『世説新語』「三横」の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。 「三横」は、若いころ村人から恐れられていた周処が、自分の過ちに気づき、行いを改めていく物語です。
『三横』のあらすじ
『三横』書き下し文・現代語訳・解説
白文周処年少時、兇彊俠気、為郷里所患。
書き下し周処年少き時、兇彊俠気にして、郷里の患ふる所と為る。
現代語訳周処は若いころ、乱暴で気が強く、それでいて男気があって、村の人々から厄介者として悩みの種にされていた。
- 周処
- 西晋の人。義興郡陽羨の出身。
- 兇彊
- 気性が荒く、強暴であること。
- 俠気
- 男気。弱い者を助けようとする気性。
- 郷里
- 村里。また、村里の人々。
- 患
- 心配する、悩む。
白文又義興水中有蛟、山中有邅跡虎、並皆暴犯百姓。
書き下し又義興の水中に蛟有り、山中に邅跡の虎有り、並びに皆百姓を暴犯す。
現代語訳また、義興の川には蛟がすみ、山にはうろつき回る虎がいて、どちらも人々に危害を加えていた。
- 義興
- 周処の故郷。
- 蛟
- 水中にすむとされた竜の一種。みずち。
- 邅跡
- あちこちうろつき回ること。
- 百姓「ひゃくせい」
- 人民、一般の人々。
- 暴犯
- 乱暴して危害を加える。
白文義興人謂為三横。而処尤劇。
書き下し義興の人謂ひて三横と為す。而して処尤も劇し。
現代語訳義興の人々は(周処・蛟・虎を)「三つの横暴なもの」と呼んでいた。そして、その中でも周処がいちばんひどかった。
- 三横
- 周処・蛟・虎の、三つの横暴なもの。
- 尤も劇し
- 最もひどい。
「三横」は、周処・蛟・虎の三つを指します。しかも「而処尤劇」とあるので、人々にとっては蛟や虎よりも、周処のほうが迷惑な存在だったことがわかります。
白文或説処殺虎斬蛟。実冀三横唯余其一。
書き下し或ひと処に説きて虎を殺し蛟を斬らしむ。実は三横唯だ其の一を余さんことを冀ふ。
現代語訳ある人が周処を説きつけて、虎を殺し蛟を斬らせようとした。しかし本当は、三横どうしを戦わせて、ただ一つだけを残すことを願っていたのである。
- 或
- ある人。
- 説A
- Aを説得する。
- 実
- 実は、本当は。
- 冀
- 願う、望む。
- 唯
- ただ。
白文処即刺殺虎、又入水撃蛟。
書き下し処即ち虎を刺殺し、又水に入りて蛟を撃つ。
現代語訳周処はたちまち虎を刺し殺すと、続いて川へ飛び込み、蛟に打ちかかった。
- 即
- すぐに、そのまま。
白文蛟或浮或没、行数十里、処与之倶、経三日三夜。
書き下し蛟或いは浮き或いは没し、行くこと数十里、処之と倶にし、三日三夜を経たり。
現代語訳蛟は浮いたり沈んだりしながら数十里も流れていき、周処もこれと一緒に進んで、三日三晩が過ぎた。
- 或A或B
- AしたりBしたりする。
- 之
- 蛟を指す。
- 倶
- ともに。
白文郷里皆謂已死、更相慶。
書き下し郷里皆已に死せりと謂ひ、更相慶ぶ。
現代語訳村人たちはみな、(周処も蛟も)もう死んだと思い、互いに喜び合った。
- 謂
- ここでは「思う」。
- 更相「こもごもあひ」
- 互いに、代わる代わる。
- 慶
- 喜ぶ、祝う。
村人たちは、周処と蛟の両方が死んだと思いました。三横が一度に二つも消えたと思ったから、喜び合ったのです。
白文竟殺蛟而出。
書き下し竟に蛟を殺して出づ。
現代語訳ところが周処は、結局蛟を殺して、川から出てきた。
- 竟「つひニ」
- 結局、とうとう。(村人の予想に反して、という意味合い)
白文聞里人相慶、始知為人情所患、有自改意。
書き下し里人相慶ぶを聞き、始めて人情の患ふる所と為るを知り、自ら改むるの意有り。
現代語訳周処は村人たちが喜び合っていることを聞いて、初めて自分が人々から嫌われ悩みの種にされていたことを知り、自分の行いを改めようという気持ちをもった。
- 聞・知
- どちらも主語は周処。
- 人情
- 人々の心。
- 自改
- 自分で(自分の悪い点を)改める。
白文乃入呉尋二陸。平原不在、正見清河。
書き下し乃ち呉に入りて二陸を尋ぬ。平原在らず、正に清河に見ゆ。
現代語訳そこで呉の地に行き、陸機・陸雲の兄弟を訪ねた。陸機は不在だったが、ちょうど陸雲にお目にかかることができた。
- 乃
- そこで。
- 二陸
- 陸機と陸雲の兄弟。ともに文人として名高い。
- 平原
- 陸機のこと。官名で呼んでいる。
- 清河
- 陸雲のこと。官名で呼んでいる。
- 見「まみユ」
- 身分の高い人にお目にかかる。
白文具以情告、并云、「欲自修改而年已蹉跎。終無所成。」
書き下し具に情を以て告げ、并せて云ふ、「自ら修改せんと欲するも年已に蹉跎す。終に成す所無からん。」と。
現代語訳周処はこれまでの事情を詳しく話し、さらにこう言った。「自分の身を修め、行いを改めたいと思いますが、年をとって時機を逃してしまいました。結局、何も成し遂げられないでしょう。」と。
- 具「つぶさニ」
- 詳しく、残らず。
- 情
- ここでは、村人に嫌われていたことを知り、自分を改めようと考えるに至った事情。
- 修改
- 自分を修め、行いを改める。
- 蹉跎
- 時機を逃すこと。
- 無所成
- 成し遂げるものがない。
周処は「自分を変えたい」と決意したものの、今からでは遅すぎるのではないかと心配しています。その不安に対して、陸雲が大切な助言をします。
白文清河曰、「古人貴朝聞夕死。況君前途尚可。
書き下し清河曰はく、「古人朝に聞きて夕べに死するを貴ぶ。況んや君の前途尚ほ可なるをや。
現代語訳陸雲は言った。「昔の人は、朝に正しい道を聞いたならその夕方に死んでもよいとして、道を聞くことを尊んだ。ましてあなたには、まだ将来が十分にあるのだから、なおさら間に合います。
- 朝「あしたニ」
- 朝に。
- 朝聞夕死
- 朝に正しい道を聞けたなら、その日の夕方に死んでもかまわない。
- 前途
- これから先。将来。
- 尚可
- まだ十分に可能である。
「古人貴朝聞夕死」は、『論語』の「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」をふまえています。正しい道を知ることには、それほど大きな価値があるという意味です。
白文且人患志之不立。亦何憂令名不彰邪。」
書き下し且つ人は志の立たざるを患ふ。亦何ぞ令名の彰れざるを憂へんや。」と。
現代語訳それに、人が心配すべきなのは、志が立たないことです。(志さえ立てば)立派な評判が世に知られないことなど、どうして心配する必要があるでしょう。心配はいりません。」と。
- 且
- そのうえ、さらに。
- 志
- 自分が進むべき方向についての決意、目標。
- 令名
- よい評判、名声。
- 彰
- 世に明らかになる。
白文処遂改励、終為忠臣孝子。
書き下し処遂に改励し、終に忠臣孝子と為る。
現代語訳こうして周処は行いを改めて努力を重ね、最後には忠義な臣下、親孝行な子となった。
- 遂「つひニ」
- こうして、そのまま。
- 改励
- 行いを改め、努め励む。
- 終「つひニ」
- 最後には。
- 忠臣
- 主君に忠義を尽くす家臣。
- 孝子
- 親孝行な子。
『三横』テスト予想問題
A 語句
次の語の読みを、送り仮名も含めて現代仮名遣いのひらがなで答えよ。
①少き(年少時)
②冀ふ
③具に
④竟に解答を見る
①わかき
②こいねがう
③つぶさに
④ついに「百姓」「蹉跎」の本文中での意味を答えよ。
解答を見る
百姓:人民、世の人々(農民の意ではない)。
蹉跎:時機を逃すこと。「年已蹉跎」で、年をとり、行いを改める時機をもう逃してしまったということ。
B 書き下し文・現代語訳
「為郷里所患」を書き下し文にし、受身の意味がわかるように現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:郷里の患ふる所と為る。
現代語訳:村の人々から悩みの種とされていた(厄介者として嫌われていた)。「況君前途尚可」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:況んや君の前途尚ほ可なるをや。
現代語訳:ましてあなたにはまだ十分な将来があるのだから、なおさら間に合う。「亦何憂令名不彰邪」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:亦何ぞ令名の彰れざるを憂へんや。
現代語訳:よい評判が世に知られないことなど、どうして心配する必要があろうか、いや、ない。
C 内容の読み取り
「三横」に当たるものを三つ挙げよ。また、「而処尤劇」はその三つについてどのようなことを述べているか。
解答を見る
周処・蛟・虎。
三つの中でも、周処による害がいちばんひどかったということ。ある人が周処に虎を殺し蛟を斬るようすすめたのは、本当はどうなることを期待したからか。
解答を見る
周処と虎・蛟がたがいに戦って倒れ、三つの害のうち二つが消えて一つだけになること。
「更相慶」とあるが、村人たちは何を喜び合ったのか。
解答を見る
蛟だけでなく、いちばん迷惑な存在だった周処までが死んだと思い、そのことを喜び合った。
周処が「有自改意」となったのは、何を知ったからか。
解答を見る
自分の死を村人たちが喜び合っていたことから、自分がそれほど人々に嫌われ、悩みの種となっていたと気づいたから。
陸雲は「古人貴朝聞夕死」という言葉を引いて、周処を何と励ましたのか。
解答を見る
死の直前でも道を知ることには価値があるのだから、まだ先の長い周処が今から自分を改めるのに遅すぎることはない、と励ました。
陸雲は、名声が上がることよりも何を大切だと説いたか。
解答を見る
まず志をしっかり立てること。