『史記』完璧帰趙④「上大夫藺相如」書き下し文・現代語訳・解説|テスト予想問題

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. テストで問われるポイント
  3. テスト予想問題

司馬遷『史記』廉頗藺相如列伝のうち、「完璧帰趙」の結末の書き下し文・現代語訳・解説です。

璧はすでに趙に帰りました。五日後、約束の儀式を整えた秦王の前に、相如はたった一人で現れます。相如は何を語り、秦王はどう答えたのでしょうか。

前の場面は完璧帰趙③です。この後の廉頗との話は廉頗と藺相如①に続きます。

書き下し文・現代語訳・解説

本文(訓読文)

白文秦王斎五日後、乃設九賓礼於廷、引趙使者藺相如。

書き下し秦王斎(さい)すること五日の後、乃(すなは)ち九賓(きうひん)の礼を廷に設けて、趙の使者(ししや)藺相如(りんしやうじよ)を引く。

現代語訳秦王は五日間斎戒した後、宮廷に九賓の礼を整えて、趙の使者の藺相如を招き入れた。

九賓(きうひん)の礼
賓客を迎える最も丁重な儀式。

白文相如至、謂秦王曰、「秦自繆公以来二十余君、未嘗有堅明約束者也。

書き下し相如至り、秦王に謂(い)ひて曰はく、「秦は繆公(ぼくこう)より以来、二十余君、未(いま)だ嘗(かつ)て約束を堅明(けんめい)にせし者有らざるなり。

現代語訳相如はやって来て、秦王に向かって言った、「秦は繆公以来、二十人あまりの君主がおられましたが、これまで約束をしっかり守った方はおられません。

繆公(ぼくこう)
秦の昔の君主。
堅明(けんめい)にす
しっかり守る。はっきりと守る。
未ダ嘗テA(セ)ズ
これまでAしたことがない。

白文臣誠恐見欺於王而負趙、故令人持璧帰、間至趙矣。

書き下し臣誠(まこと)に王に欺かれて趙に負(そむ)かんことを恐る。故に人をして璧を持ちて帰り、間(ひそ)かに趙に至らしむ。

現代語訳私は、王にだまされて趙王のご信頼を裏切ることになるのを、まことに恐れました。それで部下に璧を持たせて帰し、人目を忍んで趙に着かせたのです。

欺(あざむ)かる於王
「王に欺(あざむ)かる」。「於」は動作の相手を示す。
間(ひそ)かに
こっそり。

白文且秦彊而趙弱、大王遣一介之使至趙、趙立奉璧来。

書き下し且(か)つ秦は彊くして趙は弱し。大王一介(いつかい)の使ひを遣(つか)はして趙に至らしめば、趙立ちどころに璧を奉じて来たらん。

現代語訳それに、秦は強大で趙は弱小です。大王が使者を一人趙へお遣わしになれば、趙はただちに璧をささげて参上するはずです。

一介(いつかい)の使ひ
ただ一人の使者。

白文今以秦之彊而先割十五都予趙、趙豈敢留璧而得罪於大王乎。

書き下し今、秦の彊きを以て、先づ十五都を割(さ)きて趙に予へば、趙豈(あ)に敢へて璧を留(とど)めて、罪を大王に得んや。

現代語訳今、強大な秦が、先に十五の都市を割いて趙に与えられるなら、趙がどうして璧を手元に置いて、大王に罪を得るようなことをするでしょうか、いや、いたしません。

豈(あ)に敢(あ)へてA(せ)んや
どうして思い切ってAするだろうか、いやしない。(反語)
罪を得
罪にあたる。とがめを受ける。

白文臣知欺大王之罪当誅、臣請就湯鑊。唯大王与群臣孰計議之。」

書き下し臣、大王を欺くの罪誅(ちゆう)に当たるを知る。臣請ふ湯鑊(たうくわく)に就かん。唯(た)だ大王群臣と孰計(じゆくけい)して之を議せよ。」と。

現代語訳私は、大王をだました罪が死刑に当たることを承知しております。どうか私を釜ゆでの刑にしてください。ただ、大王は家臣たちとよくお考えになって、このことをご相談ください。」と。

誅(ちゆう)
罪人を殺すこと。死刑。
湯鑊(たうくわく)
煮えたぎる湯で罪人をゆでる刑具。釜ゆで。
請(こ)ふ
どうか~させてください。
孰計(じゆくけい)
よく考える。
唯(ただ)だ
どうか~してほしい。(願望)

白文秦王与群臣相視而嘻。左右或欲引相如去。

書き下し秦王群臣と相視て嘻(いか)る。左右或(ある)いは相如を引きて去(さ)らんと欲す。

現代語訳秦王は家臣たちと顔を見合わせて、あきれ、怒りの声をあげた。側近の中には、相如を引っ立てて行こうとする者もいた。

相視(あひみ)る
互いに顔を見合わせる。
嘻(いか)る
あきれて声を出す。怒り驚く声。
或(あ)るいは
ある者は。
去(さ)る
その場から連れ去る。

白文秦王因曰、「今殺相如、終不能得璧也、而絶秦趙之驩。不如因而厚遇之、使帰趙。趙王豈以一璧之故欺秦邪。」

書き下し秦王因(よ)りて曰はく、「今、相如を殺すとも、終に璧を得ること能(あた)はずして、而(しか)も秦趙の驩を絶たん。因りて厚く之を遇(ぐう)して、趙に帰らしむるに如かず。趙王豈(あ)に一璧の故(ゆゑ)を以て秦を欺かんや。」と。

現代語訳秦王はそこで言った、「今、相如を殺しても、結局璧は手に入らず、そのうえ秦と趙のよしみを断ってしまうだろう。この機会に手厚くもてなして、趙に帰らせるのが一番だ。趙王が、たかが一つの璧のために、秦をだますようなことをするだろうか、いやしない。」と。

驩(くわん)
よしみ。友好。
不如A
Aするのが一番だ。Aにこしたことはない。
豈(あ)に~んや
どうして~か、いや~ない。(反語)

白文卒廷見相如、畢礼而帰之。

書き下し卒(つひ)に相如を廷見(ていけん)し、礼を畢(を)へて之を帰す。

現代語訳結局、相如を宮廷で引見し、礼儀を尽くして(趙へ)帰した。

廷見(ていけん)す
宮廷で正式に会う。
畢(を)ふ
終える。尽くす。

白文相如既帰、趙王以為賢大夫使不辱於諸侯、拝相如為上大夫。

書き下し相如既(すで)に帰る。趙王、賢大夫の使ひして諸侯に辱められずと以為(おも)ひ、相如を拝(はい)して上大夫(じやうたいふ)と為す。

現代語訳相如が趙に帰り着くと、趙王は、相如を賢い大夫であり、使者として諸侯の前で恥をかかなかったとして、上大夫の位を授けた。

辱(はずかし)めらる
はずかしめを受ける。
拝(はい)す
官職を授ける。
上大夫(じやうたいふ)
高い官位。

白文秦亦不以城予趙、趙亦終不予秦璧。

書き下し秦も亦た城を以て趙に予へず、趙も亦た終に秦に璧を予へず。

現代語訳秦も城を趙に与えず、趙もまた最後まで秦に璧を渡さなかった。

テストで問われるポイント

  • 相如は、すでに従者に璧を持たせて趙へ帰らせたことを、秦王に打ち明けた。
  • 「秦自繆公以来二十余君、未嘗有堅明約束者也」=秦の君主は代々、約束を堅く守った者がいない。
  • 「豈敢留璧而得罪於大王乎」=反語。どうして璧を留めて罪を得るだろうか、いやしない。
  • 「臣請就湯鑊」=私を釜ゆでの刑にしてください。(罪を一身に引き受ける覚悟)
  • 秦王が相如を許した理由=殺しても璧は手に入らず、秦と趙のよしみも絶たれるから。
  • 「不如因而厚遇之、使帰趙」=手厚くもてなして趙に帰らせるのが一番よい。
  • 結末=相如は上大夫となる。秦は城を与えず、趙も璧を渡さなかった。
  • 故事成語=「完璧」「怒髪冠を衝く(怒髪衝冠)」。

テスト予想問題

A 語句・読み

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    「九賓」「繆公」「湯鑊」「廷見」

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    きゅうひん・ぼくこう・とうかく・ていけん

  2. 「湯鑊」とはどのようなものか。また、それに「就く」と申し出た相如の意図を、簡単に説明せよ。

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    湯鑊=煮えたぎる湯で罪人をゆでる刑具(釜ゆでの刑)。意図=自分の罪は死刑に当たると認め、責任を自分一人で引き受ける覚悟を示すこと。

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「秦自繆公以来二十余君、未嘗有堅明約束者也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:秦は繆公より以来、二十余君、未だ嘗て約束を堅明にせし者有らざるなり
    現代語訳:秦は繆公以来、二十人あまりの君主がいるが、これまで約束を堅く守った者はいない。

  2. 「趙豈敢留璧而得罪於大王乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:趙豈に敢へて璧を留めて、罪を大王に得んや
    現代語訳:趙がどうして、思い切って璧を手元に置いて、大王に罪を得るようなことをするでしょうか、いやしません。

  3. 「不如因而厚遇之、使帰趙」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:因りて厚く之を遇して、趙に帰らしむるに如かず
    現代語訳:この機会に手厚くもてなして、趙に帰らせるのが一番よい。

C 内容の読み取り

  1. 相如が、璧をすでに趙に帰したと秦王に打ち明けたのは、なぜか。相如の言葉に即して説明せよ。

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    秦は代々約束を守った君主がいないので、王にだまされて趙を裏切ることになるのを恐れたから。

  2. 秦王は、なぜ相如を殺さずに、手厚くもてなして趙へ帰したのか。

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    相如を殺しても璧は手に入らず、そのうえ秦と趙のよしみを絶つことになるから。

  3. この話の結末はどうなったか。秦と趙のそれぞれについて答えよ。

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    秦は約束の城を趙に与えず、趙も最後まで秦に璧を渡さなかった。相如は賢い大夫として上大夫に任じられた。

  4. 司馬遷は、相如の勇気について、どのように述べているか。

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    死ぬこと自体は難しくないが、死を前にしてどう対処するかが難しい。相如は死を覚悟した場面で気力をふりしぼり、秦に威信を示したと評価している。

  5. 「無曲学以阿世」から生まれた四字熟語と、その意味を答えよ。

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    曲学阿世。真理に背いて、世間の人々にこびへつらうこと。

  6. 「完璧」「怒髪冠を衝く」は、この話のどの場面から生まれた言葉か。それぞれ答えよ。

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    「完璧」=相如が「璧を完うして趙に帰らん」と言い、実際に璧を無傷で趙に持ち帰った場面。
    「怒髪冠を衝く」=相如が秦王に城を渡す気がないと知り、怒りで髪が逆立って冠を突き上げた場面。