『郁離子』「天下貴大同」書き下し文・現代語訳・解説|重要句法・テスト予想問題

目次
  1. 第一段落|異民族の三つの習慣(原文・書き下し文・現代語訳)
  2. 三つの例を整理しよう
  3. 第二段落|郁離子の主張(原文・書き下し文・現代語訳)
  4. 九組の対比を表で確認しよう
  5. 文章全体のまとめ
  6. 『天下貴大同』テスト予想問題

明の劉基が著したとされる『郁離子』の一節「天下貴大同」(天下は大同を貴ぶ)の、原文・書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・テスト対策を解説します。

前半では、海辺や辺境に暮らす異民族の風変わりな習慣が三つ紹介されます。後半では、その話が世の中のありふれた姿に重ねられ、「自分の見聞だけが正しい」と思い込む危うさが語られます。

第一段落|異民族の三つの習慣(原文・書き下し文・現代語訳)

本文(訓読文)

白文海島之夷人好腥、得蝦・蟹・螺・蛤皆生食之。

書き下し海島(かいたう)の夷人(いじん)は腥(せい)を好(この)み、蝦(えび)・蟹(かに)・螺(ら)・蛤(かふ)を得れば皆(みな)之(これ)を生食(せいしよく)す。

現代語訳海に浮かぶ島の異民族は、生臭いものを好み、エビ・カニ・巻貝・二枚貝が手に入ると、どれも生のまま食べる。

夷人
異民族。中国から見た呼び方。
腥
「せい」。生臭いもの。ここでは生の魚介類。
螺
「ら」。巻貝。
蛤
「かふ」(現代仮名遣いでは「こう」)。二枚貝(はまぐり)。

白文以食客、不食則咻焉。

書き下し以(もつ)て客(かく)に食(くら)はしめ、食(くら)はざれば則(すなは)ち咻(きう)す。

現代語訳そして、それを客にもふるまい、客が口にしないと、やかましく騒ぎ立てる。

咻
やかましく言い立てる。
焉
置き字。文末の語調を整える。

白文裸壌之国不衣、見冠裳則駭、反而走以避。

書き下し裸壌(らじやう)の国(くに)は衣(ころも)せず、冠裳(くわんしやう)を見(み)れば則(すなは)ち駭(おどろ)き、反(かへ)りて走(はし)りて以(もつ)て避(さ)く。

現代語訳裸壌の国では人々が衣服を着ず、冠や礼服を身につけた人を見ると、びっくりして背を向け、走って逃げてしまう。

裸壌
衣服を身につけない人々が住む土地。
衣
「ころも」と読む(教科書の読み)。ここでは動詞で、衣服を着る。
冠裳
冠と裳(もすそ)。中国風の礼装のこと。
駭
「おどろク」。驚く。

白文五渓之蛮羞蜜蝍而珍桂蠹。

書き下し五渓(ごけい)の蛮(ばん)は蜜蝍(みつしよく)を羞(すす)めて桂蠹(けいと)を珍(ちん)とす。

現代語訳五渓の蛮族は、蜜で育てた鼠の子をご馳走としてすすめ、桂の木につく虫を貴重な食べ物として大切にする。

五渓
地名。中国南方の山間部に住む異民族の土地を指す。
蛮
異民族。「夷」と同じく、中国から見た呼び方。
蜜蝍
蜜で育てた鼠の子。食用にする。
羞
「すすム」。食物をすすめる。
桂蠹
桂(肉桂)の木に寄生する虫。
珍
「珍とす」。珍しく貴重なものとして大切にする。

白文貢以為方物、不受則疑以逖。

書き下し貢(みつ)ぎて以(もつ)て方物(はうぶつ)と為(な)し、受(う)けざれば則(すなは)ち疑(うたが)ひて以(もつ)て逖(とほ)ざく。

現代語訳それらを(中国の朝廷に)貢ぎ物として差し出し、土地の名産品とする。受け取ってもらえないと、不審に思い、相手を遠ざけてしまう。

貢
「みつグ」。貢ぎ物として献上する。
方物
その土地の産物。土産物。
疑
「うたがフ」。怪しむ。
逖
「とほザク」。遠ざける。

三つの例を整理しよう

誰が 自分たちの習慣 自分たちと違う相手への反応
海島の夷人 生の魚介類を好んで食べる(客にもすすめる) 客が食べないと、やかましく騒ぎ立てる
裸壌の国 衣服を着ない 冠裳姿の人を見て、驚いて逃げ出す
五渓の蛮 蜜蝍・桂蠹を珍重し、貢ぎ物にする 受け取られないと、疑って遠ざける

第二段落|郁離子の主張(原文・書き下し文・現代語訳)

本文(訓読文)

白文郁離子曰、「世之抱一隅之聞見者、何莫非是哉。

書き下し郁離子(いくりし)曰(い)はく、「世(よ)の一隅(いちぐう)の聞見(ぶんけん)を抱(いだ)く者(もの)は、何(なん)ぞ是(これ)に非(あら)ざること莫(な)きや。

現代語訳郁離子は言った。「世の中で、狭い範囲の見聞にとらわれている者は、なんと(この異民族たちと)同じであることか。

郁離子
語り手の名。作者の考えを代弁する人物。
一隅
ひとすみ。ごく限られた範囲・一部分。
聞見
見聞。見たり聞いたりして得た知識。
是
第一段落の異民族の姿(自分と違うものを遠ざけること)を指す。

白文是故衆酔悪醒、衆貪悪廉、衆淫悪貞、衆汚悪潔、衆枉悪直、衆惰悪勤、衆佞悪忠、衆私悪公、衆嫚悪礼。

書き下し是(こ)の故(ゆゑ)に衆(しゆう)酔(ゑ)へば醒(さ)むるを悪(にく)み、衆貪(たん)なれば廉(れん)なるを悪み、衆淫(いん)なれば貞(てい)なるを悪み、衆汚(けが)るれば潔(きよ)きを悪み、衆枉(ま)がれば直(なほ)きを悪み、衆惰(おこた)れば勤(つと)むるを悪み、衆佞(ねい)なれば忠(ちゆう)なるを悪み、衆私(わたくし)なれば公(こう)なるを悪み、衆嫚(あなど)れば礼(れい)なるを悪む。

現代語訳こういうわけで、人々がそろって酔っていれば、ひとり醒めている者を疎み、みなが欲深ければ、私欲のない清廉な者を嫌い、みなが乱れていれば、操を守る者を憎み、みなが汚れていれば、潔白な者を忌み嫌い、みながねじ曲がっていれば、まっすぐな者をうとましく思い、みなが怠けていれば、勤勉な者を憎み、みなが媚びへつらっていれば、誠実な忠臣を嫌い、みなが私利私欲に走っていれば、公正な者を憎み、みなが無作法であれば、礼儀正しい者を疎んじる。

衆
大衆。世間の大多数の人々。
是故
「こノゆゑニ」。こういうわけで。
悪
「にくム」。憎む。

九組の対比を表で確認しよう

大衆の状態(衆~) 憎まれる者(悪~) 意味の対比
酔(よう) 醒(さめる) 道理を見失って正気でない ↔ 正気でいる
貪(たん) 廉(れん) 欲深い ↔ 私欲がなく清らか(清廉)
淫(いん) 貞(てい) みだら(特に男女の関係で乱れる)↔ 操を守る(貞節)
汚(けがれる) 潔(きよい) 心が汚れて不正をする ↔ 清らかで潔白
枉(まがる) 直(なほし) 道理を曲げる ↔ まっすぐで正しい
惰(おこたる) 勤(つとむ) 怠ける ↔ 勤勉
佞(ねい) 忠(ちゆう) こびへつらう ↔ 真心を尽くす
私(わたくし) 公(こう) 自分の利益だけを考える ↔ 全体のために公平
嫚(あなどる) 礼(れい) 無作法・無礼 ↔ 礼儀正しい

白文猶鴟鴞之見人而赫也。

書き下し猶(な)ほ鴟鴞(しけう)の人(ひと)を見(み)て赫(おど)すがごときなり。

現代語訳それは、ふくろうが人の姿を見かけて威嚇するのと同じようなものだ。

猶
再読文字。「なホ~ごとシ」。ちょうど~のようだ。
鴟鴞
ふくろう。ここでは不道徳な大衆のたとえ。
人
ここでは道徳的に正しい人のたとえ。
赫
「おどス」。威嚇する。

白文故中国以夷狄為寇、而夷狄亦以中国之師為寇。

書き下し故(ゆゑ)に中国(ちゆうごく)は夷狄(いてき)を以(もつ)て寇(こう)と為(な)して、夷狄(いてき)も亦(ま)た中国(ちゆうごく)の師(し)を以(もつ)て寇(こう)と為(な)す。

現代語訳だから、中国は異民族を外敵と見なして警戒し、異民族の側もまた、中国の軍隊を外敵と見なすのである。

故
「ゆゑニ」。だから。
中国
ここでは「中華」。文化の中心を自負する側(漢民族の国)。
夷狄
異民族。
寇
外から攻めてくる敵。かたき。
師
軍隊。
亦
「まタ」。~もまた。

白文必有能弁之者、是以天下貴大同也。」

書き下し必(かなら)ず能(よ)く之(これ)を弁(べん)ずる者(もの)有(あ)りて、是(ここ)を以(もつ)て天下(てんか)大同(たいどう)を貴(たふと)ぶなり。」と。

現代語訳(こうした偏りを)きちんと見分けられる人が、かならずいるものだ。そうした人がいるからこそ、世の中は「大同」(差別や対立のない調和)を貴ぶのである。」と。

必
「かならズ」。きっと。
能
「よク」。~できる。
之
ここまでに述べた偏り(狭い見聞のせいで、たがいを敵視してしまうこと)を指す。
弁
「べんズ」。見分ける。わきまえる。
是以
「ここヲもつテ」。だから。そのために。
天下
世の中。
貴
「たふとブ」。尊ぶ。重んじる。
大同
差別や対立がなく、広く調和していること。(参考)儒教で理想の社会を表す「大同」(『礼記』礼運)と同じ語です。

文章全体のまとめ

『天下貴大同』テスト予想問題

「解答を見る」を押すと答えが表示されます。まずは自分で書き下し文・現代語訳を作ってから確認しましょう。

A 書き下し文・現代語訳

  1. 「不食則咻焉」を書き下し文にし、主語を補って現代語訳せよ。

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    書き下し文:食らはざれば則ち咻す。
    現代語訳:(客が)食べないと、(夷人は)やかましく騒ぎ立てる。

  2. 「世之抱一隅之聞見者、何莫非是哉」を書き下し文にし、「是」の内容を明らかにして現代語訳せよ。

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    書き下し文:世の一隅の聞見を抱く者は、何ぞ是に非ざること莫きや。
    現代語訳:世の中で狭い見聞にとらわれている者は、自分と違う習慣を持つ者を遠ざける異民族となんと同じであることか。

  3. 「是故衆酔悪醒」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:是の故に衆酔へば醒むるを悪み、
    現代語訳:こういうわけで、人々がそろって酔っていれば、醒めている者を憎み、

  4. 「猶鴟鴞之見人而赫也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:猶ほ鴟鴞の人を見て赫すがごときなり。
    現代語訳:ちょうど、ふくろうが人の姿を見かけて威嚇するようなものである。

  5. 「必有能弁之者、是以天下貴大同也」を書き下し文にし、「之」の内容を明らかにして現代語訳せよ。

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    書き下し文:必ず能く之を弁ずる者有りて、是を以て天下大同を貴ぶなり。
    現代語訳:(狭い見聞のせいで、たがいを敵視してしまうという偏りを)見分けられる人が必ずいて、そのために世の中は大同を貴ぶのである。

B 句法・重要語

  1. 次の句法の読み方と意味を答えよ。
    ①何~哉
    ②莫非A
    ③以A為B
    ④猶A也

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    ①何ぞ~や/なんと~か
    ②Aに非ざること莫し/Aでないものはない
    ③Aを以てBと為す/AをBと見なす
    ④猶ほAのごとし/ちょうどAのようだ

  2. 「不食則咻焉」の「則」の読みと、ここでの意味を答えよ。

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    読み:すなわち 意味:「~すると(~すれば)」と、前の条件を受けてあとに続ける。

  3. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
    ①反而走(反)
    ②衆酔悪醒(悪)
    ③必有能弁之者(能)
    ④是以天下貴大同也(是以)
    ⑤中国之師(師)の意味

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    ①かえりて
    ②にくみ
    ③よく
    ④ここをもって
    ⑤軍隊

  4. 次の語の意味を答えよ。
    ①腥
    ②羞
    ③逖
    ④方物
    ⑤寇

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    ①生臭いもの(生の魚介類)
    ②(食物を)すすめる
    ③遠ざける
    ④その土地の産物(土産物)
    ⑤外から攻めてくる敵(かたき)

C 内容の読み取り

  1. 第一段落の三つの例(海島の夷人・裸壌の国・五渓の蛮)に共通する行動の特徴を説明せよ。

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    自分たちの習慣を基準にして、それに合わない相手に対し、騒ぎ立てる・逃げる・疑って遠ざけるなど、否定的な反応を示す。

  2. 「見冠裳則駭」とあるが、裸壌の国の人々が驚いたのはなぜか。

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    自分たちは衣服を着ない習慣なので、冠や礼服で身を包んだ姿が見慣れず、異様に感じたから。

  3. 「世之抱一隅之聞見者」とは、どのような人のことか。

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    ごく限られた範囲の見聞しかなく、自分の知っている範囲だけで物事を判断してしまう人。

  4. 「衆酔悪醒」から「衆嫚悪礼」までの九組は、全体として何を述べているか。

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    大衆が悪いほうへ傾いていると、正しい人のほうがかえって憎まれるということ。

  5. 「鴟鴞」と「人」は、それぞれ何をたとえているか。

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    鴟鴞…不道徳な大衆。人…道徳的に正しい人。

  6. 「中国以夷狄為寇、而夷狄亦以中国之師為寇」から、どのようなことが読み取れるか。

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    中国と夷狄は、たがいに相手のほうを敵と見なしているということ。

  7. 「必有能弁之者」の「能弁之者」とは、どのような人か。

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    自分の偏った見聞が、たがいの理解を妨げて対立を生むことを、見分けられる人。

  8. 「不食則咻焉」とあるが、客が食べないのはなぜか。また、海島の夷人がやかましく言い立てるのはなぜか。

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    客…生の魚介は気持ちが悪くて、食べられないから。夷人…せっかくすすめた生の魚介を客が食べないので、不満に思うから(自分たちの習慣を当然と思っているため)。

D 主題・記述

  1. この文章で筆者が最も言いたいことを説明せよ。

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    自分の見聞が限られていることを自覚し、異なる立場をたがいに理解し合うことが大切だ、ということ。

  2. 筆者が理想とする社会を説明せよ。

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    たがいの違いをわきまえ、偏見や差別なく調和して暮らす社会(大きな視野で道理をわきまえた指導者のもと、他国の異なる価値観も認める、公平で差別のない平和な世界)。

  3. 題名「天下貴大同」の「大同」とはどのようなことか。本文の内容をふまえて説明せよ。

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    たがいの違いをわきまえ、偏った見聞にとらわれずに理解し合い、大きく一つにまとまること。