杜甫(とほ)の『春望(しゅんぼう)』の書き下し文・現代語訳・解説です。
「春望」は「春の眺め」という意味です。戦乱で荒れ果てた都に、それでも春は巡ってきます。美しい春の景色を前にして、杜甫は何を思ったのでしょうか。
書き下し文・現代語訳・解説
白文国破山河在
書き下し国破れて山河在り
現代語訳都の長安は破壊されてしまったが、山や川は昔と変わらずに残っている。
- 国
- 国都。ここでは長安。
- 山河
- 山と川。変わらない自然。
- 在
- 存在する。
白文城春草木深
書き下し城春にして草木深し
現代語訳町には春が来て、草木が深々と生い茂っている。
- 城
- 城壁に囲まれた町。ここでは長安。
- 深
- 草木が茂っている様子。
白文感時花濺涙
書き下し時に感じては花にも涙を濺ぎ
現代語訳こうした時勢を思って心を痛め、咲く花を見ても涙がこぼれ、
- 感時
- 時勢に心を痛める。「時」は戦乱の世をさす(首聯の「国破」)。
- 濺
- そそぐ。涙がこぼれ落ちる。
白文恨別鳥驚心
書き下し別れを恨みては鳥にも心を驚かす
現代語訳家族との別れを嘆いては、鳥の鳴き声を聞いても、はっとして心が騒ぐ。
- 恨別
- 別れを悲しみ嘆く。ここでは家族との別れ。
- 驚心
- 心がびくっとする。
白文烽火連三月
書き下し烽火三月に連なり
現代語訳戦いののろし火は、この三月になってもまだ続いており、
- 烽火
- のろし。ここでは戦火・戦乱のこと。
- 連三月
- 三月(現在の春三月)になっても続いている。
白文家書抵万金
書き下し家書万金に抵たる
現代語訳家族からの手紙は万金にも値するほど貴重だ。
- 家書
- 家族からの手紙。
- 抵
- あたる。相当する。
- 万金
- 莫大な金額。きわめて貴重なもののたとえ。
白文白頭搔更短
書き下し白頭搔けば更に短く
現代語訳白髪頭を搔くと、いっそう抜けて短く薄くなり、
- 白頭
- 白髪頭。
- 搔
- かく。心が落ち着かず、頭を搔く動作。
- 更
- いっそう。さらに。
白文渾欲不勝簪
書き下し渾べて簪に勝へざらんと欲す
現代語訳もはや冠をとめる簪も挿せなくなりそうだ。
- 渾
- すべて。まったく。
- 欲
- 「ほっす」。ここは「~しようとする」ではなく「今にも~しそうだ」の意。
- 不勝
- ~に耐えられない。~しきれない。
- 簪
- 冠を髪にとめるための道具。
テストで問われるポイント
- 作者=杜甫。詩形=五言律詩。押韻=深・心・金・簪。
- 対句=首聯・頷聯・頸聯(尾聯だけが対句でない)。
- 「国」「城」=長安。「烽火」=戦乱。「家書」=家族からの手紙。
- 首聯=変わりゆく人の世(都の荒廃)と、変わらない自然の対比。
- 「花濺涙」「鳥驚心」=花を見ても涙が流れ、鳥の声にも心が騒ぐ。
- 「搔」「不勝簪」=老いと、仕官の道が閉ざされそうな嘆き。
- 作者の嘆き=老いていく自分、戦乱の世、家族との別れ。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者と詩の形式を答えよ。また、押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:杜甫 詩の形式:五言律詩
押韻:深・心・金・簪この詩で、対句になっていない聯はどれか。
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尾聯(第七・八句)
「国」「城」は、それぞれ何をさしているか。
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どちらも国都の長安。
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
「烽火」「家書」「濺」「簪」解答を見る
ほうか・かしょ・そそ(ぐ)・かんざし
B 書き下し文・現代語訳
「感時花濺涙」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:時に感じては花にも涙を濺ぎ
現代語訳:こうした時勢を思って心を痛め、咲く花を見ても涙がこぼれ、「烽火連三月」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:烽火三月に連なり
現代語訳:戦いののろし火は、この三月になってもまだ続いており、「渾欲不勝簪」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:渾て簪に勝へざらんと欲す
現代語訳:もはや冠をとめる簪も挿せなくなりそうだ。
C 内容の読み取り
この詩は、作者がどのような状況で作ったものか。
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安禄山の反乱(安史の乱)で荒れた長安に、反乱軍に捕らえられて軟禁され、妻子とも離れ離れになっている状況。
首聯では、何と何が対比されているか。
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戦乱で破壊された国都(人の世)と、変わらずに存在する山河や草木(自然)。
「家書抵万金」とあるが、家族からの手紙が万金に相当するのはなぜか。
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戦乱が長引き、家族との連絡がなかなか取れないので、便りがきわめて貴重だから。
「搔更短」「渾欲不勝簪」は、作者のどのような思いを表しているか。
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年老いて髪が薄くなったことの嘆きとともに、冠をつけて役人として働く道が閉ざされそうで、国や家族のために何もできないという無念さ。