杜甫(とほ)の『江村(こうそん)』の書き下し文・現代語訳・解説です。
澄んだ川が村を抱くように流れる、夏の長い一日。燕は気ままに飛び回り、鷗は人を恐れずに寄ってきます。妻は紙に碁盤を描き、幼い子は針をたたいて釣り針を作る。放浪の多かった杜甫が、ようやく家族と落ち着いて暮らせた時期の、おだやかな詩です。
書き下し文・現代語訳・解説
白文江村
書き下し江村
現代語訳川ぞいの村。
- 江村
- 川のほとりの村。どのような村かは、第一句に描かれている。
白文清江一曲抱村流
書き下し清江一曲村を抱きて流る
現代語訳澄んだ川がひと筋に曲がって流れ、まるで村を抱きかかえているようだ。
- 清江
- 水の澄んだ川。草堂のそばを流れる浣花渓をさすと考えられる。
- 一曲
- ひと曲がり。川が曲がって流れていること。
- 抱村
- 川が村を抱きかかえるように流れている様子。
白文長夏江村事事幽
書き下し長夏江村事事幽かなり
現代語訳日の長い夏、この川ぞいの村は、何もかもがひっそりと静かだ。
- 長夏
- 日の長い夏。陰暦の六月。
- 事事
- あらゆること。何もかも。
- 幽
- 「しづカナリ」。ひっそりと静かなさま。世間の騒がしさから離れている様子。
白文自去自来堂上燕
書き下し自づから去り自づから来たる堂上の燕
現代語訳家の座敷の梁に巣を作った燕は、思いのままに出たり入ったりし、
- 自
- 「おのづかラ」。ここでは、思いのままに、気ままに。
- 堂上
- 座敷のあたり。燕が座敷の梁に巣を作っている。「梁上」とする本文もある。
白文相親相近水中鷗
書き下し相親しみ相近づく水中の鷗
現代語訳川に浮かぶ鷗は、私に親しんで近寄ってくる。
- 相
- 「あひ」。ここでは「たがいに」の意味ではなく、動作に相手があることを示す。相手は作者。
- 水中鷗
- 川の水面に浮かんでいる鷗。
白文老妻画紙為碁局
書き下し老妻は紙に画きて碁局を為り
現代語訳年老いた妻は、紙に線を引いて碁盤を作り、
- 老妻
- 年老いた妻。
- 画紙
- 紙に線を引く。
- 為
- 「つくル」。作る。
- 碁局
- 碁盤。
白文稚子敲針作釣鉤
書き下し稚子は針を敲きて釣鉤を作る
現代語訳幼い子は、縫い針をたたいて曲げ、釣り針を作っている。
- 稚子
- 幼い子ども。
- 敲針
- まっすぐな縫い針をたたいて曲げる。
- 釣鉤
- 釣り針。
白文多病所須惟薬物
書き下し多病須つ所は惟だ薬物のみ
現代語訳病気がちのこの身に必要なものは、ただ薬だけだ。
- 多病
- 病気がちであること。作者自身をいう。
- 所須
- 必要とするもの。「須」は「まツ」と読み、必要とする意。
- 惟
- 「ただ」。文末の「のみ」と合わせて限定を表す。「唯」とする本文もある。
- 薬物
- くすり。
白文微軀此外更何求
書き下し微軀此の外に更に何をか求めん
現代語訳取るに足りないこの身に、薬のほかに、このうえ何を求めることがあろうか、いや、何もいらない。
- 微軀
- 取るに足りない身。作者が自分のことをへりくだっていう語。「軀」はからだ・身。
- 此
- 前の句の「薬物」をさす。
- 更
- そのうえに。さらに。
- 何求
- 「何をか求めん」。反語。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者と詩の形式を答えよ。また、押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:杜甫 詩の形式:七言律詩
押韻:流・幽・鷗・鉤・求次の語を、送り仮名ごと現代仮名遣いのひらがなで書け。
①幽かなり
②自づから
③為り
④須つ解答を見る
①しずかなり
②おのずから
③つくり
④まつ次の語の意味を答えよ。
①長夏
②事事
③碁局
④稚子
⑤微軀解答を見る
①日の長い夏(陰暦六月)
②あらゆること(何もかも)
③碁盤
④幼い子ども
⑤取るに足りない身(作者が自分をへりくだっていう語)次の語と対になっている語を、詩の中から抜き出せ。
①堂上
②燕
③老妻
④碁局解答を見る
①水中
②鷗
③稚子
④釣鉤
B 書き下し文・現代語訳
「清江一曲抱村流」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:清江一曲村を抱きて流る
現代語訳:澄んだ川がひと筋に曲がって流れ、まるで村を抱きかかえているようだ。「自去自来堂上燕 相親相近水中鷗」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:自づから去り自づから来たる堂上の燕 相親しみ相近づく水中の鷗
現代語訳:座敷の梁に巣を作った燕は思いのままに出たり入ったりし、川に浮かぶ鷗は私に親しんで近寄ってくる。「多病所須惟薬物 微軀此外更何求」を書き下し文にし、現代語訳せよ。訳では、「此」が何をさしているかがわかるようにすること。
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書き下し文:多病須つ所は惟だ薬物のみ 微軀此の外に更に何をか求めん
現代語訳:病気がちのこの身に必要なものは、ただ薬だけだ。取るに足りないこの身に、薬のほかに、このうえ何を求めることがあろうか、いや、何もいらない。
C 内容の読み取り
第二句の「事事幽」の様子は、どの句からどの句に具体的に描かれているか。また、それはどのような様子か。
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第三句から第六句(頷聯と頸聯)。
燕が気ままに出入りし、鷗が人に親しんで近寄ってくる自然の様子と、妻が碁盤を、子が釣り針を作る家族の様子で、のどかで平和な様子。「相親相近水中鷗」とあるが、鷗が作者に近寄ってくるのはなぜだと考えられるか。
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作者が無心で、鷗を捕らえようとするような悪意やたくらみを持っていないから。
第七・八句から読み取れる作者の心情を説明せよ。
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病気がちの身に必要な薬さえあれば、ほかには何も求めない。静かな村での家族との平和な暮らしがあれば、それで十分だという満ち足りた気持ち。