に合流している。
- 和泉が城
- 秀衡の三男、和泉三郎忠衡の館があった所。
- 落ち入る
- 流れ込む。
現代語訳泰衡たちの館の跡は、衣が関を間において南部地方からの出入り口を固め、えぞの侵入を防いでいたように見える。
- 泰衡
- 秀衡の次男。
- 衣が関
- 高館の近くにあった関。
- さし固む
- しっかりと守る。
- えぞ
- 当時、奥州の北の方に住んで勢力をもっていた人々。
「南部口をさし固め、えぞを防ぐと見えたり」は、いま目の前にある景色に、昔の陣構えを重ねて見ている表現。
現代語訳それにしても、忠義な家来をえりすぐってこの高館にたてこもり、(奮戦して手柄を立てたが、)その功名もひとときのことで、(今は)草むらとなっている。
- さても
- それにしても。(話題を転じる接続詞)
- 義臣
- 忠義な家来。
- すぐる
- 選び出す。「すぐつ」は「すぐり」の促音便。
- 功名
- 手柄を立てて名をあげること。
「すぐつて」「こもり」の主語は源義経。「この城」は高館をさす。
「功名一時の草むらとなる」は、「(奮戦して)手柄を立て名をあげたが、それもひとときのことで、今はその跡が草むらとなっている」という内容を、短く言ったもの。
現代語訳「国は滅んでも山や川は残っており、町には春が来て草が青々と茂っている」と(杜甫の詩を口ずさみ)、笠を敷いて(腰をおろし)、時がたつのも忘れて涙を流しました。
- うち敷く
- (笠を)敷く。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」は、杜甫の詩「春望」の「国破れて山河在り、城春にして草木深し」をふまえる。芭蕉は「草木深し」を「草青みたり」と変えて、目の前の夏草の景色に合わせている。
人の営みははかなく消え、山河や草のような自然は変わらずにあることを思って、時がたつのも忘れて涙を流している。
「はべり」は丁寧の補助動詞で、作者から読者への敬意を表す。ここは感情の高まりをこめて用いたものとされる。
現代語訳夏草が生い茂っていることよ。ここは、昔、武士たちが功名を夢見て戦った、その夢の跡なのだ。
- つはもの
- 武士。
季語は「夏草」(夏)、切れ字は「や」。
「つはものども」は、高館で戦った義経主従や藤原氏の武士たち。その「夢」とは、本文の「栄耀」「功名」にあたる。
いま生い茂っている夏草(変わらない自然)と、はかなく消えた武士たちの夢(人の営み)とを対比している。
- 卯の花
- 初夏に咲く白い花(ウツギの花)。
- 兼房
- 義経の家来の老臣。高館が攻められたとき、白髪を振り乱して奮戦し、討ち死にしたと伝えられる。
- 曽良
- 芭蕉の門人。この旅に同行した。
季語は「卯の花」(夏)、切れ字は「かな」。
卯の花の白さに兼房の白髪を重ね、主君のために白髪を振り乱して戦う兼房の姿を思い浮かべている。
光堂を拝する
- かねて
- 以前から。
- 耳驚かす
- 評判を聞いて驚く。
- 二堂
- 中尊寺の経堂と光堂。
- 開帳
- 厨子の扉を開いて、中の仏像などを人々に拝ませること。
現代語訳経堂には三代の将軍の像が残り、光堂には三代の棺が納められ、阿弥陀三尊の仏像が安置されている。
- 三将
- 清衡・基衡・秀衡の三代。
- 光堂
- 中尊寺の金色堂。
- 三尊
- 阿弥陀如来・観世音菩薩・勢至菩薩の三体の仏。
「経堂は…、光堂は…」の対句や、「二堂・三将・三代・三尊・七宝・四面」と数詞を重ねた書き方が、この段の後半の特色。
現代語訳(光堂を飾っていた)七宝は散ってなくなり、珠玉で飾った扉は風で傷み、金色の柱は霜や雪で朽ちて、
- 七宝
- 金・銀・瑪瑙・珊瑚など、仏教でいう七種の宝。
- 珠
- 宝玉。
- 霜雪
- 霜と雪。
「珠の扉風に破れ」と「金の柱霜雪に朽ちて」は対句。
現代語訳もう少しで崩れ果てて何もない草むらになるはずだったのに、(堂の)四方を新たに囲み、屋根瓦でおおって風雨を防いでいる。
- すでに
- もう少しで。
- 頽廃空虚
- 崩れ果てて何もないこと。
- 甍
- 屋根瓦。
「四面新たに囲みて、甍を覆ひて」は、光堂を守るために、外側から覆う堂(鞘堂)が造られたことをいう。
- 千歳
- 千年。長い年月。
- かたみ
- 記念(となるもの)。
「しばらく」と言うのは、こうして守られていても、悠久の自然と比べれば、いつかは朽ちてしまうものだと感じているから。
- 五月雨
- 陰暦五月ごろに降り続く長雨。
季語は「五月雨」(夏)、切れ字は「や」。
「降り残す」は、わざと降らずに残しておくという意味。五月雨が光堂にだけは遠慮して降らなかったかのように詠んだ擬人法。長い年月に耐えて、今も昔の輝きを伝える光堂への感動が表れている。
『おくのほそ道』のほかの章段:旅立ち(漂泊の思ひ) / 立石寺
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①栄耀
②高館
③和泉が城
④功名
⑤甍
⑥五月雨解答を見る
①えいよう
②たかだち
③いずみがじょう
④こうみょう
⑤いらか
⑥さみだれ次の語句の意味を答えよ。
①一睡のうち
②さても
③すぐる
④かねて
⑤開帳
⑥かたみ解答を見る
①ひと眠りするほどの短い間
②それにしても
③選び出す
④以前から
⑤厨子の扉を開いて仏像を拝ませること
⑥記念(となるもの)
B 文法
次の傍線部を文法的に説明せよ。
①一睡のうち【に】して
②田野に【なり】て
③南部より流るる大河【なり】
④功名一時の草むらと【なる】解答を見る
①「なり」(断定)の連用形
②動詞「なる」(ラ行四段)の連用形
③「なり」(断定)の終止形
④動詞「なる」(ラ行四段)の終止形「時の移るまで涙を落としはべりぬ」の「はべり」「ぬ」を文法的に説明せよ。また、「はべり」はだれからだれへの敬意を表すか。
解答を見る
はべり=丁寧の補助動詞「はべり」の連用形。ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形。敬意=作者から読者へ。
C 現代語訳・内容
「三代の栄耀一睡のうちにして」について答えよ。
①「三代」とはだれか。②「一睡のうち」はどのような故事をふまえ、何をたとえているか。解答を見る
①藤原清衡・基衡・秀衡
②邯鄲の夢(一炊の夢)の故事をふまえ、栄華がひと眠りの間の夢のように短くはかないことをたとえている。「さても、義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時の草むらとなる」について答えよ。
①「すぐつて」「こもり」の主語を答えよ。②「この城」とは何をさすか。③足りない言葉を補いながら現代語に訳せ。解答を見る
①源義経
②高館
③それにしても、(義経は)忠義な家来をえりすぐってこの高館にたてこもり、(奮戦して)手柄を立てたが、その功名もひとときのことで、今は(跡が)草むらとなっている。「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」は何をふまえた表現か。また、芭蕉はどのような思いで涙を流したのか説明せよ。
解答を見る
ふまえたもの=杜甫の詩「春望」の「国破れて山河在り、城春にして草木深し」。思い=山河や草木のような自然は昔と変わらないのに、人の営み(栄華や功名)ははかなく消えてしまうことを、しみじみと感じて涙を流した。
「夏草やつはものどもが夢の跡」について答えよ。
①季語と切れ字を答えよ。②「つはものども」が夢見ていたものを、本文中から二字の漢語で二つ抜き出せ。解答を見る
①季語=夏草 切れ字=や
②栄耀・功名「卯の花に兼房見ゆる白毛かな」の句で、作者(曽良)は兼房のどのような姿を思い浮かべているか。何を手がかりにしたのかもあわせて説明せよ。
解答を見る
卯の花の白さを手がかりに、主君義経のために白髪を振り乱して戦う老臣兼房の姿を思い浮かべている。
「しばらく千歳のかたみとはなれり」を現代語訳せよ。また、「しばらく」と言っているのはなぜか。
解答を見る
訳=当分の間は、千年の昔をしのばせる記念の品となっている。理由=守られてはいても、悠久の自然に比べれば、光堂もいつかは朽ち果ててしまうものだと感じているから。
「五月雨の降り残してや光堂」について答えよ。
①季語と切れ字を答えよ。②「降り残して」の表現技法を答えよ。③この句にこめられた作者の気持ちを説明せよ。解答を見る
①季語=五月雨 切れ字=や
②擬人法
③長い年月、風雨や霜雪に耐えて、今も昔の輝きを伝えている光堂への感動と賛嘆。