司馬遷『史記』廉頗藺相如列伝のうち、「完璧帰趙」の第三場面の書き下し文・現代語訳・解説です。
璧を砕くと迫られた秦王は、あわてて態度を変えます。しかし相如は、それもまた偽りだと見抜きました。ここから相如は、どのように璧を無事に趙へ帰したのでしょうか。
書き下し文・現代語訳・解説
白文秦王恐其破璧、乃辞謝固請、召有司案図、指従此以往十五都予趙。
書き下し秦王其の璧を破らんことを恐れ、乃ち辞謝して固く請ひ、有司を召して図を案じ、此より以往の十五都は趙に予へんと指す。
現代語訳秦王は相如が璧を砕いてしまうことを恐れ、そこで(無礼を)わびて、どうか璧を返してほしいと頼み、役人を呼んで地図を調べさせ、「ここから先の十五の都市は趙に与えよう」と指し示した。
- 辞謝す
- わびる。
- 有司
- 役人。
- 案ず
- 調べる。
- 以往
- それから先。(ここでは地図上のある地点より先)
白文相如度秦王特以詐詳為予趙城、実不可得、乃謂秦王曰、「和氏璧、天下所共伝宝也。
書き下し相如、秦王の特だ詐詳を以て趙に城を予ふるを為して、実は得べからざるを度り、乃ち秦王に謂ひて曰はく、「和氏の璧は、天下の共に伝へて宝とする所なり。
現代語訳相如は、秦王が城を与えると見せかけているだけで、本当は城など手に入らないと推察した。そこで秦王に言った、「和氏の璧は、天下の人々が皆で伝えて宝としているものです。
- 度る
- 推し量る。判断する。
- 特だ
- 「ただ~だけ」の意。(限定)
- 詐詳
- いつわり。「詳」は「佯(いつわる)」と同じ。
- 為す
- ふりをする。
白文趙王恐、不敢不献。趙王送璧時、斎戒五日。
書き下し趙王恐れ、敢へて献ぜずんばあらず。趙王璧を送る時、斎戒すること五日なり。
現代語訳趙王は秦をはばかって、献上しないわけにはまいりませんでした。璧を送り出すときには、五日間斎戒いたしました。
- 不敢不A
- 敢へてAせずんばあらず。Aしないわけにはいかない。(二重否定)
白文今大王亦宜斎戒五日、設九賓於廷、臣乃敢上璧。」
書き下し今大王亦た宜しく斎戒すること五日、九賓を廷に設くべし。臣乃ち敢へて璧を上らん。」と。
現代語訳今、大王も同じように五日間斎戒して、宮廷に九賓の礼(外国の使者を迎える最も丁重な儀式)を整えてください。そうしたら私は、思い切って璧を差し上げましょう。」と。
- 宜しくAべし
- Aするのがよい、Aすべきだ。
- 九賓
- 賓客を迎える最も丁重な儀式。九人の接待役を立てたという。
- 乃ち
- そこでやっと。
- 敢へて
- 思い切って。
- 上る
- 差し上げる。献上する。
白文秦王度之、終不可彊奪、遂許斎五日、舎相如広成伝。
書き下し秦王之を度るに、終に彊奪すべからず。遂に斎すること五日なるを許し、相如を広成伝に舎せしむ。
現代語訳秦王は思案した末、無理に奪い取ることはとうていできないとさとった。そこで五日間斎戒することを承知し、相如を広成伝という宿舎に泊まらせた。
- 彊奪
- 力ずくで奪う。
- 不可A
- Aできない。Aしてはならない。
- 舎せしむ
- 宿泊させる。
- 広成伝
- 宿舎の名。
白文相如度秦王雖斎、決負約不償城、乃使其従者衣褐、懐其璧、従径道亡、帰璧于趙。
書き下し相如、秦王斎すと雖も、決して約に負き城を償はざるを度り、乃ち其の従者をして褐を衣、其の璧を懐き、径道より亡げて、璧を趙に帰さしむ。
現代語訳相如は、秦王が斎戒をしても、きっと約束にそむいて城を渡さないだろうと推し量った。そこで自分の従者に粗末な服を着せ、その璧を懐に抱かせて、抜け道を通って逃がし、璧を趙に帰らせた。
- 雖A
- AといえどもAであっても。
- 負く
- 約束を破る。
- 褐
- 粗末な衣服。
- 懐く
- ふところに入れる。
- 径道
- 近道。抜け道。
- 于
- 於と同じ。「~に」。
テストで問われるポイント
- 秦王が相如に璧を砕かれるのを恐れ、地図を指して十五都を趙に与えると言った。
- 相如はそれが偽りだと見抜いた(「詐詳為予趙城、実不可得」)。
- 相如は「五日間の斎戒」と「九賓の礼」を求めて時間を稼いだ。
- 「不敢不献」=献上しないわけにはいかない。(二重否定)
- 「終不可彊奪」=結局、力ずくで奪うことはできない。
- 相如は従者に璧を持たせ、抜け道(径道)から趙へ帰した。
テスト予想問題
A 語句・読み
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
「辞謝」「詐詳」「径道」「懐く」解答を見る
じしゃ・さしょう・けいどう・いだく
「度」「舎」「亡」のここでの意味を、それぞれ答えよ。
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度=推し量る、判断する 舎=宿泊させる 亡=逃げる
B 書き下し文・現代語訳
「趙王恐、不敢不献」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:趙王恐れ、敢へて献ぜずんばあらず
現代語訳:趙王は秦をはばかって、献上しないわけにはまいりませんでした。「今大王亦宜斎戒五日、設九賓於廷、臣乃敢上璧」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:今大王亦た宜しく斎戒すること五日、九賓を廷に設くべし、臣乃ち敢へて璧を上らん
現代語訳:今、大王も同じように五日間斎戒し、宮廷に九賓の礼を整えてください。そうしたら私は、思い切って璧を差し上げましょう。「乃使其従者衣褐、懐其璧、従径道亡、帰璧于趙」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:乃ち其の従者をして褐を衣、其の璧を懐き、径道より亡げて、璧を趙に帰さしむ
現代語訳:そこで自分の従者に粗末な服を着せ、その璧を懐に抱かせて、抜け道を通って逃がし、璧を趙に帰らせた。
C 内容の読み取り
秦王が地図を指して「ここから先の十五都を趙に与える」と言ったのを、相如はどのように受け取ったか。
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見せかけだけで、本当は城を渡すつもりはないと見抜いた。
相如が従者に粗末な服(褐)を着せ、抜け道(径道)から璧を持って逃がしたのは、なぜか。
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趙の使者の従者だと気づかれないようにして、目立たず、ひそかに璧を趙へ持ち帰らせるため。
相如が秦王に「五日間の斎戒」と「九賓の礼」を求めたのは、何のためか。
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璧を差し出す準備をするという口実で、時間を稼ぐため(その間に璧を趙に帰すため)。
秦王が相如の要求を承知したのは、なぜか。
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力ずくで璧を奪うことはできないと判断したから。(璧を砕かれるのを恐れたから。)
相如が従者に璧を趙へ持ち帰らせたことは、相如の最初の言葉のどの部分を実行したことになるか。本文から抜き出して答えよ。
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「臣請完璧帰趙」(臣請ふ璧を完うして趙に帰らん)