『枕草子(まくらのそうし)』「宮に初めて参りたるころ」①の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
清少納言が中宮定子のもとに仕え始めたばかりのころを思い出して書いた段です。恥ずかしくて手も出せない作者と、絵を見せて話しかけてくださる中宮の様子、そして中宮の手の美しさに驚く場面が描かれます。誰の動作か(主語)と敬語の向き、「夜々参りて」の理由などがよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
初めての宮仕え
現代語訳中宮様の御所に初めてお仕えしたころは、何かと気おくれすることが数えきれないほどあって、
- 宮
- 中宮の御所。ここでは一条天皇の中宮定子のところ。
- 参る
- 出仕する、参上する(謙譲語)。
- ものの恥づかし
- 何となく気おくれする、きまりが悪い。
「参り」は作者から中宮への敬意。
「ものの恥づかしきことの数知らず」は、あとの「わりなし」と同じく、初めての宮仕えで気おくれするつらさを表している。
- 夜々
- 毎晩。
作者が昼ではなく夜ごとに参上したのは、明るい昼間に自分の姿や顔を人に見られるのが恥ずかしかったから。
- 三尺の御几帳
- 高さ三尺(約九十センチ)の几帳。几帳は、台に柱を立てて布を垂らした仕切り。
- 候ふ
- おそばにお控えする(謙譲語)。
「候ふ」の主語は作者。中宮のそばの几帳の陰に隠れるようにして控えている。
絵を見せてくださる中宮
現代語訳絵などを出してきて見せてくださるのだが、(私は)手さえ差し出せそうになくて、どうにもつらい。
- え〜まじ
- 〜できそうにない。
- わりなし
- どうしようもなくつらい。
「見せさせ給ふ」の主語は中宮。「させ給ふ」は、尊敬の助動詞「さす」に尊敬の補助動詞「給ふ」が付いた最高敬語(二重敬語)。作者から中宮への敬意を表す。「見せ」は「見せる」の意の動詞なので、「させ」は使役ではなく尊敬。
「手にてもえさし出づまじう」からは、中宮を前にして恥ずかしく、畏れ多くて、絵を受け取る手さえ出せない作者の気持ちが読み取れる。
現代語訳「この絵は、ああで、こうで。それかしら、あれかしら。」などとおっしゃる。
- とあり、かかり
- ああだ、こうだ。
- のたまはす
- おっしゃる(「のたまふ」より敬意が高い尊敬語)。
「これは、とあり、かかり。それか、かれか。」は中宮の言葉。黙ってしまう作者に、中宮のほうから絵の説明をして、緊張をほぐそうとしている。
※本文を「それが、かれが」とする本もある。
現代語訳高坏にお灯し申し上げている灯火なので、髪の筋なども、昼間よりかえってくっきり見えて恥ずかしいが、
- 高坏
- 食べ物を盛る、足の付いた台。逆さに置いて灯台にも使った。灯りの位置が低いので、近くがよく照らされる。
- 御殿油
- 宮中でともす油の灯火。
- 参らす
- ここでは「(火を)お灯し申し上げる」の意(謙譲語)。
- なかなか
- かえって。
- 顕証なり
- はっきり見える、あらわだ。
- まばゆし
- 恥ずかしい、気が引ける。
「髪の筋」は作者自身の髪。灯火のもとでは、昼よりもかえってはっきり見えてしまうので恥ずかしい。
- 念ず
- がまんする、こらえる。
作者が、自分の姿がはっきり見えてしまう恥ずかしさをこらえて、中宮が見せてくださる絵を見ている。「など」でぼかしているのは、緊張して落ち着かないため。
中宮の手の美しさ
現代語訳ひどく冷えこむ時期なので、(袖口から)のぞかせていらっしゃるお手で、ほんの少しだけ見えるお手が、
- はつかなり
- ほんの少しだ、わずかだ。
「さし出でさせ給へる」の主語は中宮。寒いころなので、手は袖口からわずかにのぞいているだけである。
「御手の…見ゆるが」の「の」は同格。「お手で、わずかに見えているお手が」と訳す。
- にほふ
- つややかに美しく映える。
- 薄紅梅
- 薄い紅梅色。
- めでたし
- すばらしい。
「限りなくめでたし」は、袖口からわずかに見える中宮の手が、つややかな薄紅梅色をしている美しさに対する感動。
現代語訳宮中のことをまだ知らない、実家暮らし同然の(新参者の私の)心には、こんなにすばらしい方がこの世にいらっしゃったのだなあと、
- 見知らぬ里人心地
- 宮中のことをまだ知らない、宮仕えをしていない人(里人)同然の新参者の気持ち。
- おはします
- いらっしゃる(尊敬語)。
「かかる人」は、今まで見たこともないほど気高く美しい中宮のこと。
「けれ」は過去ではなく、初めて気づいたことを表す詠嘆(〜だったのだなあ)。「こそ」の結びなので已然形。
- まもる
- じっと見つめる。
- 参らす
- (補助動詞)〜申し上げる。
「驚かるる」の「るる」は自発。思わずはっとするほど、作者は中宮を見つめている。中宮の美しさにすっかり心を奪われているのである。
「ぞ」の結びは「参らする」(連体形)。
『枕草子』のほかの章段:雪のいと高う降りたるを / 九月ばかり
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①御几帳
②高坏
③御殿油
④薄紅梅解答を見る
①みきちょう
②たかつき
③おおとなぶら
④うすこうばい次の語の本文中での意味を答えよ。
①わりなし
②なかなか
③まばゆし
④念ず
⑤はつかなり解答を見る
①どうしようもなくつらい
②かえって
③恥ずかしい・気が引ける
④がまんする
⑤ほんの少しだ
B 敬語・文法
次の傍線部の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えよ。また、⑤の意味を答えよ。
①夜々【参り】て
②御几帳の後ろに【候ふ】に
③見せさせ【給ふ】を
④など【のたまはす】
⑤高坏に【参らせ】たる解答を見る
①謙譲語
②謙譲語
③尊敬語
④尊敬語
⑤謙譲語。①〜⑤とも作者から中宮(定子)への敬意。⑤の意味=(火を)お灯し申し上げる「涙も落ちぬべければ」の「落ちぬべければ」を単語に分けて、文法的に説明せよ。
解答を見る
落ち(タ行上二段活用動詞「落つ」の連用形)/ぬ(強意の助動詞「ぬ」の終止形)/べけれ(推量の助動詞「べし」の已然形)/ば(接続助詞・順接の確定条件)
次の傍線部の助動詞の意味と活用形を答えよ。
①見せ【させ】給ふを
②さし出でさせ給へ【る】御手
③世におはしまし【けれ】
④驚か【るる】まで解答を見る
①尊敬・連用形
②存続・連体形
③詠嘆・已然形
④自発・連体形「手にてもえさし出づまじう、わりなし」を現代語訳せよ。また、副詞「え」と呼応している語を抜き出せ。
解答を見る
訳=手さえ差し出すこともできそうになくて、どうしようもなくつらい。呼応している語=まじう
C 内容
「夜々参りて」とあるが、作者が明るい昼間を避けて、夜にだけ出仕していたのはどうしてか。
解答を見る
宮仕えを始めたばかりで、明るい昼間に自分の姿を人に見られるのが恥ずかしかったから。
「わりなし」と同じ気持ちを表している表現を、本文中から抜き出せ。
解答を見る
ものの恥づかしきことの数知らず
「髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、念じて見などす」について、①誰の髪の筋か。②誰が何を見るのか。
解答を見る
①作者(清少納言)
②作者が、中宮の見せてくださる絵を見る。「見知らぬ里人心地」とは、どのような気持ちか。
解答を見る
宮中のことをまだよく知らない、宮仕えに慣れていない新参者としての気持ち。
「かかる人こそは世におはしましけれ」とあるが、作者はどのようなことに心を動かされているのか。「かかる人」が指す人物を明らかにして説明せよ。
解答を見る
袖口からわずかに見える中宮定子の手が、つややかな薄紅梅色でこの上なく美しいことに、このようにすばらしい方がこの世にいらっしゃったのかと驚き、感動している。