『新死鬼』の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。出典は、南朝宋の劉義慶(『世説新語』の編者)が編んだ志怪小説集『幽明録』です。志怪小説とは、六朝時代の中国で多く書かれた、不思議な出来事を記録する短い話のことです。
ここでいう「鬼(き)」は、死者の霊・幽霊のことです。日本の昔話に出てくる「おに」とはイメージが異なります。
『新死鬼』本文解説
白文有新死鬼。形疲痩頓。
書き下し新たに死せる鬼有り。形は疲れ痩頓す。
現代語訳死んだばかりの幽霊がいた。その姿は疲れ果て、痩せ衰えていた。
- 新死鬼
- 死んだばかりの幽霊。
- 痩頓
- 痩せ衰える。
白文忽見生時友人。死及二十年、肥健。相問訊。
書き下し忽ち生時の友人を見る。死して二十年に及ぶも、肥健なり。相問訊す。
現代語訳ふと、生きていたころの友人に出会った。その友人は死んで二十年になるが、太って元気そうであった。二人は互いに近況を尋ね合った。
- 忽「たちまチ」
- 急に、ふと。
- 肥健
- 太っていて健康である。
- 相
- 互いに。
- 問訊
- 様子を尋ねる。
白文曰、「卿那爾。」曰、「吾飢餓、殆不自任。卿知諸方便。故当以法見教。」
書き下し曰はく、「卿は那ぞ爾るか。」と。曰はく、「吾は飢餓して殆ど自ら任へず。卿は諸の方便を知る。故に当に法を以つて教へらるべし。」と。
現代語訳(友の幽霊が)「君はどうしてそんなにやつれているのか。」と言うと、(新米の幽霊は)「私は腹が減って、もうほとんど我慢できない。君はいろいろな手立てを知っている。だから、ぜひその方法を教えてもらいたい。」と言った。
- 卿
- あなた、君。二人称。
- 爾
- そのようである。ここでは「形疲痩頓」(疲れて痩せ衰えた姿)を指す。
- 殆
- ほとんど。
- 自任
- 自分で耐える。
- 方便
- 手立て、方法。
白文友鬼云、「此甚易耳。但為人作怪。人必大怖、当与卿食。」
書き下し友の鬼云ふ、「此れ甚だ易きのみ。但だ人の為に怪を作せ。人必ず大いに怖れ、当に卿に食を与ふべし。」と。
現代語訳友の幽霊が言うことには、「それはとても簡単なことだ。ただ人に向かって怪しいことをしてみせればよい。人はきっとひどく怖がって、君に食べ物をくれるはずだ。」と。
- 耳
- 「のみ」。~だけだ(限定・強調)。
- 但
- ただ~だけ。
- 怪
- 怪しいこと、不思議な出来事。
- 当
- 「まさニ~べシ」。ここでは「きっと~するはずだ」。
一軒目――仏教を信じる家
白文新鬼往、入大墟東頭。有一家、奉仏精進。屋西廂有磨。
書き下し新鬼往きて、大墟の東頭に入る。一家有り、仏を奉じて精進す。屋の西廂に磨有り。
現代語訳新米の幽霊は出かけて行き、大きな村の東のはずれに入った。そこに一軒の家があって、仏教を信じて修行に励んでいた。家の西側のひさしの下には、ひきうすがあった。
- 大墟
- 大きな村。
- 東頭
- 東のはずれ。
- 奉仏
- 仏を信仰する。
- 西廂
- 家の西側のひさし。
- 磨
- ひきうす。
白文鬼就推此磨、如人推法。此家主語子弟曰、「仏憐吾家貧、令鬼推磨。」
書き下し鬼就きて此の磨を推し、人の推す法のごとくす。此の家の主、子弟に語りて曰はく、「仏、吾が家の貧しきを憐れみて、鬼をして磨を推さしむ。」と。
現代語訳幽霊はうすに近づいてそれを押し、人がうすをひくようにやってみせた。この家の主人は若い者たちに語って、「仏さまが、わが家の貧しいのを憐れんで、幽霊にうすをひかせてくださっている。」と言った。
- 就
- 近づく。
- 子弟
- 家の若い者たち。
新死鬼は「怪異を見せて怖がらせよう」としました。しかし家の主人は怖がらず、「仏が貧しい自分たちを助けるために幽霊をよこしてくれた」と、ありがたく受け取ってしまいました。
白文乃輦麦与之。至夕磨数斛。疲頓乃去。
書き下し乃ち麦を輦びて之に与ふ。夕べに至るまで数斛を磨く。疲頓して乃ち去る。
現代語訳そこで麦を運んできて、幽霊がひいているうすに足した。幽霊は夕方になるまで何石もの麦をひいた。くたくたに疲れて、やっと立ち去った。
- 輦
- 運ぶ。
- 之
- 幽霊がひいているうす。そこに麦を足して、ひかせ続けた。
- 数斛
- 数石。大量の量。
- 疲頓
- 疲れ果てる。
一軒目の結果は、食べ物をもらうどころか、夕方まで働かされただけでした。
白文遂罵友鬼、「卿那誑我。」又曰、「但復去。自当得也。」
書き下し遂に友の鬼を罵り、「卿は那ぞ我を誑かすか。」と。又曰はく、「但だ復た去け。自づから当に得べきなり。」と。
現代語訳とうとう友の幽霊をののしって、「君はどうして私をだましたのか。」と言った。友はまた、「ただもう一度行ってみろ。そのうち、きっと手に入るはずだ。」と言った。
- 誑
- だます。
- 去
- 「ゆク」。行く。
- 自当得也
- そのうち、きっと(食べ物が)手に入るはずだ。
二軒目――道教を信じる家
白文復従墟西頭入一家。家奉道。門傍有碓。此鬼便上碓、如人舂状。
書き下し復た墟の西頭より一家に入る。家、道を奉ず。門の傍らに碓有り。此の鬼便ち碓に上りて、人の舂く状のごとくす。
現代語訳今度は村の西のはずれから一軒の家に入った。その家は道教を信じていた。門のそばにつきうすがあった。この幽霊はすぐにうすに上がって、人がうすをつくようなしぐさをした。
- 奉道
- 道教を信仰する。
- 碓
- 穀物をきねでつく、つきうす。
- 便「すなはチ」
- すぐに。
- 舂
- うすで穀物をつく。
白文此人言、「昨日鬼助某甲。今復来助吾。可輦穀与之。」又給婢簸篩、至夕力疲甚、不与鬼食。
書き下し此の人言ふ、「昨日鬼某甲を助く。今復た来たりて吾を助く。穀を輦びて之に与ふべし。」と。又婢に簸篩を給し、夕べに至るまで力め疲るること甚だしきも、鬼に食を与へず。
現代語訳この家の人が言うには、「昨日は幽霊がどこそこの家を手伝ったという。今度はまたわが家に来て手伝ってくれている。穀物を運んで、幽霊がついているうすに足しなさい。」と。そのうえ下女に「み」と「ふるい」を渡して(一緒に働かせ)、幽霊は夕方まで力を尽くしてひどく疲れたが、家の人は幽霊に食べ物を与えなかった。
- 某甲
- だれそれ。ここでは前日に新死鬼が訪れた一軒目の家を指す。
- 婢
- 下女。
- 簸篩
- 「み」と「ふるい」。穀物と殻などを分ける道具。
- 力疲甚
- 主語は新死鬼。
二軒目も一軒目と同じでした。家の人は幽霊を怖がらず、「手伝ってくれるもの」と考えたため、新死鬼はまた働かされただけでした。
白文鬼暮帰、大怒曰、「吾自与卿為婚姻、非他比。如何見欺。二日助人、不得一甌飲食。」
書き下し鬼暮れに帰り、大いに怒りて曰はく、「吾れ卿と婚姻を為してより、他の比に非ず。如何ぞ欺かるるか。二日人を助くるも、一甌の飲食をも得ず。」と。
現代語訳幽霊は日暮れに帰ってくると、ひどく怒って言った。「私は君と親戚になってから、ほかの者とは比べものにならないほど親しくしてきた。それなのに、どうしてだまされるのか。二日も人の手伝いをしたが、一杯の食べ物も飲み物も得られなかった。」と。
- 婚姻を為す
- 縁組をして親戚になる。
- 非他比
- 他人とは比べものにならないほど親しい仲である。
- 如何「いかん」
- どうして。
- 見欺
- 欺かる(だまされる)。受身。
- 一甌
- (器)一杯。ほんのわずかな飲食物。
白文友鬼曰、「卿自不偶耳。此二家奉仏事道、情自難動。
書き下し友の鬼曰はく、「卿は自づから偶はざるのみ。此の二家は仏を奉じ道に事ふ。情自づから動かし難し。
現代語訳友の幽霊は言った。「君はたまたま運が悪かっただけだ。その二軒は仏教を信じ道教に仕えている家だから、もともと心を動かしにくいのだ。
- 不偶
- よい巡り合わせに出会わない、運が悪い。
- 事道
- 道教に仕える。
- 情自難動
- (怪異を見せても)もともと心を動かしにくい。怖がらせにくい。
一軒目と二軒目が失敗したのは、家の人が仏教や道教を信仰していて、怪異をそのまま恐ろしいものとは受け取らなかったからです。
白文今去、可覓百姓家作怪。則無不得。」
書き下し今去きて、百姓の家を覓め怪を作すべし。則ち得ざること無からん。」と。
現代語訳今度は行って、ふつうの人々の家を探して怪しいことをしてみなさい。そうすれば、手に入らないということはないだろう。」と。
- 百姓「ひゃくせい」
- ここでは、仏教や道教を特に信仰していない、ふつうの人々。
- 覓
- 探し求める。
三軒目――ふつうの人々の家
白文鬼復去、得一家。門首有竹竿。従門入、見有一群女子、窓前共食。
書き下し鬼復た去きて、一家を得。門首に竹竿有り。門より入るに、一群の女子有りて、窓前に共に食らふを見る。
現代語訳幽霊はまた出かけて、一軒の家を見つけた。門の上には竹竿がかけてあった。門から入ると、何人かの娘たちが、窓の前で一緒に食事をしているのが見えた。
- 門首
- 門の上、門のあたり。
- 一群の女子
- 何人もの娘たち。
白文至庭中、有一白狗、便抱令空中行。其家見之大驚、言、「自来未有此怪。」
書き下し庭中に至るに、一の白狗有り、便ち抱きて空中に行かしむ。其の家之を見て大いに驚きて言ふ、「自来、未だ此の怪有らず。」と。
現代語訳庭に行くと一匹の白い犬がいたので、幽霊はすぐにそれを抱き上げて、空中を歩かせた。その家の人々はこれを見てひどく驚き、「これまで、こんな怪しいことは起きたことがない。」と言った。
- 白狗
- 白い犬。
- 自来
- これまで、従来。
三軒目で起こした「怪」は、白い犬を抱いて空中を歩かせたことです。ここで初めて、家の人が本当に怖がりました。
白文占云、「有客鬼索食。可殺狗、並甘果酒飯、于庭中祀之、可得無他。」
書き下し占ひて云ふ、「客鬼の食を索むる有り。狗を殺すべし。並びに甘果酒飯もて、庭中に于いて之を祀らば、他無きを得べし。」と。
現代語訳祈禱師が占って言うには、「まつってくれる人のいない幽霊が食べ物を求めている。犬を殺し、甘い果物や酒・飯もそろえて、庭でその幽霊をまつれば、ほかに何事も起こらないですむだろう。」と。
- 客鬼
- まつってくれる人のいない幽霊。
- 可殺狗
- 犬を殺して、その肉を幽霊への供え物にするため。
- 之
- 客鬼を指す。
- 可得無他
- ほかに何も(怪異が)起こらないですむだろう。「可得」で「~できる」。
白文其家如師言。鬼果大得食。
書き下し其の家、師の言のごとくす。鬼果たして大いに食を得たり。
現代語訳その家は祈禱師の言うとおりにした。幽霊は、友の言ったとおり、たっぷりと食べ物を手に入れた。
- 師
- 祈禱師。ここでは占いをした人を指す。
- 果「はタシテ」
- 思ったとおり、予想どおり。
白文自此後恒作怪、友鬼之教也。
書き下し此れより後、恒に怪を作すは、友の鬼の教へなり。
現代語訳これ以後、(幽霊が)いつも怪しいことを起こすようになったのは、友の幽霊の教えによるのである。
- 恒「つねニ」
- いつも。
『新死鬼』予想問題
A 語句
次の語の読みを、送り仮名も含めてひらがな(現代仮名遣い)で答えよ。
①忽
②便
③恒
④果解答を見る
①たちまち
②すなわち
③つねに
④はたして次の語の意味を答えよ。
①卿
②百姓解答を見る
①あなた、君(二人称)
②(仏教や道教を特に信仰していない)ふつうの人々、庶民
B 書き下し文・現代語訳
「卿那爾」を書き下し文にせよ。また、「爾」がさす内容を本文中の四字で示し、それを踏まえて現代語訳せよ。
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書き下し文:卿は那ぞ爾るか。
「爾」がさす内容:形疲痩頓
現代語訳:君はどうしてそんなに疲れて痩せ衰えた姿をしているのか。「故当以法見教」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:故に当に法を以つて教へらるべし。
現代語訳:だから、ぜひその方法を教えてもらいたい。「仏憐吾家貧、令鬼推磨」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:仏、吾が家の貧しきを憐れみて、鬼をして磨を推さしむ。
現代語訳:仏さまがわが家の貧しいのを憐れんで、幽霊にうすをひかせてくださっている。「今去、可覓百姓家作怪。則無不得」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:今去きて、百姓の家を覓め怪を作すべし。則ち得ざること無からん。
現代語訳:今度は行って、ふつうの人々の家を探して怪しいことをしてみなさい。そうすれば、手に入らないということはないだろう。
C 内容の読み取り
友の幽霊が「此甚易耳」と言って教えたやり方を、「人間」「食べ物」という語を使って説明せよ。
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人間の前で怪しいことをしてみせて怖がらせれば、人間のほうから食べ物を供えてくれる、というやり方。
一軒目の家の人は、うすを押す幽霊を見てどのように受け取り、どうしたか。
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仏が貧しいわが家を憐れんで幽霊をよこしてくれたのだと喜び、麦を運んできて、さらに幽霊にひかせた。
一軒目と二軒目で、新死鬼が食べ物を手に入れられなかったのはなぜか。説明せよ。
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どちらも仏教や道教を信仰する家で、怪異を見ても怖がらず、仏や幽霊が手伝いに来てくれたと受け取ったので、幽霊に食べ物を供えようとしなかったから。
三軒目で新死鬼が起こした「怪」とは、どのようなことか。具体的に説明せよ。
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庭にいた白い犬を抱きかかえて、空中を歩かせたこと。
三軒目の家で、新死鬼に供えられた食べ物をすべて答えよ。
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犬(の肉)・甘い果物・酒・飯。
三軒目で、新死鬼が食べ物を手に入れることに成功したのはなぜか。
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三軒目の家では、新死鬼の行動を恐ろしい怪異として受け止め、怪異を鎮めるために幽霊へ食べ物を供えたから。