諸葛亮(しょかつりょう)『出師表(すいしのひょう)』②の書き下し文・現代語訳・解説です。本文は『十八史略』によります。
①では、魏を討つ北伐に出発する諸葛亮が、蜀漢の皇帝劉禅(りゅうぜん)に、忠臣の諫言に耳を傾けること、公平な賞罰で政治を行うこと、賢臣を近づけ小人を遠ざけることを説きました。
書き下し文・現代語訳・解説
先帝との出会い
白文臣本布衣、躬耕南陽、苟全性命於乱世、不求聞達於諸侯。
書き下し臣は本布衣にして、躬ら南陽に耕し、苟くも性命を乱世に全うし、聞達を諸侯に求めず。
現代語訳私はもともと官位のない庶民で、自分で南陽の地を耕し、乱れた世の中でせめて命だけでも全うできればと思って、諸侯に仕えて名声や出世を求めようとはしませんでした。
- 臣
- 私。天子に対する臣下の自称。ここでは諸葛亮。
- 本
- 「もと」。もともと。
- 布衣
- 麻などの布で作った衣服。庶民の着る物から、官位のない庶民をいう。
- 躬
- 「みづかラ」。自分自身で。
- 南陽
- 地名。諸葛亮が住んでいた隆中という所を含む地域。
- 苟
- 「いやしクモ」。ここは、せめて~できればよい、の意。
- 性命
- 生命。いのち。
- 聞達
- 名声が世に知られ、高い地位に出世すること。
- 於
- 置き字。「乱世に」「諸侯に」の「に」にあたる。
白文先帝不以臣卑鄙、猥自枉屈、三顧臣於草廬之中、諮臣以当世之事。
書き下し先帝臣の卑鄙なるを以つてせず、猥りに自ら枉屈し、臣を草廬の中に三顧し、臣に諮るに当世の事を以つてす。
現代語訳(ところが)先帝は、私の身分が低いことを気になさらず、もったいなくもご自身からへりくだって、三度も私の粗末な住まいをお訪ねになり、今の世の情勢とその対策を私にご相談になりました。
- 先帝
- 亡くなった先代の皇帝。劉備。
- 不以臣卑鄙
- 私の身分が低いことを問題になさらない。
- 卑鄙
- 身分が低いこと。
- 猥
- 「みだリニ」。ここは、もったいなくも、かたじけなくも、の意。
- 枉屈
- (尊い身分を)曲げてかがめること。へりくだること。
- 三顧
- 三度訪ねる。「三」は実際の回数ではなく、何度も、の意とする説もある。
- 草廬
- 草ぶきの粗末な家。
- 諮
- 「はかル」。目上の人が目下の人に相談する。たずねる。
- 当世之事
- その時代の情勢と、それにどう対応するかということ。
白文由是感激、許先帝以駆馳。
書き下し是に由りて感激し、先帝に許すに駆馳を以つてす。
現代語訳私はこのことに心を動かされ、先帝のために力を尽くして働くことをお約束しました。
- 由是
- 「これニよリテ」。このことによって。「是」は、先帝が身分の低い自分をいとわず、へりくだって何度も訪ね、当世の事を相談してくれたこと(前の一文の内容)を指す。
- 許
- 承知する。約束する。
- 駆馳
- 馬を走らせること。転じて、人のためにかけまわって尽くすこと。
- 許先帝以駆馳
- 「駆馳を以つて先帝に許す」の順を入れかえ、「先帝に許す」を強めた言い方。
託された大事
白文先帝知臣謹慎、臨崩、寄以大事。
書き下し先帝臣の謹慎なるを知り、崩ずるに臨みて、寄するに大事を以つてす。
現代語訳先帝は、私が慎み深い者であると見ておられ、亡くなられる間際に、私に国家の大事業をお託しになりました。
- 謹慎
- 慎み深いこと。まじめで慎重なこと。
- 崩
- 「ほうズ」。天子が亡くなること。
- 寄
- まかせる。託す。
- 大事
- 天下を統一し、漢の王室を再興するという大事業。
白文受命以来、夙夜憂懼、恐付託不効、以傷先帝之明。
書き下し命を受けてより以来、夙夜憂懼し、付託の効あらずして、以つて先帝の明を傷はんことを恐る。
現代語訳そのご遺命を受けてからというもの、朝から晩まで思い悩み恐れて、託された務めの成果が上がらず、そのために先帝の人を見る目の確かさを傷つけてしまうのではないかと恐れてまいりました。
- 命
- 先帝劉備から諸葛亮への遺命。具体的には、あとの「興復漢室、還于旧都」。
- 夙夜
- 朝早くから夜遅くまで。一日中。
- 憂懼
- 心配し、恐れる。
- 付託
- 頼んで任せること。先帝から託されたこと。
- 効
- 成果。ききめ。
- 明
- 人物を見分ける目の確かさ。明察。
北伐の決意
白文故五月渡瀘、深入不毛。
書き下し故に五月瀘を渡り、深く不毛に入る。
現代語訳そこで五月には瀘水を渡り、草木も育たない未開の地に深く入りました。
- 故
- 「ゆゑニ」。そこで。だから。
- 瀘
- 瀘水。今の雲南省を流れる川。
- 不毛
- 草木の育たない荒れた土地。ここでは、蜀の南方の地を指す。
- ○二二五年、諸葛亮は、蜀に背いた南方の地域を平定するために出兵した。
白文今南方已定、兵甲已足。
書き下し今南方已に定まり、兵甲已に足る。
現代語訳今、南方はすでに平定され、兵士も武器もすでに十分にそろいました。
- 已
- 「すでニ」。もう。
- 定
- 平定される。
- 兵甲
- 兵士と武器(よろい)。軍備。
白文当奨率三軍、北定中原。
書き下し当に三軍を奨率して、北のかた中原を定むべし。
現代語訳今こそ大軍を奮い立たせて率い、北の中原を攻め平らげるべきです。
- 当
- 再読文字。「まさニ~ベシ」と読み、当然~すべきだ、の意。
- 奨率
- 励まして率いる。
- 三軍
- 天子の軍隊。大軍。
- 中原
- 黄河中流の、洛陽・長安を中心とする地域。当時は魏が支配していた。
白文興復漢室、還于旧都。
書き下し漢室を興復し、旧都に還らん。
現代語訳(そして)漢の王室を再興し、もとの都に帰りたいと思います。
- 興復
- 再びおこす。再興する。
- 漢室
- 漢の王室。
- 于
- 置き字。「旧都に」の「に」にあたる。
- 旧都
- もとの都。後漢の都であった洛陽を指すと考えられる。
白文此臣所以報先帝、而忠陛下之職分也。」
書き下し此れ臣の先帝に報いて、陛下に忠なる所以の職分なり。」と。
現代語訳これこそが、私が先帝のご恩に報い、陛下に忠義を尽くすための、果たすべき務めなのです。」と。
- 此
- 前の「北定中原。興復漢室、還于旧都」を指す。
- 報
- 恩に報いる。
- 忠
- 真心を尽くして仕える。
- 陛下
- 今の皇帝、劉禅。
- 所以
- 「ゆゑん」。ここは、~するための(手段・方法)、の意。
- 職分
- 職務として果たさなければならない務め。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①躬
②苟
③猥
④諮
⑤崩
⑥夙夜解答を見る
①みずから
②いやしくも
③みだりに
④はかる
⑤ほうずる
⑥しゅくや次の語の、本文中での意味を答えよ。
①布衣
②卑鄙
③駆馳
④謹慎解答を見る
①官位のない庶民
②身分が低いこと
③人のためにかけまわって尽くすこと
④慎み深いこと
B 書き下し文・現代語訳
「苟全性命於乱世、不求聞達於諸侯」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:苟くも性命を乱世に全うし、聞達を諸侯に求めず。
現代語訳:乱れた世の中でせめて命だけでも全うできればと思い、諸侯に仕えて名声や出世を求めようとはしませんでした。「先帝不以臣卑鄙、猥自枉屈、三顧臣於草廬之中」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:先帝臣の卑鄙なるを以つてせず、猥りに自ら枉屈し、臣を草廬の中に三顧し、
現代語訳:先帝は、私の身分が低いことを気になさらず、もったいなくもご自身からへりくだって、三度も私のあばら家に足をお運びになり、「恐付託不効、以傷先帝之明」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:付託の効あらずして、以つて先帝の明を傷はんことを恐る。
現代語訳:託された務めの成果が上がらず、そのために先帝の人を見る目の確かさを傷つけてしまうのではないかと恐れました。「当奨率三軍、北定中原」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:当に三軍を奨率して、北のかた中原を定むべし。
現代語訳:今こそ大軍を奮い立たせて率い、北の中原を攻め平らげるべきです。
C 内容の読み取り
「由是感激」とあるが、諸葛亮は、先帝のどのような行いに感激したのか。説明せよ。
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先帝(劉備)が、身分の低い自分のことを気にせず、自分からへりくだって何度も粗末な家を訪ね、今の世の情勢と対策を相談してくれたこと。
「受命以来」の「命」について、①だれからだれに与えられたものか。②その内容を表す部分を本文中から抜き出せ。
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①先帝劉備から諸葛亮に与えられたもの(遺命)。
②興復漢室、還于旧都「先帝之明」の「明」とはどのようなことか。また、諸葛亮が「先帝之明」を傷つけることを恐れたのはなぜか。説明せよ。
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「明」=人物を見分ける目の確かさ。
理由:先帝は自分を見こんで国の大事を託したので、自分がその務めを果たせなければ、先帝には人を見る目がなかったことになってしまうから。「深入不毛」の「不毛」とは、どのような土地か。また、それはどの地方を指しているか。本文中から二字で抜き出せ。
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草木の育たない荒れた土地(未開の地)。
南方諸葛亮は、自分の「職分」をどのようなことだと考えているか。「中原」の語を用いて、先帝・陛下との関係もふまえて説明せよ。
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魏が支配する中原を平定し、漢の王室を再興して、もとの都に帰ること。それが、先帝劉備の恩に報い、今の皇帝劉禅に忠義を尽くすことになると考えている。
この文章から生まれた故事成語を答え、その意味を説明せよ。
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三顧の礼。目上の人が礼を尽くして、すぐれた人物を招くこと。