『源氏物語(げんじものがたり)』夕顔(ゆうがお)の巻、「なにがしの院」(「廃院の怪」)の場面の前半、「宵過ぐるほど、すこし寝入り給へるに」から「渡殿の灯も消えにけり」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全3回の①)。
夕顔を荒れはてた「なにがしの院」に連れ出した光源氏が、夜、枕もとに現れた美しい女の夢を見て目を覚ます場面です。灯は消え、夕顔はおびえきっています。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
枕上の女
現代語訳宵を過ぎるころ、少し眠り込んでいらっしゃると、枕もとにたいそう美しい女が座っていて、
- 宵
- 日が暮れて間もないころ。
- をかしげなり
- 美しい様子だ。
- ゐる
- 座る。
「寝入り給へる」の主語は光源氏。
現代語訳「私は(あなた様を)とてもすばらしい方だとお慕いしておりますのに、その私のもとへはお訪ねになろうともお考えにならず、
- おの
- 自分。私。
- めでたし
- すばらしい。立派だ。
- 思ほす
- 「思ふ」の尊敬語。
「おの」は、枕もとに現れた女が自分のことをいう語。「めでたしと見奉る」相手は光源氏。
現代語訳こんな、取り立てて優れた点もない女をお連れになって、ご寵愛なさるとは、本当に心外で恨めしいことです。」
- ことなり
- 格別だ。すぐれている。
- 率る
- 連れる。
- 時めかす
- 寵愛する。かわいがる。
- めざまし
- 心外だ。気に入らない。
- つらし
- 恨めしい。
「かくことなることなき人」は夕顔。
「めざましく」には、相手(夕顔)を見下して、光源氏の扱いを不愉快に思う気持ちがこめられている。
※「こそ」を受けて「つらけれ」が已然形で結ぶ(係り結び)。
現代語訳と言って、(光源氏の)かたわらに寝ている女君を引き起こそうとする様子を、夢にご覧になる。
- かき起こす
- 引き起こす。
「御傍らの人」は、光源氏のそばに寝ている夕顔。
「見給ふ」は、光源氏が、美しい女が夕顔を引き起こそうとするのを夢に見たということ。
現代語訳何かに襲われるような気がして、はっとお目覚めになると、灯火も消えてしまっていた。
- 物
- ここでは、物の怪(人に取りつく霊)。
- おどろく
- 目を覚ます。
目を覚ますと灯が消えていて、あたりは真っ暗になっている。
現代語訳いやな感じがなさるので、太刀を引き抜いて(そばに)お置きになり、右近をお起こしになる。
- うたて
- いやに。気味悪く。
太刀を抜いて枕もとに置いたのは、魔よけのため。
現代語訳右近も恐ろしいと思っている様子で、(光源氏の)おそばに寄って来た。
「これ」は右近。
「参り寄れ」は謙譲語で、作者(語り手)から光源氏への敬意。
誰も来ない
現代語訳「渡殿にいる宿直の者を起こして、紙燭に火をつけて持って参れと言え。」とおっしゃると、
- 渡殿
- 建物と建物をつなぐ屋根のある廊下。
- 宿直人
- 夜の番をする者。
- 紙燭
- 紙や布を細く巻いて油をしみこませた、室内用の明かり。「紙燭さす」は、紙燭に火をつけること。
光源氏が、明かりを持って来させるために右近を使いに出そうとしている。
現代語訳(右近が)「どうして行けましょうか、暗くて(行けません)。」と言うので、(光源氏は)「なんと子どもっぽい。」とお笑いになって、
- まかる
- (貴人のもとを離れて)参る。行く。
- 若々し
- 子どもっぽい。
「いかでかまからむ」の「か」は反語。右近は、暗くて、渡殿まで宿直人を起こしに行くことはできないと言っている。
「あな若々し」は、子どものような言い訳をする右近にあきれて笑ったもの。右近を励まし、自分の恐ろしさを打ち消そうとする気持ちとも考えられる。
現代語訳(人を呼ぼうと)手をたたきなさると、こだまが返ってくる音がひどく気味が悪い。
- 山彦
- こだま。
- うとまし
- 気味が悪い。
手をたたいたのは、人を呼ぶため。
現代語訳誰も聞きつけることができずに参上しないでいると、この女君(夕顔)はひどく震えおびえて、どうしたらよいのかと思っている。
- え〜で
- 〜することができないで。
- わななき惑ふ
- 震えおびえる。
宿直の人々がみな寝ていたので、手をたたく音を聞きつける者がいない。
「いかさまにせむ」と思っているのは夕顔(「思へり」に尊敬語がない)。
- しとどに
- びっしょりと。
- 我か
- 自分か(他人か)わからないほどの状態。「我かの気色」で、正気を失った様子。
現代語訳「(夕顔さまは)むやみに物をこわがりなさるご性分で、どれほど(恐ろしく)お感じになっていることでしょうか。」と、右近も申し上げる。
- もの怖ぢ
- 物をこわがること。
- わりなし
- (連用形で)むやみに。ひどく。
- 本性
- 生まれつきの性質。
「本性」は夕顔の性質。「せさせ給ふ」「思さるる」の尊敬語は、右近から夕顔への敬意。「聞こゆ」は謙譲語で、作者から光源氏への敬意。
「いかに思さるるにか」の下には「あらむ」が省略されている。
※「なむ」の結びは、「本性にて」と下に続いたため流れている(結びの流れ)。
現代語訳(夕顔が)たいそうか弱くて、昼間もぼんやりと空ばかり見ていたのに、と(光源氏は)気の毒にお思いになって、
- いとほし
- 気の毒だ。かわいそうだ。
夕顔は、ひどくか弱く、昼も空ばかり見ていた人として描かれている。
現代語訳「私が(行って)人を起こそう。手をたたくと、こだまがはね返ってきて、まことにうるさい。ここに、しばらく、(夕顔の)近くに(いなさい)。」と言って、
- うるさし
- わずらわしい。
「ここに」は夕顔のそば。言葉を切って要点だけを言う言い方で、ひどく差し迫った様子がうかがえる。
現代語訳右近を(夕顔のそばに)引き寄せなさって、(ご自分は)西の妻戸のところに出て、戸を押し開けなさると、渡殿の灯火も消えてしまっていた。
- 妻戸
- 建物の四隅にある両開きの板戸。
部屋の中だけでなく、渡殿の灯も消えていて、外も真っ暗である。
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 車争い① 須磨①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①宵
②渡殿
③宿直人
④紙燭
⑤気色
⑥妻戸解答を見る
①よい
②わたどの
③とのいびと
④しそく
⑤けしき
⑥つまど次の語の本文中での意味を答えよ。
①めざましく
②おどろき
③うたて
④若々し
⑤しとどに
⑥いとほし解答を見る
①心外で(気に入らなくて)
②目を覚まし
③気味悪く
④子どもっぽい
⑤びっしょりと
⑥気の毒だ
B 文法・敬語
次の助動詞の意味を答えよ。
①かき起こさむとす
②うたて思さるれば
③我かの気色なり
④いかさまにせむと思へり解答を見る
①意志
②自発
③断定
④存続次の敬語について、種類を答え、だれからだれへの敬意かを示せ。
①めでたしと見奉る
②時めかし給ふこそ
③わりなくせさせ給ふ
④右近も聞こゆ解答を見る
①謙譲語。枕上の女から光源氏へ。
②尊敬語。枕上の女から光源氏へ。
③尊敬語。右近から夕顔へ。
④謙譲語。作者から光源氏へ。
C 現代語訳・内容
「かき起こさむとすと見給ふ」とあるが、だれが、何を見たのか。
解答を見る
光源氏が、枕もとに現れた美しい女が、そばに寝ている夕顔を引き起こそうとするのを夢に見た。
「かくことなることなき人を率ておはして、時めかし給ふこそ、いとめざましくつらけれ」について、①「ことなることなき人」とはだれか。②現代語訳せよ。
解答を見る
①夕顔
②このように格別な取りえもない人をお連れになって、ご寵愛なさるのは、まったく心外で恨めしいことです。太刀を引き抜いて枕もとに置いたのは、何のためか。
解答を見る
魔よけのため。
「いかでかまからむ、暗うて」を現代語訳せよ。また、右近はどうすることができないと言っているのか。
解答を見る
どうして行けましょうか、暗くて(行けません)。渡殿まで行って宿直人を起こし、紙燭に火をともして持って来るよう伝えること。
「人え聞きつけで参らぬに」を現代語訳せよ。
解答を見る
誰も聞きつけることができずに、参上しないでいると。
「いかに思さるるにか」を、下に省かれた言葉を補って現代語訳せよ。また、だれが「思さるる」のか。
解答を見る
どれほど(恐ろしく)お感じになっていることでしょうか。(「にか」の下に「あらむ」が省略)夕顔。
「ここに、しばし、近く」とあるが、①「ここに」とはどこか。②この言い方から、どのような状況がうかがえるか。
解答を見る
①夕顔のそば。
②言葉を切って要点だけを伝えるほど、差し迫った状況。