李白『春夜宴桃李園序(しゅんや とうりのえんにえんするのじょ)』の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。作者の李白(701~762)は盛唐の詩人で、「詩仙」と呼ばれました。出典は『古文真宝』(後集)です。
書き下し文・現代語訳・解説
人生ははかない
白文夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客。
書き下し夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり。
現代語訳そもそも天地とは、万物がひととき身を寄せる宿屋であり、月日とは、果てしない時の流れを通り過ぎていく旅人である。
- 夫
- 「そレ」。そもそも。文の初めに置いて、話を説き起こす語(発語の辞)。
- 者
- 「は」と読み、主語を取り立てて示す。
- 逆旅
- 宿屋。「逆」は「迎える」の意で、旅人を迎える所。
- 光陰
- 月日。時間。
- 百代
- 永遠。
- 過客
- 旅人。通り過ぎて行く人。
白文而浮生若夢、為歓幾何。
書き下し而して浮生は夢のごとし、歓を為すこと幾何ぞ。
現代語訳そして、水に浮かび漂うように定まらない人の一生は、夢のようにはかない。楽しみを尽くそうとしても、どれほどの時間があるだろうか(いや、いくらもない)。
- 而
- 「しかシテ」。そして。
- 浮生
- はかない人生。水に浮かんで漂うような、定めない人生。
- 若夢
- 「夢のごとし」。夢のようだ。「若」は「ごとシ」と読み、比況を表す。
- 為歓
- 楽しみごとをする。歓楽を尽くす。
春の夜を楽しむ理由
白文古人秉燭夜遊、良有以也。
書き下し古人燭を秉りて夜遊ぶ、良に以有るなり。
現代語訳昔の人が灯火を手に取って夜まで遊んだというのは、本当にもっともな理由のあることだ。
- 秉燭
- 灯火を手に取る。「秉」は「とル」で、手に持つ。
- 夜遊
- 夜まで遊ぶ。昔の詩(古詩)に「昼は短く夜は長いのだから、灯火をともして遊ぼう」という内容がある。
- 良
- 「まことニ」。本当に。
- 以
- 「ゆゑ」。理由。「所以」と同じ意味。
- 良有以也
- まことにもっともなことだ。
白文況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章。
書き下し況んや陽春我を召くに煙景を以てし、大塊我に仮すに文章を以てするをや。
現代語訳まして今は、うららかな春がかすみのたなびく景色で私を誘い、造物主が私に文才を貸してくれているのだから、なおのこと(この夜を楽しむべき)である。
- 陽春
- うららかな、暖かい春。
- 召
- 「まねク」。招く。
- 煙景
- かすみたなびく春の景色。
- 大塊
- 造物主。天地。もとは大地の意。
- 仮
- 「かス」。貸す。貸し与える。
- 文章
- 詩文を作る才能。美しい春の景色の意と解する説もある。
春の夜の宴
白文会桃李之芳園、序天倫之楽事。
書き下し桃李の芳園に会して、天倫の楽事を序す。
現代語訳桃や李の花がかおる庭に集まって、兄弟たちの楽しい宴をくり広げる。
- 桃李
- 桃と李(すもも)。
- 芳園
- 花がよいかおりを放つ庭園。
- 会
- 集まる。
- 天倫
- 天が定めた人の間柄(父子・兄弟など)。ここでは兄弟。
- 楽事
- 楽しいこと。ここでは宴。
- 序
- 順序立てて行う。くり広げる。
白文群季俊秀、皆為恵連。
書き下し群季の俊秀は、皆恵連たり。
現代語訳大勢の若い従弟たちのうち、すぐれた者は、皆、謝恵連のように詩がうまい。
- 群季
- 多くの年下の弟たち。ここでは従弟たち。「季」は兄弟の末の者。
- 俊秀
- 才能のすぐれた者。
- 為
- 「たリ」。~である。
- 恵連
- 謝恵連。南朝宋の詩人。一族の兄の謝霊運に、その才能を高く評価された。
白文吾人詠歌、独慚康楽。
書き下し吾人の詠歌は、独り康楽に慚づ。
現代語訳私の作る詩だけは、謝康楽(謝霊運)に及ばず、恥ずかしいかぎりだ。
- 吾人
- 私。李白自身。
- 詠歌
- 詩歌を作ること。また、作った詩歌。
- 独
- 「ひとリ」。~だけは。
- 慚
- 「はヅ」。恥ずかしく思う。
- 康楽
- 謝霊運のこと。南朝宋の大詩人で、康楽公の爵位を継いだので謝康楽という。
白文幽賞未已、高談転清。
書き下し幽賞未だ已まず、高談転た清し。
現代語訳静かに景色を愛でる楽しみはまだ終わらず、世俗を離れた高雅な語らいはいよいよ清らかさを増していく。
- 幽賞
- 心静かに景色を味わうこと。
- 未已
- 「未だ已まず」。まだ終わらない。「未」は再読文字で、「いまダ~ず」と読む。
- 高談
- 俗世を離れた高尚な話。
- 転
- 「うたタ」。ますます。いよいよ。
白文開瓊筵以坐華、飛羽觴而酔月。
書き下し瓊筵を開きて以て華に坐し、羽觴を飛ばして月に酔ふ。
現代語訳美しい宴席を設けて花のもとに座り、杯をしきりにやりとりして、月を眺めながら酔う。
- 瓊筵
- 玉のように美しいむしろ。立派な宴席。
- 坐華
- (桃や李の)花のもとに座る。「華」は「花」と同じ。
- 羽觴
- すずめが羽を広げた形をした杯。
- 飛羽觴
- 杯を飛ばすように、さかんにやりとりする。「羽」に合わせて「飛」と言っている。
- 酔月
- 月を眺めながら酔う。
詩を作ろう
白文不有佳作、何伸雅懐。
書き下し佳作有らずんば、何ぞ雅懐を伸べん。
現代語訳すぐれた作品ができなければ、この風雅な心をどうして表すことができようか(いや、できない)。
- 佳作
- すぐれた作品。よい詩。
- 雅懐
- 風雅な心。風流な思い。
- 伸
- 「のブ」。述べる。言い表す。
- 何A
- 「何ぞAせん」。どうしてAしようか、いやAしない。(反語)
白文如詩不成、罰依金谷酒数。
書き下し如し詩成らずんば、罰は金谷の酒数に依らん。
現代語訳もし詩ができなければ、罰として、金谷園での故事にのっとり、罰杯を三杯飲ませることとしよう。
- 如
- 「もシ」。もし~ならば。仮定を表す。
- 詩不成
- 「詩成らずんば」。詩ができなければ。
- 依
- 「よル」。従う。ならう。
- 金谷酒数
- 晋の石崇が、洛陽郊外の別荘・金谷園で宴を開き、詩を作れなかった者に罰として酒三杯を飲ませたという故事。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①逆旅
②幾何
③良(良有以也)
④況
⑤如(如詩不成)解答を見る
①げきりょ
②いくばく(ぞ)
③まことに
④いわんや
⑤もし次の語の、本文中での意味を答えよ。
①光陰
②浮生
③大塊
④佳作解答を見る
①月日(時間)
②はかない人生
③造物主(天地)
④すぐれた作品(よい詩)
B 書き下し文・現代語訳
「而浮生若夢、為歓幾何」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:而して浮生は夢のごとし、歓を為すこと幾何ぞ。
現代語訳:そして、はかない人生は夢のようなもので、楽しみを尽くそうとしても、どれほどの時間があるだろうか(いや、いくらもない)。「古人秉燭夜遊、良有以也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:古人燭を秉りて夜遊ぶ、良に以有るなり。
現代語訳:昔の人が灯火を手に取って夜まで遊んだのは、本当にもっともなことだ。「況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:況んや陽春我を召くに煙景を以てし、大塊我に仮すに文章を以てするをや。
現代語訳:まして、うららかな春がかすむ景色で私を誘い、造物主が私に文才を貸してくれているのだから、なおのこと(楽しむべき)である。「不有佳作、何伸雅懐」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:佳作有らずんば、何ぞ雅懐を伸べん。
現代語訳:すぐれた作品ができなければ、この風雅な心をどうして表せようか、いや、表せない。「如詩不成、罰依金谷酒数」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:如し詩成らずんば、罰は金谷の酒数に依らん。
現代語訳:もし詩ができなければ、罰として、金谷園の故事にならって酒を三杯飲ませよう。
C 内容の読み取り
「良有以也」とあるが、作者が、昔の人が夜まで遊んだことをもっともだと考えるのはなぜか。
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人生は夢のようにはかなく、楽しめる時間はわずかしかないから。
「群季俊秀、皆為恵連。吾人詠歌、独慚康楽」とは、どういうことを言っているか。
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若い従弟たちは皆、謝恵連のように詩が上手だが、年長の自分の詩だけは謝霊運(謝康楽)に及ばず恥ずかしい、ということ。(作者の謙遜)
(1)冒頭の「光陰者百代之過客」をふまえて書かれた、日本の紀行文の作品名と作者名を答えよ。
(2)この文章のように、四字・六字の対句を多く用いる文体を何というか。解答を見る
(1)『おくのほそ道』・松尾芭蕉
(2)四六駢儷文(駢文)