『源氏物語(げんじものがたり)』桐壺(きりつぼ)の巻、「藤壺の入内(ふじつぼのじゅだい)」の場面、「藤壺と聞こゆ」から「かかやく日の宮と聞こゆ」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
亡き桐壺の更衣を忘れられない帝のもとに、更衣にそっくりの藤壺が入内します。帝の心は慰められ、幼い光源氏は、母に似ていると聞いた藤壺を慕うようになります。のちの物語を大きく動かす、光源氏と藤壺の出会いの場面です。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
帝の心をとらえた藤壺
現代語訳(人々は)藤壺とお呼びする。(典侍が言っていたとおり)本当に、お顔立ちもお姿も、不思議なくらい(亡き桐壺の更衣に)似ておいでになる。
- げに
- なるほど。本当に。
- 御容貌
- お顔立ち。
- おぼゆ
- (ここでは)似る。
「げに」は、藤壺が亡き更衣に似ていると言った典侍の言葉のとおりだ、ということ。
「おぼえ給へる」の主語は藤壺。だれに似ているかは、亡き桐壺の更衣。
現代語訳この藤壺は家柄が高く、そう思って見るせいか格別にすばらしく見えて、ほかのお妃たちもさげすむことがおできにならないから、(藤壺は)気がねなく振る舞い、物足りないことは何もない。
- 御際
- 身分。家柄。
- 思ひなし
- そう思うせいか(そう見えること)。
- おとしむ
- 見下す。さげすむ。
- 受けばる
- 遠慮せずにふるまう。
- 飽く
- 満足する。
「これ」は藤壺。藤壺は先帝の皇女なので、ほかの女御・更衣より身分が高い。
「えおとしめ聞こえ給はねば」の主語は、帝に仕えるほかの女御・更衣たち。見下すことのできない相手なので、藤壺は遠慮なくふるまえた。
現代語訳あの更衣の場合は、周囲がお認め申し上げなかったところへ、帝のご愛情があいにくなほど深かったのであるよ。
- 御心ざし
- (帝の)ご愛情。
- あやにくなり
- あいにくだ。困ったほどだ。
「かれ」は桐壺の更衣。「これ(藤壺)」と対比している。
「人の許し聞こえざりし」は、身分の高くない更衣が帝の寵愛を一身に受けることを、周りの人々が認めなかったということ。
「あやにくなりし」は、帝の愛情が、ほどほどならよかったのに、あいにく深すぎたということ。
現代語訳(亡き更衣への帝の思いが)すっかり紛れてしまうというのではないが、おのずと(帝の)お心は藤壺のほうへ移ってゆき、たいそう慰められていかれるようであるのも、しみじみと胸をうつことであった。
- 思し紛る
- (悲しみが)紛れなさる。
- 移ろふ
- (心が)移っていく。
- こよなし
- この上ない。
「御心移ろひて」は、帝の心が藤壺へ移っていくこと。更衣を失った悲しみが消えたわけではないが、自然と慰められていく。
「あはれなるわざなりけり」は、そのような人の心の移り変わりに対する作者(語り手)の感想。
藤壺を慕う光源氏
現代語訳源氏の君は父帝のおそばから少しも離れなさらないので、帝がしきりにお訪ねになる御方(藤壺)は、なおさら(源氏の君から)最後まで恥ずかしがって隠れ通すこともおできにならない。
- 御あたり
- (帝の)おそば。
- しげし
- (回数が)多い。絶え間ない。
- 恥ぢあふ
- 最後まで恥ずかしがって(隠れて)いる。
- え〜ず
- 〜できない。
「まして」は、たまに帝がお通いになる方でさえ光源氏から隠れきれないのだから、頻繁にお通いになる藤壺はなおさらだ、ということ。
「渡らせ給ふ」は、尊敬の助動詞「す」と「給ふ」を重ねた最高敬語で、帝への敬意。
現代語訳どのお妃も、自分が他人に負けるだろうなどと思っている方がいようか、いや、そんな方はいない。それぞれにとても美しいけれど、
- とりどりなり
- それぞれだ。
- めでたし
- すばらしい。
「我、人に劣らむと思いたるやはある」は挿入句。「やは」は反語で、自分がほかの人より劣っていると思っている方などいない、ということ。
「いづれの御方も」は、挿入句をはさんで「とりどりにいとめでたけれど」に続く。
現代語訳(ほかの方々は)少し年かさでいらっしゃるので、(藤壺は)ひどく若々しく愛らしいご様子で、懸命に(源氏の君から)身を隠しなさるが、(源氏の君は)物のすき間からおのずとお姿を目にする。
- うち大人ぶ
- (ここでは)年長である。年かさである。
- うつくしげなり
- かわいらしい様子だ。
- 切に
- ひたすら。しきりに。
- 漏り見る
- (物のすき間から)もれて見える。ちらりと見る。
ほかの方々が年長なのに対して、藤壺はたいそう若くかわいらしい。
「おのづから漏り見奉る」は、光源氏が藤壺を、物のすき間から自然とお見かけするということ。光源氏はいつも帝のそばにいて、その帝が藤壺のもとへよく通うので、見かける機会があった。
現代語訳(源氏の君は)亡き母君の御息所のことは、面影さえ記憶に残っていらっしゃらないのに、典侍が「(藤壺さまは母君に)実によく似ておいでです。」と申し上げたものだから、
- 母御息所
- 光源氏の母、亡き桐壺の更衣。
- 影
- 面影。
- 典侍
- 帝に仕える女官。この典侍は先帝の時代から仕えていた。
「影だにおぼえ給はぬ」の主語は光源氏(「母御息所」は主語ではない)。「だに」は類推で、母の姿はもちろん、面影さえ覚えていない、ということ。光源氏は三歳のときに母を亡くしている。
「いとよう似給へり」は、典侍が光源氏に言った言葉。藤壺が亡き更衣に似ているということ。
現代語訳子ども心に(藤壺を)とても懐かしくお慕いなさって、いつもそばに参りたい、親しく近づいてお顔を見ていたい、と思っていらっしゃる。
- なづさふ
- 慣れ親しむ。
「思ひ聞こえ給ひ」の「聞こえ」は作者から藤壺への敬意、「給ひ」は作者から光源氏への敬意。
「参らまほしく」の「まほし」と「見奉らばや」の「ばや」は、どちらも自分の願望。光源氏は、亡き母に似ていると聞いた藤壺に、母の面影を求めて親しみたいと思っている。
帝の頼みと弘徽殿の女御
現代語訳帝もまた、(藤壺と源氏の君は)限りなくいとしく思うお二人なので、藤壺に向かって「この子を遠ざけないでください。妙なことに、あなたをこの子の母と見なし申し上げてしまいそうな心持ちがするのです。
- 御思ひどち
- (帝が)大切に思う者どうし。
- な〜そ
- 〜しないでくれ。
- 疎む
- よそよそしくする。
- よそふ
- なぞらえる。見立てる。
「限りなき御思ひどち」は、藤壺と光源氏。帝がこの上なくかわいがっている二人。
「な疎み給ひそ」は、帝が藤壺に、光源氏を遠ざけないでほしいと頼む言葉。
「よそへ聞こえつべき心地」は、藤壺を光源氏の母になぞらえてしまいそうな気持ち。
現代語訳失礼だなどとお思いにならず、いとしんでやってください。(亡き更衣は)顔立ちや目もとがあなたに大変よく似ていたので、(あなたがこの子の母のように)通じ合ってお見えになるのも、ふさわしくないことではありません。」
- なめし
- 無礼だ。
- らうたくす
- かわいがる。
- つらつき
- 顔つき。
- まみ
- 目もと。
- 通ふ
- 似通う。
- 似げなし
- 似つかわしくない。
「いとよう似たりし」は、亡き更衣が藤壺によく似ていたということ(ほかの説もある)。
「似げなからずなむ」の後には、「なむ」の結びの「ある」などが省略されている。
現代語訳などと藤壺に頼みこみなさったので、源氏の君は子ども心にも、ささやかな花や紅葉にことよせても、(藤壺への)好意をお示し申し上げる。
- 聞こえつく
- (「言ひつく」の謙譲語)お頼み申し上げる。
- はかなし
- ちょっとした。
「聞こえつけ給へ」の主語は帝。「聞こえつけ」は作者から藤壺への敬意、「給へ」は作者から帝への敬意。
「見え給ふ」の「見え」は(自然に)見えるという意味だが、「心ざしを見え奉る」の「見え」は、(相手に)見せるという意味。主語は光源氏。
現代語訳(源氏の君が藤壺に)この上なく心を寄せ申し上げていらっしゃるので、弘徽殿の女御は、この藤壺の宮ともまた仲が険しいため、
- 心寄す
- 好意を寄せる。
- そばそばし
- よそよそしい。仲が悪い。
「心寄せ聞こえ給へれ」は、光源氏が藤壺に心をお寄せ申し上げるということ。
「この宮」は藤壺。
現代語訳それに重なって、昔からの(更衣と源氏の君への)憎しみもふたたび頭をもたげ、(二人のことを)おもしろくないとお思いである。
- うち添ふ
- 加わる。
- ものし
- 不愉快だ。気にくわない。
「うち添へて」は、藤壺と仲が悪いことに加えて、ということ。
「もとよりの憎さ」は、前々からの、亡き桐壺の更衣と光源氏への憎しみ。
弘徽殿の女御が不愉快に思う理由は、藤壺と仲が悪いことと、更衣への昔からの憎しみがよみがえったこと。
光る君とかかやく日の宮
現代語訳(帝が)この世に並ぶ者のない方と見申し上げなさり、名声も高くておいでになる宮(第一皇子)のお顔立ちに比べてさえ、
- たぐひなし
- 比べるものがない。
- 名高し
- 評判が高い。
「見奉り給ひ」の主語は帝。
「名高うおはする宮」は、弘徽殿の女御が産んだ第一皇子(東宮)。藤壺のことと読む説もある。
現代語訳源氏の君の輝くような美しさは、やはりたとえる方法もないほどで、その愛らしいご様子を、世間の人々は「光る君」とお呼びする。
- 匂はしさ
- つややかな美しさ。
「匂はしさ」は光源氏の美しさ。第一皇子と比べても、光源氏の美しさはたとえようがない。
現代語訳藤壺も源氏の君と並び立ちなさって、帝はお二人をどちらも深く寵愛なさっているので、(人々は藤壺を)「かかやく日の宮」とお呼びする。
- 御おぼえ
- (帝の)ご寵愛。
- とりどりなり
- それぞれだ。
「御おぼえもとりどりなれば」は、帝の寵愛が、光源氏と藤壺の二人にそれぞれ厚いということ。
「光る君」は光源氏、「かかやく日の宮」は藤壺の呼び名。どちらも光り輝くような美しさをたたえている。
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 桐壺④「はじめよりおしなべて」 若紫①「北山の垣間見」 葵(物の怪)① 若菜上(女三の宮の降嫁)① 御法①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①入内
②御容貌
③切に
④母御息所
⑤典侍
⑥上(上も)
⑦紅葉
⑧弘徽殿解答を見る
①じゅだい
②(おん)かたち
③せちに
④ははみやすどころ(ははみやすんどころ)
⑤ないしのすけ
⑥うえ
⑦もみじ
⑧こきでん次の語の本文中での意味を答えよ。
①御際
②あやにくなり
③なづさふ
④なめし
⑤らうたくす
⑥まみ
⑦そばそばし
⑧ものし
⑨匂はしさ
⑩御おぼえ解答を見る
①身分・家柄
②あいにくだ・困ったほどだ
③慣れ親しむ
④無礼だ
⑤かわいがる
⑥目もと
⑦よそよそしい・仲が悪い
⑧不愉快だ
⑨つややかな美しさ
⑩(帝の)ご寵愛
B 文法・敬語
次の助動詞の意味を答えよ。
①人もえおとしめ聞こえ給はねば(ね)
②しげく渡らせ給ふ(せ)
③人に劣らむと(む)
④常に参らまほしく(まほしく)
⑤よそへ聞こえつべき(つ・べき)
⑥たとへむ方なく(む)解答を見る
①打消
②尊敬
③推量
④願望(希望)
⑤つ=強意、べき=適当
⑥婉曲次の敬語について、種類を答え、だれからだれへの敬意かを示せ。
①典侍の聞こえけるを
②いとあはれと思ひ聞こえ給ひて(聞こえ・給ひ)
③など聞こえつけ給へれば(聞こえつけ・給へ)
④世にたぐひなしと見奉り給ひ(奉り・給ひ)解答を見る
①謙譲語。作者から光源氏へ。
②聞こえ=謙譲語。作者から藤壺へ。給ひ=尊敬語。作者から光源氏へ。
③聞こえつけ=謙譲語。作者から藤壺へ。給へ=尊敬語。作者から帝へ。
④奉り=謙譲語。作者から第一皇子へ。給ひ=尊敬語。作者から帝へ。
C 現代語訳・内容
「これは、人の御際まさりて……受けばりて飽かぬことなし。かれは、人の許し聞こえざりしに」について、①「これ」「かれ」はそれぞれだれか。②「人もえおとしめ聞こえ給はねば」の「人」はだれのことか。③「人の許し聞こえざりし」とは、何を許さなかったのか。
解答を見る
①これ=藤壺、かれ=桐壺の更衣
②帝に仕えるほかの女御・更衣たち
③(身分の高くない)桐壺の更衣が、帝の寵愛を一身に受けること。「思し紛るとはなけれど、おのづから御心移ろひて、こよなう思し慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり」について、①だれの心がだれに移ったのか。②「あはれなるわざなりけり」はだれの感想か。
解答を見る
①帝の心が藤壺に。
②作者(語り手)の感想。「切に隠れ給へど、おのづから漏り見奉る」について、①だれがだれを見るのか。②自然と見かけることになったのはなぜか、本文に即して説明せよ。
解答を見る
①光源氏が藤壺を。②光源氏はいつも帝のそばを離れず、その帝が藤壺のもとへ頻繁に通っていたから。
「母御息所も影だにおぼえ給はぬを」を、主語を補い、「だに」の意味がわかるように現代語訳せよ。
解答を見る
(光源氏は)母の御息所のことは、面影さえ覚えていらっしゃらないが。
「なづさひ見奉らばやとおぼえ給ふ」を現代語訳せよ。また、光源氏がそう思ったのはなぜか。
解答を見る
訳=慣れ親しんで(お姿を)拝見したいとお思いになる。理由=藤壺が亡き母(桐壺の更衣)によく似ていると典侍から聞き、母の面影を求める気持ちになったから。
「な疎み給ひそ。あやしくよそへ聞こえつべき心地なむする。なめしと思さで、らうたくし給へ」について、①だれがだれに言った言葉か。②現代語訳せよ。③「よそへ」とは、だれをだれになぞらえることか。
解答を見る
①帝が藤壺に。②よそよそしくなさいますな。不思議なことに(あなたをこの子の母に)なぞらえ申し上げてしまいそうな気がするのです。無礼だとお思いにならないで、かわいがってやってください。③藤壺を光源氏の(亡き)母になぞらえること。
「ものしと思したり」について、①だれが何を不愉快に思っているのか。②そう思う理由として本文に書かれていることを、二つ答えよ。
解答を見る
①弘徽殿の女御が、光源氏が藤壺に心を寄せ、二人が親しくしていることを。②藤壺と仲が悪いこと。前々からの、桐壺の更衣(と光源氏)への憎しみがよみがえったこと。
「光る君」「かかやく日の宮」とは、それぞれだれのことか。また、「御おぼえもとりどりなれば」とはどういうことか。
解答を見る
光る君=光源氏、かかやく日の宮=藤壺。帝のご寵愛が、光源氏と藤壺の二人それぞれに厚いということ。