『徒然草(つれづれぐさ)』第七十一段「名を聞くより」の現代語訳・品詞分解・解説です。
名前を聞いただけで顔を思い描いてしまうのに、会ってみると思っていたとおりの人はいない。昔物語を聞くと、身近な家や人に重ねてしまう。今のできごとを、前にもあったように感じる――。だれにでもある心の働きを、兼好は「誰もかくおぼゆるにや」「我ばかりかく思ふにや」と問いかけるように書きとめています。自発の「る・らる」、「こそ」の結び、「にや」の下の省略がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
名前と顔
現代語訳(人の)名前を聞くとすぐに、(その人の)顔つきが自然と思い浮かぶような気がするのだが、
- 〜より
- 〜するとすぐに。
- やがて
- すぐに。
- 面影
- 顔つき。(心に浮かぶ)姿。
- 推しはかる
- おしはかる。想像する。
「推しはからるる」の「るる」は自発。思おうとしなくても、自然と顔つきが思い浮かんでしまうということ。
現代語訳(実際に)会ってみると、また、前から想像していたままの顔の人はいないものだ。
- かねて
- 前もって。前々から。
「見る」は、実際にその人に会うこと。
「こそ」の結びで、形容詞「なし」が已然形「なけれ」になっている。
昔物語を聞くとき
現代語訳昔の物語を聞いても、(物語の舞台は)このごろのだれそれの家の、あのあたりであったのだろうと思われ、
- 昔物語
- 昔の物語。昔の話。
- そこほど
- そのあたり。
昔の物語の舞台を、「今の、だれそれの家のあのあたりだったのだろう」と、知っている場所に当てはめて思い描くということ。
現代語訳(物語の)人物も、今会っている人の中のだれかに自然と重ね合わせてしまうのは、だれでもこのように感じるのであろうか。
- 思ひよそふ
- ほかのものになぞらえて思う。重ね合わせる。
「思ひよそへらるる」の「らるる」も自発。物語の人物を、今会っている人のだれかに自然と重ねてしまう。
「にや」のあとに「あらむ」などが省かれている(「に」は断定「なり」の連用形)。
いつかあったような気持ち
現代語訳また、どのような折だったか、たった今だれかが話していることも、目に映る物も、わが心の内も、
- ただ今
- たった今。
「いかなる折ぞ」は、「どのような時であったか」と、はさみこむように言った部分。
「人の言ふこと」「目に見ゆる物」「我が心のうち」と、今のできごとを並べている。
- いつぞや
- いつだったか。
「ありしか」の「か」は詠嘆。「いつだったか、こういうことがあったなあ」と思われる、ということ。
現代語訳いつのことかは思い出せないけれども、確かにあった気がするのは、自分ひとりがそう感じるのだろうか。
- まさしく
- 確かに。間違いなく。
はじめて見聞きしたはずのことを、前にも確かに経験したように感じる心の働きを言っている。
前の段落の「誰もかくおぼゆるにや」に対して、ここは「我ばかりかく思ふにや」。だれにでもあることか、自分だけのことかと問いかける形で結んでいる。
『徒然草』のほかの段:花は盛りに① / 家居のつきづきしく / 世に語り伝ふること / 今日はそのことをなさんと思へど / あだし野の露消ゆる時なく / ある人、弓射ることを習ふに
テスト予想問題
A 語句
本文中で使われている意味を、次の語それぞれについて答えよ。
①やがて
②面影
③かねて
④そこほど
⑤いつぞや
⑥まさしく解答を見る
①すぐに
②顔つき
③前もって・前々から
④そのあたり
⑤いつだったか
⑥確かに・間違いなく
B 文法
「推しはからるる心地」「思ひよそへらるる」の「るる」「らるる」について、意味と活用形をそれぞれ答えよ。
解答を見る
どちらも自発の助動詞の連体形(「るる」は「る」、「らるる」は「らる」)。
「かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ」について、「こそ」に対する結びの語と、その活用形を答えよ。
解答を見る
なけれ。已然形。
次の【 】の助動詞の終止形と意味を答えよ。
①思ひ【つる】まま
②そこほどにてぞあり【けん】
③思ひ出で【ね】ども
④まさしくあり【し】心地解答を見る
①つ・完了
②けむ・過去推量
③ず・打消
④き・過去「誰もかくおぼゆるにや」の「に」を文法的に説明せよ。また、「や」の下に省略されている語を補え。
解答を見る
「に」=断定の助動詞「なり」の連用形。
省略=あらむ(あらん)
C 現代語訳・内容
「名を聞くより、やがて面影は推しはからるる心地するを、見るときは、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。」を現代語訳せよ。
解答を見る
名前を聞くとすぐに、その人の顔つきが自然と思い浮かぶような気がするのだが、実際に会ってみると、前から想像していたままの顔の人はいないものだ。
「このごろの人の家の、そこほどにてぞありけん」を現代語訳せよ。また、何がそのあたりであったと思われるのか。
解答を見る
訳=今の(だれそれの)家の、あのあたりであったのだろう。
何が=昔物語に出てくる場所(物語の舞台)。「かかることのいつぞやありしかとおぼえて」を現代語訳せよ。また、「かかること」とは何を指すか。
解答を見る
訳=こういうことが、いつだったか前にあったなあと感じられて。
指すもの=たった今だれかが話していること、目に映る物、自分の心の中の思い。第一段落と第二段落では、それぞれどのような心の働きを述べているか。違いがわかるように説明せよ。
解答を見る
第一段落=名前や昔の話を聞くと、まだ見ていない顔や場所・人物を、自分の知っているものをもとに想像してしまうこと。
第二段落=今はじめて見聞きしていることを、前にも確かに経験したことのように感じてしまうこと。