『世説新語』「三横」の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。
「三横」は、若いころ村人から恐れられていた周処が、自分の過ちに気づき、行いを改めていく物語です。
『三横』のあらすじ
若いころの周処は、乱暴ではあるものの男気のある人物で、村人たちから厄介者として恐れられていました。
義興には、ほかにも水中の蛟と山中の虎が人々に危害を加えていました。村人たちは周処・蛟・虎の三つをまとめて「三横」と呼んでいました。
そこで、ある人が周処に虎と蛟を退治するよう勧めます。本当の狙いは、三横どうしを戦わせて、その数を少しでも減らすことでした。
周処は虎を倒し、続いて水中で蛟と三日三晩にわたって戦います。村人たちは周処も蛟も死んだと思い、互いに喜び合いました。
しかし周処は蛟を倒して生還します。そして、自分が死んだと思って村人たちが喜んでいることを知り、自分が人々からどれほど嫌われていたのかを初めて悟ります。
周処は自分を改めようと決意し、陸機・陸雲を訪ねます。そこで陸雲から「大切なのは、遅すぎたと嘆くことではなく、志を立てることだ」と励まされます。
その後、周処は行いを改め、努力を重ね、最後には忠臣・孝子となりました。
『三横』書き下し文・現代語訳・解説
周処年少時、兇彊俠気、為郷里所患。
周処年少き時、兇彊俠気にして、郷里の患ふる所と為る。
周処は若いころ、乱暴で気が強く男気があって、村の人々から厄介に思われていた。
・年少…年若い。
・兇彊…気性が荒く、強暴であること。
・俠気…男気。弱い者を助けようとする気性。
・郷里…村里。故郷の人々。
為A所B「AのBする所と為る」
意味:AにBされる。 受身の形。
「為郷里所患」
=「郷里の患ふる所と為る」
=村人たちに厄介者と思われる。
又義興水中有蛟、山中有邅跡虎、並皆暴犯百姓。
又義興の水中に蛟有り、山中に邅跡の虎有り、並びに皆百姓を暴犯す。
また、義興の川には蛟が住み、山には人々を脅かす虎がいて、どちらも住民たちに危害を加えていた。
・義興…周処の故郷。
・蛟…水中に住むとされた竜の一種。みずち。
・邅跡…うろつき回ること。
・百姓「ひゃくせい」…人民、一般の人々。
・暴犯…乱暴に危害を加える。
義興人謂為三横。而処尤劇。
義興の人謂ひて三横と為す。而して処尤も劇し。
義興の人々は、周処・蛟・虎を「三つの横暴なもの」と呼んでいた。そして、その中でも周処の害が最もひどかった。
・三横…周処・蛟・虎の三つの厄介な存在。
・尤も劇し…最もひどい。最も激しい。
「三横」は何を指す?
答えは、周処・蛟・虎の三つです。
しかも「而処尤劇」とあるため、人々にとっては蛟や虎よりも、周処の方が迷惑な存在だったことがわかります。
或説処殺虎斬蛟。実冀三横唯余其一。
或ひと処に説きて虎を殺し蛟を斬らしむ。実は三横唯だ其の一を余さんことを冀ふ。
ある人が周処を説得し、虎を殺し、さらに蛟も退治するよう仕向けた。しかし本当のところ、その人は三横を互いに戦わせ、せめて一つだけに減らしたいと願っていたのである。
・或…ある人
・説 A B…「Aに説きてBしむ」Aを説得して、Bさせる。
・実…実は、本当は。
・冀…願う、望む。
・唯…ただ。
ある人の本当の狙い
表面上は「周処に虎と蛟を退治してもらおう」という提案です。
しかし本当の狙いは、周処・虎・蛟という三つの厄介者を戦わせ、少なくとも二つを消して、一つだけに減らすことでした。
つまり村人にとって、周処自身も退治したい「害」の一つだったのです。
処即刺殺虎、又入水撃蛟。
処即ち虎を刺殺し、又水に入りて蛟を撃つ。
周処はすぐに虎を刺し殺し、さらに水の中へ入って蛟に立ち向かった。
・即…すぐに、そのまま。
蛟或浮或没、行数十里、処与之倶、経三日三夜。
蛟或いは浮き或いは没し、行くこと数十里、処之と倶にし、三日三夜を経たり。
蛟は水面に浮かんだり沈んだりしながら数十里も進み、周処もそれを追い続け、戦いは三日三晩に及んだ。
・或A或B…AしたりBしたりする。
・之…蛟。
・倶…ともに。
郷里皆謂已死、更相慶。
郷里皆已に死せりと謂ひ、更相慶ぶ。
村人たちは、周処も蛟もすでに死んだものと思い、互いに喜び合った。
・已…「すでニ」。すでに。
・更相…「こもごも」。互いに、代わる代わる。
・慶…喜ぶ、祝う。
竟殺蛟而出。
竟に蛟を殺して出づ。
ところが周処は、とうとう蛟を倒し、水の中から戻ってきた。
・竟「つひニ」…結局、とうとう。
聞里人相慶、始知為人情所患、有自改意。
里人相慶ぶを聞き、始めて人情の患ふる所と為るを知り、自ら改むるの意有り。
周処は村人たちが互いに喜んでいることを知り、そこで初めて、自分が人々からどれほど迷惑な存在と思われていたのかを悟った。そして、自分の行いを改めようという気持ちを持つようになった。
・聞・知…主語は周処。
・人情…人々の心。
・自改…自分の行いを改める。
乃入呉尋二陸。平原不在、正見清河。
乃ち呉に入りて二陸を尋ぬ。平原在らず、正に清河に見ゆ。
そこで周処は呉へ行き、陸機と陸雲の兄弟を訪ねた。陸機は不在だったため、ちょうど陸雲に会うことができた。
・乃…「すなはチ」。そこで。
・二陸…陸機と陸雲の兄弟。
・平原…陸機。
・清河…陸雲。
・見「まみユ」…身分の高い人にお目にかかる。
具以情告、并云、「欲自修改而年已蹉跎。終無所成。」
具に情を以て告げ、并せて云ふ、「自ら修改せんと欲するも年已に蹉跎す。終に成す所無からん。」と。
周処はこれまでの事情を陸雲に詳しく話し、さらに、「自分の身を修め、これまでの行いを改めたいと思っています。しかし、もう年齢を重ねて機会を逃してしまいました。今からでは結局、何も成し遂げられないのではないでしょうか。」と語った。
・具「つぶさニ」…詳しく、すべて。
・情…ここでは、周処が村人に嫌われていたことを知り、自分を改めようと考えるに至った事情。
・修改…自分を修め、行いを改める。
・蹉跎…時機を逃すこと。
・終…ここでは「結局」。
・無所成…成し遂げるものがない。何も成し遂げられない。
周処は何を不安に思っているのか
周処は「自分を変えたい」と決意したものの、今からでは遅すぎるのではないかと心配しています。
その不安に対して、次に陸雲が重要な助言をします。
清河曰、「古人貴朝聞夕死。況君前途尚可。
清河曰はく、「古人朝に聞きて夕べに死するを貴ぶ。況んや君の前途尚ほ可なるをや。
陸雲は言った。「昔の人は、朝に正しい道を聞くことができたなら、その日の夕方に死んでもよいと考えたものです。ましてあなたには、これから先、学び努力する時間がまだ十分にあるではありませんか。」
・清河…陸雲。
・朝…「あしたニ」。朝に。
・朝聞夕死…朝に正しい道を聞くことができれば、その日の夕方に死んでもよい。
・況~乎「況んや~をや」…まして~ならなおさらだ。
・前途…これから先。将来。
・尚可…まだ十分に可能である。
「況君前途尚可」が伝えること
「朝に道を聞けたなら、その日の夕方に死んでもよい」と言われるほど、正しい道を学ぶことに遅すぎるということはない。
まして周処にはまだ将来が残っています。
したがって陸雲は、今からでも決して遅くない。これから努力すればよいと励ましているのです。
『論語』との関係
「古人貴朝聞夕死」は、『論語』の「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」を踏まえています。
正しい道を知ることには、それほど大きな価値があるという意味です。
且人患志之不立。亦何憂令名不彰邪。」
且つ人は志の立たざるを患ふ。亦何ぞ令名の彰れざるを憂へんや。」と。
「それに、人が本当に心配すべきなのは、確かな志を持てないことです。きちんと志を立てることができたのなら、どうして立派な評判が世間に知られないことなど心配する必要があるでしょうか。いや、その必要はありません。」
・且…そのうえ、さらに。
・患…心配する。
・志…自分が進むべき方向についての決意、目標。
・令名…よい評判、立派な名声。
・彰…世に明らかになる。
何~邪「何ぞ~んや」
反語。「どうして~だろうか、いや~ではない」という意味。
「亦何憂令名不彰邪」
=どうしてよい評判が世に知られないことを心配する必要があろうか。いや、その必要はない。
陸雲が最も大切だと言っていること
陸雲は「有名になれるか」「よい評判を得られるか」よりも、まず志をしっかり立てることが大切だと言っています。
周処は「もう年齢的に遅すぎて何も成し遂げられないのでは」と心配しました。
しかし陸雲は、いつ始めるかよりも、今ここで正しい志を持ち、行動を始めることが重要だと教えたのです。
処遂改励、終為忠臣孝子。
処遂に改励し、終に忠臣孝子と為る。
こうして周処は自分の行いを改めて努力を重ね、最後には忠義に厚い家臣、親孝行な子として立派な人物になった。
・遂「つひニ」…こうして、そのまま。
・改励…行いを改め、励む。
・終「つひニ」…最後には。
・忠臣…主君に忠義を尽くす家臣。
・孝子…親孝行な子。
『三横』テスト予想問題
問1 「三横」とは何を指すか。三つ答えよ。
問2 「百姓」の本文中での意味を答えよ。
問3 「為郷里所患」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
現代語訳:村人たちから厄介に思われていた。