韓愈(かんゆ)『師説(しせつ)』の第一段落・第二段落、「古之学者〜其皆出於此乎」の書き下し文・現代語訳・解説です。出典は『唐宋八家文読本』。韓愈の詩文集『韓昌黎集(かんしょうれいしゅう)』に収められている文章です。
韓愈(七六八〜八二四)は、中唐の詩人・文章家で、字(あざな)は退之(たいし)。内容を重んじ、論旨の明快な「古文」の復興を唱え、唐宋八大家の一人に数えられます。
題の「説」は文体の一つで、ある事柄について自分の意見を述べる論説文のことです。「師説」は「師についての論説」という意味で、「師の説」と読みます。
書き下し文・現代語訳・解説
第一段落 師とは何か
白文古之学者、必有師。
書き下し古の学ぶ者は、必ず師有り。
現代語訳昔の学問をする者には、必ず師がいた。
- 古
- 「いにしへ」。昔。
- 学者
- 学問をする者。道を学ぼうとする者。今の「学者」(研究者)の意味ではない。
- 之
- 「の」と読む。書き下し文では平仮名にする。
白文師者、所以伝道受業解惑也。
書き下し師は、道を伝へ業を受け惑ひを解く所以なり。
現代語訳師とは、(人としての)道を伝え、学業を授け、迷いを解いてくれる人である。
- 者
- ここは「は」と読み、主語を示す。
- 道
- 人として正しい生き方。儒学の教え。
- 受業
- 学業を授ける。「受」は、ここでは「授」と同じで「さづク」と読む。「授業」と書く本文もある。
- 惑
- 迷い。疑問。
- 所以
- 「ゆゑん」。ここでは「〜するもの」「〜するための人」の意味。
白文人非生而知之者。
書き下し人は生まれながらにして之を知る者に非ず。
現代語訳人は、生まれつき物事をわきまえている者ではない。
- 生而
- 「生まれながらにして」。生まれつき。
- 之
- ここでは物事の道理。広く学問すべてを指すとも、「道」を指すとも考えられる。
- 非
- 「あらズ」。〜ではない。
- ○『論語』(述而)の孔子の言葉「我は生まれながらにして之を知る者に非ず」をふまえた表現。
白文孰能無惑。
書き下し孰か能く惑ひ無からん。
現代語訳だれが迷いのないままでいられようか、いや、だれでも迷うものだ。
- 孰
- 「たれカ」。だれが。ここは反語。
- 能
- 「よク」。〜できる。
白文惑而不従師、其為惑也、終不解矣。
書き下し惑ひて師に従はずんば、其の惑ひ為るや、終に解けざらん。
現代語訳迷いがあるのに師について学ばなければ、その迷いは、最後まで解けないだろう。
- 不
- 「ずんば」。〜しなければ。仮定を表す。
- 従師
- 師につき従って学ぶ。
- 其為惑也
- 「其の惑ひ為るや」。その迷いというものは。「也」は「や」と読み、上の語句を強める。
- 終
- 「つひニ」。最後まで。
- 矣
- 置き字。断定の語調を表す。
白文生乎吾前、其聞道也、固先乎吾、吾従而師之。
書き下し吾が前に生まれて、其の道を聞くや、固より吾より先ならば、吾従ひて之を師とせん。
現代語訳私より前に生まれて、道を聞き知ったのも当然私より先である人ならば、私はその人につき従って師としよう。
- 乎
- 置き字。ここでは「〜に」「〜より」の意味を表す。
- 聞道
- 道を聞き知る。道を身につける。
- 固
- 「もとヨリ」。もちろん。当然。
- 先乎吾
- 「吾より先なり」。私より先である。「乎」は比較を表す。
- 之
- 私より前に生まれ、私より先に道を聞き知った人。
白文生乎吾後、其聞道也、亦先乎吾、吾従而師之。
書き下し吾が後に生まれて、其の道を聞くや、亦た吾より先ならば、吾従ひて之を師とせん。
現代語訳私より後に生まれても、道を聞き知ったのがやはり私より先である人ならば、私はその人につき従って師としよう。
- 亦
- 「まタ」。〜もまた。やはり。
- 之
- 私より後に生まれたが、私より先に道を聞き知った人。
白文吾師道也。
書き下し吾は道を師とするなり。
現代語訳私は、道を師とするのである。
- 師道
- 道を師とする。師とするのは、相手の年齢ではなく、その人が身につけている道だということ。
白文夫庸知其年之先後生於吾乎。
書き下し夫れ庸ぞ其の年の吾より先後生なるを知らんや。
現代語訳そもそも、その人が私より年上か年下かなど、どうして気にかけることがあろうか、いや、気にかけはしない。
- 夫
- 「そレ」。そもそも。文のはじめに置き、語調を整える。
- 庸
- 「なんゾ」。どうして。「庸〜乎」で反語。
- 先後生
- 先に生まれたか、後に生まれたか。「先後して生まれたるを」と読む説もある。
- 於
- ここでは比較を表し、「〜より」と訳す。
白文是故、無貴無賤、無長無少、道之所存、師之所存也。
書き下し是の故に、貴と無く賤と無く、長と無く少と無く、道の存する所は、師の存する所なり。
現代語訳こういうわけで、身分が高いか低いかに関係なく、年齢が上か下かに関係なく、道のある所が、師のいる所なのである。
- 是故
- 「是の故に」。こういうわけで。だから。
- 無A無B
- 「Aと無くBと無く」。AもBも区別なく。
- 貴・賤
- 身分の高い人と低い人。
- 長・少
- 年長の人と年少の人。
- ○「道の存する所」と「師の存する所」は対句になっていて、道と師の結びつきの深さを印象づけている。
第二段落 師道が伝わらない
白文嗟乎、師道之不伝也、久矣。
書き下し嗟乎、師道の伝はらざるや、久し。
現代語訳ああ、師について学ぶという正しいあり方が途絶えてから、ずいぶん長い時がたった。
- 嗟乎
- 「ああ」。嘆きを表す。
- 師道
- 師について学ぶことの正しいあり方。師の道。
- 也
- 「や」と読み、主語の部分を強める。
白文欲人之無惑也、難矣。
書き下し人の惑ひ無からんと欲するや、難し。
現代語訳(これでは)人が迷いをなくそうとしても、難しい。
- 欲A
- 「Aせんと欲す」。Aしようとする。
- 難
- 「かたシ」。難しい。
白文古之聖人、其出人也、遠矣。
書き下し古の聖人は、其の人に出づるや、遠し。
現代語訳昔の聖人は、ふつうの人よりはるかに抜きん出ていた。
- 聖人
- 知恵と徳の最もすぐれた人。古代の理想的な人物。
- 出人
- ほかの人より抜きん出る。
- 遠
- ここでは、差が大きいこと。はるかに。
白文猶且従師而問焉。
書き下し猶ほ且つ師に従ひて問へり。
現代語訳それでもなお、師につき従って教えを問うた。
- 猶且
- 「なほかつ」。それでもなお。
- 問
- 教えを求めて問う。
- 焉
- 置き字。断定の語調を表す。
白文今之衆人、其下聖人也、亦遠矣。
書き下し今の衆人は、其の聖人に下るや、亦た遠し。
現代語訳今の一般の人々は、聖人よりはるかに劣っている。
- 衆人
- 一般の人々。ふつうの人。「聖人」と対になっている。
- 下聖人
- 聖人より劣る。「其の聖人を去るや」(聖人から隔たっている)とする本文もある。
白文而恥学於師。
書き下し而るに師に学ぶを恥づ。
現代語訳それなのに、師に教わることを恥としている。
- 而
- ここでは「しかルニ」と読み、逆接を表す。それなのに。
白文是故、聖益聖、愚益愚。
書き下し是の故に、聖は益聖にして、愚は益愚なり。
現代語訳こういうわけで、聖人はますます聖人らしくなり、愚かな者はますます愚かになる。
- 益
- 「ますます」。いよいよ。
- 聖
- 聖人。
- 愚
- 愚かな人。
白文聖人之所以為聖、愚人之所以為愚、其皆出於此乎。
書き下し聖人の聖為る所以、愚人の愚為る所以は、其れ皆此に出づるか。
現代語訳聖人が聖人である理由も、愚かな者が愚かである理由も、みなここから生じているのだろうか。
- 所以
- ここでは理由の意味。
- 為
- 「たリ」。〜である。
- 其
- 「それ」。語調を強める。
- 此
- 師について学ぶか、それとも師に学ぶことを恥じて学ばないか、ということ。
- 乎
- 「か」と読む。ここでは詠嘆を含み、「〜なのだなあ」と訳すこともある。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①所以
②孰(孰能無惑)
③固(固先乎吾)
④庸
⑤益解答を見る
①ゆえん
②たれか
③もとより
④なんぞ
⑤ますます次の語の本文中での意味を答えよ。
①受業
②無長無少
③出人
④衆人解答を見る
①学業を授ける
②年が上か下かに関係なく
③ほかの人よりはるかにすぐれる(抜きん出る)
④一般の人々
B 書き下し文・現代語訳
「師者、所以伝道受業解惑也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:師は、道を伝へ業を受け惑ひを解く所以なり。
現代語訳:師とは、道を伝え、学業を授け、迷いを解いてくれる人である。「孰能無惑」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:孰か能く惑ひ無からん。
現代語訳:だれが迷いのないままでいられようか、いや、だれでも迷うものだ。「夫庸知其年之先後生於吾乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:夫れ庸ぞ其の年の吾より先後生なるを知らんや。
現代語訳:そもそも、その人が私より年上か年下かなど、どうして気にかけることがあろうか、いや、気にかけはしない。「聖人之所以為聖、愚人之所以為愚、其皆出於此乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:聖人の聖為る所以、愚人の愚為る所以は、其れ皆此に出づるか。
現代語訳:聖人が聖人である理由も、愚かな者が愚かである理由も、みなここから生じているのだろうか。
C 内容の読み取り
「生乎吾後、其聞道也、亦先乎吾、吾従而師之」の「之」は、どのような人を指すか。
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自分より後に生まれたが、道を聞き知ったのは自分より先である人。
「吾師道也」とあるが、筆者はどのような人を師とするべきだと考えているか。「道之所存、師之所存也」をふまえて説明せよ。
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年齢が上か下か、身分が高いか低いかには関係なく、自分より先に道を身につけている人を師とするべきだと考えている。
第二段落で、「古之聖人」と「今之衆人」は、どのように対比されているか。
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昔の聖人は、人よりはるかにすぐれていたのに、なお師について教えを問うた。今の一般の人々は、聖人よりはるかに劣っているのに、師について学ぶことを恥じている。
「其皆出於此乎」の「此」は、どのようなことを指すか。
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師について学ぶか、それとも師に学ぶことを恥じて学ばないか、ということ。
続き(②)
「わが子には師をつけるのに、自分は師につくことを恥じる」親や、職人たちを笑う士大夫の姿が描かれる第三段落は②で読めます。