鄒忌修八尺有余、身体昳麗~
鄒忌修八尺有余、身体昳麗。
鄒忌修八尺有余にして、身体昳麗なり。
鄒忌は丈一八〇センチメートル余りあり(大男で)、容姿が美しい。
朝服衣冠窺鏡、謂其妻曰、
朝服衣冠して鏡を窺ひ、其の妻に謂ひて曰はく、
朝廷に出仕するときの正式な服装を整え、鏡をのぞき込み、その(鄒忌の)妻に言うことには
「我孰与城北徐公美。」
「我は城北の徐公の美に孰与れぞ。」と。
「私は城の北側の徐行の美しさと比べてどうか(どちらが美しいか)。」と。
○孰与 A…「Aに孰与れぞ…Aと比べてどちらが~か」。
其妻曰、「君美甚。徐公何能及君也。」
其の妻曰はく、「君の美なること甚だし。徐公何ぞ能く君に及ばんや。」と。
その妻は、「あなたの美しさがまさっています。徐公はどうしてあなたに及ぶことができるでしょうか、いやできません。」
甚…「はなはだし…はなはだしい、程度が高い」
何…「なんゾ…」。ここでは「なんゾ~ンや」と読み、反語になる。
能…「よク…~できる」
○鄒忌の妻は、比べようがないほど鄒忌の方が徐公よりも美しいと言った。
城北徐公、斉国之美麗者也。
城北の徐公は、斉国の美麗なる者なり。
城の北側の徐公とは、斉国の中であでやかで美しい者であった。
忌不自信、而復問其妾曰、「吾孰与徐公美。」妾曰、「徐公何能及君也。」
忌自ら信ぜずして、復た其の妾に問ひて日はく、「吾は徐公の美に孰与れぞ。」と。妾日はく、「徐公何ぞ能く君に及ばんや。」と。
鄒忌は自分で(妻の答えが)信じられなくて、自分の側室に尋ねて言うことには、「私は徐公と比べてどちらが美しいか。」と。側室が言うことには「徐公はどうしてあなたに及ぶことができるでしょうか、いやできません。」と。
自…ここでは「みづかラ…自分で」。他に「よリ」「おのづカラ」などの読みがある。
妾…側室、愛人
○鄒忌は妻の言うことが信じられず、側室にも尋ねたが、側室も鄒忌の方が美しいと言った。
旦日客従外来、与坐談。
旦日客外より来たり、与に坐談す。
翌日訪問客が外から来て、一緒に雑談をした。
旦日…翌朝
従…「よリ」と読む。
与…ここでは「ともニ」と読む。
問之客曰、「吾与徐公孰美。」
之に問ひて日はく、「吾と徐公と孰れか美なる。」と。
(鄒忌は)この客に尋ねて、「私と徐公とどちらが美しいか。」と言った。
与…ここでは「と」と読む。
○孰A…「いづレカA…どちらがAか」。「孰」は「たれカ…誰が」「たれヲカ…誰を」「いづレカ…どちらが」などの用法がある。
客曰、「徐公不若君之美也。」
客日はく、「徐公は君の美なるに若かざるなり。」と。
客が言うことには、「徐公はあなた(鄒忌)の美しさには及ばない。」と。
○不若A…「Aに若かず…Aに及ばない」。「不如」も同様。
※否定のつかない「若A」「如A」は「Aのごとし…Aのようだ」。これに否定がつくと「Aのようでない」→「Aに及ばない」という意味になる。
○鄒忌は客にも尋ねたが、客も鄒忌の方が美しいといった。
明日徐公来。~
明日徐公来。
明日徐公来たる。
明くる日徐公がやって来た。
孰視之、自以為不如。
之を孰視し、自ら以為へらく如かずと。
(鄒忌は)これ(徐公)をじっと見つめ、(徐公の美しさには)及ばないと自分で思った。
之…徐公を指す。
○以為A…「以為へらくA…Aだと思う」。「以てAと為す」と読む場合もある。
不如…下に「徐公」が省略されている。
窺鏡而自視、又弗如遠甚。
鏡を窺ひて自ら視るに、又如かざること遠く甚だし。
鏡をのぞき込み自分で見つめてみると、それはまた及ばないことは、非常にはなはだしい。
「弗=不」
暮寝而思之曰、
暮れに寝ねて之を思ひて日はく、
(鄒忌は)夕暮れ時に寝てこのことを考えて、
「吾妻之美我者、私我也。
「吾が妻の我を美とするは、我に私すればなり。
「私の妻が私を(徐公より)美しいとしたのは、私をえこひいきしたからである。
者…「は」と読んで、「~ことは、~のは」の意味。「もの」と読む場合もある。
私…えこひいきする。
妾之美我者、畏我也。
妾の我を美とするは、我を畏るればなり。
側室が私を美しいとしたのは、私を恐れたからである。
客之美我者、欲有求於我也。」
客の我を美とするは、我に求むる有らんと欲すればなり。」と。
訪問客が私を美しいとしたのは、私に何か請い求めようとすることがあったからであると」言った。
○実際は徐公の方が美しいが、三人ともそれぞれの理由でうそをついて、鄒忌の方が美しいと言ったと気づいた。
於是入朝見威王曰、
是に於いて入朝して、威王に見えて日はく、
そこで(鄒忌は)朝廷に出仕して、威王にお目にかかって言うことには
お是…「是に於いて…そこで」
見…「まみユ」と読んだ場合は謙譲語で「お目にかかる」の意味。
「臣誠知不如徐公美。
「臣は誠に徐公の美に如かざるを知れり。
「私は本当に徐公の美しさには及ばないことを理解しています。
臣…私。君主に対する臣下の自称。
臣之妻私臣、臣之妾畏臣、臣之客欲有求於臣、皆以美於徐公。
臣の妻は臣に私し、臣の妾は臣を畏れ、臣の客は臣に求むる有らんと欲し、皆以て徐公よりも美なりとす。
私の妻は私をえこひいきし、私の側室は私を恐れ、私の訪問客は私に請い求めようとすることがあり、みな(私を)徐公よりも美しいと言いました。
○「A於B」…比較「Bより(も)A」。
美於徐公…徐公よりも美しい。
※「A於B」は他にも「BにA」「BをA」「BよりA」などいくつかの読み方がある。
今斉地方千里、百二十城。
今斉の地方千里、百二十城あり。
今、斉の領地は千里四方の広さ、百二十もの城郭に囲まれた町があります。
城…城壁に囲まれた都市、町。日本で言う城ではないので注意。
宮婦・左右、莫不私王、朝廷之臣、莫不畏王、四境之内、莫不有求於王。
宮婦・左右は、王に私せざる莫く、朝廷の臣は、臣を畏れざる莫く、四境の内は王に求むる有らざる莫し。
宮仕えしている女性・王の側近の部下は、王をえこひいきしないものはなく、朝廷の臣下は、王を恐れないものはなく、国中では王に請い求めることがないものはいません。
左右…側近の部下。
○莫不A…「Aせざるは莫し…Aしないものはいない(みんなAする)」
四境…国中
由此観之、王之蔽甚矣。」
此れに由りて之を観れば、王の蔽はるること甚だし。」と
以上のことからこれを考えてみますと、王(の目)はひどく覆いふさがれていることになります。」と
由此観之…「此れに由りて之を観れば…以上のことからこれを考えると」
○王之蔽甚矣…王をえこひいきしたり、恐れたり、請い求めることがあったりして、皆真実を告げないので、威王は国の真実が分からなくなっているということ。
王曰、「善。」乃下令。~
王曰、「善。」乃下令。
王日はく、「善し。」と。乃ち令を下す。
威王は、「なるほど。」と言った。そこで政令を国中に発布した。
「群臣・吏民能面刺寡人之過者、受上賞。
「群臣・吏民の能く面えて寡人の過ちを剌る者は、上賞を受けん。
「多くの臣下・官吏と庶民で面と向かって私の過失を悪く言えた者は、最上の賞を受けるだろう(与えよう)。
刺…批判する、悪く言う
寡人…私。君主の自称。
過…間違い、過失。
上書諫寡人者、受中賞。
上書して寡人を諫むる者は、中賞を受けん。
私に文を奉り、私を諫めた者は、中等の賞を与えよう。
諫…諫める。意見、忠告する。
能謗議於市朝、聞寡人之耳者、受下賞。」
能く市朝に謗譏して、寡人の耳に聞こえしむる者は、下賞を受けん。」と。
公の場で(私を)非難ことができて、(その非難を)私の耳に聞こえさせた者は、下等の賞を与えよう。」と。
謗譏…非難する、そしる
令初下。群臣進諫、門庭若市。
令初めて下る。群臣進み諫めて、門庭市のごとし。
この政令が初めて下された。多くの臣下が進言し諌めて、官門の入り口や広場はまるで市場のようだった。
〇若市…市場のように、人が多くいること。
数月之後、時時而間進、期年之後、雖欲言、無可進者。
数月の後、時時にして間に進み、期年の後、言はんと欲すと雖も、進むべき者無し。
数か月ののちには、時折進言する者がいるくらいになり、一年の後には、(何か)言おうとしても、進言しなければならないことがなくなった。
時時…時折、まれに
期年…一年
○雖A…「Aと雖も…Aても、としても」
○無可進者…悪い部分はすべて指摘されてしまい、もう進言するべきことが無くなった。
燕・趙・韓・魏、聞之皆朝於斉。
燕・趙・韓・魏之を聞きて皆斉に朝す。
燕・趙・韓・魏の国は、このことを聞いて(斉を畏れて)、みな斉の国に謁見するようになった。
此所謂戦勝於朝廷。
此れ所謂戦ひ朝廷に勝てるなり。
これこそ世間で言う、朝廷に居ながらにして(他国との)戦いに勝ったということである。
所謂…いわゆる
○斉国は戦争・軍事力ではなく、政策によって他国よりも優位に立ったということ。