『堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)』「虫めづる姫君」②の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
①の続きで、姫君の風変わりなふるまいを心配する親たちと、それを理屈で言い負かす姫君、虫を集める童たちとのやりとりが描かれます。親たちの気持ち、「聞こゆ」「賜ふ」「奉る」の敬語、「なる」の識別、二つの「せ」の違いがよく問われます。
前の場面:『堤中納言物語』虫めづる姫君①
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
親たちの心配
現代語訳親たちは、「(姫君は)ひどく変わっていて、普通と違っていらっしゃるのが(困ったことだ)。」とお思いになったが、
- さまことなり
- 様子がふつうと違う、風変わりだ。
- おはす
- 「あり」の尊敬語。
- 思す
- 「思ふ」の尊敬語。
「さまことにおはするこそ」は、「こそ」の結びが省略されている。「あやしけれ」「心苦しけれ」などを補う。
「さまことに」とは、毛虫をかわいがり、眉も抜かずお歯黒もつけない、という姫君の風変わりな点。
現代語訳「(姫君には)何か悟っていらっしゃることがあるのだろうよ。変わったことだ。(私たちが)考えて申し上げることには、深い考えでそのように答えなさるので、本当に恐れ入ることだ。」と、
- 思し取る
- お悟りになる、深く考えていらっしゃる。
- 聞こゆ
- 「言ふ」の謙譲語。
- いらふ
- 答える。
- かしこし
- 恐れ多い。
「聞こゆる」の主語は親たち。親たちから姫君への敬意を表す。高貴な姫君には、親も敬語を使っている。
「さ」は、「思し取りたること」をさす。姫君が、悟っていることがあるかのように、深い考えで答えること。
「いとぞかしこきや」は、理屈で返してくる姫君に、親たちが説得も反論もできず、恐れ入って困っている気持ち。
- 恥づかし
- (相手がりっぱで)気おくれする、きまりが悪い。
「これ」は、姫君の考え方、理屈をさす。
現代語訳「(理屈は)そうであっても、世間の聞こえが悪いよ。人は、見た目の美しいものを好むのです。
- 音聞き
- 世間の聞こえ、外聞。
- みめ
- 見た目。
「さはありとも」は、「(姫君の理屈は)そうであっても」。
「こそ」の結びは「なれ」(断定「なり」の已然形)。
現代語訳『薄気味悪い毛虫を楽しんでいるらしい』とうわさが世間に聞こえるのも、ひどくみっともない。」と申し上げなさると、
- むくつけげなり
- 気味が悪い様子だ。
- あやし
- ここは、みっともない、体裁が悪い。
「興ずなる」の「なる」は伝聞の助動詞「なり」(終止形「興ず」に付く)。「おもしろがっているそうだ」。
「聞こえ給へ」の「聞こえ」は謙譲語で、語り手から姫君への敬意、「給へ」は尊敬語で、語り手から親たちへの敬意。
姫君の理屈
現代語訳「かまいません。あらゆる物事を(もとから)たずねて、その行き着く先を見るからこそ、物事には(それぞれ)わけがある(とわかる)のです。
- 苦しからず
- かまわない、困らない。
- 末
- 物事の終わり、行き着く先。
- ゆゑ
- わけ、理由。
「苦しからず」は、親たちの言う世間の評判や外聞など、気にしない、ということ。
物事をもとからたずね、その結果まで見てはじめて、物事のわけがわかるという主張。①の「本地たづねたるこそ」と同じ考え。
現代語訳(そんなことを気にするのは)ひどく子どもっぽいことです。毛虫こそが蝶になるのですよ。」(と言って、)毛虫が蝶に姿を変えていくところを、取り出して見せなさった。
- 幼し
- 幼稚だ。
- なり出づ
- (姿が)変わって出てくる。
「蝶とはなるなり」は、動詞「なる」(ラ四・連体形)に、断定の「なり」が付いた形。
「そのさまのなり出づる」は、毛虫が蝶に変わっていく様子。
現代語訳「人々が絹だといって身につけるものも、蚕に羽が生える前の(幼虫の)うちに作るのであって、蝶になってしまえば、まったく相手にされず、むだになってしまうではありませんか。」とおっしゃるので、
- 蚕
- 絹糸をとる虫。
- し出だす
- 作り出す。
- あだなり
- むだだ、役に立たない。
絹は、蚕が蝶になる前の、まだ羽のないうちに作り出すもので、蝶になってしまえば役に立たない。役に立つのは、見た目のよい蝶よりも、その前の虫の姿のほうだ、という理屈。
※「いともそでにて」は意味の取りにくいところで、「まったく相手にされず」などと訳される。教科書によっては「いともそでに」となっている。
- あさまし
- あきれる。
「べう」は可能の助動詞「べし」の連用形「べく」のウ音便。「言い返すこともできず」。
言い返せずにあきれているのは親たち。姫君の理屈に対してあきれている。
現代語訳(姫君は)そうはいってもやはり、親たちにも直接顔を合わせなさらず、「鬼と女とは、人に見られないのがよい。」と考えていらっしゃる。
- さすがに
- そうはいってもやはり。
- さし向かふ
- 直接向き合う。
- 案ず
- 考える。
「さすがに」は、親さえ理屈でやりこめてしまう変わり者の姫君も、若い娘であることに変わりはなく、人に顔を見せることは控えている、という気持ちを表す。
「鬼と女とは、人に見えぬぞよき」は姫君の考え。当時の貴族の女性は、人にじかに姿を見せないものとされていた。
現代語訳母屋の簾を少し巻き上げて、几帳を(その前に)押し出して立て、このように利口ぶって言い立てていらっしゃるのだった。
- 母屋
- 寝殿造りの中央の部屋。
- 几帳
- 部屋の仕切りに使う道具。
- 賢し
- 利口ぶっている、こざかしい。
顔は見せないものの、簾を巻き上げ、几帳を押し出してまで、自分の考えを言い立てる姫君の様子。「賢しく」には、利口ぶってという皮肉がこめられている。
虫を集める童たち
現代語訳この虫たちを捕まえる子どもたちには、すてきな物や、その子が欲しがる物をお与えになるので、(子どもたちは)いろいろな恐ろしそうな虫たちを取り集めて差し上げる。
- をかし
- ここは、すてきだ。
- 賜ふ
- 「与ふ」の尊敬語。語り手から姫君への敬意。
- 奉る
- 「与ふ」の謙譲語。語り手から姫君への敬意。
「賜へ」の主語は姫君、「奉る」の主語は童たち。
現代語訳「毛虫は、毛などは見どころがあるけれど、(ちなんだ詩歌や故事が)心に浮かんでこないのでつまらない。」と言って、
- をかしげなり
- おもしろそうだ。
- おぼゆ
- (ここは)思い浮かぶ。
- さうざうし
- 物足りない。
「おぼえねば」は、毛虫にちなんだ詩歌や故事が思い浮かばないので、ということ。
現代語訳かまきりやかたつむりなどを取り集めて、(子どもたちに)大声で歌わせてお聞きになり、(姫君)自身も声を張り上げて、
- いぼじり
- かまきり。
- かたつぶり
- かたつむり。
- 歌ひののしる
- 大声で歌う。
「歌ひののしらせて」の「せ」は使役、「聞かせ給ひて」の「せ」は尊敬(「せ給ふ」の形)。童たちに大声で歌わせて、それをお聞きになった。
姫君が毛虫より好むのは、かまきりやかたつむりのように、ちなんだ詩歌や故事がある虫。
現代語訳「かたつむりの角が争うのは、どうしてか。」という句を、節をつけて口ずさまれる。
- うち誦ず
- 節をつけて口ずさむ。
「かたつぶりのお、つのの、争ふや、なぞ」は、『和漢朗詠集』にある白居易の詩句「蝸牛角上争何事」による。「のお」は、「の」をのばして歌った声をそのまま書いたもの。
現代語訳子どもたちの名前は、ありふれたものはつまらないと言って、虫の名をおつけになったのだった。
- 例
- いつものこと、ふつう。
- わびし
- つまらない、興ざめだ。
「やうなる」の「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形。
「なむ」の結びは「ける」(連体形)。
現代語訳「けらを」「ひきまろ」「いなかたち」「いなごまろ」「あまひこ」などと名づけて、そば近く使っていらっしゃった。
- けらを
- 虫のケラによる名。
- ひきまろ
- ヒキガエルによる名。
- いなごまろ、あまひこ
- それぞれイナゴ、ヤスデによる名。
虫を捕ってきた童に褒美を与えたこと、童に虫の名をつけたことに、姫君の虫へのこだわりが表れている。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①音聞き
②蚕
③母屋
④几帳
⑤賢しく
⑥うち誦じ解答を見る
①おとぎき
②かいこ
③もや
④きちょう
⑤さかしく
⑥うちずんじ次の語の本文中での意味を答えよ。
①思し取る
②かしこし
③恥づかし
④みめ
⑤むくつけげなり
⑥あだなり
⑦あさまし
⑧賢し
⑨さうざうし解答を見る
①お悟りになる
②恐れ多い
③気おくれする・きまりが悪い
④見た目
⑤気味が悪い様子だ
⑥むだだ・役に立たない
⑦あきれる
⑧利口ぶっている・こざかしい
⑨物足りない
B 文法・敬語
次の「なる」を文法的に説明せよ。
①さまざまなる籠箱ども(①の本文)
②かは虫を興ずなる
③かは虫の蝶とはなるなり
④例のやうなるは解答を見る
①形容動詞「さまざまなり」の連体形の活用語尾
②伝聞の助動詞「なり」の連体形
③ラ行四段動詞「なる」の連体形
④断定の助動詞「なり」の連体形「歌ひののしらせて聞かせ給ひて」の二つの「せ」を、それぞれ文法的に説明せよ。
解答を見る
ののしらせ=使役の助動詞「す」の連用形。聞かせ=尊敬の助動詞「す」の連用形(「せ給ふ」で、語り手から姫君への敬意)。
次の敬語について、敬語の種類と、だれからだれへの敬意かを答えよ。
①思ひて聞こゆることは
②をかしきもの…を賜へば
③恐ろしげなる虫どもを取り集めて奉る解答を見る
①謙譲語。親たちから姫君への敬意。②尊敬語。語り手から姫君への敬意。③謙譲語。語り手から姫君への敬意。
「言ひ返すべうもあらず、あさまし」について、①「べう」を文法的に説明せよ。②全体を現代語訳せよ。③だれが、何に対してあきれているのか。
解答を見る
①可能の助動詞「べし」の連用形「べく」のウ音便。②言い返すこともできず、あきれている。③親たちが、絹は蚕が蝶になる前に作るものだという姫君の理屈に対して。
C 内容
「深く、さ、いらへ給へば、いとぞかしこきや」について、①「さ」の指す内容を本文中から抜き出せ。②このときの親たちの気持ちを説明せよ。
解答を見る
①思し取りたること
②理屈で答えてくる姫君に、説得も反論もできず、恐れ入って困っている気持ち。「苦しからず。よろづのことどもをたづねて、末を見ればこそ、ことはゆゑあれ」について、①何が「苦しからず」なのか。②後半を現代語訳せよ。
解答を見る
①親たちの言う、世間の評判や外聞。②あらゆる物事を(もとから)たずねて、その行き着く先を見るからこそ、物事にはわけがある(とわかる)のです。
「さすがに、親たちにもさし向かひ給はず」の「さすがに」は、姫君のどのような面を言っているか。また、「かく賢しく言ひ出だし給ふなりけり」の「賢しく」には、姫君に対するどのような評価がこめられているか。
解答を見る
さすがに=親さえ理屈でやりこめる変わり者でも、若い娘であることに変わりはなく、親にも直接は顔を見せないという面。賢しく=几帳を押し出してまで理屈を言い立てる姫君を、利口ぶっていると皮肉る評価。
姫君が毛虫よりも好んだ虫を二つ本文中から抜き出し、その理由を説明せよ。また、姫君の虫へのこだわりは、童たちへのどのような接し方に表れているか。二つ答えよ。
解答を見る
虫=いぼじり・かたつぶり。理由=毛虫とちがって、ちなんだ詩歌や故事があるから。接し方=①虫を捕ってきた童に、すてきな物や欲しがる物を与えた。②童たちに虫の名をつけて召し使った。