『毎月抄(まいげつしょう)』「心と詞」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。教科書によっては「心と言葉」という題で、「詞」を「言葉」と書いて載っています。
ある人は「昔の歌は実ばかりで花がなく、今の歌は花ばかりで実がない」と言いました。藤原定家はこれをもっともだと認めながら、実とは心、花とは詞のことであり、昔の歌か今の歌かで決まるものではないと付け加えます。そして、心と詞は鳥の左右の翼のようにどちらも欠かせないと述べ、最後に、強いて言えば心のほうが大切だとまとめます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語の種類と向きを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
ある人の意見
現代語訳ある人が、花と実のことを歌にあてはめて申しておりましたことについて、
- 花実(くわじつ)
- 花と実。
- 歌に立つ
- 歌にあてはめる。
「申し」は謙譲の補助動詞、「侍る」は丁寧の補助動詞。
- 古(いにしへ)
- 昔。
- 存す
- 持っている。保つ。
現代語訳近ごろの歌は花ばかりを気にかけて、実には目も向けないからだ。」と申したようです。
- 近代
- 近ごろ。
- 目もかく
- 注意を向ける。「目もかけぬ」で、まったく目を向けない。
ある人の意見は、昔の歌は実(心)はあるが花(詞)がなく、近ごろの歌は花ばかりを気にして実を無視しているということ。
「ためり」は「たるめり」が「たんめり」となり、「ん」を書かない形。
筆者の考え
現代語訳いかにも、もっともなことだと思われますうえ、『古今和歌集』の序文にもそうした趣旨が書かれているようでございます。
- もつとも
- なるほど。いかにも。
- さ
- そのように。
- やらむ
- 〜であろうか。〜のようだ。「にやあらむ」がつまった形。
「さ」は、ある人の意見「古の歌はみな、…目もかけぬから」の内容。筆者はまず、この意見に賛成している。
「おぼえ侍る」の「侍る」は丁寧の補助動詞。「その意侍る」の「侍る」は、「ある」の意味の丁寧語(動詞)。
現代語訳そのことについて、さらに以下のような私なりの考えや、つたない推測を少しめぐらしてみますと、心得ておくべきことがあるのではないでしょうか。
- 了見(れうけん)
- 考え。
- 愚推(ぐすい)
- 自分のつたない推測。自分の考えをへりくだって言う語。
- 心得
- 理解する。心にとめる。
「にや」のあとに「あらむ」が省略されている(結びの省略)。
「実=心、花=詞」と、ある人の言う花と実が何を表すかを示している。
現代語訳昔の歌の詞が強く感じられるものを、必ず実があると申すとは、決めにくいでしょう。
「必ず」は「(実と)申す」にかかる。昔の歌の詞が強く感じられるからといって、必ず実のある歌だとは決められない、ということ。
ここで筆者は、「古の歌はみな、実を存して」というある人の意見に、例外もあると一部訂正している。
現代語訳昔の人の歌でも、心がないような歌は、実のない歌と申すべきです。
- 詠作
- 詠んだ歌。
「ぞ」の結びは「べき」(連体形)。
現代語訳今の人が詠んだような歌でも、きちんと整っているような歌は、実のある歌と申すべきでございます。
- うるはし
- きちんと整っている。端正だ。
前の文と対句になっている。「古人の詠作にも」と「今の人の詠めらむにも」、「心なからむ歌」と「うるはしく正しからむ」、「実なき歌」と「実ある歌」が対応する。
「詠めらむ」の「ら」は完了の助動詞「り」の未然形。「なからむ」「正しからむ」の「ら」は形容詞の活用語尾。
「ぞ」の結びは「候ふ」(連体形)。
心と詞は鳥の翼
現代語訳さて、「心を第一にしなさい。」と教えると、「詞は二の次にしなさい。」と申しているのに似てしまう。
心を第一にせよと教えると、詞はどうでもよいと言っているように聞こえてしまう、ということ。
現代語訳(反対に)「詞こそを大切にしなければならない。」と言うと、今度は「心はなくても(よい)。」と言っていることになるのです。
- 詮(せん)
- いちばん大切なこと。要点。
「こそ」の結びは「べけれ」(已然形)。
「心はなくとも」のあとに「よし」などを補って読む。詞を重んじよと言うと、心はなくてもよいと言っているように聞こえてしまう。
前の文とあわせて、心と詞のどちらか一方だけを重んじるのはよくない、ということ。
現代語訳結局、心と詞とを兼ね備えているような歌を、よい歌と申すのがよいでしょう。
- 所詮
- 結局。つまるところ。
ここが筆者の結論。心と詞の両方を兼ね備えた歌がよい歌である。
現代語訳心と詞の二つは、鳥の左右の翼のように(両方そろって)いるべきものであろうと思っております。
「鳥の左右の翼」のたとえは、鳥が左右の翼のどちらが欠けても飛べないように、心と詞はどちらも欠かせず、両方がつり合って備わっているべきだということ。
「こそ」のあとに「あらめ」が省略されている(結びの省略)。「ぞ」の結びは「ける」(連体形)。
「給へ」は下二段活用の「給ふ」で、謙譲の補助動詞。自分が「思う」ことをへりくだって言う。「侍り」は丁寧の補助動詞。「思う給へ侍りける」で「思っております」。
現代語訳ただし、心と詞の両方をそなえた歌がすばらしいのは言うまでもないが、
- 言ふに及ばず
- 言うまでもない。
心と詞を両方そなえた歌がすばらしいのは、言うまでもない、ということ。
現代語訳心の欠けた歌と比べるなら、詞のへたな歌のほう(がまだよいの)でございましょう。
- つたなし
- へただ。未熟だ。
「こそ」の結びは「め」(已然形)。
「詞のつたなき」のあとに「歌」を補い、「心はある(が詞はへたな)歌」と読む。強いて言えば、筆者は心のほうを重んじている。
ほかの歌論:『無名抄』おもて歌
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①花実
②古
③了見
④愚推
⑤詞
⑥詮
⑦所詮解答を見る
①かじつ
②いにしえ
③りょうけん
④ぐすい
⑤ことば
⑥せん
⑦しょせん次の語の本文中での意味を答えよ。
①歌に立て
②存し
③目もかけぬ
④もつとも
⑤愚推
⑥うるはしく正しからむ
⑦詮
⑧所詮
⑨つたなき解答を見る
①歌にあてはめて
②持っていて・保って
③まったく目を向けない
④なるほど・いかにも
⑤自分のつたない推測(考え)
⑥きちんと整っているような
⑦いちばん大切なこと・要点
⑧結局・つまるところ
⑨へたな・未熟な
B 文法・敬語
「さとおぼえ侍る上、古今序にもその意侍るやらむ」の二つの「侍る」の違いを説明せよ。
解答を見る
「おぼえ侍る」の「侍る」は、動詞「おぼゆ」に付いて丁寧の意味を添える補助動詞。「その意侍る」の「侍る」は、「ある」の意味を丁寧に言う動詞(丁寧語)。
「と申しためり」の「ためり」について、もとの形を答え、文法的に説明せよ。
解答を見る
もとの形=たるめり。助動詞「たり」の連体形「たる」が撥音便で「たん」となり、その「ん」が書かれていない形に、助動詞「めり」の終止形が付いたもの。
次の「らむ」のうち、文法的にほかと異なるものを一つ選び、その「ら」と「む」を文法的に説明せよ。
A心なからむ歌 B今の人の詠めらむにも Cうるはしく正しからむを D心と詞とを兼ねたらむを解答を見る
B。「ら」=完了の助動詞「り」の未然形、「む」=婉曲の助動詞「む」の連体形。(A・Cは形容詞の未然形活用語尾、Dは助動詞「たり」の未然形活用語尾の「ら」に「む」が付いたもの。)
「鳥の左右の翼のごとくなるべきにこそとぞ思う給へ侍りける」について、①「給へ」の活用の種類と敬語の種類を答えよ。②「なるべきにこそ」のあとに省略されている語を答えよ。③「思う給へ侍りける」を現代語訳せよ。
解答を見る
①ハ行下二段活用・謙譲語(謙譲の補助動詞)
②あらめ
③思っております。
C 現代語訳・内容
「ある人、花実のことを歌に立て申して侍る」について、①「花」「実」はそれぞれ何のたとえか。本文の語(一語)で答えよ。②「ある人」の意見を説明せよ。③筆者はその意見に対してどのような態度をとっているか。
解答を見る
①花=詞 実=心
②昔の歌はみな実(心)はあるが花(詞)がなく、近ごろの歌は花ばかりを気にして実を無視している、という意見。
③おおむね賛成しているが、例外もあると付け加えている。「必ず古の詞強く聞こゆるを実と申すとは定めがたかるべし」を現代語訳せよ。
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昔の歌の詞が強く感じられるものを、必ず実がある(歌だ)と申すとは、決めにくいでしょう。
「心なからむ歌」と反対の歌を表している語句(十字以内)を、本文から抜き出せ。
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うるはしく正しからむ
「『詞をこそ詮とすべけれ。』と言はば、また『心はなくとも。』と言ふにて侍り」について、①「心はなくとも」のあとに補う語を答えよ。②全体を現代語訳せよ。
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①よし
②「詞こそを大切にすべきだ。」と言うと、今度は「心はなくてもよい。」と言っていることになるのです。「心・詞の二つは鳥の左右の翼のごとくなるべき」とはどういうことか。説明せよ。
解答を見る
鳥が左右の翼の両方がなければ飛べないように、歌の心と詞はどちらも欠かすことができず、両方がつり合って備わっているべきだということ。
「心の欠けたらむよりは詞のつたなきにこそ侍らめ」を現代語訳せよ。また、ここから、筆者は心と詞のどちらをより重んじていると考えられるか。
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訳=心の欠けた歌と比べるなら、詞のへたな(が心のある)歌のほうがよいでしょう。 重んじているもの=心