『新死鬼』の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。
ここでいう「鬼(き)」は、死者の霊・幽霊のことです。日本の昔話に出てくる「おに」とはイメージが異なります。
『新死鬼』本文解説
有新死鬼。形疲痩頓。
新たに死せる鬼有り。形は疲れ痩頓す。
死んだばかりの幽霊がいた。その姿は疲れ、痩せ衰えていた。
・新死鬼…死んだばかりの幽霊。
・痩頓…痩せ衰れる。
忽見生時友人。死及二十年、肥健。相問訊。
忽ち生時の友人を見る。死して二十年に及ぶも、肥健なり。相問訊す。
思いがけず、生前の友人に会った。死んで二十年になるが、肥えて健康であった。互いに事情を尋ね合った。
・忽…「たちまチ」急に、突然。
・相…互いに
曰、「卿那爾。」曰、「吾飢餓、殆不自任。卿知諸方便。故当以法見教。」
曰はく、「卿は那ぞ爾るか。」と。曰はく、「吾は飢餓して殆ど自ら任へず。卿は諸の方便を知る。故に当に法を以つて教へらるべし。」と。
(友人が)言うことには「あなたはどうしてそんな姿なのか。」と。(新死鬼が)言うことには「私は腹が減って、もう我慢できないほどである。あなたはいろいろな方法を知っている。だから、(食べ物を得る)方法を教えてください。」と。
・卿…あなた、おまえ。
・殆…「ほとんド」ほとんど、~に近い
当以法見教
・当…再読文字「まさニ~べし」当然~べきだ。
・見~…「~らル」(受身)~れる。
当然私は君に食べ物を得る方法を教えられるはずだ→方法を教えてください。
友鬼云、「此甚易耳。但為人作怪。人必大怖、当与卿食。」
友の鬼云ふ、「此れ甚だ易きのみ。但だ人の為に怪を作せ。人必ず大いに怖れ、当に卿に食を与ふべし。」と。
友人の幽霊が言うことには「それはとても簡単なことだ。ただ人に怪しいことをすればよい。人はきっととても怖がって、おまえに食べ物を与えるだろう。」と。
友人の鬼が教えた「法」
人間に怪異を見せる → 人間が怖がる → 食べ物を供えてくれる
一軒目――仏教を信じる家
新鬼往、入大墟東頭。有一家、奉仏精進。屋西廂有磨。
新鬼往きて大墟の東頭に入る。一家有り、仏を奉じて精進す。屋の西廂に磨有り。
新死鬼は大きな村の東の端に行った。ある家があって、仏教を信奉していた。家の西側には、ひきうすがあった。
鬼就推此磨、如人推法。此家主語子弟曰、「仏憐吾家貧、令鬼推磨。」
鬼就きて此の磨を推し、人の推す法のごとくす。此の家の主人、子弟に語りて曰はく、「仏、吾が家の貧しきを憐れみて、鬼をして磨を推さしむ。」と。
幽霊は近づいてこのひきうすを動かし、人がうすを動かすようにした。家の主人は若者たちに語って言うことには「仏さまが我が家の貧しさを憐れんで、幽霊にうすをひかせている。」と。
・就…近づく
令A~…「Aをして~しむ」 (使役)Aに~させる
「令鬼推磨」=「鬼をして磨を推さしむ」=「幽霊にうすをひかせる」。
○新死鬼は「怪異を見せて怖がらせよう」とした。しかし家の主人は怖がらず、「仏が貧しい自分たちを助けるために幽霊をよこしてくれた」と好意的に解釈した。
乃輦麦与之。至夕磨数斛。疲頓乃去。
乃ち麦を輦びて之に与ふ。夕べに至るまで数斛を磨く。疲頓して乃ち去る。
そこで麦を運んで、うすに入れた。夕方になるまで大量の麦をひいた。幽霊は疲れ果てて去った。
・「与之」の「之」…幽霊のひいているうすを指す。
○一軒目の結果――食べ物をもらうどころか、夕方まで働かされてしまった。
遂罵友鬼、「卿那誑我。」又曰、「但復去。自当得也。」
遂に友の鬼を罵り、「卿は那ぞ我を誑かすか。」と。又た曰はく、「但だ復た去け。自づから当に得べきなり。」と。
そこで友人を罵って、「おまえはどうして私をだましたのか。」と言った。友人は、「ただもう一度行ってみろ。きっと食べ物を手に入れることができる。」と言った。
二軒目――道教を信じる家
復従墟西頭入一家。家奉道。門傍有碓。此鬼便上碓、如人舂状。
復た墟の西頭より一家に入る。家、道を奉ず。門の傍らに碓有り。此の鬼便ち碓に上りて、人の舂く状のごとくす。
再び村の西の端からある家に入った。その家は道教を信奉していた。門のそばにつきうすがあった。この鬼はすぐにうすに登って、人がうすをつくようにした。
・便…「すなはチ」すぐに
此人言、「昨日鬼助某甲。今復来助吾。可輦穀与之。」又給婢簸篩、至夕力疲甚、不与鬼食。
此の人言ふ、「昨日鬼某甲を助く。今復た来たりて吾を助く。穀を輦びて之に与ふべし。」と。又た婢に簸篩を給し、夕べに至るまで力め疲るること甚だしきも、鬼に食を与へず。
家の人が言うことには、「昨日、幽霊がある家を助けたという。今度は私たちを助けている。穀物を運んで、うすに追加しなさい。」と。そして下女にみとふるいを渡し、夕方になるまで力をいれて非常に疲れたが、食べ物を与えなかった。
・某甲…誰それ。ここでは前日に新死鬼が訪れた一軒目の家を指す。
・婢…下女、雑用をする女性。
・簸篩…「み」と「ふるい」。穀と実を分ける道具。
○二軒目も一軒目と同じ。家の人は幽霊を怖がらず、「自分たちを手伝ってくれる存在」だと考えたため、新死鬼はまた働かされただけだった。
鬼暮帰、大怒曰、「吾自与卿為婚姻、非他比。如何見欺。二日助人、不得一甌飲食。」
鬼、暮れに帰り、大いに怒りて曰はく、「吾れ卿と婚姻を為してより、他の比に非ず。如何ぞ欺かるるか。二日人を助くるも、一甌の飲食をも得ず。」と。
鬼は暮れに帰り、ひどく怒って言うことには、「私はあなたと縁戚関係になってから、他人とは比べものにならない(ほど親しくしてきた)。どうして私はだまされるのか。二日人を助けたが、一杯の食べ物も得られない。」と。
・非他比…他人とは比較にならないほど親しい仲である。
・如何…「いかん」どうして
友鬼曰、「卿自不偶耳。此二家奉仏事道、情自難動。
友の鬼曰はく、「卿は自づから偶はざるのみ。此の二家は仏を奉じ道に事ふ。情自づから動かし難し。
友人の幽霊は言うことには「あなたは、たまたまよい家に会わなかっただけである。この二つの家は仏教や道教を信奉している。感情を動かすことが難しいのだ。
○一軒目と二軒目が失敗した理由は、家の人が仏教・道教を信仰していて、怪異をそのまま恐ろしいものとして受け取らなかったから。
今去、可覓百姓家作怪。則無不得。」
今去きて、百姓の家を覓め怪を作すべし。則ち得ざること無からん。」と。
今度は、庶民の家を探して怪しいことをしてみなさい。そうすれば、食べ物を手に得られないことはないだろう。」と。
・百姓…ここでは普通の庶民。読みは「ひゃくせい」。
無不得…(二重否定)~ないことはない
「得ざること無し」=「手に入れられないことはない」→必ず手に入る。
三軒目――普通の庶民の家
鬼復去、得一家。門首有竹竿。従門入、見有一群女子、窓前共食。
鬼復た去きて、一家を得。門首に竹竿有り。門より入るに、一群の女子有りて、窓前に共に食らふを見る。
鬼はまた出かけて、ある家を見つけた。門の上には竹竿があった。門から入ると、何人かの娘たちが窓の前で一緒に食事をしているのを見た。
至庭中、有一白狗、便抱令空中行。其家見之大驚、言、「自来未有此怪。」
庭中に至るに、一つの白狗有り、便ち抱きて空中に行かしむ。其の家之を見て大いに驚きて言ふ、「自来、未だ此の怪有らず。」と。
庭に入ると一匹の白い犬がいて、鬼はすぐに犬を抱いて空中を歩かせた。その家の人はこれを見て非常に驚いて言うことには「これまでこんな怪しいことは起こったことがない。」と。
○三軒目で起こした「怪」は、白い犬を抱いて空中を歩かせたこと。ここで初めて、家の人が本当に怖がった。
占云、「有客鬼索食。可殺狗、並甘果酒飯、于庭中祀之、可得無他。」
占ひて云ふ、「客鬼の食を索むる有り。狗を殺すべし。並びに甘果・酒飯もて庭中に于いて之を祀らば、他無きを得べし。」と。
祈禱師が占って言うことには「まつってくれる人のいない幽霊が食べ物を求めている。犬を殺しなさい。そして甘い果物・酒・飯を庭に供えて幽霊をまつれば、他の怪異は起こらないだろう。」と。
・可得無他…他の怪異は起こらないだろう。「可得」で「~できる」
其家如師言。鬼果大得食。
其の家、師の言のごとくす。鬼果たして大いに食を得たり。
その家は祈禱師の言うとおりにした。鬼は、友人の言ったとおり、たくさんの食べ物を手に入れた。
・果…「はタシテ」いった通り、予想通り
自此後恒作怪、友鬼之教也。
此れより後、恒に怪を作すは、友の鬼の教へなり。
これ以後、いつも怪異を起こすのは、友人の幽霊の教えによるものである。
最初の二軒は仏教・道教を信仰していたため、幽霊の怪異を恐れず、むしろ「神仏が助けてくれている」と受け取った。
三軒目では、白い犬が空中を歩くという出来事をそのまま恐ろしい怪異として受け止めたため、幽霊に食べ物を供えた。
『新死鬼』予想問題
問1 「卿那爾。」の「爾」は何を指すか。
問2 「当以法見教。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】どうかその方法を教えてもらいたい。
問3 友人の鬼が新死鬼に教えた「法」とは、どのような方法か。
問4 「仏憐吾家貧、令鬼推磨。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】仏さまが我が家の貧しさを憐れんで、幽霊にうすをひかせてくださっている。
問5 一軒目と二軒目で、新死鬼が食べ物を手に入れられなかったのはなぜか。
問6 「今去、可覓百姓家作怪。則無不得。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】今度は普通の家を探して怪異を起こしなさい。そうすれば食べ物を手に入れられないことはないだろう。