『売柑者言』書き下し文・現代語訳・解説|劉基・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 見た目の美しい柑子
  3. 中身は古い綿のよう
  4. 売る者の言い分
  5. 外見だけ立派な高官たち
  6. ぜいたくに暮らす者
  7. 外は金玉、中は敗絮
  8. テスト予想問題

『売柑者言(ばいかんしゃのげん)』の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。作者は元末・明初の劉基(りゅうき)、出典は『誠意伯文集』です。

書き下し文・現代語訳・解説

見た目の美しい柑子

本文(訓読文)

白文杭有売果者。

書き下し杭(かう)に果を売る者有り。

現代語訳杭州に、果物を売る者がいた。

杭
杭州。今の浙江省杭州市。
果
果物。

白文善蔵柑。

書き下し善く柑(かん)を蔵(ざう)す。

現代語訳(その者は)柑子を貯蔵するのが上手だった。

善
「よク」。~するのが上手だ。
柑
柑子(こうじ)。みかんの一種。
蔵
たくわえる。貯蔵する。

白文渉寒暑不潰、出之燁然玉質而金色。

書き下し寒暑に渉(わた)りて潰(つひ)えず、之を出だせば燁然(えふぜん)たる玉質(ぎよくしつ)にして金色(きんしよく)なり。

現代語訳冬から夏を越しても形がくずれず、それを(しまっておいた所から)出すと、つやつやと美しく、玉のようにうるおいのある肌で、黄金色をしていた。

渉寒暑
冬から夏までを経る。長い期間がたつこと。
潰
「つひユ」。形がくずれる。
燁然
つやがあって美しいさま。
玉質
玉のようにうるおいのある肌。

白文置于市賈十倍、人争鬻之。

書き下し市に置けば賈(あたひ)十倍すれども、人争ひて之を鬻(か)ふ。

現代語訳市場に出すと値段は(ほかの)十倍もしたが、人々は争ってそれを買った。

于
置き字。場所を示す。読まない。
賈
「あたひ」。値段。
鬻
ここは「かフ」と読み、買うの意味。

中身は古い綿のよう

本文(訓読文)

白文予貿得其一。

書き下し予貿(か)ひて其の一(いつ)を得たり。

現代語訳私も(その柑子を)一つ買い求めた。

予
私。作者の劉基。
貿
「かフ」。買う。
其一
その柑子の一つ。

白文剖之如有烟、撲口鼻。

書き下し之を剖(さ)くに烟(けむり)有るがごとく、口鼻(こうび)を撲(う)つ。

現代語訳それを割ってみると、煙が立ったようになり、(いやなにおいが)口や鼻をつんとついた。

剖
「さク」。割る。
如有烟
煙が出たかのようだ。「如し」は「~のようだ」(比況)。
撲
「うツ」。つく。打ちつける。

白文視其中、則乾若敗絮。

書き下し其の中を視れば、則(すなは)ち乾きて敗絮(はいじよ)のごとし。

現代語訳その中身を見ると、干からびていて古い綿のようだった。

敗絮
古くなってぼろぼろの綿。ふるわた。
若
「ごとシ」。「如」と同じく「~のようだ」。

白文予怪而問之。

書き下し予怪しみて之を問ふ。

現代語訳私は不審に思って、このことを(売る者に)問いただした。

怪
「あやシム」。不思議に思う。不審に思う。
而
置き字。読まない。

売る者の言い分

本文(訓読文)

白文売者笑曰、「吾業是有年矣。

書き下し売る者笑ひて曰はく、「吾が業は是れ年有り。

現代語訳売る者は笑って言うことには、「私はこの商売を長年やっております。

業
仕事。商売。
有年
長い年月がたっている。
矣
置き字。断定の気持ちを表す。

白文吾頼是以食吾軀。

書き下し吾是れに頼(たよ)りて以つて吾が軀(からだ)を食(やしな)ふ。

現代語訳私はこの商売に頼って、暮らしを立てているのです。

是
この商売。前の「吾業」を指す。
食吾軀
「吾が軀を食ふ」。自分の体を養う。生計を立てる。

白文吾售之、人取之、未嘗有言。

書き下し吾之を售(う)り、人之を取り、未だ嘗て言有らず。

現代語訳私が柑子を売り、人がそれを買って、これまで一度も苦情を言われたことはありません。

售
「うル」。売る。
取
ここは「買う」の意味。
之
どちらも柑子を指す。
言
ここは苦情・文句。

白文而独不足子所乎。

書き下し而(しか)るに独り子の所に足らざるか。

現代語訳それなのに、あなたの所にだけ満足できないものが渡ったのでしょうか。

而
「しかルニ」。それなのに。逆接。
独
「ひとリ」。ただ~だけ。
子
あなた。作者を指す。
不足
満足できない。不十分だ。

白文世之為欺者不寡矣。

書き下し世の欺を為す者寡(すくな)からず。

現代語訳世の中に、人をだますことをする者は少なくありません。

為欺
人をだます。
寡
「すくなシ」。少ない。

白文而独我也乎。

書き下し而(しか)して独り我のみならんや。

現代語訳それなのに、どうして私だけ(がだましている)でしょうか、いや、私だけではありません。

而
「しかシテ」。ここは「それなのに」の意。
也乎
二字で「や」と読み、反語を表す。

白文吾子未之思也。

書き下し吾子(ごし)未だ之を思はざるなり。

現代語訳あなたはまだ、このことをよく考えていないのです。

吾子
あなた。作者を指す。
之
世の中に人をだます者は少なくない、ということ。
未
再読文字。「いまダ~ず」。

外見だけ立派な高官たち

本文(訓読文)

白文今夫佩虎符坐皋比者、洸洸乎干城之具也。

書き下し今、夫れ虎符(こふ)を佩(お)び皋比(かうひ)に坐(ざ)する者は、洸洸乎(くわうくわうこ)として干城(かんじやう)の具なり。

現代語訳さて、虎の形の割り符を身につけ、虎の皮の上に座っている者(=将軍)は、勇ましくて、君主の盾や城となって国を守る人材であるように見えます。

夫
「そレ」。さて。そもそも。話を切り出す語。
虎符
虎の形をした割り符。将軍のしるし。
佩
「おブ」。身につける。
皋比
虎の皮。
洸洸乎
勇ましいさま。
干城之具
君主の盾(干)や城となって国を守る資質。

白文果能授孫・呉之略耶。

書き下し果たして能く孫・呉の略を授くるか。

現代語訳(しかし)本当に孫子や呉子のような戦略を授けることができるでしょうか。

孫・呉
孫子(孫武)と呉子(呉起)。ともに兵法家。
略
戦略。
耶
「か」。疑問。

白文峨大冠拖長紳者、昂昂乎廟堂之器也。

書き下し大冠を峨(たか)くし長紳(ちやうしん)を拖(ひ)く者は、昂昂乎(かうかうこ)として廟堂(べうだう)の器なり。

現代語訳大きな冠を高々とかぶり、礼服の長い帯を引いている者(=高官)は、意気揚々として、大臣の器量があるように見えます。

峨
「たかクス」。高くする。
拖
「ひク」。引く。
大冠・長紳
大きな冠と、礼服の長い帯。高官の服装。
昂昂乎
意気揚々としたさま。
廟堂
朝廷。
廟堂之器
大臣となる器量。

白文果能建伊・皋之業耶。

書き下し果たして能く伊・皋(かう)の業を建つるか。

現代語訳(しかし)本当に伊尹や皋陶のような功績をあげることができるでしょうか。

伊・皋
伊尹(殷の名臣)と皋陶(舜の名臣)。
業
功業。りっぱな仕事・業績。

白文盗起而不知禦、民困而不知救、吏姦而不知禁、法斁而不知理。

書き下し盗起こりて而(しか)も禦(ふせ)ぐを知らず、民困(くる)しみて而(しか)も救ふを知らず、吏姦(かん)にして而(しか)も禁ずるを知らず、法斁(やぶ)れて而(しか)も理(をさ)むるを知らず。

現代語訳盗賊が出てもそれを防ぐ方法を知らず、民衆が苦しんでも救う方法を知らず、役人が不正をはたらいてもやめさせる方法を知らず、法が崩れても立て直す方法を知りません。

而
「しかモ」。それなのに。
禦
「ふせグ」。防ぐ。
吏
役人。
姦
不正。悪事。
斁
「やぶル」。こわれる。
理
「をさム」。正しく直す。
不知~
主語は、前に出た「佩虎符坐皋比者」と「峨大冠拖長紳者」。

白文坐縻廩粟、而不知恥。

書き下し坐(ゐ)ながら廩粟(りんぞく)を縻(つひ)やして、而(しか)も恥(は)づるを知らず。

現代語訳何もしないまま俸禄(給料)をむだに受け取って、それを恥ずかしいとも思いません。

坐
「ゐながら」。何もしないで。
縻
「つひやス」。むだに使う。
廩粟
倉の穀物。ここは役人の給料(俸禄)。

ぜいたくに暮らす者

本文(訓読文)

白文観其坐高堂騎大馬、酔醇醲而飫肥鮮者、孰不巍巍乎可畏、赫赫乎可象也。

書き下し其の高堂(かうだう)に坐(ざ)し大馬に騎(の)り、醇醲(じゆんぢよう)に酔ひて肥鮮(ひせん)に飫(あ)く者を観るに、孰(たれ)か巍巍乎(ぎぎこ)として畏(おそ)るべく、赫赫乎(かくかくこ)として象(かたど)るべからざらんや。

現代語訳立派な御殿に住み、大きな馬に乗り、うまい酒に酔い、ごちそうを食べ飽きている者を見ると、誰が、その堂々とした姿に敬服し、光り輝く手本としてまねるべきだと思わないでしょうか、いや、誰もがそう思うのです。

高堂
立派な御殿。
醇醲
味のこい上等な酒。
飫
「あク」。飽きるほど食べる。
肥鮮
おいしい料理。
巍巍乎
高く大きいさま。
畏
敬服する。
赫赫乎
光り輝くさま。
象
「かたどル」。手本とする。

外は金玉、中は敗絮

本文(訓読文)

白文又何往而不金玉其外敗絮其中也哉。

書き下し又何(いづ)くに往くとして、其の外を金玉(きんぎよく)にして其の中を敗絮(はいじよ)にせざらんや。

現代語訳また、どこへ行ったとしても、外側を金や玉のように飾りながら、中身を古い綿のようにしていない者がいるでしょうか、いや、そんな者ばかりです。

何往
どこへ行っても。
金玉其外
外側を金や玉のように(立派に)する。
敗絮其中
中身を古い綿のように(中身のないものに)する。
也哉
二字で「や」と読み、反語を表す。

白文今子是之不察、而以察吾柑。」

書き下し今、子是れを之れ察せずして、以つて吾が柑を察す。」と。

現代語訳今、あなたはこのことを見抜かないで、私の柑子のことばかりあれこれ言っておられるのです。」と。

察
見抜く。よく調べる。
是
世の中の人が、外見だけ立派で中身がないこと。
之
「是」(目的語)を前に出したことを示す字。「これ」と読む。

白文予黙然無以応。

書き下し予黙然(もくぜん)として以つて応ずる無し。

現代語訳私は黙ったまま、返す言葉がなかった。

黙然
黙っているさま。
無以応
答える手だてがない。返答できない。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①賈
    ②潰(えず)
    ③食(う)
    ④售(り)
    ⑤困(しみて)

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    ①あたい/値段
    ②ついえ/形がくずれる
    ③やしなう/養う(生計を立てる)
    ④うり/売る
    ⑤くるしみて/苦しむ

  2. 「吾子未之思也」の「吾子」と、「今子是之不察」の「子」は、それぞれ誰を指すか。

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    どちらも作者(劉基)。本文中の「予」。

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「吾售之、人取之、未嘗有言」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:吾之を售り、人之を取り、未だ嘗て言有らず。
    現代語訳:私が柑子を売り、人がそれを買って、これまで一度も苦情を言われたことはない。

  2. 「世之為欺者不寡矣。而独我也乎」を書き下し文にし、言葉を補って現代語訳せよ。

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    書き下し文:世の欺を為す者寡なからず。而して独り我のみならんや。
    現代語訳:世の中に人をだます者は少なくない。どうして私だけがだましているだろうか、いや、私だけではない。

  3. 「孰不巍巍乎可畏、赫赫乎可象也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:孰か巍巍乎として畏るべく、赫赫乎として象るべからざらんや。
    現代語訳:誰が、その堂々とした姿に敬服し、光り輝く手本としてまねるべきだと思わないだろうか、いや、誰もがそう思う。

  4. 「又何往而不金玉其外敗絮其中也哉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:又何くに往くとして、其の外を金玉にして其の中を敗絮にせざらんや。
    現代語訳:また、どこへ行っても、外側を金や玉のように飾り、中身を古い綿のようにしていない者がいるだろうか、いや、そういう者ばかりだ。

C 内容の読み取り

  1. 「予怪而問之」とあるが、作者は何を不審に思ったのか。

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    見た目は美しく、高い値でも人が争って買う柑子なのに、割ってみると中身が干からびて、古い綿のようだったこと。

  2. 「吾子未之思也」の「之」は、どのようなことを指すか。

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    世の中には、人をだます者が少なくないということ。

  3. 「不知禦」「不知救」「不知禁」「不知理」「不知恥」と言われているのは、どのような人々か。本文中から二つ抜き出して答えよ。

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    佩虎符坐皋比者・峨大冠拖長紳者

  4. 「金玉其外敗絮其中」は、何をたとえたものか。

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    当時の為政者(高官)たちが、外見は立派に飾っているが、中身は何の能力も実績もないこと。

  5. 「予黙然無以応」とあるが、作者が答えられなかったのはなぜか。

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    外見と中身がちがうのは柑子に限らず、世の中の為政者たちがみなそうだと、売る者に筋道立てて言われ、反論できなかったから。