『唇亡歯寒(くちびるほろびばはさむし)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、前漢の劉向(りゅうきょう)が、戦国時代の遊説家たちの策略や弁論を国別にまとめた『戦国策』(趙策)です。
書き下し文・現代語訳・解説
張孟談、韓・魏の君主を説く
白文張孟談於是陰見韓・魏之君曰、
書き下し張孟談是に於いて陰かに韓・魏の君に見えて曰はく、
現代語訳そこで張孟談は、ひそかに韓と魏の君主に会って言うことには、
- 於是
- 「是に於いて」。そこで。
- 陰
- 「ひそカニ」。人目をしのんで。こっそり。
- 見
- 「まみゆ」。(身分の高い人に)お目にかかる。会う。
- 韓・魏之君
- 韓と魏の君主。智伯とともに趙を攻めている。
白文「臣聞、唇亡則歯寒。
書き下し「臣聞く、唇亡びば則ち歯寒しと。
現代語訳「私は、『唇がなくなると歯が寒くなる』と聞いております。
- 臣
- 臣下が君主に対して使う、自分を指す語。わたくし。ここでは張孟談のこと。
- 亡
- 「ほろブ」。なくなる。
- 唇亡則歯寒
- 唇がなくなると歯が寒い。一方が滅びると、それに頼っていたもう一方も危うくなるたとえ。
白文今智伯帥二国之君伐趙、趙将亡矣。
書き下し今智伯二国の君を帥ゐて趙を伐ち、趙将に亡びんとす。
現代語訳今、智伯は(韓・魏)二国の君主を率いて趙を攻め、趙は今にも滅びようとしています。
- 帥
- 「ひきゐル」。率いる。先頭に立って引き連れる。
- 二国之君
- 韓と魏の君主。
- 将
- 「まさニ~ントす」と読む再読文字。今にも~しようとする。
白文亡則二君為之次矣。」
書き下し亡びば則ち二君之が次と為らん。」と。
現代語訳(趙が)滅びれば、次はお二人が(滅ぼされる)番となるでしょう。」と。
- 亡
- 主語は趙。
- 二君
- 韓と魏の君主。
- 之
- 趙を指す。
- 為之次
- 「之が次と為らん」。趙の次(に滅ぼされる番)になるだろう。
韓・魏の君主、寝返りを約束する
白文二君曰、「我知其然。
書き下し二君曰はく、「我其の然るを知る。
現代語訳二人の君主が言うことには、「我々も、そうなるということはわかっている。
- 其然
- そうであること。張孟談の言うとおり、趙のあとには自分たち韓・魏が攻め滅ぼされるということ。
白文夫智伯之為人、麤中而少親。
書き下し夫の智伯の人と為り、麤中にして親しみ少なし。
現代語訳あの智伯の人柄は、粗暴で、人に親しむ心が乏しい。
- 夫
- ここは「かノ」と読み、「あの」の意味。
- 為人
- 「人と為り」。人柄。性格。
- 麤中
- 粗暴なこと。
- 少親
- 親しみの情が少ない。
白文我謀未遂而知、則其禍必至。
書き下し我が謀未だ遂げずして知らば、則ち其の禍必ず至らん。
現代語訳我々のはかりごとがまだ成しとげられないうちに(智伯が)知ったならば、きっとひどい目にあわされるだろう。
- 謀
- はかりごと。ここでは、韓・魏が智伯を裏切って趙に味方する計画。
- 未
- 「いまダ~ず」と読む再読文字。まだ~しない。
- 遂
- 「とグ」。成しとげる。
- 知
- 主語は智伯。
- 其禍必至
- (智伯からの)わざわいが必ず韓・魏の君主に及ぶ。
白文為之奈何。」
書き下し之を為すこと奈何。」と。
現代語訳どうしたらよいだろうか。」と。
- 奈何
- 「いかん」。どうしたらよいか。方法を問う。
白文張孟談曰、「謀出二君之口、入臣之耳。
書き下し張孟談曰はく、「謀は二君の口より出でて、臣の耳に入る。
現代語訳張孟談が言うことには、「このはかりごとは、お二人の口から出て、私の耳に入っただけです。
- 謀出二君之口
- はかりごとは二君の口から出た。韓・魏の君主自身が言い出したことにしている。
- 臣
- 張孟談自身。
白文人莫之知也。」
書き下し人之を知る莫きなり。」と。
現代語訳ほかの人は誰も知りません。」と。
- 莫
- 「なシ」。~ない。「人之を知る莫し」で、誰も知らない。
- 之
- はかりごとを指す。
- 人莫之知
- 「人知之」を打ち消した形。打消の字がつくと、「之」が動詞「知」の前に来る。
白文二君即与張孟談陰約三軍、与之期日、夜遣入晋陽。
書き下し二君即ち張孟談と陰かに三軍を約し、之と日を期し、夜晋陽に入らしむ。
現代語訳二人の君主はすぐに張孟談とひそかに全軍を出す約束をし、張孟談と(攻撃の)日を決めて、その夜に(張孟談を)晋陽に入らせた。
- 即
- 「すなはチ」。すぐに。
- 三軍
- 全軍。
- 約
- 約束する。
- 期日
- 日を決める。
- 遣
- 「しム」。使役を表す。ここでは「入らしむ」で、(張孟談を)晋陽に入らせた。
- 晋陽
- 趙襄子がたてこもっている城。
白文張孟談以報襄子。
書き下し張孟談以つて襄子に報ず。
現代語訳張孟談は(このことを)襄子に報告した。
- 襄子
- 趙の当主、趙襄子。
- 報
- 報告する。
白文襄子再拝之。
書き下し襄子之を再拝す。
現代語訳襄子は張孟談に丁寧にお辞儀をした。
- 再拝
- 二度お辞儀をする、丁重な礼。張孟談への感謝を表す。
智過、韓・魏の裏切りを見抜く
白文張孟談因朝智伯而出、遇智過轅門之外。
書き下し張孟談因りて智伯に朝して出で、智過に轅門の外に遇ふ。
現代語訳張孟談は(韓・魏の君主に会った)ついでに智伯にお目通りして退出し、軍門の外で智過に出会った。
- 因
- 「よリテ」。そのついでに。その機会に。
- 朝
- 君主にお目通りする。
- 智過
- 智伯の一族の者。
- 轅門
- 軍営の門。
- 遇
- 「あフ」。思いがけず出会う。
白文智過入見智伯曰、「二主殆将有変。」
書き下し智過入りて智伯に見えて曰はく、「二主殆ど将に変有らんとす。」と。
現代語訳智過が(軍営に)入って智伯に会って言うことには、「(韓・魏の)二人の君主は、どうやら今にも心変わりしそうです。」と。
- 二主
- 韓と魏の君主。
- 殆
- 「ほとんド」。ほとんど~に近い。どうやら。
- 将
- 再読文字。今にも~しようとする。
- 変
- 心変わり。裏切り。
白文君曰、「何如。」
書き下し君曰はく、「何如。」と。
現代語訳智伯が言うことには、「どうしてそう思うのか。」と。
- 君
- 智伯。
- 何如
- 「いかん」。どうであるか。様子・理由を問う。
白文対曰、「臣遇張孟談於轅門之外。其志矜、其行高。」
書き下し対へて曰はく、「臣張孟談に轅門の外に遇ふ。其の志矜り、其の行くこと高し。」と。
現代語訳(智過が)答えて言うことには、「私は張孟談と軍門の外で出会いました。(彼は)得意げな様子で、胸を張って歩いていました。」と。
- 対
- 「こたフ」。目上の人の問いに答える。
- 其志矜
- 気持ちが高ぶっている。得意げである。
- 其行高
- 胸を張って堂々と歩いている。
白文智伯曰、「不然。
書き下し智伯曰はく、「然らず。
現代語訳智伯が言うことには、「そんなことはない。
- 不然
- そうではない。「二主殆ど将に変有らんとす」という智過の言葉を打ち消している。
白文吾与二主約謹矣。
書き下し吾二主と約すること謹なり。
現代語訳わしは(韓・魏の)二人の君主と、しっかりと約束を結んでいる。
- 謹
- 念入りで、手落ちがないこと。
白文破趙三分其地。
書き下し趙を破りて其の地を三分せんとす。
現代語訳趙を破って、その土地を三つに分けようというのだ。
- 三分其地
- 趙の土地を、智・韓・魏で三等分する。
白文寡人所親之也。
書き下し寡人之を親しくする所なり。
現代語訳(この約束は)わし自身が直接結んだものである。
- 寡人
- 王侯が自分を指して言うへりくだった言い方。ここでは智伯。
- 親之
- 自分自身で直接(約束)する。
白文必不欺也。
書き下し必ず欺かざるなり。
現代語訳(二人が)わしを欺くことは決してない。
- 欺
- だます。裏切る。韓・魏の君主が智伯を欺かない、ということ。
白文子釈之。勿出於口。」
書き下し子之を釈け。口より出だすこと勿かれ。」と。
現代語訳おまえはそのことを気にせず捨ておけ。口に出してはならない。」と。
- 子
- あなた。おまえ。ここでは智過。
- 釈
- 「おク」。気にかけずに捨ておく。
- 之
- 二主が心変わりしそうだということ。
- 勿
- 「なカレ」。~してはならない(禁止)。
智過の進言と智伯の拒絶
白文智過出見二主。
書き下し智過出でて二主に見ゆ。
現代語訳智過は(智伯のもとを)退出して、(韓・魏の)二人の君主に会った。
白文入説智伯曰、「二主色動而意変。
書き下し入りて智伯に説きて曰はく、「二主色動きて意変ず。
現代語訳(その後また)入って智伯に説いて言うことには、「二人の君主は、顔色に動揺が見え、心が変わっています。
- 色
- 顔色。
- 意変
- 気持ちが変わる。智伯を裏切り、趙に味方する気になっていること。
白文必背君。
書き下し必ず君に背かん。
現代語訳きっとあなたに背くでしょう。
- 君
- 智伯。
白文不如令殺之。」
書き下し之を殺さしむるに如かず。」と。
現代語訳二人を殺させるのがいちばんです。」と。
- 令
- 「しム」。使役。
- 之
- 韓・魏の二人の君主。
- 不如
- 「しカず」。及ばない。
白文智伯曰、「兵著晋陽三年矣。
書き下し智伯曰はく、「兵晋陽に著くこと三年なり。
現代語訳智伯が言うことには、「わが軍が晋陽を攻めはじめてから三年になる。
- 兵
- 軍隊。
- 著
- 「つク」。ぴったりとつく。ここでは、晋陽の城に取りついて攻めること。
白文旦暮当抜而饗其利。
書き下し旦暮当に抜きて其の利を饗くべし。
現代語訳今日明日にも城を落とし、その利益を受け取れるはずだ。
- 旦暮
- 朝か夕方か、というほどの短い間。今日明日にも。
- 当
- 「まさニ~ベシ」と読む再読文字。当然~するはずだ。
- 抜
- 城を攻め落とす。
- 饗
- 「うク」。受ける。
- 其利
- 趙の土地を三分して得る利益。
白文乃有他心不可。
書き下し乃ち他心有るは不可なり。
現代語訳それなのに、(二人が)ふたごころを抱くなどということは、ありえない。
- 乃
- 「すなはチ」。それなのに。
- 他心
- ふたごころ。約束にそむいて智伯を裏切り、趙の側につこうとする心。
- 不可
- ありえない。
白文子慎勿復言。」
書き下し子慎んで復た言ふこと勿かれ。」と。
現代語訳おまえは決して二度と口にしてはならない。」と。
- 慎
- ここでは、決して。
- 復
- 「まタ」。ふたたび。
- 勿
- 禁止。~してはならない。
白文智過曰、「不殺、則遂親之。」
書き下し智過曰はく、「殺さずんば、則ち遂に之と親しめ。」と。
現代語訳智過が言うことには、「殺さないのならば、どこまでも二人と親しくなさってください。」と。
- 不殺
- 「殺さずんば」。殺さないならば。
- 遂
- どこまでも。最後まで。
- 之
- 韓・魏の二人の君主。
白文智伯曰、「親之奈何。」
書き下し智伯曰はく、「之と親しむには奈何。」と。
現代語訳智伯が言うことには、「二人と親しくするには、どうすればよいのか。」と。
- 奈何
- 「いかん」。どうすればよいか(方法を問う)。
白文智過曰、「魏宣子之謀臣曰趙葭、韓康子之謀臣曰段規。
書き下し智過曰はく、「魏宣子の謀臣を趙葭と曰ひ、韓康子の謀臣を段規と曰ふ。
現代語訳智過が言うことには、「魏宣子の謀臣は趙葭といい、韓康子の謀臣は段規といいます。
- 魏宣子・韓康子
- 魏と韓の君主。
- 謀臣
- 君主の相談役として計略をめぐらす家臣。
白文是皆能移其君之計。
書き下し是れ皆能く其の君の計を移す。
現代語訳この二人は、どちらも自分の君主の考えを変えることができます。
- 是
- 趙葭と段規。
- 能
- 「よク」。~できる。
- 移
- 変える。
- 計
- 計略。考え。
白文君其与二君約。
書き下し君其れ二君と約せよ。
現代語訳あなたはどうか、二人の君主と(次のように)約束なさいませ。
- 其
- 命令の語気をやわらげ、「どうか」と勧める気持ちを表す。
白文破趙、則封二子者各万家之県一。
書き下し趙を破らば、則ち二子の者を各万家の県一に封ぜんと。
現代語訳『趙を破ったならば、二人の謀臣をそれぞれ一万戸の県一つの領主にしよう』と。
- 二子者
- 趙葭と段規の二人。
- 万家之県一
- 一万戸の県一つ。
- 封
- 領地を与えて、その土地の領主にする。
白文如是、則二主之心可不変、而君得其所欲矣。」
書き下し是くのごとくせば、則ち二主の心変ぜざるべく、而うして君其の欲する所を得ん。」と。
現代語訳そうすれば、二人の君主の心は変わらないでしょうし、そのうえあなたは望むものを手に入れられるでしょう。」と。
- 如是
- 「是くのごとくせば」。このようにすれば。
- 可不変
- 変わらないはずだ。謀臣が君主を説いて、裏切りを思いとどまらせるから。
- 其所欲
- 望むもの。趙を滅ぼし、その土地を三分して手に入れること。
白文智伯曰、「破趙而三分其地、又封二子者各万家之県一、則吾所得者少。
書き下し智伯曰はく、「趙を破りて其の地を三分し、又二子の者を各万家の県一に封ぜば、則ち吾が得る所の者少なし。
現代語訳智伯が言うことには、「趙を破ってその土地を三つに分け、さらに二人の謀臣をそれぞれ一万戸の県一つの領主にしたら、わしの取り分が少なくなる。
- 吾所得者
- わしが得るもの。わしの取り分。
白文不可。」
書き下し不可なり。」と。
現代語訳だめだ。」と。
- 不可
- だめだ。いけない。
白文智過見君之不明、言之不聴也、出更其姓為輔氏、遂去不見。
書き下し智過君の明ならず、言の聴かれざるを見るや、出でて其の姓を更へて輔氏と為り、遂に去りて見えず。
現代語訳智過は、主君が物事を見通せず、自分の進言が聞き入れられないのを見て取ると、退出してその姓を改めて輔氏と名乗り、そのまま立ち去って、二度と智伯に会わなかった。
- 明
- 物事を見通す力があること。
- 言之不聴
- 自分の進言が聞き入れられない。
- 更
- 「かフ」。改める。
- 為輔氏
- 輔氏となる。輔氏と名乗る。
- 見
- 「まみユ」。智伯にお目にかかる。
趙・韓・魏、智伯を破る
白文張孟談聞之、入見襄子曰、「臣遇智過於轅門之外。
書き下し張孟談之を聞き、入りて襄子に見えて曰はく、「臣智過に轅門の外に遇ふ。
現代語訳張孟談はこのことを聞き、(城に)入って襄子に会って言うことには、「私は軍門の外で智過に出会いました。
- 之
- 智過が姓を改めて去ったこと。
白文其視有疑臣之心。
書き下し其の視るや臣を疑ふの心有り。
現代語訳その目つきには、私を疑う気持ちが見えました。
- 其視
- 智過の、張孟談を見る目つき。
- 臣
- 張孟談自身。
白文入見智伯、出更其姓。
書き下し入りて智伯に見え、出でて其の姓を更ふ。
現代語訳(智過は)入って智伯に会い、退出すると姓を改めました。
白文今暮不撃、必後之矣。」
書き下し今暮撃たずんば、必ず之に後れん。」と。
現代語訳今日の日暮れに攻撃しなければ、きっと手遅れになるでしょう。」と。
- 今暮
- 今日の日暮れ。
- 不撃
- 「撃たずんば」。攻撃しないならば。
- 後之
- 「之に後れん」。(相手に)先を越される。手遅れになる。
白文襄子曰、「諾。」
書き下し襄子曰はく、「諾。」と。
現代語訳襄子は、「わかった。」と言った。
- 諾
- 「だく」。承知した。よろしい。
白文使張孟談見韓・魏之君曰、「夜期。」
書き下し張孟談をして韓・魏の君に見えしめて曰はく、「夜期せん。」と。
現代語訳(襄子は)張孟談を韓・魏の君主に会わせて、「今夜決行しよう。」と言わせた。
- 使
- 「しム」。使役。
- 夜期
- 今夜(攻撃を)決行しよう。
白文殺守堤之吏、而決水灌智伯軍。
書き下し堤を守るの吏を殺して、水を決して智伯の軍に灌ぐ。
現代語訳堤防を守る役人を殺し、川の堤を切って、水を智伯の軍に注ぎこんだ。
- 吏
- 役人。
- 決水
- 堤を切って水をあふれさせる。
- 灌
- 「そそグ」。水を注ぎこむ。
白文智伯軍救水而乱。
書き下し智伯の軍水を救ひて乱る。
現代語訳智伯の軍は水を防ぐことに追われて、混乱した。
- 救水
- 水の害を防ぐ。
白文韓・魏翼而撃之、襄子将卒犯其前、大敗智伯軍而禽智伯。
書き下し韓・魏翼んで之を撃ち、襄子の将卒其の前を犯し、大いに智伯の軍を敗りて智伯を禽にす。
現代語訳韓と魏が左右から挟み撃ちにし、襄子の将兵が正面から攻めこんで、智伯の軍を大いに破り、智伯をとりこにした。
- 翼
- 「さしはさム」。(鳥の翼のように)左右から挟む。
- 将卒
- 将軍と兵士。
- 犯其前
- 正面から攻めこむ。
- 禽
- 「とりこ」。捕らえる。
智伯が滅んだ理由
白文智伯身死、国亡地分、為天下笑。
書き下し智伯身死し、国亡び地分かれて、天下の笑ひと為る。
現代語訳智伯は殺され、国は滅び、土地は分け取られて、天下の物笑いとなった。
- 地分
- 土地が分割される。
- 為天下笑
- 天下の物笑いになる。
白文此貪欲無厭也。
書き下し此れ貪欲にして厭くこと無ければなり。
現代語訳これは、智伯が欲深く、どこまでも満ち足りることがなかったためである。
- 貪欲
- 欲が深いこと。
- 厭
- 「あク」。満ち足りる。満足する。
白文夫不聴智過、亦所以亡也。
書き下し夫れ智過に聴かざるも、亦亡びし所以なり。
現代語訳そもそも、智過の忠告に耳を貸さなかったことも、滅亡を招いたもう一つの理由である。
- 聴
- 聞き入れる。
- 所以
- 「ゆゑん」。理由。原因。
白文智氏尽滅、惟輔氏存焉。
書き下し智氏尽く滅び、惟だ輔氏のみ存せり。
現代語訳智氏の一族はすべて滅び、ただ輔氏だけが生き残った。
- 惟
- 「たダ~ノミ」。ただ~だけ(限定)。
- 輔氏
- 姓を改めて去った智過の家。
- 焉
- 置き字。文末の語調を整える。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
①陰
②帥
③因
④対
⑤厭解答を見る
①ひそかに/こっそり
②ひきいて/率いて
③よりて/そのついでに
④こたえて/(目上の人の問いに)答えて
⑤あく/満足する「為人」「他心」は、本文ではそれぞれどのような意味か。
解答を見る
為人=人柄(性格) 他心=ふたごころ(約束を破って裏切ろうとする心)
B 書き下し文・現代語訳
「唇亡則歯寒」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:唇亡びば則ち歯寒し。
現代語訳:唇がなくなると、歯が寒くなる。「趙将亡矣。亡則二君為之次矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:趙将に亡びんとす。亡びば則ち二君之が次と為らん。
現代語訳:趙は今にも滅びようとしています。趙が滅びれば、次はお二人が滅ぼされる番となるでしょう。「二主殆将有変」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:二主殆ど将に変有らんとす。
現代語訳:韓・魏の二人の君主は、どうやら今にも心変わりしそうです。「不如令殺之」を書き下し文にし、「之」の内容を明らかにして現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:之を殺さしむるに如かず。
現代語訳:韓・魏の二人の君主を殺させるのがいちばんです。
C 内容の読み取り
「唇亡則歯寒」で、「唇」と「歯」はそれぞれ何をたとえているか。また、張孟談はこの言葉でどのようなことを言おうとしているか。
解答を見る
唇=趙 歯=韓・魏
趙が滅びれば、次は韓・魏が智伯に滅ぼされる番になる(だから、趙と手を結ぶべきだ)ということ。「我謀未遂而知、則其禍必至」について、「謀」の内容と、「知」の主語を答えよ。
解答を見る
謀=韓・魏の二君が智伯にそむき、趙の側について智伯を討つという計画。
「知」の主語=智伯智過が「二主殆将有変」と言ったのは、張孟談のどのような様子を見たからか。
解答を見る
軍門の外で出会った張孟談が、得意げな様子で、胸を張って歩いていたから。
智伯が、謀臣の趙葭・段規に領地を与えるという智過の進言を「不可」としたのは、どう考えたからか。
解答を見る
趙の土地を三分したうえに、謀臣二人にもそれぞれ一万戸の県を与えると、自分の取り分が少なくなると考えたから。
智伯が「身死、国亡地分、為天下笑」となった原因として、本文に挙げられていることを二つ答えよ。
解答を見る
①欲が深く、満ち足りることがなかったこと。
②智過の忠告に耳を貸さなかったこと。