『直躬』書き下し文・現代語訳・解説|論語・韓非子・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 『論語』の直躬
  3. 『韓非子』の直躬
  4. 『韓非子』の魯人
  5. テスト予想問題

『直躬(ちょっきゅう)』の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。「直躬」という人物の話は、儒家の孔子の言行を記した『論語』(子路)と、法家の思想書『韓非子(かんぴし)』(五蠹)の両方に出てきます。同じ話題に対する二つの立場を読み比べましょう。

書き下し文・現代語訳・解説

『論語』の直躬

本文(訓読文)

白文葉公語孔子曰、「吾党有直躬者。

書き下し葉公(せふこう)孔子に語りて曰はく、「吾が党(たう)に直躬(ちよくきゆう)なる者有り。

現代語訳葉公が孔子に語って言うことには、「私の村には、正直者の躬という者がおります。

葉公
楚の国の大夫(重臣)。葉という土地の長官。
党
村里。
直躬
正直者の躬。「直」は正直なこと。
有~者
「~者有り」。~という者がいる。

白文其父攘羊、而子証之。」

書き下し其の父羊を攘(ぬす)みて、子之を証(しよう)せり。」と。

現代語訳その父が(迷い込んできた)羊を自分のものにしてしまったとき、子である彼はそのことを証言しました。」と。

攘
「ぬすム」。迷い込んできたものを、そのまま自分のものにしてしまう。
証
証言する。証人となって訴える。
之
父が羊を盗んだこと。
而
置き字。

白文孔子曰、「吾党之直者、異於是、父為子隠、子為父隠。

書き下し孔子曰はく、「吾が党の直き者は、是に異なり、父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。

現代語訳孔子が言うことには、「私の村の正直な者は、そういう者とは違います。父は子のためにその罪を隠してやり、子は父のためにその罪を隠してやります。

是
葉公の言う正直者(父の罪を証言した直躬)のこと。
異於是
「是に異なり」。これとは違う。「於」は置き字で、比べる対象を表す。
為
「ためニ」。~のために。
隠
父や子の罪を隠す。かばう。

白文直在其中矣。」

書き下し直きこと其の中に在り。」と。

現代語訳正直さというものは、その(互いにかばい合う)中にあるのです。」と。

直
正直さ。
其中
「父為子隠、子為父隠」(父と子が互いにかばい合うこと)を指す。
矣
置き字。断定を表す。

『韓非子』の直躬

本文(訓読文)

白文楚人有直躬。

書き下し楚人に直躬といふもの有り。

現代語訳楚の国の人に、直躬という者がいた。

楚
春秋・戦国時代の国の名。

白文其父窃羊、而謁之吏。

書き下し其の父羊を窃(ぬす)みて、之を吏(り)に謁(つ)ぐ。

現代語訳その父が(他人の)羊を盗んだので、(直躬は)そのことを役人に申し出た。

窃
「ぬすム」。こっそり盗む。
謁
「つグ」。申し上げる。告げる。
之
父が羊を盗んだこと。
吏
役人。
而
置き字。ここで動作の主語が父から直躬に変わる。

白文令尹曰、「殺之。」

書き下し令尹(れいゐん)曰はく、「之を殺せ。」と。

現代語訳宰相が言うことには、「その者(直躬)を殺せ。」と。

令尹
楚の国の宰相の呼び名。
之
直躬を指す。羊を盗んだ父ではないことに注意。

白文以為直於君而曲於父。

書き下し以為(おもへ)らく、君に直なれども父に曲なりと。

現代語訳(宰相が)思うには、(直躬は)君主に対しては正直だが、父に対しては背いている、と。

以為
「おもへらク」。思うことには。
直
正直である。
曲
「直」の反対。正しくない。道に背いている。
而
逆接を表す。「~けれども」。

白文報而罪之。

書き下し報(ほう)じて之を罪す。

現代語訳(そこで)判決を下して、直躬を罰した。

報
裁判の判決を下す。
罪
罰する。処刑する。
之
直躬を指す。

白文以是観之、夫君之直臣、父之暴子也。

書き下し是を以て之を観れば、夫(か)の君の直臣は、父の暴子(ばうし)なり。

現代語訳このように見てくると、君主から見て正直な家臣は、父から見れば背く子だということになる。

以是観之
「是を以て之を観れば」。このことから考えると。
夫
「かノ」。あの。
直臣
正直な家臣。
暴子
父に背く子。親不孝な子。

『韓非子』の魯人

本文(訓読文)

白文魯人従君戦、三戦三北。

書き下し魯人君に従ひて戦ひ、三たび戦ひて三たび北(に)ぐ。

現代語訳魯の国の人が、君主に従って戦に出たが、三度戦って三度とも逃げた。

魯
春秋時代の国の名。孔子の生まれた国。
北
「にグ」。敵に背を向けて逃げる。「敗北」の「北」。

白文仲尼問其故。

書き下し仲尼(ちゆうぢ)其の故を問ふ。

現代語訳孔子がその理由を尋ねた。

仲尼
孔子の字(あざな)。
故
「ゆゑ」。理由。三度とも逃げた理由。

白文対曰、「吾有老父、身死莫之養也。」

書き下し対(こた)へて曰はく、「吾に老父有り、身死せば之を養ふもの莫きなり。」と。

現代語訳(魯の人が)答えて言うことには、「私には年老いた父がおります。私が死んだら、父を養う者がいなくなるのです。」と。

対
「こたフ」。目上の人に答える。
身
自分自身。
身死
「身死せば」。自分が死んだならば。
莫
「なシ」。いない。
之
老父を指す。

白文仲尼以為孝、挙而上之。

書き下し仲尼以て孝と為し、挙げて之を上(のぼ)す。

現代語訳孔子はそれを孝行だと考え、(その人を)推挙して地位を上げた。

以為孝
「以て孝と為し」。(そのことを)孝行だと考える。
挙
推挙する。取り立てる。
上
「のぼス」。地位を上げる。

白文以是観之、夫父之孝子、君之背臣也。

書き下し是を以て之を観れば、夫の父の孝子は、君の背臣(はいしん)なり。

現代語訳このことから考えると、あの父にとっての孝行息子は、君主にとっては背く臣下なのである。

孝子
親孝行な子。
背臣
君主に背く臣下。不忠者。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
    ①党
    ②攘(攘みて)
    ③令尹
    ④北(北ぐ)
    ⑤対(対へて)

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    ①とう
    ②ぬすみて
    ③れいいん
    ④にぐ
    ⑤こたえて

  2. 次の語の本文中での意味を答えよ。
    ①吏
    ②暴子
    ③背臣

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    ①役人
    ②父に背く子(親不孝な子)
    ③君主に背く臣下(不忠者)

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「父為子隠、子為父隠」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。
    現代語訳:父は子のためにその罪を隠してやり、子は父のためにその罪を隠してやる。

  2. 「直在其中矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:直きこと其の中に在り。
    現代語訳:正直さというものは、その(父と子が互いにかばい合う)中にある。

  3. 「以為直於君而曲於父」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:以為らく、君に直なれども父に曲なりと。(以て君に直なれども父に曲なりと為す。)
    現代語訳:(直躬は)君主に対しては正直だが、父に対しては背いていると思った。

  4. 「吾有老父、身死莫之養也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:吾に老父有り、身死せば之を養ふもの莫きなり。
    現代語訳:私には年老いた父がいて、私が死んだら父を養う者がいなくなる。

C 内容の読み取り

  1. 葉公と孔子とでは、「直(正直)」についての考え方がどのように違うか。

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    葉公は、父の罪であっても隠さずに証言することを正直と考えている。孔子は、父と子が互いの罪をかばい合う、親子の自然な情の中にこそ正直さがあると考えている。

  2. 「令尹曰、殺之」とあるが、宰相が直躬を罰したのはなぜか。

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    直躬は、君主に対しては正直だが、父に対しては背いている(正しくない)と考えたから。

  3. 「仲尼以為孝、挙而上之」とあるが、孔子が魯の人を取り立てたのはなぜか。

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    魯の人が三度とも戦場から逃げたのは、自分が死ぬと年老いた父を養う者がいなくなるからだと聞き、孝行者だと考えたから。

  4. 「夫君之直臣、父之暴子也」「夫父之孝子、君之背臣也」の二文から、韓非子のどのような考えが読み取れるか。

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    君主(国家)にとってよいことと、父(家)にとってよいことは一致せず、一方に忠実であれば、もう一方には背くことになるということ。