『戦国策』「趙太后」①書き下し文・現代語訳・解説|触竜(触龍)の説得・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 長安君を人質に
  3. 触竜、太后に会う
  4. 体調の話
  5. 末っ子の舒祺のこと
  6. テスト予想問題
  7. 続き(②)

『戦国策(せんごくさく)』「趙太后(ちょうたいこう)」①の書き下し文・現代語訳・解説です。『戦国策』は、戦国時代に諸国を説いて回った遊説家たちの言葉や策略を、国ごとにまとめた書物で、前漢の劉向(りゅうきょう)が編集しました。この話は「趙策」に収められています。

老臣の触竜(しょくりゅう。「触龍」とも書く)が、かたくなな太后の心を少しずつほぐし、ついに説得するまでの話です。

書き下し文・現代語訳・解説

長安君を人質に

本文(訓読文)

白文趙太后新用事。

書き下し趙(てう)の太后新たに事を用ゐる。

現代語訳趙の太后が、新しく政治を取りしきるようになった。

趙
戦国時代の国の名。戦国の七雄の一つ。
太后
王の母。ここは、恵文王の后で、孝成王の母。
用事
政治を行う。孝成王が即位したばかりで、太后が実権を握っていた。

白文秦急攻之。

書き下し秦急に之を攻む。

現代語訳(その時、)秦がにわかに趙を攻めてきた。

秦
戦国の七雄の一つ。趙の西にあった強国。
急
にわかに。激しく。
之
趙を指す。

白文趙氏求救於斉。

書き下し趙氏救ひを斉に求む。

現代語訳趙は斉に救援を求めた。

趙氏
趙の国。趙の王家。
斉
戦国の七雄の一つ。趙の東にあった国。
於
置き字。ここは対象(~に)を表す。

白文斉曰、「必以長安君為質、兵乃出。」

書き下し斉曰はく、「必ず長安君を以つて質(ち)と為さば、兵乃(すなは)ち出ださん。」と。

現代語訳斉は、「必ず長安君を人質として(斉に)よこすなら、そのときは軍を出そう。」と言った。

長安君
太后の末っ子。孝成王の弟。
質
「ち」と読み、人質の意。
以A為B
「AをもつてBとなす」。AをBとする。
兵
軍隊。
乃
「すなはチ」。そこではじめて。
本文(訓読文)

白文太后不肯。

書き下し太后肯(がへ)んぜず。

現代語訳太后は(長安君を人質に出すことを)承知しなかった。

肯
「がへんズ」と読み、承知する、の意。「不肯」で「承知しない」。

白文大臣強諫。

書き下し大臣強ひて諫(いさ)む。

現代語訳大臣たちは(人質を出すように)強く太后をいさめた。

強
「しヒテ」。無理に。強く。
諫
目上の人の過ちを指摘して忠告する。

白文太后明謂左右、「有復言令長安君為質者、老婦必唾其面。」

書き下し太后明らかに左右(さいう)に謂ふ、「復た長安君をして質と為さしめよと言ふ者有らば、老婦(らうふ)必ず其の面(つら)に唾(つば)せん。」と。

現代語訳太后は側近の者たちにはっきりと言いわたした、「この上また、長安君を人質にさせよと言う者がいたら、わたしは必ずその者の顔に唾をはきかけてやる。」と。

明
はっきりと。きっぱりと。
左右
側近の者。そばに仕える家臣。
復
「まタ」。ふたたび。
老婦
年老いた女。ここは太后が自分を指して言う語。
面
「つら」。顔。
唾
つばをはきかける。

触竜、太后に会う

本文(訓読文)

白文左師触竜願見太后。

書き下し左師(さし)触竜(しよくりゆう)太后に見(まみ)えんことを願ふ。

現代語訳左師の触竜が、太后にお目にかかりたいと願い出た。

左師
官名。
触竜
趙の老臣。「触龍」とも書く。
見
「まみゆ」。お目にかかる。

白文太后盛気而胥之。

書き下し太后気を盛んにして之を胥(ま)つ。

現代語訳太后は、怒りをあらわにして触竜を待ち構えた。

盛気
気を盛んにする。気色ばむ。怒って顔色を変える。
胥
「まツ」。待つ。「待」と同じ。
之
触竜を指す。

白文入而徐趨、至而自謝曰、

書き下し入りて徐(おもむ)ろに趨(はし)り、至りて自ら謝(しや)して曰はく、

現代語訳(触竜は)宮中に入ると、ゆっくりと小走りで進み、(太后の前に)来ると、自分から(ご無沙汰を)わびて言った、

徐
「おもむろニ」。ゆっくりと。
趨
「はしル」。小走りに進む。目上の人の前では小走りに進むのが礼儀であった。
謝
わびる。ここは、長くお目にかかっていないことをわびる。
本文(訓読文)

白文「老臣病足、曽不能疾走。

書き下し「老臣(らうしん)足を病(や)み、曽(すなは)ち疾走(しつそう)すること能(あた)はず。

現代語訳「わたくしは足を悪くしまして、どうしても速く小走りすることができません。

老臣
年老いた臣下。触竜が自分を指して言う語。
曽
「すなはチ」。「不」の上について、打消を強める。どうしても(~ない)。
疾走
速く小走りに進むこと。「走」は、ここでは小走りする意。

白文不得見久矣。

書き下し見ゆるを得ざること久し。

現代語訳(そのため)長い間お目にかかることができませんでした。

不得A
「A(するを)得ず」。Aできない。
見
ここも「まみゆ」。お目にかかる。
矣
置き字。

白文窃自恕、恐太后玉体之有所郄也。

書き下し窃(ひそ)かに自ら恕(はか)るに、太后の玉体(ぎよくたい)の郄(げき)する所有らんことを恐るるなり。

現代語訳おそれながら自分の身に引きくらべて考えますと、太后さまのお体にも、お疲れのところがおありではないかと心配しておりました。

窃
「ひそカニ」。自分の意見を言うときに使う、へりくだった言い方。おそれながら。
恕
「はかル」。自分の身に引きくらべて、人の気持ちを推し量る。
玉体
お体。「玉」は相手のものをほめていう語。
郄
疲れ。体の調子が悪いところ。

白文故願望見太后。」

書き下し故に太后を望見(ばうけん)するを願へり。」と。

現代語訳それで、遠くからでも太后さまを拝見したいと願い出たのです。」と。

望見
遠くから見る。遠くからでもお顔を拝見する。

体調の話

本文(訓読文)

白文太后曰、「老婦恃輦而行。」

書き下し太后曰はく、「老婦輦(れん)を恃(たの)みて行く。」と。

現代語訳太后は、「わたしも、人の引く車に頼って出歩いている。」と言った。

恃
「たのム」。頼りにする。
輦
人が引く車。
老婦恃輦而行
自分で歩くことができず、車に頼るほど体が弱っている、ということ。

白文曰、「日食飲得無衰乎。」

書き下し曰はく、「日に食飲(しよくいん)衰ふる無きを得るか。」と。

現代語訳(触竜が)言った、「毎日のお食事が、細くなってはいらっしゃいませんか。」と。

食飲
飲食。食事。
得無A乎
ここは「A無きを得るか」と読む。Aではありませんか。相手の様子を推し量って問う言い方。

白文曰、「恃粥耳。」

書き下し曰はく、「粥(かゆ)を恃むのみ。」と。

現代語訳(太后は)言った、「おかゆばかりが頼りだ。」と。

耳
「のみ」。限定を表す。~だけ。
本文(訓読文)

白文曰、「老臣今者殊不欲食。

書き下し曰はく、「老臣今者(このごろ)殊(こと)に食を欲せず。

現代語訳(触竜は)言った、「わたくしも、このごろはとりわけ食欲がありません。

今者
「このごろ」。
殊
「ことニ」。とりわけ。特に。

白文乃自強歩、日三四里、

書き下し乃ち自ら強ひて歩むこと、日に三四里、

現代語訳そこで、自分で努めて、一日に三、四里歩くようにしましたところ、

強
「しヒテ」。無理をして。努めて。
里
距離の単位。

白文少益嗜食、和於身。」

書き下し少しく食を嗜(たしな)むを益(ま)し、身を和(やは)らぐ。」と。

現代語訳少し食が進むようになり、体の具合もよくなりました。」と。

少
「すこシク」。少し。
嗜食
食べ物をおいしく食べる。
益
「まス」。増す。
和於身
体の調子が整う。

白文太后曰、「老婦不能。」

書き下し太后曰はく、「老婦能(あた)はず。」と。

現代語訳太后は、「わたしにはできない。」と言った。

不能
「あたはず」。できない。ここは、毎日三、四里歩くことができない、ということ。

白文太后之色少解。

書き下し太后の色少しく解く。

現代語訳太后の表情は、少し和らいだ。

色
顔色。表情。
解
(こわばっていたものが)ほどける。和らぐ。

末っ子の舒祺のこと

本文(訓読文)

白文左師公曰、「老臣賤息舒祺、最少不肖。

書き下し左師公曰はく、「老臣の賤息(せんそく)舒祺(じよき)、最も少(わか)くして不肖(ふせう)なり。

現代語訳左師公は言った、「わたくしのせがれの舒祺は、いちばん年下で、出来の悪い者でございます。

左師公
触竜のこと。「公」は敬称。
賤息
自分の子をへりくだって言う語。愚息。
舒祺
触竜の末っ子の名。
最少
いちばん年が若い。末っ子である。
不肖
父祖に似ず、愚かなこと。ここは、自分の子のことをへりくだって言っている。

白文而臣衰、窃愛憐之。

書き下し而して臣衰へ、窃かに之を愛憐(あいれん)す。

現代語訳それなのに、わたくしは年老いて(気が弱くなり)、ひそかにこの子をかわいく思っております。

而
「しかシテ」。
臣
わたくし。臣下が君主の前で自分を指して言う語。
愛憐
いとおしく思う。かわいがる。
之
舒祺を指す。

白文願令得補黒衣之数、以衛王宮。

書き下し願はくは黒衣(こくい)の数に補(ほ)し、以つて王宮を衛(まも)るを得しめよ。

現代語訳どうか、王宮の護衛兵の人数に加えて、王宮をお守りする役につかせてやってください。

願
「ねがハクハ」。どうか~させてください。
黒衣
王宮を守る兵士。黒い衣を着ていたことから言う。
補
欠員を補う。仲間に加える。
令得
「得しむ」。~できるようにさせる。

白文昧死以聞。」

書き下し死を昧(をか)して以つて聞(ぶん)す。」と。

現代語訳死罪を覚悟で申し上げます。」と。

昧死
死罪になることも覚悟の上で。臣下が君主に申し上げるときの決まった言い方。
聞
「ぶんス」。申し上げる。
本文(訓読文)

白文太后曰、「敬諾。年幾何矣。」

書き下し太后曰はく、「敬(つつし)んで諾(だく)す。年幾何(いくばく)ぞ。」と。

現代語訳太后は言った、「たしかに引き受けた。年はいくつか。」と。

敬諾
つつしんで承知する。たしかに引き受けた。
諾
承知する。ここは、舒祺を王宮の護衛兵に加えることを承知した。
幾何
「いくばく」。どれほど。数量をたずねる。

白文対曰、「十五歳矣。

書き下し対(こた)へて曰はく、「十五歳なり。

現代語訳(触竜が)答えて言った、「十五歳でございます。

対
「こたフ」。目上の人の問いに答える。

白文雖少、願及未塡溝壑而託之。」

書き下し少(わか)しと雖(いへど)も、願はくは未だ溝壑(こうがく)に塡(てん)ぜざるに及んで之を託(たく)せん。」と。

現代語訳まだ年若くはありますが、どうか、わたくしがのたれ死にしないうちに、この子をお任せしたいのです。」と。

雖A
「Aといへども」。Aではあるが。
少
「わかシ」。年が若い。
塡溝壑
溝や谷を埋める。死んで、しかばねが溝や谷に捨てられることで、自分の死をへりくだって言う語。
未
再読文字。「いまダ~ず」。まだ~ない。
託
頼んで任せる。
之
舒祺を指す。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
    ①質
    ②不肯
    ③徐
    ④窃
    ⑤殊
    ⑥最少

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    ①ち
    ②がえんぜず
    ③おもむろに
    ④ひそかに
    ⑤ことに
    ⑥もっともわかく

  2. 次の語の、本文中での意味を答えよ。
    ①左右
    ②盛気
    ③恃
    ④不肖

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    ①側近の者(そばに仕える家臣)
    ②気色ばむ(怒って顔色を変える)
    ③頼りにする
    ④出来が悪く愚かであること(父祖に似ない愚か者)

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「有復言令長安君為質者、老婦必唾其面」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:復た長安君をして質と為さしめよと言ふ者有らば、老婦必ず其の面に唾せん。
    現代語訳:この上また長安君を人質にさせよと言う者がいたら、わたしは必ずその者の顔に唾をはきかけてやる。

  2. 「願令得補黒衣之数、以衛王宮」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:願はくは黒衣の数に補し、以つて王宮を衛るを得しめよ。
    現代語訳:どうか王宮の護衛兵の人数に加えて、王宮を守る役につかせてやってください。

  3. 「雖少、願及未塡溝壑而託之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。また、「之」が指すものを答えよ。

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    書き下し文:少しと雖も、願はくは未だ溝壑に塡ぜざるに及んで之を託せん。
    現代語訳:まだ年若くはありますが、どうか、わたくしがのたれ死にしないうちに、この子をお任せしたいのです。
    「之」=(触竜の末っ子の)舒祺

C 内容の読み取り

  1. 大臣たちは、太后に何をするように強くいさめたのか。

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    斉に援軍を出してもらうため、長安君を人質として斉に出すこと。

  2. 「太后盛気而胥之」とあるが、太后がこのような態度で触竜を待ったのはなぜか。

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    触竜も大臣たちと同じように、長安君を人質に出すよう説得しに来たのだと思ったから。

  3. 触竜は、自分の老いた体から推し量って、太后の体のどのようなことを気づかっているか。二つ答えよ。

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    体に疲れの出ているところがないかということ。
    毎日の食事が細くなっていないかということ。

  4. 「太后之色少解」とあるが、太后の表情が和らいだのはなぜか。

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    触竜の話が、人質のことではなく、太后の健康を気づかうものだったので、身構えていた気持ち(警戒心)がゆるんだから。

  5. 触竜が、末っ子の舒祺を王宮の護衛兵に加えてほしいと頼んだのには、どのようなねらいがあったと考えられるか。

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    自分も末っ子をかわいく思っていることを打ち明けて、話題を親の子に対する愛情へと移し、長安君を人質に出すよう太后を説得する本題に入ろうとするねらい。

続き(②)

太后は「男の人でも末っ子をかわいがるのか」とたずねます。触竜は、太后の娘燕后(えんこう)と長安君への愛情を比べながら、親が子を本当に愛するとはどういうことかを説いていきます。