『去来抄(きょらいしょう)』「岩鼻や(いわはなや)」の現代語訳・品詞分解・解説です。
去来が作った句「岩鼻やここにもひとり月の客」の「月の客」とは、いったいだれなのでしょうか。同門の洒堂は「月の猿」にせよと言い、作者の去来は「月の客」のほうがよいと考えます。ところが師の芭蕉は、作者が思いもしなかった読み方を示します。三人の読み方の違い、「自称の句」の意味、「なん」の識別がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
去来の句
- 岩鼻
- 岩の突き出た先端。
- 月の客
- 月を愛でる風流な人。
季語は「月」で、季節は秋。切れ字は「や」。
「月の猿」か「月の客」か
現代語訳亡き師(芭蕉)が京都に来られた折、私(去来)が尋ねるには、「洒堂は、この句は『月の猿』のほうがよいと申しましたが、
- 上洛
- 京都に行くこと。
洒堂は、句の下五「月の客」を「月の猿」にしたほうがよいと言った。月と猿の取り合わせは、漢詩や絵画で昔からよく見られるものだった。
現代語訳私は『客』のほうが勝っているはずだと申しました。先生のお考えはいかがでしょうか。」
- 予
- 私。
「勝りなん」の「なん」は、連用形に付いているので、強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「ん(む)」。「きっと〜だろう」。
去来は、洒堂の「月の猿」より、もとの「月の客」のほうがよいと考えている。
現代語訳師が言うには、「猿とは何ということだ。おまえはこの句をどのように考えて作ったのか。」
- 作す
- (句を)作る。
「猿とは何事ぞ」は、「猿とは何ということだ」と、洒堂の考えを強く退ける言い方。疑問ではない。
「汝」は去来。芭蕉は去来に、どんなつもりでこの句を作ったのかを尋ねている。
去来の考えた趣向
現代語訳去来(私)が言うには、「明月に誘われて、句を考えながら山野を歩いておりましたところ、岩の先にもう一人の風流人を見つけた(という句です)。」と申し上げる。
- 明月に乗ず
- 明月に誘われる。
- 吟歩
- 詩歌を考えながら歩くこと。
- 岩頭
- 岩の先。
- 騒客
- 詩歌を作る風流な人。
「乗じ」の前の「に」は格助詞、「侍るに」の「に」は時間を表す格助詞。
去来の考えでは、「月の客」は、岩の先にいた自分以外の風流人。自分がその人を見つけた、という句になる。
芭蕉の読み方
現代語訳師が言うには、「『ここにも一人、月を愛でる者(がいます)』と、自分から(月に向かって)名乗り出ているようなのは、どれほど風流であろうか。
- 己と
- 自分から。
- いくばく
- どれほど。
芭蕉の考えでは、「月の客」は作者自身。月に向かって「ここにも一人、月を愛でる者がいますよ」と、自分から名乗り出る句として読む。
「こそ」の結びは本来なら已然形で「風流ならめ」となるはずだが、ここでは「ならん」となっていて、係り結びが整っていない(破格)。
- ただ
- とにかく。ためらわずに。
「自称の句」は、作者が自分のことを月に名乗り出た句。本文の「己と名乗り出づらん」にあたる。
現代語訳この句は私もすぐれたものとして大切にし、『笈の小文』に書き入れておいた。」と(おっしゃった)。
- 珍重す
- すぐれたものとして大切にする。
- 笈の小文
- 芭蕉が編もうとした句集の名。
「となん」の「なん」は、引用の「と」に付いているので強意の係助詞。下に「のたまひし」などが省略されている(結びの省略)。
芭蕉が自分の句集に書き入れたのは、この句をすぐれた句と認めていたから。
去来の思い
現代語訳私の考えた趣向は、(師の読み方に比べると)やはり二、三段も劣っているでしょう。
- 趣向
- 句を作るときの工夫・ねらい。
- なほ
- やはり。
「予が趣向」(去来の考えた読み方)が、「先師の意」(芭蕉の読み方)に比べて、二、三段も劣っている、ということ。
作者の意図よりも、それを読む人の解釈のほうがすぐれていることがある、と去来は認めている。
現代語訳師の考えに従ってこの句を見ると、少し風流に徹した人の趣もあるのではないだろうか。
- 狂者
- ここでは、風流に打ちこむ人。
「あるにや」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。「や」の下に「あらん」が省略されている。
芭蕉の読み方なら、月に浮かれて自分から名乗り出る、風流に徹した人の姿が浮かんでくる、ということ。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①上洛
②汝
③騒客
④笈の小文
⑤狂者解答を見る
①じょうらく
②なんじ
③そうかく
④おいのこぶみ
⑤きょうしゃ次の語の本文中での意味を答えよ。
①吟歩
②騒客
③いくばく
④珍重す
⑤狂者解答を見る
①詩歌を考えながら歩くこと
②詩歌を作る風流な人
③どれほど
④すぐれたものとして大切にする
⑤風流に打ちこむ人「岩鼻やここにもひとり月の客」の季語と季節を答えよ。
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季語=月 季節=秋
B 文法
「『客』勝りなん」の「なん」と、「書き入れける。」となん」の「なん」を、それぞれ文法的に説明せよ。
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勝りなん=強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「ん(む)」の終止形。 となん=強意の係助詞。
「己と名乗り出づらんこそ、いくばくの風流ならん」について、①係り結びの法則に合わない部分を一文節で抜き出し、正しい形に直せ。②全体を現代語訳せよ。
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①風流ならん→風流ならめ
②自分から名乗り出ているようなのは、どれほど風流であろうか。「少し狂者の感もあるにや」について、①「に」を文法的に説明せよ。②「や」の下に省略されている語句を答えよ。③全体を現代語訳せよ。
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①断定の助動詞「なり」の連用形。
②あらん(あらむ)
③少し風流に徹した人の趣もあるのではないだろうか。
C 現代語訳・内容
「猿とは何事ぞ」という芭蕉の言葉から、どのような気持ちが読み取れるか。
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「月の猿」にせよという洒堂の考えを、問題にならないと強く退ける気持ち。
「明月に乗じ山野吟歩し侍るに、岩頭また一人の騒客を見つけたる」を現代語訳せよ。
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明月に誘われて、句を考えながら山野を歩いておりましたところ、岩の先にもう一人の風流人を見つけた(という句です)。
「月の客」を、洒堂・去来・芭蕉はそれぞれ何(だれ)と考えたか。
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洒堂=猿(「月の猿」にすべきだとした)。 去来=岩の先にいた、作者以外の風流人。 芭蕉=月を愛でる作者自身。
「予が趣向は、なほ二、三等も下り侍りなん」とあるが、何が何に比べて劣っているというのか。また、ここから読み取れる作品の読み方についての考えを説明せよ。
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去来自身の考えた句の趣向が、芭蕉(先師)の解釈に比べて劣っている。 考え=作者が意図していなかった読み方でも、作品をよりすぐれたものにするなら、そちらのほうがすぐれた解釈と認めてよい、という考え。