『堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)』「虫めづる姫君」①の現代語訳・品詞分解・解説です。
花や蝶ではなく、恐ろしげな毛虫をかわいがる按察使の大納言の姫君の話です。①では、姫君の「本地をたずねることこそ大切だ」という主張と、眉も抜かずお歯黒もつけない風変わりなふるまい、こわがる女房たちの様子が描かれます。同格の「の」、係り結び、姫君の考えがよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
虫をめでる姫君
現代語訳蝶を愛する姫君のお住まいの隣に、按察使の大納言のお嬢様が(お住みになっていて)、
- めづ
- かわいがる、愛する。
- 按察使の大納言
- 按察使を兼ねている大納言。
冒頭に、ふつうの姫君である「蝶めづる姫君」を出すことで、虫をかわいがる大納言の姫君の風変わりなところをきわだたせている。
「御むすめ、」のあとには「住み給へり」などが省かれている。
現代語訳(その姫君を)奥ゆかしく並ひととおりでない様子に、親たちが大切に育てていらっしゃることはこのうえない。
- 心にくし
- 奥ゆかしい、心ひかれる。
- なべてならず
- 並ひととおりでない。
- かしづく
- 大切に育てる。
現代語訳この姫君がおっしゃることには、「世間の人たちが、花よ蝶よとかわいがるのは、浅はかでわけのわからないことです。
- のたまふ
- 「言ふ」の尊敬語。
- はかなし
- ここは、浅はかだ。
- あやし
- ここは、わけがわからない、不思議だ。
姫君は、世間の人が花や蝶をかわいがるのを、浅はかでわけのわからないことだと思っている。
現代語訳人は誠実な心があって、物事の本来の姿を追い求めているのこそ、心のあり方として趣深いのです。」と言って、
- まこと
- 誠実さ。
- 本地
- もとは仏の本来の姿のこと。ここは、物の本体、本来の姿。
- 心ばへ
- 心のあり方、心だて。
「人は、まことあり、本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ」は、姫君の考えがもっともよく表れた一文。見た目の美しさではなく、物の本来の姿を追い求めることこそすばらしい、という主張。
「こそ」の結びは「をかしけれ」(已然形)。
現代語訳いろいろな虫で、恐ろしそうなものを取り集めて、「これが成長して変わっていく様子を見よう。」と言って、さまざまな虫かごに(虫を)入れさせなさる。
- 恐ろしげなり
- 恐ろしそうだ。
- 籠箱
- 虫を入れておく箱。虫かご。
「よろづの虫の、恐ろしげなる」の「の」は同格。「いろいろな虫で、恐ろしそうな虫」。
「これ」は、集めたいろいろな恐ろしそうな虫。
「成らむ」の「む」は婉曲、「見む」の「む」は意志。毛虫などが成長して姿を変えていく様子を観察しようとしている。
現代語訳中でも、「毛虫が、思慮深そうな様子をしているのが奥ゆかしい。」と言って、
- かは虫
- 毛虫。
- 心深し
- 思慮深い。
- 心にくし
- 奥ゆかしい。
「こそ」の結びは「心にくけれ」(已然形)。
現代語訳朝から晩まで、(額髪を)耳にはさんで、(毛虫を)手のひらにのせてはわせ、じっと見つめていらっしゃる。
- 明け暮れ
- 朝晩、いつも。
- 耳はさみ
- 額髪を耳の後ろにかきあげてはさむこと。品のない姿とされた。
- 添へ臥す
- 寄りそわせて寝かせる。ここは、手のひらに毛虫をはわせる。
- まぼる
- じっと見つめる。
耳はさみをし、毛虫を手にのせて見つめるのは、高貴な姫君にはふさわしくないふるまい。
こわがる女房たち
現代語訳若い女房たちは怖がってうろたえたので、男の子の召使いで、物おじせず、身分の低い者を呼び寄せて、
- 若き人々
- 若い女房たち。
- 怖ぢ惑ふ
- こわがってうろたえる。
- 言ふかひなし
- 取るに足りない、身分が低い。
「男の童の、もの怖ぢせず、言ふかひなきを」の「の」は同格。「男の童で、物おじせず、身分の低い(童)を」。
姫君が男の童を召し寄せたのは、女房たちが虫をこわがるので、虫をこわがらずに世話をしてくれる者が必要だったから。
現代語訳箱の虫たちを取り出させては、その名を問いただし、まだ名のない新しい虫には自分で名をつけて、楽しんでいらっしゃる。
- 問ひ聞く
- たずねて聞く。
- 興ず
- おもしろがる。
現代語訳「人は何事も、とりつくろうところがあるのはよくない。」と言って、眉をまったく抜きなさらず、
- つくろふ
- (姿を)とりつくろう。化粧などをする。
- わろし
- よくない。
- さらに〜ず
- まったく〜ない。
当時の成人の女性は眉を抜いて眉墨でかいたが、姫君は「とりつくろうのはよくない」という考えから、眉を抜かない。
現代語訳お歯黒は、「まったくわずらわしい、きたない。」と言って、おつけにならず、
- 歯黒め
- お歯黒。歯を黒く染めること。
- うるさし
- わずらわしい、面倒だ。
同じ考えから、お歯黒もつけない。
現代語訳(染めていない)真っ白な歯を見せて笑いながら、この虫たちを朝に夕にかわいがっていらっしゃる。
- 白らかなり
- 白い。
- 愛す
- かわいがる。
「いと白らかに笑みつつ」は、お歯黒をつけていないので、真っ白な歯を見せて笑う様子。
あとの「いと眉黒にて」と対になる表現。
現代語訳女房たちがこわがって困りはてて逃げるので、その姫君のお部屋では、ひどくとんでもない大騒ぎになった。
- 怖ぢわぶ
- こわがって困りはてる。
- ののしる
- 大声で騒ぐ。
「その御方」は、姫君のいるところ(お部屋)。
「なむ」の結びは「ける」(連体形)。
現代語訳こんなふうにこわがる女房を、「けしからん、品がない。」と言って、抜いていない真っ黒な眉でにらみつけなさるので、(女房たちは)いっそう取り乱してしまった。
- けしからず
- けしからん、よくない。
- はうぞくなり
- ぶしつけだ、下品だ。「ばうぞく」と読む説もある。
- 眉黒なり
- 眉が黒々としている。
- いとど
- ますます、いっそう。
「眉黒にてなむにらみ給ひけるに」は、「なむ」の結びになるはずの「ける」のあとに「に」が続いているので、結びが流れている(結びの消滅)。
「惑ひける」の主語は若き人々(女房たち)。
「いとど」とあるのは、女房たちが、恐ろしい毛虫にうろたえていたうえに、毛虫のように黒々とした眉の姫君ににらまれて、さらにどうしてよいかわからなくなったから。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①按察使
②本地
③籠箱
④怖ぢ惑ひ
⑤歯黒め
⑥眉黒解答を見る
①あぜち
②ほんじ
③こばこ
④おじまどい
⑤はぐろめ
⑥まゆぐろ次の語の本文中での意味を答えよ。
①めづ
②心にくし
③なべてならず
④はかなし
⑤まぼる
⑥言ふかひなし
⑦興ず
⑧わろし
⑨いとど解答を見る
①かわいがる
②奥ゆかしい
③並ひととおりでない
④浅はかだ
⑤じっと見つめる
⑥取るに足りない・身分が低い
⑦おもしろがる
⑧よくない
⑨ますます・いっそう
B 文法
「男の童の、もの怖ぢせず、言ふかひなきを召し寄せて」について、①「の」の用法を答えよ。②本文中から、①と同じ用法の「の」を含む部分を抜き出せ。③全体を現代語訳せよ。
解答を見る
①同格の格助詞
②よろづの虫の、恐ろしげなる(を)
③男の童で、物おじせず、身分の低い者を呼び寄せて「これが、成らむさまを見む」について、①「これ」の指す内容を本文中から抜き出せ。②二つの「む」の意味をそれぞれ答えよ。③全体を現代語訳せよ。
解答を見る
①よろづの虫の、恐ろしげなる
②成らむ=婉曲、見む=意志
③これが成長して姿を変えていく様子を見よう。次の各文の係助詞と、その結びの語を答えよ。結びがない場合は、その理由を答えよ。
①「本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ」
②「その御方は、いとあやしくなむののしりける」
③「いと眉黒にてなむにらみ給ひけるに」解答を見る
①係助詞=こそ、結び=をかしけれ
②係助詞=なむ、結び=ける
③係助詞=なむ。結びになるはずの「ける」のあとに接続助詞「に」が続いて文が終わらないので、結びが流れている(結びの消滅)。
C 内容
冒頭で、主人公の姫君の前に「蝶めづる姫君」を登場させているのはなぜか。
解答を見る
花や蝶をかわいがるふつうの姫君を先に出すことで、虫をかわいがる按察使の大納言の姫君の風変わりなところを、対比してきわだたせるため。
姫君は、世間の人が花や蝶をかわいがることをどう思っているか。また、姫君の考えがもっともよく表れている一文を抜き出し、現代語訳せよ。
解答を見る
思い=浅はかで、わけのわからないことだと思っている。一文=「人は、まことあり、本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ。」訳=人は誠実な心があって、物事の本来の姿を追い求めているのこそ、心のあり方として趣深いのです。
「人はすべて、つくろふところあるはわろし」という姫君の考えは、どのような行動に表れているか。当時の女性のふつうの身だしなみと比べて説明せよ。
解答を見る
当時の成人の女性は眉を抜いて眉墨でかき、歯をお歯黒で黒く染めていたが、姫君は眉をまったく抜かず、お歯黒もつけなかった(そのため、真っ白な歯を見せて笑っていた)。
「いとど心地なむ惑ひける」について、①主語を本文中から抜き出せ。②「いとど」とあるのはなぜか、説明せよ。
解答を見る
①若き人々
②恐ろしい毛虫にうろたえていたうえに、毛虫のように黒々とした眉の姫君ににらまれて、さらにどうしてよいかわからなくなったから。姫君が男の童を召し寄せたのはなぜか。
解答を見る
若い女房たちが虫をこわがってうろたえるので、物おじせずに虫を扱える者に、虫の世話をさせるため。