陶淵明(とうえんめい)の『責子(こをせむ)』の書き下し文・現代語訳・解説です。
年をとって白髪になった作者には、五人の息子がいます。ところが、そろいもそろって勉強嫌い。一人ずつ年齢を挙げて嘆いたあと、「これも運命なら、まあ酒でも飲もう」と結びます。題は「子を責む」ですが、愚痴の中に、父親としての温かいまなざしが感じられる詩です。
書き下し文・現代語訳・解説
白文白髪被両鬢
書き下し白髪両鬢を被ひ
現代語訳白髪が左右の耳ぎわの髪をおおうほどになり、
- 鬢
- 耳のわきの髪の毛。「両鬢」で左右の鬢。
- 被
- 「おほフ」。おおう。
白文肌膚不復実
書き下し肌膚復た実たず
現代語訳肌にはもう張りがなくなった。
- 肌膚
- はだ。皮膚。
- 不復実
- もはや張りがない。「実」は、中身が満ちて張りがあること。
白文雖有五男児
書き下し五男児有りと雖も
現代語訳わたしには五人の男の子がいるけれども、
- 五男児
- 五人の男の子。
白文総不好紙筆
書き下し総て紙筆を好まず
現代語訳どの子もそろって勉強が嫌いだ。
- 総
- 「すべテ」。どれもこれも。
- 紙筆
- 紙と筆。勉強道具のことで、ここでは勉強・学問をいう。
白文阿舒已二八
書き下し阿舒は已に二八
現代語訳長男の阿舒は、もう十六歳だというのに、
- 阿舒
- 長男の幼名。「阿」は名前の上に付ける愛称で、日本語の「~ちゃん」にあたる。
- 二八
- 二かける八で、十六歳。
白文懶惰故無匹
書き下し懶惰故より匹ひ無し
現代語訳もともと並ぶ者がいないほどの怠け者だ。
- 懶惰
- なまけること。ものぐさ。
- 故
- 「もとヨリ」。もともと。以前から。
- 無匹
- 比べるものがない。このうえない。
白文阿宣行志学
書き下し阿宣は行志学
現代語訳次男の阿宣は、もうすぐ十五歳になるというのに、
- 阿宣
- 次男の幼名。
- 行
- 「ゆくゆく」。もうすぐ~になろうとする。
- 志学
- 十五歳。『論語』為政篇の「吾十有五にして学に志す」に基づく。
白文而不愛文術
書き下し而も文術を愛せず
現代語訳それでいて学問を好まない。
- 而
- 「しかモ」。それなのに。
- 文術
- 学問。第四句の「紙筆」と同じ意味。
白文雍端年十三
書き下し雍・端は年十三
現代語訳三男の雍と四男の端は十三歳になるが、
- 雍・端
- 三男と四男の幼名。同じ年の生まれだった。
白文不識六与七
書き下し六と七とを識らず
現代語訳六と七の区別もつかない。
- 識
- 見分ける。区別する。
- 六と七の区別がつかない、つまり数がよく数えられないということ。
白文通子垂九齢
書き下し通子は九齢に垂んとして
現代語訳末っ子の通は、もうすぐ九歳になろうというのに、
- 通子
- 五男の幼名。「子」は愛称。
- 垂
- 「なんなンとす」。もう少しで~になろうとする。
- 九齢
- 九歳。
白文但覓梨与栗
書き下し但だ梨と栗とを覓むるのみ
現代語訳ただ梨や栗を探し求めるばかりだ。
- 但
- 「たダ」。文末の「のみ」と合わせて限定を表す。
- 覓
- 「もとム」。探し求める。
- 梨と栗
- 食べ物のことしか頭にない様子。
白文天運苟如此
書き下し天運苟くも此くのごとくんば
現代語訳(だが、)これが天から与えられた運命だというのなら、
- 天運
- 天が自分に与えた運命。
- 苟
- 「いやシクモ」。もし。
- 此
- 五人の息子がそろって勉強嫌いで、できがよくないことをさす。
白文且進杯中物
書き下し且く杯中の物を進めん
現代語訳まあひとまず、酒でも飲むことにしよう。
- 且
- 「しばらク」。さしあたって。まあ。
- 杯中物
- 杯の中の物、つまり酒。
- 進
- 飲む。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者と詩の形式を答えよ。また、押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:陶潜(陶淵明) 詩の形式:五言古詩 押韻:実・筆・匹・術・七・栗・物
次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
①総て
②垂んとして
③苟しくも
④且く解答を見る
①すべて
②なんなんとして
③いやしくも
④しばらく次の語の意味を答えよ。
①懶惰
②天運
③杯中物解答を見る
①なまけること(怠け者)
②天から与えられた運命
③酒「文術」と同じ意味の語を、詩の中から抜き出せ(訓点不要)。
解答を見る
紙筆
B 書き下し文・現代語訳
「肌膚不復実」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:肌膚復た実たず
現代語訳:肌にはもう張りがなくなった。「但覓梨与栗」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:但だ梨と栗とを覓むるのみ
現代語訳:ただ梨や栗を探し求めるばかりだ。「天運苟如此 且進杯中物」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:天運苟しくも此くのごとくんば 且く杯中の物を進めん
現代語訳:これが天の与えた運命だというのなら、まあひとまず酒でも飲もう。
C 内容の読み取り
阿舒・阿宣・雍と端・通子は、それぞれ何歳か。
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阿舒:十六歳 阿宣:もうすぐ十五歳 雍と端:十三歳 通子:もうすぐ九歳
「不識六与七」とは、どういうことか。
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六と七の区別もつかない、つまり数をきちんと数えられないということ。
「如此」の「此」は、どのようなことをさしているか。
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五人の息子が、そろって勉強嫌いでできがよくないこと。
この詩に表れた作者の気持ちを説明せよ。
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息子たちのできの悪さを嘆いて愚痴をこぼしているが、その底には父親としての愛情があり、おかしみをこめて詠んでいる。